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第三十三話(前編):子どもたちの遊び場を作ろう

釣り大会も無事に終了。


ガルディアへ向かう三人も決まりました。


……が。


エリックが次に目を向けたのは、魔王現象でも六十階層でもありません。


孤児たちのための遊び場。


最初は「滑り台とブランコを作ろう」くらいだったはずなのですが――。


エリックが普通の遊具で満足するはずもなく。


新たなスローライフが始まります。

竿を握る。


「来たぞ!」


勢いよく引く。


「おおおおっ!」


バシャッ!


水面から飛び出した魚。


「やった!」


レイナが叫ぶ。


しかし。


魚を見た瞬間。


表情が止まる。


「……小さい。」


小魚だった。


「……。」


レイナは絶望する。


「これでは……。」


だが。


時間はもうない。


レイナは魚を水面から引き上げようとした。


その瞬間。


――ズンッ!!


「え?」


竿が大きくしなる。


「なっ……!」


水面が爆発した。


バシャァァン!!


「うわっ!」


巨大な魚影が、小魚へ食いついた。


「な、なんだ!?」


レイナは必死に竿を握る。


「逃がすかぁぁぁっ!!」


巨大魚が川を走る。


レイナの身体が引っ張られる。


「ぐっ……!」


エリックが見る。


「大きい。」


「そんな感想言ってる場合か!」


ボルグが叫ぶ。


「レイナ! 踏ん張れ!」


ジンも駆け寄る。


「竿が折れるぞ!」


「折らせるか!」


レイナは歯を食いしばった。


そして。


最後の力で引き上げる。


「せぇぇぇぇいっ!!」


バシャァァァァン!!


