第二十四話 (後編) : 露天風呂を作ろう
いつもお読みいただき、ありがとうございます!
今回は、スローライフらしい建築回です。
地下に眠る天然温泉を見つけたエリックが、次に目指すのはもちろん露天風呂。
……とはいえ、このメンバーが集まれば、普通の工事で終わるはずもありません(笑)。
それぞれのアイデアを持ち寄りながら、少しずつ理想の露天風呂が形になっていきます。
ぜひ最後までお楽しみください!
「えっ……。」
エリシアは思わず目を見開いた。
「どうした?」
エリシアはまだ信じられないという表情のまま、地面を見つめていた。
「地下に……。」
「巨大な水脈があります。」
エリックは小さく頷く。
「やっぱり。」
「へぇ。」
「構図。」
「書き換えだな。」
エリシアはさらに魔力を流す。
「しかも、この水……。」
「温かい?」
もう一度確認する。
間違いない。
「地下深くから、熱源を確認しました。」
「自然のものです。」
エリックは満足そうに頷いた。
「温泉だ。」
「……温泉?」
エリックは当然のように答える。
「天然の風呂。」
「地下から。」
「お湯。」
エリシアは首を傾げた。
「お風呂……なのですか?」
「うん。」
エリックは少し考えてから言った。
「スローライフと言えば。」
「露天風呂だろ。」
それだけ言うと、踵を返す。
「帰る。」
「え?」
エリシアが首を傾げる。
「温泉を掘らないのですか?」
「先。」
「計画。」
「大事。」
そのまま二人は家へ戻った。
家へ戻ると、エリックは真っ直ぐ机へ向かう。
一枚の紙を広げる。
ペンを手に取り、迷いなく線を引き始めた。
カリ。
カリカリ。
その様子を、エリシアは興味深そうに見守る。
「レイナ。」
「リシェル。」
「ちょっと来て。」
二人も呼ばれ、一階へ降りてきた。
「どうした?」
「何ですか?」
エリシアが先に答える。
「地下から温水が見つかりました。」
「どうやら天然の温泉のようです。」
「温泉?」
レイナが聞き返す。
リシェルも目を丸くした。
「そんなものが、この森にあるんですか?」
「うん。」
エリックは頷く。
「だから。」
「作る。」
「露天風呂。」
三人が紙を覗き込む。
そこには、山を望む大きな露天風呂が描かれていた。
「ここ。」
エリックが浴槽を指差す。
「見晴らし。」
「一番いい。」
レイナは窓の外を見る。
昨日、山が削れたおかげで、視界は驚くほど開けていた。
「確かに……景色は最高だな。」
エリックはさらに線を書き足していく。
「ここ。」
「脱衣所。」
「ここ。」
「家。」
二つを見比べる。
「……。」
少し考え込んだ。
エリックは図面を見つめたまま、小さく唸る。
「……。」
エリシアがおずおずと口を開いた。
「あの、エリックさん。」
「ん?」
「浴槽の床なのですが……。」
「三十七階層で造った人工大理石を使うことはできませんか?」
「濡れた石は滑りますし、その方が安全かと。」
エリックは少し考える。
「……。」
そして、小さく頷いた。
「それ。」
「良いな。」
カリ。
図面へ新しい線を書き加える。
「採用。」
「風呂で転ぶ。」
「危ない。」
「足の裏、怪我したら大変だからな。」
エリシアは嬉しそうに微笑んだ。
「ありがとうございます。」
レイナは図面を見ながら首を傾げた。
「……。」
「なぁ。」
「それ、足りるのか?」
エリックが顔を上げる。
「?」
「人工大理石。」
「床だけじゃないだろ。」
「浴槽の周りも使うんだろ?」
エリックは少し考える。
「大丈夫。」
「計算した。」
「少し余る。」
すると今度は、リシェルが図面を見ながら手を挙げる。
「あの!」
「家からお風呂まで、少し歩きますよね?」
「雨の日もあると思うのですが……。」
エリックは家と脱衣所を見比べる。
「……。」
「確かに。」
カリ。
一本の線を書き足す。
「屋根。」
「付けるか。」
さらに。
「飛び石。」
「置こう。」
「泥。」
「付かない。」
リシェルはぱっと笑顔になる。
「それなら裸足でも歩きやすいですね!」
「うん。」
エリックはさらに図面を眺める。
「……。」
「何か。」
「足りない。」
しばらく考え込む。
そして。
「ししおどし。」
「いるな。」
三人が同時に首を傾げた。
「……ししおどし?」
「何ですか、それ?」
エリシアが尋ねる。
エリックは竹の絵を描きながら答えた。
「竹。」
「水。」
「コン。」
「落ち着く。」
「……。」
三人は顔を見合わせる。
意味はよく分からない。
だが、エリックの中では必要不可欠らしい。
レイナは図面を眺めながら、小さくため息をついた。
(……私たち。)
(魔王現象の調査に来たんだよな。)
図面には、立派な露天風呂が少しずつ完成へ近付いていく。
(……まぁ。)
(どうせ止めても聞かない。)
(今回も付き合ってやるか。)
「で。」
「私は何をやればいい?」
エリックは図面を見つめながら、小さく頷いた。
「そうだな。」
「趣のある岩。」
「あとでレイナと一緒に森へ探しに行こう。」
レイナは苦笑する。
「岩まで選ぶのか。」
「風格。」
「大事。」
エリックは図面へ視線を戻した。
「まず。」
