第三十話(後編):Gペン型の杖の異変
今回も読んでいただき、ありがとうございます。
今回は、かなりエリックらしい話になりました。
五十九階層にある封印扉。
本来なら、古代文明や魔王現象に繋がる重要な場所なのですが――。
エリックの発想は、
「ここ、空いてる。」
「便利。」
そして始まる、五十九階層の冷蔵庫化です(笑)。
封印扉のすぐ近くで、野菜を保存するための倉庫を作る。
たぶん、普通の冒険者からすれば意味が分からない光景でしょう。
でもエリックにとっては、あくまでスローライフのため。
そんなエリックに付き合うレイナたちも、少しずつこの生活に慣れてきたような気がします。
そして今回は、エリシアたちも一緒に冷蔵庫作り。
魔境の生活が、また少し便利になりました。
……ただ。
最後に、エリックのGペン型の杖に小さな違和感が。
果たして気のせいなのか。
それとも――。
次回も、魔境でのスローライフと物語の変化を楽しんでいただければと思います。
今回も最後まで、よろしくお願いします。
翌朝。
ボルグとジンは五十九階層へ向かった。
封印扉。
失われた封印術式を一つずつ復元していく。
長い作業が始まる。
その頃――。
魔鏡の家では、収穫した野菜が食卓いっぱいに並べられていた。
ジャガイモ。
ニンジン。
玉ねぎ。
小麦。
思っていた以上の大豊作である。
収穫籠を見つめながら、リシェルが少し困ったように呟いた。
「思った以上に採れましたね。」
「ですが、このままでは傷んでしまいます。」
レイナも頷く。
「食べ切る前に腐るな。」
エリシアも収穫籠へ視線を落とした。
「保存方法を考えなければいけませんね。」
エリックは静かに頷いた。
「冷蔵庫。」
三人がエリックを見る。
エリシアが思い出したように尋ねた。
「以前の……アイスが入っていた物とは違うのですか?」
「うん。」
「前。」
「冷凍庫。」
「今度。」
「冷蔵庫。」
リシェルが首を傾げる。
「何が違うのですか?」
「冷えすぎ。」
「野菜。」
「駄目。」
「少し。」
「冷たい。」
「それでいい。」
レイナは納得したように頷く。
「なるほど。」
「凍らせるんじゃなくて、長持ちさせるのか。」
「うん。」
「試作。」
「できる。」
「金属。」
「使わない。」
「人工大理石。」
「できる。」
少しだけ考える。
そして。
「五十九階層。」
「一部。」
「倉庫。」
「今なんて言った!?」
レイナが思わず聞き返した。
エリックは当然のように答える。
「ダンジョン。」
「五十九階層。」
「一部。」
「倉庫。」
沈黙。
「……。」
「……。」
「……はぁ?」
リシェルが固まる。
「封印扉の前ですよね?」
「うん。」
エリシアも確認する。
「魔王現象の調査対象でもある、あの五十九階層ですか?」
「うん。」
「涼しい。」
「広い。」
「空いてる。」
レイナは額を押さえた。
「いや、条件だけ聞けば間違ってない。」
「でも普通はそうならない。」
リシェルも苦笑する。
「ダンジョンを倉庫として利用する発想は、歴史書にもありません。」
エリシアは少し考え込み、やがて小さく笑った。
「……確かに。」
「一番安全な保存庫かもしれませんね。」
レイナが思わず振り向く。
「王女様まで納得しないでください!」
エリックは首を傾げた。
「普通。」
レイナは大きくため息を吐く。
「お前の普通だけは、一生理解できる気がしない。」
その日の午後。
五十九階層。
封印扉から少し離れた広い空間。
エリックは辺りを見回し、小さく頷いた。
「ここ。」
「使う。」
レイナが腕を組む。
「本当にやるのか。」
「うん。」
「倉庫。」
「冷蔵庫。」
リシェルは苦笑した。
「ダンジョンを倉庫にするなんて……。」
エリシアは周囲を見渡す。
「確かに、温度は一定ですね。」
「日も当たりません。」
「保存には向いているかもしれません。」
レイナは思わず笑う。
「王女様まで納得しないでください。」
エリックはGペン型の杖を構えた。
カリ。
