第三十三話(後編):三年分の誕生日
第三十三話・後編です。
アスレチック建設も進み、森での生活はますます賑やかになってきました。
そんな中、少し意外なところから新しい話が動き始めます。
三年間、まともに誕生日を祝われていなかったジン。
それを知ったリシェルが動き、レイナも何かしてあげたいと思うのですが――。
戦うことなら得意なレイナ。
しかし、誰かを喜ばせるための贈り物となると……。
今回は、そんな不器用なレイナの一面を楽しんでいただければと思います。
それでは、第三十三話・後編。
どうぞお楽しみください。
アスレチック建設・三日目
朝。
森の家の周囲には、昨日よりさらに多くの木材が積み上がっていた。
エリックが簡単な設計図を広げる。
「ここ。」
「木。」
「ここ。」
「蔓。」
「ここ。」
「登る。」
ジンが覗き込む。
「かなり大きくなってきましたね。」
「うん。」
「三日目で、もうこんなに……。」
「まだ。」
エリックは設計図に新しい線を書き足す。
「増やす。」
「まだ増えるんですか?」
「うん。」
ジンが苦笑する。
「分かりました。」
「じゃあ、俺はこの丸太を運びます。」
「うん。」
ジンが丸太を担いで離れていく。
その姿が十分に遠ざかったところで――。
ボルグが小さく息を吐いた。
「……さて。」
リシェルが声を落とす。
「大丈夫ですか?」
「何がじゃ。」
「昨日のお話です。」
ボルグは頷いた。
「もちろんじゃ。」
「ここでは、絶対に話さん。」
「はい。」
レイナも周囲を確認する。
「ジンが戻ってくる前に済ませよう。」
エリックも頷く。
「秘密。」
「そうじゃ。」
ボルグが小さく笑う。
「三年分じゃからな。」
リシェルが微笑む。
「きっと喜びますよ。」
「そのためにも、絶対に気づかせるな。」
⸻
少し離れた場所。
ジンが木材を運んでいる。
「親方ー!」
「なんじゃ!」
「この丸太、どこですか!」
「東側じゃ!」
「分かりました!」
ジンが走っていく。
その姿を見送ったボルグは、すぐに作業へ戻る。
「よし。」
「続きをやるぞ。」
レイナが頷く。
「了解。」
リシェルも。
「はい。」
エリックは設計図を見る。
「アスレチック。」
「作る。」
「うむ。」
誰も、それ以上は口にしない。
ジンが戻ってくれば――。
「ここを固定します。」
「そこじゃ。」
「蔓、もう少し必要です。」
「取ってくる。」
いつもの建設現場。
何も変わらない。
ただ。
ジンの知らないところで。
別の計画だけが、静かに進んでいた。
アスレチック建設・三日目――午後
ジンが外で作業をしている頃。
リシェルは、自分の部屋に戻っていた。
机の上には、細い蔓と小さな木の実。
そして、色とりどりの糸。
リシェルは一つの小さなネックレスを、丁寧に編んでいた。
「……。」
細い紐を結び。
小さな石を中央に通す。
最後に、エルフの森で使われる独特の結び目を作る。
「これで……。」
小さく頷く。
それはエルフの間で、お守りとして使われるものだった。
旅立つ者へ。
無事に帰ってくるように。
そんな願いを込めて渡す。
リシェルはもう三つ、同じものを並べていた。
エリック。
エリシア。
レイナ。
そして――。
「……親方も。」
ボルグの分。
四つ。
さらにその横には。
まだ色の塗られていない小さな木片がいくつも置かれている。
「……。」
リシェルは筆を持つ。
少し考え。
そのうちの一つに、色を乗せ始めた。
その時。
コンコン。
「リシェル?」
レイナの声。
「はい?」
「入っていいか?」
「どうぞ。」
扉が開く。
レイナが入ってきた。
「ちょっと相談が――」
そこで。
レイナの視線が止まる。
「……。」
机の上。
ネックレス。
色を塗りかけた木片。
そして、いくつかの完成品。
「……何だ、これ?」
リシェルは少しだけ驚いた顔をした。
「あ……。」
「これは……。」
レイナがネックレスを手に取る。
「綺麗だな。」
「ありがとうございます。」
「誰に渡すんだ?」
「旅立つ人たちに。」
「……。」
レイナが四つのネックレスを見る。
「エリック。」
「エリシア様。」
「私。」
「ボルグさん。」
「はい。」
「お守りみたいなものか?」
「ええ。」
リシェルは微笑んだ。