「魔法陣。」
「温泉掘る。」
「上手くいったら。」
「作る。」
エリシアを見る。
「エリシア。」
「家作った時と同じ。」
「現場監督な。」
エリシアはすぐに頷いた。
「承知しました。」
続いてリシェルを見る。
「リシェル。」
「エルフの魔法で。」
「木。」
「切ってくれ。」
「どれだけ必要か。」
「エリシアに聞いて。」
リシェルは元気よく返事をした。
「はい!」
「普通の魔法で切ります!」
「演出魔法。」
「禁止な。」
「うぅ……はーい。」
少しだけ肩を落とすリシェル。
エリックは図面をエリシアへ手渡した。
「頼んだ。」
「はい。」
エリシアは大切そうに図面を抱えた。
エリックは家を出る。
畑の横を通り過ぎる。
昨日より元気を取り戻したトマトが、朝日に照らされていた。
さらに少し歩く。
昨日、エリシアが演出魔法を放った場所。
遠くには、山頂が綺麗に三日月型へ削れた山が見える。
「ここだな。」
エリックはしゃがみ込み、ペン先を地面へ当てた。
カリ。
一本。
また一本。
淡い光が地面を走る。
巨大な魔法陣が、静かに描かれ始めた。
エリックは最後の一筆を書き終えた。
「完成。」
魔法陣が淡く輝き始める。
土全体へ光が広がる。
「……。」
「……。」
しかし。
何も起きない。
リシェルが首を傾げた。
「あれ?」
エリシアも魔法陣を見つめる。
「失敗……でしょうか。」
エリックは腕を組む。
「……。」
少し考える。
「駄目か。」
「届いてない。」
エリシアが尋ねる。
「届いていない?」
「うん。」
「地下。」
「深すぎる。」
また少し考える。
そして。
「なぁ。」
「リシェル。」
「浮遊魔法。」
「使えるか?」
「はい!」
「出来ます!」
「なら。」
「そこから。」
「演出魔法。」
「細く。」
「長く。」
「撃てるか?」
リシェルは一瞬きょとんとした。
「演出魔法を……細く?」
エリックは頷く。
「一本だけ。」
「穴。」
「開ける。」
リシェルの表情が、一瞬で明るくなった。
「えっ!」
「演出魔法を撃ってもいいんですか!?」
エリックは頷く。
「うん。」
「今回は。」
「建築。」
「だから。」
「ただし。」
「細く。」
「長く。」
「一本だけ。」
リシェルは勢いよく頷いた。
「はい!」
「任せてください!」
エリシアが苦笑する。
「随分と嬉しそうですね。」
「はい!」
「ようやく演出魔法が撃てます!」
レイナは呆れ顔で肩をすくめた。
「お前、本当に好きだな……。」
「大好きです!」
リシェルは杖を構える。
エリックは地面へ描いた魔法陣の中央を指差した。
「ここ。」
「真っ直ぐ。」
「地下。」
「了解です!」
リシェルの身体が、ふわりと浮かび上がる。
浮遊魔法。
ゆっくりと十メートルほど上昇する。
真下には、巨大な魔法陣。
「準備できました!」
エリックは静かに頷く。
「撃て。」
リシェルは深く息を吸う。
《真・終焉――》
その詠唱に、レイナが思わず身構える。
「お、おい!」
「細くだぞ!」
「分かってます!」
リシェルは慎重に魔力を一点へ集中させる。
眩い光が杖先へ集まり――。
「《スーパーペイントブラスター》!」
ズギュゥゥゥッ!!
今度の光は太くない。
針のように細く。
一直線に。
魔法陣の中心へ突き刺さった。
地面が小さく震える。
エリックは地面へ手を当てる。
「……。」
「届いた。」
ゴボ……。
ゴボゴボ……。
地面の下から、小さな音が響く。
四人は息を呑んだ。
次の瞬間――。
ドォォォォォッ!!
魔法陣の中心から、勢いよくお湯が噴き上がった。
真っ白な湯気が辺り一面へ広がる。
「おおーー!!」
リシェルが真っ先に歓声を上げる。
「やりました!」
「やりましたよ!」
エリシアも思わず笑顔になる。
「成功です!」
「本当に温泉でした!」
レイナは噴き上がる湯を見上げながら笑う。
「すげぇ……。」
「本当に掘り当てたのか。」
リシェルは空中で何度も拍手した。
「やったぁ!」
「成功です!」
エリシアも自然と拍手を送る。
「おめでとうございます。」
「エリックさん。」
レイナも苦笑しながら手を叩く。
「まさか本当に出るとはな。」
三人の拍手が響く中。
エリックは静かに頷いた。
「うん。」
「これで。」
「露天風呂。」
「作れるな。」
最後までお読みいただき、ありがとうございました!
ついに天然温泉を掘り当てることができました!
今回は戦闘ではなく建築回でしたが、エリシアやレイナ、リシェルがそれぞれ意見を出し合い、一つの露天風呂を作り上げていく様子を書いていて、とても楽しかったです。
そして、リシェルは待望の演出魔法を「建築作業」として無事に使用できました(笑)。
細く、長く、一点だけ。
前回までとは違った使い方でしたが、それもまたエリックらしい発想だったのではないかと思います。
次回はいよいよ露天風呂の本格的な建設が始まります。
スローライフらしい時間を楽しみながら、少しずつ理想の暮らしを形にしていくエリックたちを、これからも見守っていただけると嬉しいです。
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