二十二話(後編) : 余白の使い方
いつもお読みいただきありがとうございます!
第二十二話後編です。
赤目のナイトメアホエールとの戦い、その決着。
レイナが背負い続けてきた過去と向き合う時が来ました。
そして戦いの後、エリックの力について、また新たな一面が明らかになります。
魔法とは何か。
術式とは何か。
……少なくとも、エリシアの知る常識とは少し違うようです。
今回も楽しんでいただけましたら嬉しいです。
レイナは静かに息を吸った。
父の形見である大剣を、強く握る。
「……父さん。」
あの日。
守れなかった。
届かなかった。
逃げることしかできなかった。
そのすべてを、この一太刀へ込める。
「行く。」
地を蹴る。
同時に、エリックの杖が静かに動いた。
カリ。
魔法陣が一枚。
「加速。」
さらに一枚。
カリ。
「跳躍。」
もう一枚。
カリ。
「勢い。」
最後に。
カリ。
「主人公補正。」
レイナの身体が爆発するように前へ飛び出した。
痛むはずの右脚が軽い。
いや。
痛みすら置き去りにするほどの速度だった。
ナイトメアホエールが咆哮する。
無数の眼が赤く染まり、迎え撃とうと魔力を集める。
もう遅い。
レイナは最後の魔法陣を踏み抜いた。
ドンッ!!
爆発的な加速。
十数メートルはある巨体へ向かって、一気に跳び上がる。
大剣を頭上へ振りかぶる。
(届け。)
(父さん。)
(今度こそ――。)
その瞬間。
足元の魔法陣が眩く輝いた。
『中二病・演出強化』
「……っ!?」
口が。
勝手に動く。
(ちょっ――。)
(待っ……。)
止まらない。
腹の底から、勝手に声が迸った。
「――《真・終焉一刀・アルティメットファイナルブレイク》ッ!!」
(長いっ!!)
心の中で叫ぶ。
だが、身体は止まらない。
渾身の一撃が、エリシアの穿った小さな亀裂へ、寸分違わず吸い込まれる。
ズ――――ン。
一瞬。
音が消えた。
次の瞬間。
ドガァァァァァァァァァァン!!!
大地が割れる。
轟音とともに衝撃波が広場を駆け抜け、岩壁が震えた。
黒い巨体が、その中心からゆっくりと裂けていく。
縦一直線に。
まるで紙を裁つように。
真っ二つに。
裂けた胸部から、眩い赤黒い光が噴き上がる。
ナイトメアホエールは断末魔すら上げられない。
巨体は光となって崩れ去り、巨大な魔石だけを残して静かに消滅した。
レイナは着地する。
大剣を地面へ突き立て、その場へ膝をついた。
「終わった……。」
静寂だけが、ダンジョンを包んでいた。
静寂。
誰も動かなかった。
残された巨大な魔石だけが、先ほどまで死闘が繰り広げられていたことを物語っていた。
「……。」
「……。」
「……。」
三人は口を開けたまま、その光景を見つめていた。
ぽかん。
という擬音が聞こえてきそうなほど、見事な間の抜けた表情だった。
最初に我へ返ったのはレイナだった。
ゆっくりとエリックを見る。
そして。
「……何だ、今の。」
「必殺技。」
真顔だった。
「いや、そこじゃない。」
「勝った。」
「そこでもない。」
エリシアが肩を震わせる。
「ふふっ……。」
やがて耐え切れなくなり、小さく笑い出した。
「本当に……あなたという人は……。」
リシェルもくすくすと笑う。
「最後の技名だけは、どうしても慣れません……。」
「良かっただろ。」
「長すぎます。」
「演出。」
「演出で済ませないでください。」
レイナは額へ手を当て、大きくため息を吐いた。
「……でも。」
「助かった。」
「ありがとな。」
エリックは小さく頷く。
「ん。」
その時だった。
エリシアとリシェルが、同時にエリックの持つGペン型の杖へ視線を向ける。
二人の瞳が。
きらり、と輝いた。
「……。」
「……。」
顔を見合わせる。
そして。
ゆっくりとエリックへ近付いた。
「エリックさん。」
エリシアがにこりと微笑む。
「お願いがあるのですが。」
二人とも目をきらきらと輝かせている。
まるで憧れの作家にサインをねだる子供のようだった。
静まり返るダンジョン。
レイナはまだ呆然と、大剣を見つめていた。
刀身には淡く光る魔法陣。
そして、その隅には小さく刻まれた文字。
――作者サイン。
「……。」
その光景を見たエリシアとリシェルは、ゆっくりと顔を見合わせた。
「……。」
「……。」
二人の視線が、同時にエリックの持つGペン型の杖へ向く。
きらり。
その瞳が、期待に満ちて輝いた。
そして二人は、示し合わせたようにエリックの前まで歩み寄る。
「エリックさん。」
エリシアがにこりと微笑む。
「お願いがあるのですが。」
「ん?」
「私の杖にも、書いてください。」
少し間を置いて、付け加える。
「もちろん、サイン付きで。」
リシェルも勢いよく一歩前へ出た。
「わ、私もお願いします!」
「サイン付きで!」
そのやり取りを聞いていたレイナも、大剣を抱えたまま真剣な顔で口を開く。
「私のも消さないでくれ。」
三人とも、期待に満ちた目でエリックを見つめる。
まるで憧れの作家へサインをねだる子供のようだった。
当の本人だけが首を傾げる。
「……別にいいけど。」
「そんな欲しいのか?」
三人は息ぴったりに叫んだ。
「欲しいです!!」
エリックは不思議そうにGペンを見つめた。
「演出って、大事なんだな。」
三人は同時に首を横へ振る。
「そこじゃありません!!」
そんな中、エリシアがふと首を傾げた
エリシアが、ふと首を傾げた。
「どうして目が覚めたのですか?」
「あぁ。」
「リシェルが《エルフ・スリープヒール》を掛けた時。」
「ついでに時短魔法陣を書き足した。」
「……は?」
「三時間を。」
「十分くらい。」
「寝ながら。」
「圧縮した。」
「え?」
「寝ぼけてたけど。」
三人は沈黙した。
レイナがぽつりと漏らす。
「……寝ながら?」
「うん。」
「書けた。」
エリシアだけは違った。
その瞳が、一瞬で輝く。
「どこですか!?」
「え?」
「どこの術式を書き換えたのですか!?」
「時間加速部ですか!?」
「それとも回復術式と並列接続を!?」
「待ってください!」
「術式を見せてください!!」
エリックは少し考えた。
「ネーム直しただけ。」
「……。」
「背景足した。」
「……背景?」
「余白があった。」
「だから。」
「そこ使った。」
エリシアは息を呑む。
「余白を……利用した?」
「そんな発想で……。」
「三時間を十分へ圧縮したというのですか……?」
エリックは当然のように頷く。
「うん。」
「もったいないから。」
エリシアは頭を抱えた。
「やっぱり……。」
「この人、魔導師じゃありません。」
最後までお読みいただきありがとうございます!
第二十二話後編でした。
今回は、レイナと父親の因縁に一区切りがつく回でした。
ただ力で倒すのではなく、届かなかった一撃を「届く形」にする。
そこがエリックらしい戦い方かなと思っています。
そして後半は、エリシアの魔導師としての常識がまた一つ崩れる回になりました。
術式を理解するのではなく、
構図として見る。
余白を見つけて利用する。
本人はいつもの作業感覚ですが、周囲から見ると完全に規格外です。
次回も、エリックたちの旅を楽しんでいただけると嬉しいです。




