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第三十六話(後編) :ハルネの昼食と、震える護衛

今回は、ハルネの町へ立ち寄ります。


美味しい昼食をいただき、町を散策する一行。


……のはずだったのですが。


どうやら、穏やかな旅にはならなかったようです。


ルチアとミーナの護衛コンビにも、少しだけ頑張ってもらいます。

街道を進む馬車。


窓の外を流れていた景色が、少しずつ変わっていく。


遠くに建物が見え始めた。


「……町だ。」


エリックが呟く。


レイナも前方へ目を向ける。


「ハルネだな。」


「もうすぐ着く。」


エリシアが窓の外を見る。


「ハルネ……。」


その先には。


街道沿いに広がる、ほどよく大きな町があった。


宿場町らしく、街道には多くの馬車が行き交っている。


食堂。


宿屋。


商店。


道沿いには屋台まで並んでいる。


「結構大きいですね。」


ミーナが窓の外を眺める。


「宿場町だからな。」


レイナが答える。


「ここで昼休みにする。」


「昼食も取れそうですね。」


ルチアが頷く。


レイナが前方へ声を飛ばす。


「先頭へ伝えてくれ。」


「ここで昼休みにする。」


「了解!」


騎士が前方へ走っていく。


やがて。


八台の馬車が、ゆっくりとハルネの町へ入っていく。


「……。」


町の人々が振り返る。


馬車の数。


護衛の騎士。


そして。


馬車に掲げられた王家の紋章。


「王家の馬車だ!」


「エリシア様がお越しになったぞ!」


声が広がっていく。


「エリシア様!」


「ようこそハルネへ!」


「お待ちしておりました!」


通りの人々が次々と集まってくる。


エリシアが窓から外を見る。


「……すごいですね。」


「歓迎されてるな。」


エリックが言う。


エリシアは少し照れたように笑った。


「ありがたいことです。」


馬車はそのまま町の中心を抜けていく。


やがて。


大きな屋敷が見えてきた。


「領主館です。」


ボルグが言う。


八台の馬車が、順番に領主館の前へ止まる。


扉が開く。


その前には、領主と使用人たちが並んでいた。


「ようこそお越しくださいました、エリシア様。」


領主が深々と頭を下げる。


「こちらこそ、急な訪問になってしまって申し訳ありません。」


「とんでもございません。」


領主は笑顔で答える。


「我が町にお越しいただけただけで、皆が喜んでおります。」


「ありがとうございます。」


エリシアが微笑む。


その時。


領主――ガルドが手を差し出した。


「長旅でお疲れでしょう。」


「昼食をご用意しております。」


「まあ。」


エリシアの表情が明るくなる。


「ありがとうございます。」


エリックも馬車から降りる。


「飯か。」


「はい。」


エリシアが嬉しそうに頷く。


「お昼にしましょう。」


「うん。」


ボルグが笑う。


「出発してから、もう四時間じゃ。」


そろそろ腹も減る頃じゃろう。」


「そうですね。」


エリシアも頷いた。


一行は領主館へ入っていく。


昼食のために。


領主館の食堂。


長いテーブルには。


ハルネの町で採れた食材を使った料理が、所狭しと並べられていた。


川魚の香草焼き。


地元の根菜をじっくり煮込んだスープ。


焼きたてのパン。


野菜料理に。


焼いた肉まである。


「どうぞ、お召し上がりください。」


ガルドが料理を指す。


「ハルネで採れた魚と、特産の野菜を使ったものです。」


「まあ。」


エリシアの目が輝く。


「美味しそうですね。」


エリシアが魚料理を口に運ぶ。


「……。」


そして。


嬉しそうに微笑んだ。


「美味しいです。」


「それは何よりです。」


その隣で。


エリックはスープを一口飲む。


「……。」


もう一口。


「うまい。」


パンをちぎる。


スープにつけて食べる。


「これもいいな。」


「お気に召していただけたようで何よりです。」


ガルドが笑う。


少し離れた席では。


ルチアとミーナも料理を食べていた。