巨大魚が宙を舞った。


全員が沈黙する。


レイナは荒い息を吐きながら、その魚を見る。


「……。」


レイナが小さく呟いた。


「魚さん。」


「ありがとう。」


リシェルが測る。


「……。」


「五十七センチ。」


「……。」


レイナの顔が輝いた。


「勝った。」


レイナ、堂々の一位。


ボルグが二位。


そして。


「三位、エリック。」


エリックの魚は二十八センチ三ミリ。


「……。」


リシェルの魚を見る。


「四位、リシェル。」


「……。」


リシェルの魚は二十八センチ一ミリ。


「差は。」


レイナが測り直す。


「二ミリ。」


「…………二ミリ。」


リシェルは魚を見つめる。


そっと。


尾びれを指でつまむ。


ほんの少し。


引っ張る。


「リシェル。」


レイナが低い声を出す。


「はい。」


「何をしている。」


「……少しだけ。」


「伸ばすな。」


「ですよね。」


エリックが魚を見る。


「かわいそう。」


「エリックさんは黙っててください。」


レイナは笑いを堪えながら結果をまとめた。


「以上。」


「第一回釣り大会。」


「優勝――私。」


「二位、ボルグ。」


「三位、エリック。」


「そして。」


「リシェルとジンは、森に残る。」


「……。」


「……。」


リシェルとジンが顔を見合わせる。


「「負けた……。」」


エリックは二人に向かって頷いた。


「よろしく。」


「「何が!?」」


川辺に。


二人の声が響いた。


レイナは笑いながら、巨大魚を持ち上げた。


「これで決まりだ。」


「ガルディアへ行くぞ。」


エリックは三位の魚を見つめる。


「……。」


そして。


小さく呟いた。


「杖。」


「治るかな。」


その隣で。


リシェルは二ミリ差の魚を見つめていた。


「……二ミリ。」


まだ納得していなかった。


その日の昼時。


エリックたちは森の家へ戻ってきた。


釣り大会で釣った魚は、すぐに下処理をする。


火を起こし、魚を焼く。


じゅう……。


香ばしい匂いが、家の中に広がった。


食卓には焼き魚。


焼きたてのパン。


冷やしておいた野菜を使ったサラダ。


そして、目玉焼き。


隣には、山羊のミルクが並んでいる。


「いただきます。」


「いただきます。」


「いただくぞ。」


「いただきます。」


エリックは焼き魚を一口食べる。


「……。」


美味しい。


パンをちぎる。


サラダを食べる。


目玉焼きを食べる。


山羊のミルクを飲む。


「……。」


いつもの食事だった。


けれど。


明日からは少し違う。


ガルディアへ向かうまで、あと十二日。


エリックはふと思い出したように口を開いた。


「なぁ。」


エリックが口を開く。


「明日。」


「みんなに頼みがある。」


レイナが顔を上げる。


「頼み?」


「うん。」


「孤児たちが。」


「ここに来れるようにしたい。」


少し考える。


「遊具。」


「作りたいんだ。」


「滑り台。」


「ブランコ。」


「あと、登れるやつ。」


レイナの手が止まった。


「……。」


「いいな。」


「私も手伝う。」


「うん。」


リシェルがふと思い出したように口を開く。


「エリックさん。」


「ん?」


「あそこには、赤ちゃんもいましたよ。」


エリックが止まる。


「……赤ちゃん。」


「はい。」


少し考える。


「託児所。」


「作るか。」


「託児所ですか?」


「うん。」


エリックは食卓の上を見ながら考える。


「赤ちゃん。」


「遊べない。」


「だから。」


「寝る場所。」


「必要。」


リシェルが頷く。


「確かにそうですね。」


「それに、赤ちゃんが飲めるものも必要ですよね。」


エリックが山羊のミルクを見る。


「山羊のミルク。」


「飲むか?」


「年齢によりますね。」


「そう?」


「はい。」


エリックは少し考える。


「じゃあ。」


「野菜ジュース。」


「飲めるなら。」


「用意しないと。」


リシェルが微笑む。


「そうですね。」


「それから、赤ちゃん用のベッドも。」


「何台か必要ですね。」


「確かに。」


エリックは頷く。


「赤ちゃん。」


「何人いるか分からない。」


「余分に作る。」


その横で。


ジンがボルグを見る。


「親方。」


「ん?」


「託児所ってなると、ただ部屋を一つ作るだけじゃ足りないですよね。」


ボルグは腕を組んだ。


「そうじゃな。」


「赤子がおるなら、床も考えんといかん。」


「転んでも怪我をしにくいように?」


「それもある。」


「じゃが、それだけじゃない。」


ボルグは指を一本立てる。


「段差。」


「角。」


「扉。」


「全部、子ども目線で作り直す必要がある。」


ジンが頷く。


「なるほど。」


「それに、窓も低すぎると危ないですね。」


「うむ。」


「窓には柵。」


「扉には勝手に開かん仕掛け。」


「家具も倒れにくくする。」


ボルグがニヤリと笑う。


「ジン。」


「なんじゃ?」


「お前、もう建物を作る気満々じゃな。」


「親方に鍛えられましたから。」


「ふん。」


ボルグは満足そうに鼻を鳴らした。


「なら明日は忙しくなるぞ。」


「遊具だけじゃ済まん。」


エリックが二人の会話を聞いていた。


「安全。」


「大事。」


「そういうことじゃ。」


ボルグが頷く。


「子どもが遊ぶ場所ならな。」


エリックはまた考え込む。


「あと。」


「天井。」


「天井?」


「ぶら下げる。」


「おもちゃ。」


「ぐるぐる回るやつ。」


リシェルの顔が明るくなる。


「赤ちゃん用のメリーですね。」


「うん。」


ジンが天井を見上げる。


「じゃあ、梁もしっかり作らないと。」


「落ちたら大変ですからね。」


「うむ。」


ボルグも頷く。


「そこはワシがやる。」


エリックは山羊のミルクを一口飲んだ。


「明日。」


「作る。」


レイナが苦笑する。


「……最初は遊具だけだったんだけどな。」


ジンが笑う。


「もう小さな孤児院みたいになってますね。」


ボルグが腕を組む。


「まあ、よいではないか。」


「子どもが笑える場所なら、作る価値はある。」


エリックは頷いた。


「うん。」


「楽しい。」


その一言に。


レイナは少しだけ笑った。


「……そうだな。」


翌朝。


森の家。


朝食を終えたエリックたちは、昨日の話を続けていた。


リシェルが少し考え込んだように口を開く。


「エリックさん。」


「ん?」


「昨日の遊具なんですけど。」


「うん。」


「普通のものを作るだけで、本当にいいんでしょうか?」


エリックが首を傾げる。


「普通?」


「はい。」


「滑り台とか、ブランコとか。」


「もちろん、あれば子どもたちは喜ぶと思います。」


「でも……。」


リシェルは窓の外を見る。


「せっかく、この森に住んでいるんですから。」


「森だからこそ作れるものって、ないでしょうか?」


「……。」


エリックが黙る。


そして。


ゆっくりと立ち上がる。


窓の外。


魔境の森を見渡す。


木々。


岩。


蔦。


小さな丘。


そして。


あちこちに張り巡らされた魔法陣。


「……。」


エリックの目が細くなる。


少しだけ。


口元が上がった。


「……ニヤリ。」


レイナが固まる。


「……。」


ジンも嫌な予感がしたのか、ボルグを見る。


ボルグは静かに首を横に振った。


「聞くな。」


「え?」


「今の顔を見たら分かるじゃろ。」


レイナが恐る恐るエリックを見る。


「エリック。」


「何を思いついた?」


エリックは森を見たまま。


「遊具。」


「普通じゃない。」


「……。」


レイナの顔が引きつる。


「お前の『普通じゃない』は、信用ならないんだが。」


エリックは振り返る。


そして。


満面の笑み。


「ヨシ!」


「わかった。」


「…………。」


レイナが頭を抱える。


「お前のニヤリほど怖いものはない。」

今回も最後まで読んでいただき、ありがとうございます!


釣り大会、無事に決着しました。


まさかレイナが、魚に向かって、


「私の餌を……食べてくれ」


とお願いすることになるとは……。


そして、二ミリ差で敗れたリシェル。


魚の尾びれを伸ばそうとする姿には、ちょっとだけ笑ってしまいました(笑)。


そして次は、孤児たちのための遊び場作り。


ただの滑り台やブランコで終わるのか。


それとも――。


エリックの「普通じゃない遊具」が始まります。


ここまで楽しんでいただけましたら、ブックマークや評価をいただけると、とても励みになります!


「続きが気になる」と思っていただけた方は、ぜひ応援していただけると嬉しいです。


これからもエリックたちのスローライフを、どうぞよろしくお願いします。

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