第十七話(後編):無数の赤い瞳
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いよいよ魔王現象の真の発生地――新たなダンジョンへと足を踏み入れる四人。
相変わらず「世界の危機よりトマト」なエリックですが、最強(?)の仲間たちと共についに本格的な攻略が始まります。
緊迫感とテンポのギャップを楽しんでいただけたら嬉しいです!
「この中だな。」
そう言って一歩踏み出そうとしたエリックを、レイナが慌てて止めた。
「待て。」
「この前の知的ゴブリンを忘れたのか。」
「相手は考えて動く。」
「罠を張って待っている可能性もある。」
エリックは足を止め、小さく頷いた。
「あ。」
「なら確認。」
「戦えること。」
レイナが首を傾げる。
「戦えること?」
「知的ゴブリン。」
「罠ある。」
「知らないまま入る。」
「効率悪い。」
エリシアが納得したように頷く。
「確かに、その通りですね。」
エリックはエリシアへ視線を向けた。
「なぁ。」
「あのポンコツ女神から加護、もらったんだろ。」
レイナが即座にツッコむ。
「女神様をポンコツ呼ばわりするな!」
「いいから答えて。」
エリックは真顔だった。
エリシアは軽く咳払いをした。
「私の加護は《魔導監視網》です。」
「魔力の流れや敵意、周囲の異常を感知できます。」
「この水晶を媒介にすれば、さらに広範囲を解析可能です。」
エリックは短く頷いた。
「なるほど。」
「罠。」
「分かる?」
「絶対ではありませんが。」
「魔力を利用した罠であれば、高い確率で察知できます。」
「十分。」
エリックは今度はレイナを見る。
「レイナ。」
「加護。」
レイナは胸を張った。
「私は《不意打ちされない》加護だ。」
「殺気や敵意を感じ取れる。」
「だから奇襲には強い。」
「そのおかげで王都でも前線を任されている。」
「なるほど。」
エリックは静かに頷く。
「前。」
「任せる。」
「おう。」
「任せとけ。」
次に視線はリシェルへ向いた。
「リシェル。」
リシェルは静かに微笑む。
「私は植物魔法と精霊魔法。」
「それから、杖と剣の二刀流です。」
レイナが目を丸くした。
「そういえば聞いてなかったな。」
「はい。」
「勇者様と旅をしていた頃は、後衛だけでは務まりませんでしたから。」
エリックは一度だけ頷いた。
「なるほど。」
リシェルは少し首を傾げる。
「そういえば、エリックは……。」
「どのような加護をお持ちなのですか?」
その場が静まり返った。
レイナとエリシアが顔を見合わせる。
「あ……。」
「そういえば、お話ししていませんでしたね。」
レイナが苦笑する。
「こいつな。」
「女神様から加護を貰えるって言われたのに。」
「全部断った。」
リシェルは目を丸くした。
「全部……ですか?」
「ああ。」
エリックはあっさり答えた。
「要らなかった。」
「でも……。」
リシェルは足元の転移魔法陣を見る。
「その魔法陣は……。」
「自分で作った。」
エリックは当然のように言う。
「リシェルの魔法書。」
「参考。」
「でも、そのままだと使いにくかった。」
「だから描き直した。」
リシェルは苦笑しながら頷いた。
「そうでしたね。」
「あれはもう、私の知る魔法ではありません。」
「エリックだけの魔法です。」
エリシアも静かに微笑む。
「加護を授からず、ここまで辿り着く方は、おそらく世界中を探してもエリックさんだけでしょう。」
レイナはため息をついた。
「結局、一番規格外なのは加護なしのお前なんだよな……。」
エリックは首を傾げた。
「そうか?」
「そうなんだよ。」
レイナは即座にツッコんだ。
エリックは洞窟の入口を見つめたまま言った。
「よし。」
「レイナ。」
「盾、頼む。」
「了解。」
レイナは剣を抜き、一歩前へ出る。
「エリシア。」
「後方支援。」
「お任せください。」
エリシアは水晶を握り直し、周囲の魔力を探り始める。
「リシェル。」
「レイナの後ろ。」
「はい。」
リシェルは杖を握り、腰の剣へそっと手を添えた。
エリックは三人を見回す。
「……それにしても。」
「凄いメンバーだな。」
レイナが苦笑する。
「今さらか?」
エリックは真顔だった。
「俺。」
「要らないだろ。」
一瞬、沈黙。
レイナは呆れたように額へ手を当てる。
