表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

33/58

第十七話(前編):世界の危機より、トマトの危機

いつも読んでいただき、本当にありがとうございます!


第十七話前編です。


家づくりもひと段落……と思いきや、まさかの魔王現象発生。


そして、いよいよ新たなダンジョンへ向かいます。


……とはいえ、この作品の主人公は世界の危機よりトマトが大事です(笑)。


そんなエリックらしい物語を、今回も楽しんでいただけたら嬉しいです!

エリシアは黒く濁った水晶を静かに握り締めた。


(間違いありません。魔王現象です。)


 胸の奥がざわつく。


 王国中を調べ続け、二百年間誰も解明できなかった現象。それが今、この森で起きている。


(必ず原因を突き止めます。)


 それが、王国第三王女としての使命だった。


 レイナは森の奥を睨む。


(魔王現象か。なら、私が止める。)


 騎士として剣を振るう理由は、それだけで十分だった。


 その隣では、エリックが黒く枯れた芽をじっと見つめている。

(せっかく植えたのに。名人にもらったトマトが。このままじゃスローライフが台無しだ。)

 小さく拳を握る。


(何が原因か知らない。でも、俺の計算を狂わせたバグは、絶対に最適化して潰す。)


 そして最後に、リシェルだけが静かに森の奥へ視線を向けた。

(……おかしい。)

 二百年前。勇者と共に戦ったあの日、魔王現象の中心は王都のダンジョン七十階層だった。


 だが今回は違う。目の前に広がるのは、スペルグルフの森。

(場所が違います。なぜ、この森なのでしょう。)


