第二十四話 (前編) :手打ちラーメンと演出魔法
いつもお読みいただき、本当にありがとうございます!
今回は久しぶりに拠点でのスローライフ……と思いきや、料理あり、演出魔法あり、そして最後には少しだけ不穏な空気も漂います。
ラーメン作りでほっと一息つきながら、それぞれの個性も楽しんでいただけたら嬉しいです。
それでは第二十四話前編、どうぞ!
帰宅。
それぞれ荷物を置くと、三人は自分の部屋へ向かった。
レイナは着替えるなり、そのままベッドへ倒れ込む。
「……疲れた。」
大の字になったまま、ぴくりとも動かない。
一方、エリシアは椅子に腰掛け、手にした杖を静かに見つめていた。
「まだ一回残ってますね……。」
杖には確かに、エリックの魔法陣が刻まれている。
リシェルはというと、ベッドの上をごろごろと転がりながら、頬を膨らませていた。
「一回返してください……。」
演出魔法を一度しか撃てなかったことが、よほど心残りらしい。
一方、エリックだけが一階に残っていた。
最初に向かったのは――ドラゴンの卵。
「……。」
変化なし。
「まだか。」
軽く撫でる。
「そのうちな。」
窓から外を見やり、庭へ出る。
トマト畑。朝より葉の色が戻っていた。
「お。少し元気になってる。」
嬉しそうにしゃがみ込む。
そこへ山羊がやってきた。
「メェ。」
「よしよし。」
頭を撫で、エリックは少し考える。
「さて。ラーメン作るか。」
玄関へ向かって叫ぶ。
「ラーメン。手伝って。」
二階の部屋から、それぞれの声が返ってきた。
「ラーメンですか。」(エリシア)
「ラーメン!」(リシェル)
「……休ませろ。」(レイナ)
レイナは呆れたように呟きながらも――よほどラーメンが気になるのか、一番最後に階段を駆け下りてきた。
エリックは小さく頷く。
「よし。」
「レイナ。」
「山羊。」
「ミルク。」
「お願い。」
「……ラーメンに使うのか?」
「うん。」
「少しだけ。」
「コク。」
「なるほどな。」
レイナは、エリックから渡された木桶を受け取る。
「だったら最初からそう言え。」
「メェ。」
「今日は大人しくしてろよ。」
山羊へ近付いた、その瞬間。
ドンッ!!
「うおっ!」
容赦のない頭突きが、みぞおちへ綺麗に決まる。
「毎回やるのか、お前ぇぇぇ!」
家の中。
「またですね。」(リシェル)
「今日もですね。」(エリシア)
「仲良し。」(エリック)
「どこがだぁ!!」(レイナの絶叫)
台所。
エリックは小麦粉を大きな鉢へ入れる。
「水。」
「はい!」
リシェルが慌てて器を差し出した。
少しずつ水を加えながら、生地をまとめていく。
迷いがない、慣れた手付きだった。
リシェルは鍋の前へ立つ。
「スープは、何を入れればいいですか?」
「まずこれ。」
エリックは森で採ってきた香草を差し出した。
「あと。これ。」
王都で買った調味料。リシェルは真剣な顔で一つずつ鍋へ入れていく。
「はい。」
「次。」
「干し肉。」
「はい!」
横ではエリックが生地を打ち始めていた。
ゴン。ゴン。ゴン。
麺棒で伸ばし、折り畳み、均等な細さに切っていく。
「……。」
その様子を、エリシアはじっと見つめていた。
「どうしました?」
リシェルが尋ねると、エリシアは小さく首を振る。
「いえ……初めて見ました。このような麺の作り方は。」
エリックは手を止めない。
「ラーメン。手打ち。」
「なるほど……生地を切って、麺にするのですね。」
エリシアは興味深そうに頷いた。
ここでエリックが鍋を覗き込む。
「あと。」
「山羊の。」
「ミルク。」
「えっ、入れるんですか?」
リシェルが目を丸くする。
「うん、コクに必要。」
そこへ、レイナが木桶を差し出してきた。
「ほら。苦労して取ってきたぞ。」
腹を押さえながら、エリックを少しだけ睨む。
「なるほどな。」
「確かにコクが出そうだ。」
レイナは呆れつつも納得したように呟いた。
エリックは木桶から山羊のミルクを少しだけ鍋へ注いだ。
白い液体が、黄金色のスープへゆっくりと溶け込んでいく。木杓子で軽く混ぜた。
「……うん。」
「いい感じ。」
転生前、一度だけ口にしたことがある山羊のミルク。
向こうのものより、この世界の山羊のミルクはずっと濃厚だった。豚骨ほどではないが、少し加えるだけでコクがぐっと深くなり、香りもまろやかになる。
四人分の器へ丁寧によそう。
「さて食べるか。」
エリックが席に着く。三人も器を受け取り、それぞれ腰を下ろした。
白く濁ったスープから、ふわりといい香りが立ち上る。
「……いい匂い。」
「香りまで変わりましたね。」
「完成。」
「いただきます。」
四人は揃って手を合わせた。
レイナが一口、スープを飲む。
「……美味しい。」
「ほ、本当ですか!」
エリシアも慎重に麺を手繰る。
ズルッ。
「……美味しいです。」
「うん。」
「良かった。」
リシェルの目が輝いた。
「……美味しいです! 濃厚で……麺も、とても美味しいですね!」
エリシアも静かに頷く。
「ええ。この小麦粉も良い仕事をしています。王家へ献上される小麦粉ですから。」
「えっ! そんな高級なものだったんですか!?」
「ふふ、王都で少し分けていただきました。」
「王女だからできることだな。」
レイナが肩をすくめる。
エリックは黙々と麺をすすり、
「うん。」
「美味い。」
その一言に、エリシアは少しだけ嬉しそうに笑った。
ラーメンを食べ終わり、全員が満足感に浸っていた頃。
エリシアは、そっと自分の杖を見つめた。
そこにはエリックの魔法陣と、小さな作者サイン。
少しだけ迷った末、意を決して口を開く。
「……エリックさん。」
「ん?」
「一度だけ……試してもよろしいでしょうか。」
エリックは少し考える。
「うん。一度だけな。」
エリシアの表情がぱっと明るくなる。
「ありがとうございます!」
「エリシア様! やりましたね!」
横でリシェルも目を輝かせる。
レイナが苦笑しながら身を起こした。
「まったく……エリシア様。試すにしても、ちゃんと人気のない場所でやってくださいね。」
家から少し離れた、木々が深く生い茂る森の中。
四人は安全そうな開けた場所へと移動していた。
「……ふぅ。」
エリシアは深呼吸をし、静かに杖を構える。その瞳には、ずっと抑えていた好奇心と期待が満ちていた。
「いきます……!」
杖に刻まれた魔法陣が、眩いばかりの輝きを放つ。
《真・終焉――》
深々と息を吸い込み、気合と共に叫んだ。
「《――刻まれし光芒の極致》ッ!!」
ズドォォォォン―――ッ!!!!