「何言ってる。」
「一番訳分からないのがお前だ。」
エリシアも苦笑する。
「エリックさんがいなければ、このダンジョンへ辿り着くことすら出来ませんでした。」
リシェルも優しく微笑む。
「私もそう思います。」
エリックは少しだけ考え込んだ。
「……なるほど。」
「じゃあ。」
「トマト、助けに行く。」
レイナは額を押さえた。
「だから世界の危機よりトマトなのか、お前は……。」
エリシアが苦笑する。
「ですが、そのトマトを救うには、このダンジョンを攻略するしかありません。」
エリックは頷いた。
「ああ。」
「なら。」
「行く。」
一歩、洞窟の奥へ足を踏み入れる。
外の光はすぐに背後へ消えた。
辺りは闇。
足元すら見えない。
エリシアは静かに杖を掲げる。
「《ライト》」
淡い光球がふわりと宙へ浮かび上がった。
柔らかな白い光が洞窟の壁を照らしていく。
その瞬間。
四人は息を呑んだ。
壁を伝うのは、ただの水滴ではない。
どろりとした黒い液体が、生き物のように岩肌を這い、不気味な光を放っていた。
王都のダンジョンとは、根本的に違う。
整えられた石壁も、人工的な通路も存在しない。
そこにあるのは――濃密な悪意だけ。
レイナは剣を握る手へ力を込めた。
「……空気が、重すぎる。」
エリシアは光球を見つめたまま、小さく呟く。
「瘴気濃度が異常です……。」
「王都七十階層の最深部を、すでに上回っています。」
リシェルも静かに辺りを見回した。
「生きているような……ダンジョンですね。」
エリックは黒い壁へ手を触れ、小さく頷く。
「なるほど。」
「気持ち悪い。」
淡い光が洞窟の内部を照らした、その瞬間。
エリックは足元へ枝を走らせた。
さらさらさらっ――。
一つ。
二つ。
三つ。
次々と魔法陣が描かれていく。
十を超えても止まらない。
やがて十数枚もの魔法陣が四人の足元へ展開された。
カッ。
カッ。
カッ。
次々と淡い光を放つ。
レイナが額を押さえた。
「……またか。」
エリックは顔も上げない。
「普通だろ。」
「どこが普通なんだ!」
レイナが思わず叫ぶ。
「全部、防御系魔法陣じゃないか!」
エリックは最後の一枚を書き終え、立ち上がる。
「ああ。」
「攻撃は任せた。」
「俺は死にたくない。」
レイナは呆れたように笑う。
「そこだけ妙に正直だな、お前。」
エリシアは魔法陣を一枚一枚見回し、思わず息を呑んだ。
「……素晴らしい。」
「防御術式が重ね掛けされている。」
「しかも互いに干渉せず、一つの結界として機能しているなんて……。」
リシェルも静かに頷く。
「二百年前でも、この発想はありませんでした。」
エリックは首を傾げる。
「そうか?」
「普通だ。」
「だから普通じゃないんだ!」
レイナの叫びが、静かなダンジョンへ響いた。
十数枚の防御魔法陣が淡く輝く。
その瞬間だった。
ドクン。
洞窟全体が、心臓の鼓動のように一度だけ脈打った。
岩肌が震える。
足元から低い振動が伝わってくる。
レイナは反射的に剣を構えた。
「今のは……。」
エリシアが水晶を見る。
「ダンジョンが……。」
「脈動しています。」
ドクン。
もう一度。
今度はさっきよりも僅かに強い。
リシェルが静かに呟く。
「生きています……。」
「まるで巨大な生き物の中に入ってしまったようです。」
レイナが思わず顔をしかめる。
「気味が悪いな。」
エリックは足元の岩へ触れた。
「なるほど。」
「成長中か。」
エリシアが驚いて振り向く。
「分かるのですか?」
「ああ。」
「まだ完成してない。」
「だから脈打ってる。」
その時。
エリシアの表情が変わる。
《魔導監視網》が、一斉に反応を始めた。
エリシアの瞳が大きく見開かれる。
「来ます。」
ドクン。
ダンジョンがもう一度、大きく脈打つ。
その瞬間――
洞窟の奥で、
無数の赤い瞳が、一斉に開いた。
最後までお読みいただきありがとうございました!
加護すら断った一番の規格外・エリックと、頼もしすぎる(?)ヒロイン陣。
ラストで無数の赤い瞳が一斉に開くなど、ダンジョンは一筋縄ではいかない雰囲気を醸し出していますが……果たして無事にトマト(スローライフ)を取り戻すことはできるのか!?
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