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二十一話(後編) : 主人公補正

いつもお読みいただきありがとうございます!


第二十一話後編です。


赤目のナイトメアホエールとの戦いは、さらに激しさを増します。


追い詰められるレイナたち。

仲間を守るため、それぞれが限界を超えて立ち向かいます。


そして――。


過去に失ったものと向き合うため、レイナは再び剣を握ります。


今回も楽しんでいただけましたら嬉しいです。

レイナの瞳が大きく見開かれた。


(間に合わない……!)


「エリシア様ッ!!」


 迷わず飛び出す。


 渾身の力でエリシアを突き飛ばした。


「きゃっ!?」


 華奢な身体が床へ転がる。


 同時に。


「《エルフ・フォートレス》!!」


 リシェルが再び杖を掲げた。


 崩れかけていた防壁へ、残る魔力をすべて注ぎ込む。


 幾重もの緑の魔法陣が重なり、眠るエリックを包み込んだ。


「お願い……持ってください……!」


 次の瞬間。


 ナイトメアホエール全身の赤い眼が、一斉に開いた。


「来るッ!!」


 ドォォォォォン!!!


 第二波。


 無数の赤い衝撃が、空間そのものを引き裂いた。


「ぐぁっ!!」


 避け切れなかった一撃が、レイナの右脚を掠める。


 肉を焼き裂く激痛。鮮血が舞う。


 それでも倒れない。エリシアだけは守り切った。


「レイナ!!」


 轟音。爆煙。崩れ落ちる岩盤。舞い上がる土砂。


 二人は反射的に振り返る。


「エリックは……!!」 


 緑色の防壁は、激しく軋みながらも残っていた。


 その中心で、エリックは何も知らず、静かな寝息を立てている。


「よかった……。」


 その安堵は、一瞬だった。


「……リシェル?」


 防壁の前に立つリシェルの身体が、ゆっくりと揺れる。


 左肩を、赤い衝撃が深々と貫いていた。


「あ……。」


 杖が手から滑り落ちる。乾いた音が広場へ響く。


 純白の法衣が、みるみる赤く染まっていく。


「リシェルさん!!」


 レイナは脚を引きずりながら駆け寄った。

その身体を抱き止める。


「しっかりしてください!」


 だがリシェルの視線は、自分ではない。後ろの防壁の中だった。


「エリック……は……?」


「無事です! リシェルさんが守ってくれました!」


 その言葉を聞いたリシェルは、小さく微笑んだ。


「……よかった。」


 そのまま意識を失い、レイナの腕の中へ崩れ落ちる。


「リシェルさんッ!!」


 広場へ悲痛な叫びが響いた。


 レイナは脚を負傷。リシェルは戦闘不能。エリシアの魔力も底を突きかけている。


 最大の切り札であるエリックは、まだ眠ったままだった。


 絶望だけが、その場を支配する。


 ゆっくりと、ナイトメアホエールが前へ出る。


 全身の無数の眼が、不気味に蠢いた。


 レイナはゆっくりとリシェルを地面へ横たえた。左肩から溢れる血は止まらない。今すぐ治療しなければ危険だ。だが、今、この場には、その時間すら残されていなかった。


 エリシアもまた肩で息をしている。王家秘伝の一撃、あれほどの魔法を放った代償は大きい。残る魔力は、決して多くはない。


 ナイトメアホエールは、ゆっくりと身体を起こす。

 その黒い皮膚。王家秘伝が穿った、髪の毛ほどの傷。


 そこだけ、薄く赤い光が漏れていた。


「……見えた。」


 レイナは小さく呟く。


「コア……。」


 ほんの僅か。本当に僅かだけ、外へ覗いている。


 あそこなら届く。私の大剣なら。


 だが、右脚から流れる血が地面を赤く染める。


 まともに踏み込める状態ではない。それでも、レイナは大剣を握り直した。


「……父さん。」


 震えていた手が止まる。恐怖は消えていない。


 それでも、もう逃げる理由はなかった。


「私がやる。今ここで止めなければ、エリシア様も、リシェルさんも、エリックも……みんな死ぬ。」


 目の前にいるのは、父を殺した怪物。あの日逃げることしかできなかった自分。


 あの日の続きを――今、終わらせる。


 レイナは地を蹴った。


 右脚が悲鳴を上げる。


「ぐっ……!」


 それでも止まらない。


 赤目のナイトメアホエールだけを見据え、一直線に駆ける。


 あと少し。もう少しで届く。


 その瞬間だった。


 傷付いた右脚が耐えきれず、大きく崩れる。


「しまっ――」


 前のめりに身体が傾く。


 このままでは届かない。そう思った、その時。


 足元に、小さな魔法陣が音もなく浮かび上がった。


「……え?」


 淡い光が右脚を包む。身体がふっと軽くなった。


 続いて、二枚目、三枚目。次々と魔法陣が進行方向へ現れる。


「……誰?」


 魔法陣は答えない。


 一枚。


 また一枚。


 足元へ描かれ続ける。


 誰も詠唱していない。エリシアではない。リシェルでもない。


 それでも魔法陣は、一歩先、一歩先へと現れ続ける。まるで、レイナの走る道を知っていたかのように。


 その時。


 背後から、聞き慣れた気の抜けた声が聞こえた。


「……構図。」


 少し間。


「演出。」


 また少し間。


「これで完成。」


 幻聴か。それとも――。


 レイナは振り返らない。ただ前だけを見る。


 踏み込むたびに身体が前へ押し出され、速度が増していく。


 身体が軽い。速い。あり得ない速度で景色が流れていく。


 激痛など、もう感じなかった。視界には、赤目のナイトメアホエールだけ。その胸元にある、エリシアが穿った髪の毛ほどの小さな亀裂だけを見据える。


 もう二度と。逃がさない。


 ナイトメアホエールが咆哮する。巨大な身体がゆっくりと持ち上がる。


 届く。今なら、届く。


 レイナは最後の魔法陣を踏み抜いた。


 ドンッ!!


 爆発するような加速。その勢いのまま、十数メートルはある巨体へ向かって跳躍する。


 宙を舞う。眼下には、赤黒い怪物。その胸には、たった一つだけ存在する小さな傷。


 レイナは大剣を頭上へ振りかぶった。


 咆哮と共に、全身の力を剣へ乗せる。


(届け。)


(父さん。)


(今度こそ――。)


 その瞬間だった。


 新たな魔法陣が、レイナの足元へ静かに展開される。


『中二病・演出強化(主人公補正)』


「……なに、これ?」


 その瞬間。


 なぜか。


 口が勝手に動いた。


 心にもない言葉が喉の奥から溢れる。


 腹の底から、叫ぶ。


「――《紅蓮断界ぐれんだんかい》ッ!!」



最後までお読みいただきありがとうございます!


第二十一話後編でした。


今回は、レイナにとって大きな意味を持つ戦いになりました。


かつて父を失い、逃げるしかなかった相手。


その怪物を前にして、今度は仲間を守るために剣を振るう。


そして最後に現れたのは、いつものエリックらしい「構図」でした。


本人は戦っているつもりがなくても、彼の漫画家としての感覚は、時に現実の戦いすら物語のように変えてしまいます。


果たして《紅蓮断界》は、赤目のナイトメアホエールへ届くのか。


少しでも続きが気になる、面白いと思っていただけましたら、ブックマークや高評価、感想などいただけるととても励みになります。


次回も楽しみにしていただけると嬉しいです。

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