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第二十五話 (前編) : 最高の露天風呂を作ろう

いつもお読みいただき、ありがとうございます!


今回は露天風呂建設の続きです。


エリックのこだわりは、温泉が湧けば終わりではありません。


「毎日使うものだからこそ、良いものを作る。」


そんな思いを胸に、理想の露天風呂づくりが少しずつ進んでいきます。


石選びから始まる、ちょっと変わった建設回を楽しんでいただけたら嬉しいです。


それでは、第二十五話前編をどうぞ!

やっぱりこれ使えないのか?」


エリックは足を止める。


石を見る。


そして首を振る。


「これは。」


「材料。」


「人工大理石。」


「風呂の岩。」


「別。」


レイナは苦笑する。


「こだわるなぁ。」


エリックは遠くの森を見る。


「風呂。」


「毎日使う。」


「だから。」


「良いもの。」


「作る。」


その言葉に、レイナは少しだけ笑った。


「……はいはい。」


「最高の風呂を作るんだったな。」


レイナは苦笑しながら歩き出す。


その横で。


エリックはふと足を止めた。


「……。」


「?」


レイナが振り返る。


「どうした?」


エリックはGペン型の杖を取り出した。


そして。


カリ。


地面へ線を引く。


一本。


また一本。


淡い光が広がり、足元へ小さな魔法陣が浮かび上がる。


レイナはそれを見下ろした。


「……。」


「今度は何だ?」


エリックは魔法陣を確認しながら答える。


「岩。」


「転移。」


「……。」


レイナは一瞬黙る。


「岩専用?」


「うん。」


エリックは頷く。


「大きい。」


「持つ。」


「大変。」


「だから。」


「運ぶ。」


レイナは思わず笑った。


「いや、普通そこを諦めるところだろ。」


エリックは首を傾げる。


「必要。」


「なら。」


「方法。」


「作る。」


レイナはため息をついた。


「本当に、お前らしいな。」


そんな話をしながら森をさまよって、どれほど時間が経っただろう。


しかし。


結局、一つとして目当ての岩は見つからなかった。


「……。」


エリックは周囲を見渡す。


岩はある。


だが、どれも小さい。


求めているのは、風呂に使えるほど大きく、美しい石だ。


エリックは小さく息を吐いた。


「探す。」


「やめる。」


「違う。」


「探し方。」


「プロット」


「変える。」


レイナは嫌な予感しかしなかった。


(……来る。)


コイツが「構図」だの「プロット」だのと言い出す時は――。


必ず、ろくなことにならない。


「……おい。」


「まさか。」


エリックは杖をゆっくり掲げた。


「プロットマッピング。」


ドクン――。


地面へ描かれた魔法陣が脈打つ。


一本、また一本。


無数の光の線が森中へ広がっていく。


森を覆い尽くす巨大な魔法陣。


木々を越え、谷を越え、その光は遥か彼方まで伸びていく。


そして――。


エリシアは空を見上げた。


「……またですか。」


魔導監視網へ映し出された巨大な魔法陣。


「これ、エリックさんですね。」


リシェルも苦笑する。


「ですね……。」


「目的は何でしょう。」


「知りたくないです。」


一方、その中心にいたレイナは青ざめていた。


「おい。」


「何する気だ。」


「国法級の巨大マッピングを……石を探すために使うな!」


エリックは気にした様子もなく、目を閉じる。


森全域の地形が頭の中へ流れ込む。


岩。


魔物群。


魔物。


崖。


魔物群。


川。


そして――。


「見つけた。」


「東。」


「約四百メートル。」


「石山。」


エリックは杖をしまう。


「行くぞ。」


「レイナ。」


レイナは頭を抱えた。


「……お前、本当に規模がおかしい。」


エリックは迷うことなく歩き出した。


レイナは大きくため息をつく。


「……本当にあったのか。」


数分後。


二人の前には、巨大な石山がそびえていた。


「……これは。」


レイナは思わず息を呑む。


大きい。


風呂に使うには十分すぎるほどの岩が、山のように積み重なっていた。


エリックは静かに頷く。


「良い。」


「風呂。」


「出来る。」


そして、Gペン型の杖を取り出した。


カリ。


カリカリ。


石山の麓へ、巨大な魔法陣が描かれていく。


「……またか。」


レイナは額を押さえた。


「今度は何だ。」


「軽量化。」


「全部。」


「全部!?」


淡い光が石山全体を包み込む。


ズゥン……。


巨大な岩が、まるで重さを失ったかのように静かに浮き上がった。


「よし。」


今度は足元へ、別の魔法陣を描く。


「転移。」


ゴォン!


巨大な岩が光に包まれ、姿を消した。


その頃。


魔境。


エリックの家の近く。


巨大な転移魔法陣が輝く。


ゴォン!


突然現れた巨大な岩に、リシェルが飛び上がった。


「きゃっ!?」


「リシェルさん!」


エリシアがすぐに指示を飛ばす。


「その岩は右です!」


「平たい物は風呂用に分けてください!」


「は、はい!」


ゴォン!


ゴォン!


ゴォン!