地響きと共に放たれた閃光が、まっすぐに森を突き抜けた。
直後。
光が収まった先にあったのは――遥か遠くに見えていた山の一部が、綺麗に丸ごと削れて消失している壊滅的な光景だった。
凄まじい爆風に髪をなびかせながら、エリシアは呆然と佇む。
「……あ。」
エリックが静かに消えた山を見やり、一言。
「森で撃つの。禁止な。」
「……はい。」
エリシアは真っ青な顔で、しおしおと頷いた。
エリックは静かに杖を見た。
「一回。終わりな。」
「……はい。」
すると、すかさずリシェルが前へ飛び出した。
「エリックさん! わ、私もいいですか!」
「駄目。」
「えーーー!! 何でですか!」
エリックは消えた山を指差す。
「山。もう一個。消える。」
レイナが思わず吹き出した。
「ははっ! 確かに駄目だな。それにリシェル、お前一回終わっただろ。」
「えっ? ……あ。」
封印の時のことを思い出す。
「そ、そんなぁぁぁ!! 封印はノーカウントだと思ってましたぁぁ!!」
「ふふっ……残念でしたね、リシェル。」
エリシアが思わず笑う。
「約束。」
「大事。」
「うぅぅ……私も撃ちたかったです……。」
「まだ諦めてなかったのか。」(レイナ)
「約束ですから。」(エリシア)
「うん。帰るか。」
四人は家へ戻った。爆音などまるで何事もなかったかのように。
帰宅後。
レイナは真っ先に風呂へ向かう。
「今日は本当に疲れた……。」
「私も失礼します。」
エリシアも小さく息を吐いた。
リシェルは少しだけ名残惜しそうに杖を眺める。
「……今度こそ。うぅ。」
「だから諦めろ。」
「は、はい……。」
湯浴みを終えた三人は、それぞれ自室へ戻る。
長い一日だった。静かな夜が、小さな家を包み込んでいく。
静かな夜の森。
虫の鳴き声だけが響いている。
――コツ。
階段を下りる小さな足音。
リシェルだった。手には、しっかりと杖を握りしめている。
(今なら……みんな寝ています。)
(少しだけ。ほんの一回だけ……!)
息を潜め、そっと玄関へ向かおうとした、その時。
「なぁ。リシェル。」
「ひゃあっ!?」
思わず跳び上がって振り返る。
そこには、眠そうな目をしたエリックが立っていた。
「……何してる?」
「あ、あのですね! 寝れなくて! 夜風に当たろうかなって!」
「へぇ。」
少しの間。エリックの視線が、リシェルの手元へ落ちる。
「でも。何で杖持ってる?」
「こ、これは! 魔物が出るかもしれませんし!」
「嘘つけ。俺の魔法陣。この辺。魔物出ない。知ってるだろ。」
「……。」
沈黙。
エリックはじっとリシェルを見つめた。
「撃つ気だろ。」
「……少しだけ。」
「駄目。」
「えぇぇぇぇっ!!」
朝。
小鳥のさえずりが森へ響く。
エリックは、一人昨日エリシアが演出魔法を放った場所へ来ていた。
しゃがみ込む。
「……。」
じっと地面を見る。
土。
岩。
草。
指で少し掘る。
「……。」
そこへ。
「エリックさん?」
エリシアが歩いてくる。
「こんな朝早くから、何をしているんですか?」
エリックは地面を指差した。
「ここ。」
「変。」
エリシアもしゃがみ込む。
「変……ですか?」
「うん。」
「昨日から。」
「気になってた。」
エリックは少し考える。
「とりあえず。」
「鑑定。」
地面へ手を当てる。
淡い光が広がる。
「……。」
「……。」
しばらく沈黙。
エリシアが不安そうに覗き込む。
「何か分かりましたか?」
エリック。
「温度。」
「少し高い。」
エリシア。
「温度……?」
エリックは頷く。
「地下。」
「何かある。」
エリシアの表情が変わる。
「え……。」
最後までお読みいただき、ありがとうございました!
エリシアは念願だった「一回」を無事に使い切りました。
……結果として山が一つ消えましたが(笑)。
一方のリシェルは最後まで諦めきれず、夜中にこっそり試そうとしたものの、しっかりエリックに見つかってしまいました。
そしてラスト。
笑い話で終わると思いきや、エリックが見つけた「地下の違和感」。
実はここから、物語は少しずつ次の展開へ動き始めます。
スローライフを目指すエリックですが、どうやら世界はそう簡単にのんびりさせてくれないようです。
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