「……美味しいですね。」


「はい。」


二人とも、先ほどまでとは別人のように静かだった。


「このパンも美味しいです。」


「ですね。」


エリシアは魚料理をもう一口。


「ハルネは良い町ですね。」


窓の外を見る。


街道。


行き交う馬車。


町の人々の姿。


「皆さん、とても親切です。」


ガルドが嬉しそうに頷く。


「そう言っていただければ、領主としてこれほど嬉しいことはありません。」


穏やかな昼食だった。


食事が終わり、器を下げるカトラリーの心地よい音が響いた。


「ごちそうさまでした。とても美味しかったですわ」

エリシアが口元をナプキンで拭い、満足そうに微笑む。


「お気に召したようで何よりでございます。馬車の点検や馬の準備もございますので、次の出発まで一時間ほどお時間がございます。よろしければ、町をご覧になってはいかがでしょうか」


領主のガルドが揉み手で提案する。


「まあ、ハルネの町を? ええ、ぜひ歩いてみたいですわ」


エリシアが嬉しそうに目を輝かせた。


エリックも


「へえ、いいな」


窓の外の活気ある街並みに視線を向ける。


レイナやボルグたちも


「護衛をつければ問題ないだろう」


一行はハルネの町の散策へと出かけることになった。


大通りに出ると、昼時の活気に満ちあふれていた。


呼び込みをする屋台の元気な声、香ばしい焼き肉やパンの匂い、行き交う商人たちの商談の声。


「すごい賑やかですね」


エリシアが珍しそうに並ぶ商店を眺める。その少し後ろを、ルチアとミーナが耳を立て、周囲を警戒しながら歩いていた。


「ルチア、エリシア様が本当に楽しそうですね」


「ええ、ミーナ。お城ではなかなかこうして町を歩く機会もありませんから……」


二人は微笑ましい心地でエリシアの背中を見守っていた。


だが――大通りから少し外れ、食堂の裏手に続く静かな路地裏の近くを通りかかった時のことだった。

「……?」


ミーナの耳が。


人の話し声。

馬車の音。

屋台から聞こえる呼び込み。


大通りの喧騒に混じり、不自然な低い声を捉えた。


そのすべての向こう側から。


微かな男の声が聞こえてくる。


人の気配がないはずの建物と建物の間の暗がり。


ミーナが目配せすると、ルチアも察して同時に足を止める。二人は足音を殺し、壁の陰へとそっと身を潜めた。


「……間違いねぇんだろうな?」


「ああ、間違いない。王家の紋章が入った馬車が八台、領主館に入っていくのをこの目で見た。エリシア様がハルネに滞在しているのは確かだ」


「フン……急な訪問が裏目に出たな。警備も手薄だ」


「ああ、計画通りにやるぞ。今夜の宿か、あるいは明日の移動中か……」


カチャリ、と暗闇の中で刃物が擦れ合う冷たい金属音が響いた。


「どちらにせよ――エリシア様を殺す」


「…………」


その言葉が落ちた瞬間、路地裏の空気が凍りついた。


つい先ほどまで美味しい食事を楽しんでいた二人の顔から、あらゆる感情が瞬時に削ぎ落とされる。


ルチアの瞳から光が消える。


ミーナの瞳からも、一切の色彩が失われる。


二人の纏う空気が、一瞬で変わった。


「……ミーナ」


「……はい、ルチア」


二人の低く、影のような声がぴったりと重なる。


「……万死に値します」


「……はい。」


「殺します。」


「当然です。」


「エリシア様を愚弄する悪党は――」


「許してはいけません。」


「いけませんね。」


二人は。


ゆっくりと立ち上がる。


その表情には。


一切の迷いがない。


「……。」


「……。」


だが。


二人の足は。


カタカタ。


カタカタ。


小さく震えてた。


そして――。


二人の尻尾も。


カタカタ。


カタカタ。


正直だった。

ハルネの町で、まさかの暗殺計画。


ルチアとミーナは、エリシア様への忠誠心だけは誰にも負けません。


……ただし。


怖いものは怖い。


最後の「カタカタ」は、二人の気持ちを表しています。


果たして、二人は暗殺者たちを前にしてどうするのか。


次回もお楽しみに。

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