床へ一本の線が描かれる。
カリカリ。
魔法陣が少しずつ広がっていく。
淡い光。
ゴゴゴ……。
床から白い壁がゆっくりとせり上がった。
人工大理石。
家と同じ素材。
今度は天井。
棚。
壁。
一つずつ組み上がっていく。
リシェルが目を丸くした。
「本当に部屋になっていきます……。」
エリシアも壁へ触れる。
「継ぎ目がありません。」
「見事ですね。」
レイナは肩を竦める。
「魔物を倒すためじゃなく。」
「野菜をしまうために使われるダンジョンか。」
「前代未聞だな。」
エリックは当然のように頷いた。
「空いてる。」
「便利。」
「だから。」
「……。」
レイナは苦笑した。
「その発想だけは理解できん。」
部屋が完成すると、エリックは再び床へ座り込む。
今度はさらに細かな魔法陣。
冷気を循環させる術式。
温度を一定に保つ術式。
湿度を逃がす術式。
保存用転移魔法陣。
カリ。
カリカリ。
何枚もの魔法陣が重なっていく。
エリシアは息を呑んだ。
「全部役割が違うのですね。」
「うん。」
「冷えすぎ。」
「駄目。」
「少し。」
「冷たい。」
「それでいい。」
最後の魔法陣を書き始める。
カリ。
……。
杖先が止まった。
「?」
エリックはGペン型の杖を見る。
もう一度。
カリ。
……。
細い線が、ほんのわずかに引っ掛かる。
レイナが気付いた。
「どうした?」
エリックは杖先を見つめる。
「少し。」
「描きづらい。」
リシェルも近付く。
「欠けたのでしょうか?」
エリシアが静かに杖を見る。
「見たところ、傷はありません。」
エリックは首を傾げた。
「……。」
「気のせい。」
そう呟き、再び魔法陣を描き始める。
最後の一筆。
カリ。
魔法陣が静かに輝いた。
ひんやりとした空気が部屋全体へ流れ始める。
レイナが腕をさする。
「おぉ。」
「ちゃんと冷えてる。」
リシェルも嬉しそうに笑った。
「これなら野菜も長持ちしますね。」
エリシアも頷く。
「素晴らしい保存庫です。」
エリックは収穫した野菜を魔法陣へ並べる。
ジャガイモ。
ニンジン。
玉ねぎ。
小麦。
淡い光が包み込む。
スッ――。
次の瞬間。
すべての作物は棚へ綺麗に並んでいた。
エリックは満足そうに頷く。
「完成。」
レイナは冷蔵倉庫を見回し、呆れたように笑う。
「ダンジョンを冷蔵庫にする奴なんて、お前くらいだ。」
エリックは少し考えた。
「普通。」
「普通じゃない。」
三人が同時に答えた。
「「「それだけは違います。」」」
笑い声が五十九階層へ響いた。
だが。
エリックは誰にも気付かれないように、もう一度だけGペン型の杖へ視線を落とした。
「……。」
さっきの引っ掛かり。
やはり。
気のせいではない気がした。
最後まで読んでいただき、ありがとうございます。
今回は、五十九階層にまさかの冷蔵倉庫が完成しました。
封印扉の近くにある広い空間を見て、
「空いてる。」
「便利。」
という理由だけで倉庫にしてしまうエリック。
世界の謎を追う場所なのに、野菜の保存場所になってしまいました(笑)。
そして、今回はもう一つ。
エリックのGペン型の杖に、これまでとは違う小さな異変が起きています。
ほんの少し描きづらい。
ただ、それだけ。
ですが、エリック自身も「気のせい」と言い切れなくなってきました。
この違和感が何を意味するのか。
これから少しずつ描いていきたいと思います。
そして、エリシアもラーメンをきっかけに、エリックの料理へかなり興味津々になってきました。
今後も新しい料理が出てくるたびに、どんどん前のめりになっていくかもしれません(笑)。
ここまで読んで「続きが気になる」「エリックたちのスローライフをもう少し見てみたい」と思っていただけましたら、ブックマークや評価をしていただけると、とても励みになります。
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今回も最後まで読んでいただき、本当にありがとうございました。