 胸の奥に、小さな不安が広がっていく。


 四人はそれぞれ異なる想いを胸に、森の奥を見つめていた。


 エリックは転移魔法陣の前へしゃがみ込んだ。


「少し待って。」


 枝を一本拾い上げる。迷いなく術式の一部を書き換え始めた。


 レイナが慌てる。


「お、おい! 何してるんだ!」


「あ。」


 エリックは顔も上げない。


「金属、通れるようにする。」


 レイナは思わず固まった。


「……は?」


「いや、待て。」


「何でそんな簡単に言うんだ?」


「あ。」


「通れないと困るだろ。」


「そういう問題じゃない!」


 エリシアも息を呑む。


「……今から、ですか?」


「ああ。」


「そこだけ変えればいい。」


 さらさら、と枝が土の上を走る。


 転移魔法陣の一部だけが淡く輝き始めた。


 既に完成していた術式が、まるで最初からそう描かれていたかのように滑らかに組み替わっていく。


 エリシアは思わず一歩近付いた。


「そんな……。」


「既存の術式を崩さずに、一部分だけを書き換えている……。」


「こんなこと……。」


 レイナが首を傾げる。


「そんなに凄いのか?」


「凄いなんてものではありません。」


 エリシアは目を離せないまま答えた。


「魔法陣は完成した瞬間、一つの術式として成立します。」


「途中だけを書き換えれば、普通は術式全体が破綻します。」


「それを、何事もなかったかのように組み替えているのです。」


「聞いたこともありません……。」


 リシェルは静かに微笑んだ。


「私は、エリックなら出来ると思っていました。」


 レイナが思わず振り返る。


「リシェルまで!?」


「誰か一人くらい止めろ!」


 エリックは最後の一筆を書き終える。


「終わった。」


 転移魔法陣が静かに輝きを取り戻した。


「試す。」


 近くに置いてあった鉄の鍬を魔法陣の中央へ置く。


 カッ――。


 淡い光が走る。


 鍬は音もなく消えた。


 数秒後。


 王都側の認証魔法陣から、連絡用の魔道具が小さく鳴る。


「届いた。」


 エリックは満足そうに頷いた。


「よし。」


「武器、取りに行って。」


 レイナは肩を落とし、大きくため息を吐く。


「……もう驚くの疲れた。」


 エリシアも苦笑する。


「私は、まだ驚いております。」


 エリックは首を傾げた。


「急げ。」


「トマト、全部枯れる。」


 レイナは思わず叫ぶ。


「だから世界の危機よりトマトなのか、お前は――!!」


王都から帰宅後、四人は休む間もなく森へ入った。

目指すのは――。


 以前、知的なゴブリンたちが拠点としていた洞窟。


 木々を抜けるたびに、エリシアの手に握られた黒い水晶の輝きは強さを増していく。


「反応が、どんどん強くなっています……。」


 やがて、見覚えのある崖が姿を現した。


 レイナが足を止める。


「ここです。」


「以前、知的なゴブリンがいた洞窟は。」


 しかし。


 その光景は、四人の知るものとはまるで違っていた。


 洞窟の入口から黒い魔力が霧のように溢れ出し、大地がわずかに震えている。


 岩肌には見覚えのない紋様が浮かび上がり、空気そのものが重かった。


 レイナは息を呑む。


「……こんな洞窟では、ありませんでした。」


 エリシアは黒く濁った水晶へ視線を落とす。


 その瞬間――


 固有スキル。


 《王国第三王女専属監視機構――魔導監視網》


 が静かに起動した。


視界いっぱいに膨大な魔力情報が流れ込む。


「……。」


 エリシアの表情がゆっくりと強張った。


 レイナがその異変に気付く。


「エリシア様。」


「何か分かりましたか?」


 しばらく沈黙。


 やがてエリシアは、小さく息を吐いた。


「……間違いありません。」


「ダンジョンです。」


 レイナの表情が引き締まる。


「やはり……。」


 エリシアは洞窟から溢れ出す黒い魔力を見つめ続ける。


「しかも、通常のダンジョンではありません。」


「現在も魔力を取り込みながら、成長を続けています。」


「成長……?」


 レイナが思わず聞き返す。


 エリシアは静かに頷いた。


「本来、ダンジョンは数百年、あるいは数千年という長い年月をかけて形成されます。」


「ですが、この反応は違います。」


「まるで、一晩で無理やり造り上げられたかのようです。」


 リシェルは洞窟を見つめたまま、小さく呟く。


「やはり……。」


「二百年前とは違います。」


 エリシアはさらに解析を続ける。


 次々と流れ込む情報。


 そして――。


「そんな……。」


 思わず声が漏れた。


 レイナが振り返る。


「エリシア様?」


 エリシアは信じられないものを見るように洞窟を見据える。


「この魔力反応は……。」


「王都のダンジョン七十階層で観測された最大反応を……。」


 一度言葉を切る。


「……超える可能性があります。」


 その場の空気が凍りついた。


「七十階層以上……。」


 レイナは思わず剣の柄へ手を添える。


 リシェルも静かに目を細めた。


「だから、場所が違ったのですね……。」


 世界の常識が、目の前で音を立てて崩れていく。


 そんな中。


 エリックだけは洞窟をじっと見つめ、小さく頷いた。


「なるほど。」


 三人が一斉に振り向く。


 エリックはいつも通りの口調で言った。


「原因。」


「この中だな。」


エリックは迷いなく歩き出した。


「行こう。」


「俺のスローライフ、返してもらう。」


レイナは思わず叫ぶ。


「だから発想がおかしいんだ、お前は――!!!」


魔王現象の正体が眠る、新たなダンジョンへ――。

最後までお読みいただき、ありがとうございました!


今回は新章の導入ということで、それぞれの目的を描いてみました。


魔王現象を止めたいエリシア。

騎士として戦うレイナ。

過去との違和感を覚えるリシェル。

そして――トマトを守りたいエリック。


見事に全員の目的が違います(笑)。


次回からはいよいよ新たなダンジョン攻略編が始まります。


知的なゴブリン、新たな魔物、そして魔王現象の正体とは何なのか。


少しずつ世界の謎にも踏み込んでいきますので、引き続き応援していただけると嬉しいです!


ブックマークや評価、感想もいつも執筆の励みになっています。

本当にありがとうございます!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