「エルフには、こういうものを旅立つ人に渡す習慣があります。」
「無事を祈るために。」
「なるほどな。」
レイナは頷いた。
そして。
ふと、色を塗りかけの木片を見る。
「こっちは?」
「……。」
リシェルが少し嬉しそうに笑った。
「エルフの誕生日の風習です。」
「誕生日?」
「はい。」
「エルフには、お誕生日に色を塗る風習があるのです。」
「へえ……。」
「毎年、自分の好きな色を選んで。」
「その年の願いを込めて、小さなものに色を塗ります。」
レイナが木片を見る。
「じゃあ、これはジンに?」
「そうです。」
「まだ塗りかけなんだな。」
「今回はサプライズなので。」
リシェルは筆を置く。
「完成したものを、当日にお渡ししたいと思っています。」
レイナはしばらく黙っていた。
「……いいな。」
「はい?」
「そういうの。」
「なんだか、ちゃんと祝ってる感じがする。」
リシェルは微笑む。
「エルフにとっては、大切な風習ですから。」
レイナは少し考える。
「……私も。」
「何か作りたいんだ。」
「でも。」
自分の手を見る。
「私、こういうの苦手なんだよな。」
「剣なら使える。」
「魔物なら斬れる。」
「でも、誕生日に渡すものなんて……。」
「何を作ればいいのか、全然分からない。」
リシェルが優しく笑う。
「レイナさん。」
「はい。」
「無理に作らなくてもいいんですよ。」
「でも……。」
「気持ちがあれば。」
「それだけでも十分です。」
レイナは少しだけ考え込む。
「……気持ち、か。」
そして。
机の上の木片を見る。
「じゃあ。」
「私にも、何か考えられるかな。」
リシェルが頷く。
「きっと。」
「ジンさんなら、喜んでくれると思います。」
レイナは小さく笑った。
「……そうだな。」
「三年分だからな。」
二人は顔を見合わせる。
そして。
同時に、声を潜めた。
「ジンには秘密。」
「はい。」
その時、外から声が響く。
「リシェルー!」
「……!」
ジンだった。
「この蔓、どこに固定します?」
リシェルとレイナが顔を見合わせる。
「……。」
「……。」
リシェルが慌てて木片を隠す。
「右側です!」
「分かりました!」
足音が遠ざかる。
レイナが胸を撫で下ろす。
「危なかった……。」
リシェルは小さく笑う。
「サプライズですからね。」
そして二人は。
何事もなかったように。
再び建設現場へ戻っていった。
アスレチック建設・五日目
レイナは、ジンと並んで大きな石を運んでいた。
「せーの!」
ゴロッ。
石が転がる。
「よし。」
ジンが息を吐く。
「次、あっちですね。」
「ああ。」
二人で次の石へ向かう。
レイナはジンの横顔を見る。
「……。」
三年。
親方のところへ来て三年。
その間、まともに誕生日を祝っていない。
そう聞いてしまった。
だから。
何かしてやりたい。
でも――。
「……。」
レイナは自分の手を見る。
小さく息を吐いた。
自分には、何もない。
剣なら振れる。
魔物なら斬れる。
だが。
誕生日プレゼントは――。
「レイナさん?」
「……ん?」
ジンが不思議そうにこちらを見る。
「どうしました?」
「いや。」
「何でもない。」
「そうですか。」
ジンはそれ以上聞かなかった。
そして、また石に手をかける。
「せーの!」
「……よし。」
二人で石を退ける。
その姿を見ながら。
レイナは思った。
何かしてやりたい。
でも。
何をしてやればいいのか分からない。
それが一番、苦しかった。
ここまで読んでいただき、ありがとうございます!
今回はアスレチック建設の裏側で、ジンの三年分の誕生日を祝う準備が進んでいます。
リシェルはエルフらしいお守りを用意。
ボルグたちもサプライズを計画。
そしてレイナは――。
「何かしてあげたい」
と思ったものの、
何をすればいいのか分からない。
剣や魔物なら迷わず斬れるのに、プレゼントとなると途端に不器用になるレイナ。
この先、レイナがどんなものを考えるのか。
そして、ジンが三年分の誕生日をどう迎えるのか。
ぜひ続きを読んでいただければ嬉しいです。
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これからもエリックたちのスローライフを、どうぞよろしくお願いします。