次から次へと巨大な岩が降ってくる。


「次です!」


「そちらへ!」


「はい!」


「その石は保留!」


「角が綺麗です!」


「はい!」


いつの間にか、エリシアは完全に現場監督になっていた。


リシェルは汗だくになりながら岩を転がし続ける。


「エ、エリックさん……。」


「一体、何個送る気なんですかぁ……。」


一時間後。


石山はすっかり姿を変えていた。


エリックは満足そうに頷く。


「帰る。」


レイナも頷く。


「ああ。」


「じゃあ、魔法陣で──」


「無理。」


「……は?」


「石。」


「優先。」


「何がだ?」


「今日は。」


「石様。」


「優先。」


「スローライフ。」


「労働。」


「基本。」


「歩く。」


そう言ってエリックは森の中を歩き始めた。


レイナはその背中を見つめる。


「…………。」


「いや。」


「意味が分からん!!」


「ただいまー……」


作業を終えて帰ってきたレイナは、汗だくになりながら母屋へと戻ってきた。


エリックたちの帰宅に気づくと、すぐにリシェルが駆け寄ってくる。


「お帰りなさい! レイナさんが探してきてくれた石を、さっそく並べてみたのですが……どうでしょうか?」


そう言ってリシェルが指し示した通路には、レイナが選んできた丸く平らな飛び石が美しく敷き詰められていた。


さらにリシェルは嬉しそうに頭上を仰ぎ見る。


「母屋から雨に濡れることなく移動できるよう、頭上にしっかりと木造の屋根も組み上げてみました!」


その通路を抜けて脱衣所へと入ったレイナは、目を見開いて声を上げた。


「って、すごい……! 棚までちゃんと用意してあるじゃん。なにこれ、完璧すぎるでしょ……!」


「ふふん、凄まじい大仕事でしたからね!」


そう言って、えっへんと胸を張ったのはエリシアだ。


「屋根に使うための木を切るのが、本当に大変だったんですから! まあ、現場監督である私の手腕と頑張りがあってこそですね!」


「ああ、本当に助かった。エリック、ありがとうな。エリシアも、よくやってくれた」


リシェルも心底嬉しそうに、エリックとエリシアの二人を労った。


脱衣所を抜けて浴場へ進むと湯気立つ浴槽の手前からは、絶妙な間隔で『カコン……』と風情あるししおどしの音が響いてくる。


男湯と女湯を完全に隔てる美しく立派な仕切り壁も備わり、いよいよ全員でお風呂に入る準備が整った。


エリックは男湯へ静かに身を沈めた。


「……。」


温かい。


ゆっくり息を吐く。


壁の向こうからは、エリシアとリシェルの楽しそうな声が聞こえてくる。


エリックは湯船の縁や床をゆっくり見回した。


岩は自然に組まれ、継ぎ目もほとんど分からない。


人工大理石も滑らかだった。


「……。」


「凄いな。」


壁の向こうへ声を掛ける。


「エリシア。」


「リシェル。」


「ありがとう。」


「細かい所まで。」


「綺麗。」


壁の向こうから嬉しそうな声が返ってきた。


「ありがとうございます!」(リシェル)


「お気に召していただけたようで何よりです。」(エリシア)


エリックはもう一度浴槽を見渡した。


「……。」


少し首を傾げる。


「ん?」


湯から上がり、床へ視線を落とす。


「……。」


「足りない。」


エリックは床を見つめた。


「……。」


「え?」


もう一度見回す。


「計算だと。」


「少し余る。」


「おい。」


「何で足りてないんだ。」


一瞬。


沈黙が流れる。


壁の向こうから、小さな声。


「……すみません。」


「山羊が食べてしまいました。」


エリックは無言で壁の向こうを見る。


「……。」


ゆっくり歩き出す。


壁の角を曲がる。


その先。


ししおどしの横に、人工大理石の欠片が転がっていた。


エリックは欠片を拾い上げる。


「……。」


「嘘つけ。」


「割ったんだろ。」


「……。」


リシェルは視線を逸らした。


「えへへ……。」


「運んでる途中で。」


「ちょっとだけ。」


「落としました……。」


レイナが吹き出す。


「はははっ!」


「山羊に罪をなすりつけるな!」


エリシアは額へ手を当てた。


「リシェル……。」


「申し訳ありません……。」


エリックは首を振った。


「失敗はある。」


「次から気を付ければいい。」


リシェルはしゅんと肩を落とす。


「……はい。」


レイナが苦笑した。


「怒らないのか?」


エリックは人工大理石の欠片を拾い上げる。


「怒っても。」


「直らない。」


「足りないなら。」


「また取りに行けばいい。」


「それだけ。」


レイナは思わず笑う。


「まぁ……お前らしいな。」


エリシアも小さく微笑んだ。


「では、明日は素材集めですね。」


エリックは出来かけの露天風呂を眺める。


「うん。」


「完成まで。」


「あと少し。」


四人は静かに湯船を眺める。


まだ未完成。


それでも、露天風呂の姿は少しずつ形になっていた。


その時。


コン。


ししおどしが静かに音を鳴らす。


四人は思わず顔を見合わせた。


エリックが小さく頷く。


「うん。」


「これだ。」


レイナが苦笑する。


「完成してないのに、もう満足そうだな。」


「雰囲気。」


「大事。」


エリシアは小さく笑い、リシェルもつられて笑った。


ダンジョンへ、再び――


コン。


乾いた竹の音が、静かに響いた。


最後までお読みいただき、ありがとうございました!


今回は建設回らしく、それぞれが役割を持って露天風呂づくりを進めるお話でした。


石を探すためだけに広域マッピングを使うエリックも相変わらずですが(笑)、本人にとっては「必要だからやる」という、ごく自然な発想なんですよね。


そして、ようやく姿を現した露天風呂。


まだ未完成ではありますが、「雰囲気が大事」というエリックの一言が、この場所らしさをよく表している気がします。


リシェルのちょっとした失敗もありましたが、失敗を責めるのではなく、「また取りに行けばいい」と受け止めるエリックらしいやり取りも書きたかった場面でした。


次回はいよいよ露天風呂の完成へ。


スローライフらしいひとときを、引き続き楽しんでいただけたら嬉しいです。


いつもブックマークや評価、いいね、ご感想、本当にありがとうございます!


皆さまの応援が、作品を書く大きな力になっています。

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