第十六話(前編) : レイナだから。
いつも読んでいただきありがとうございます!
今回は久しぶりに、のんびりスローライフ回です。
家畜のお世話に畑づくり、そしてみんなで囲む朝ご飯。
……ただし、レイナだけはいつも通り平和ではありません(笑)。
そして最後には、いよいよ新しい家づくりへ。
少しずつ森での暮らしが形になっていきますので、楽しんでいただけたら嬉しいです。
翌朝。
「コケコッコー!!」
元気な鳴き声が森へ響き渡る。
エリックが丸太小屋の扉を開けると、爽やかな朝の空気が流れ込んできた。
「朝か。」
庭ではリシェルが鶏へ餌を与えている。
「おはようございます。」
優しく声を掛けると、鶏たちは嬉しそうに足元へ集まってきた。
木陰。
草むら。
餌箱の裏。
慣れた手つきで卵を拾っていく。
「今日は六個ですね。」
満足そうに籠へ並べると、そのまま山羊の柵へ向かった。
二頭の山羊はリシェルを見るなり、自分から近寄ってくる。
「いい子ですね。」
首を撫でると、山羊は気持ち良さそうに目を細めた。
木桶を置き、静かに乳を搾る。
とく、とく、とく。
白い乳が心地よい音を立てて溜まっていく。
その様子を少し離れた場所から見ていたレイナが、小さく拳を握った。
「……よし。」
ゆっくり山羊へ近付く。
「今日は仲良く――」
ゴッ。
「いったぁぁぁ!!」
見事な頭突きが腹へ決まった。
レイナはその場にしゃがみ込む。
「またかぁ……。」
リシェルが慌てて駆け寄る。
「だ、大丈夫ですか?」
「大丈夫に見えるか?」
レイナは涙目で山羊を睨む。
「何で私だけなんだ……。」
エリックはその様子を見て一言。
「レイナだから。」
レイナが勢いよく振り返る。
「どういう理由だ、それは!!」
エリックは首を傾げる。
「違うのか?」
「違うわ!!」
リシェルは思わず吹き出した。
「ふふっ。」
一方その頃。
エリックは丸太小屋の前へ大きな魔法陣を描いていた。
最後の一筆を書き終える。
術式が淡く輝くと、固く締まっていた地面がふわりと柔らかくなった。
「終わった。」
レイナが鍬を肩へ担いでやって来る。
「これを耕せばいいんだな?」
「ああ。」
半信半疑で鍬を振り下ろす。
ザクッ。
「……軽っ。」
もう一度。
ザクッ。
ザクザク。
「何だこれ!?」
「ふわふわじゃないか!」
エリックは当然のように答える。
「普通だろ。」
「どこが普通だ!」
「昨日まで石みたいに固かったんだぞ!」
さらに鍬を入れた、その時。
にょろっ。
「ひゃっ!」
レイナが飛び退いた。
「ミ、ミミズ!」
リシェルが優しく笑う。
「良い土なんですね。」
エリシアも興味深そうにしゃがみ込んだ。
「なるほど。」
「土壌生物まで活性化しているのですね。」
レイナだけが一歩後ろへ下がる。
「活性化しなくていい!」
エリックは魔法陣の様子を確認しながら淡々と言う。
「レイナ。」
「早く植える場所、作れ。」
「誰のせいで止まったと思ってる!」
ぶつぶつ文句を言いながらも、レイナは鍬を振るい続けた。
土は驚くほど柔らかく、作業はどんどん進んでいく。
耕し終えると、エリックは名人から譲り受けた栽培メモを広げた。
エリシアが目を輝かせる。
「エリックさん。」
「種まき、私がやってもよろしいですか?」
「ああ。」
「このメモ通り。」
エリシアは嬉しそうにメモを受け取った。
「トマトは日当たりの良い場所……。」
「こちらですね。」
「小麦は広め……。」
「では、この辺りでしょうか?」
エリックは頷く。
「ああ。」
「それでいい。」
エリシアは一粒ずつ丁寧に種を蒔いていく。
まるで魔法陣を描くような正確さだった。
その間もレイナは黙々と鍬を動かし続ける。
額から汗が流れ落ちる。
「はぁ……。」
「はぁ……。」
ようやく一息つき、周りを見回した。
エリックは魔法陣。
リシェルは家畜の世話。
エリシアは種まき。
三人とも、汗一つかいていなかった。
「……。」
「何で私だけ汗だくなんだ?」
エリックは振り返りもせず答えた。
「レイナだから。」
「だから何なんだ、その理由はーー!!」
種を蒔き終える頃には、朝日もすっかり高く昇っていた。
「終わった。」
エリックが土についた手を軽く払う。
リシェルは籠いっぱいの卵を抱え、微笑んだ。
「朝食にしましょうか。」
「ああ。」
丸太小屋へ戻ると、エリックは昨日王都で買ってきたパンを取り出した。
リシェルは回収したばかりの卵を割り、フライパンへ落とす。
じゅう、と香ばしい音が響く。
黄身がぷっくりと膨らみ、白身がこんがりと焼き上がっていく。
その隣では、搾りたての山羊のミルクが木のコップへ注がれていた。
焼きたての目玉焼き。
香ばしいパン。
ほんのり温かな山羊のミルク。
豪華ではない。
それでも、森で採れた恵みと自分たちの手で用意した朝食だった。
「いただきます。」
四人は揃って手を合わせる。
エリックはパンへ目玉焼きを挟み、大きくかぶりついた。
「うまい。」
短い一言。
それだけで十分だった。
リシェルもミルクを一口飲み、優しく微笑む。
「搾りたては、とても美味しいですね。」
レイナも目玉焼きを頬張りながら頷く。
「昨日まで家畜に振り回されてたのに……。」
「こうして食べると苦労した甲斐があったな。」
エリシアはコップのミルクを見つめ、小さく感心したように呟く。
「森で採れたものだけで朝食が完成する……。」
「これが、スローライフなのですね。」
エリックは静かに頷いた。
「ああ。」
「これがスローライフだ。」
四人の表情が自然と緩む。
が、エリックは室内を見回し、ぽつりと呟いた。
「……狭いな。」
レイナがパンを飲み込みながら首を傾げる。
「何がだ?」
「四人は無理。」
「家、建て直す。」
一瞬、食卓が静まり返った。
「……は?」
エリックは真顔のまま立ち上がる。
「外、行くぞ。」
「今から?」
「今から。」
エリックは迷いなく外へ歩き出した。
三人も慌ててその背中を追いかける。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました!
今回は「朝のルーティン」を中心に、四人それぞれの役割を書いてみました。
リシェルは家畜担当、エリシアは畑担当、エリックは相変わらず魔法陣担当。そしてレイナは……力仕事担当です(笑)。
「レイナだから」という理不尽すぎる理由も、そろそろ定番になってきた気がします。
そして最後、エリックが気付いたのは「四人で暮らすには家が狭い」という、ごく当たり前の問題でした。
次回からはいよいよ、新しい家づくりが本格スタート!
果たしてエリックはどんな家を建てるのか、楽しみにしていただけると嬉しいです。
引き続き応援よろしくお願いいたします!




