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第十三話(後編):スローライフには、まず主食とドラゴンの卵

いつもお読みいただきありがとうございます!


前回は構図や背景など、エリックの漫画家脳が全開でした。

今回は少し肩の力を抜いて、王都でのお買い物回です。


スローライフを目指すなら、まずは主食。

……なのですが、エリックにとってはドラゴンの卵も同じくらい重要らしいです。


それでは、第十三話(後編)をお楽しみください!

市場へ足を踏み入れたエリックは、辺りを見回した。


「まずは小麦の種だな。」


レイナが少し意外そうに聞く。


「卵じゃないのか?」


「卵も欲しい。」


エリックは頷く。


「だが、まず主食だ。」


「小麦がないと困る。」


レイナは思わず笑う。


「そこはちゃんとしてるんだな。」


二人は種を扱う店へ向かった。


店先には様々な種袋が並んでいる。


店主が声を掛けた。


「いらっしゃい。何をお探しで?」


「小麦の種。」


「あと野菜の種も欲しい。」


店主は慣れた手つきで幾つかの商品を並べる。


「こちらが王都で一番人気の小麦です。」


「野菜は葉物、根菜、それから豆類もありますよ。」


エリックは一つ一つ手に取りながら確認する。


「これでいい。」


「調味料も見て回ろう。」


「塩だけだと味気ないからな。」


レイナも頷いた。


「確かにな。」


一通り種を選び終えたところで、エリックが店主へ尋ねる。


「トマトの種は?」


店主は申し訳なさそうに頭を下げた。


「すみません。本日は売り切れです。」


エリックは小さく息を吐いた。


「……またかよ。」


レイナは思わず笑ってしまう。


「そんなに欲しいのか?」


「欲しい。」


「トマトは便利だからな。」


レイナは苦笑しながら肩をすくめた。


「……私は単純に好きだけどな。」


「知ってる。」


二人が市場の奥へ歩き出した、その時だった。


「あっ!」


元気な声が響く。


「旅のお兄さん!」


「帰ってきた!」


振り向くと、買い物袋を抱えた孤児院の子供たちが駆け寄ってきた。


エリックは軽く手を挙げる。


「ああ。」


少年は嬉しそうに笑った。


「ギルドでお仕事もらえた?」


「おかげでな。」


「よかった!」


子供たちは自分のことのように喜んだ。


すると、一人の少女が思い出したように声を上げる。


「そうだ!」


「ドラゴンの卵、まだ売れてないと思うよ!」


エリックの目が少しだけ輝く。


「本当か?」


「うん!」


少年が勢いよく頷く。


「昨日、お金持ちそうなおじさんが欲しそうに見てたけど、買ってなかった!」


エリックは小さく頷いた。


「行ってみよう。」


「こっち!」


子供たちがエリックの手を引っ張る。


「早く早く!」


「待て待て。」


レイナが慌てて呼び止める。


「山羊や鶏も見に行くんじゃなかったのか?」


エリックは振り返る。


「後でいい。」


「卵が先だ。」


レイナは呆れたようにため息をついた。


「さっきまで主食が先とか言ってたのは誰だ。」


「主食は買った。」


「次は卵だ。」


あまりにも真っ当な返事だった。


レイナは額を押さえる。


……行くのかよ。」


子供たちは笑いながら市場の奥へ駆け出す。


その先には、多くの人だかりができていた。


人混みの向こう。


藁の上に鎮座する、巨大なドラゴンの卵。


エリックは足を止めた。


「やっぱり、でかいな。」


レイナも卵を見上げる。


「実物を見ると迫力あるな。」


エリックは腕を組んだ。


「しかし。」


「ヘル・オーガの魔石より高いのは、おかしいだろ。」


レイナは苦笑する。


「貴重だから仕方ない。」


エリックは小さく頷く。


「なるほど。」


「なら、値段交渉は必要だな。」


レイナは嫌な予感しかしなかった。


「……聞いてた?」


店主が二人へ気付く。


「おっ、坊主。」


「また来たのか。」


エリックは頷く。


「ああ。」


「金貨三百五十枚なら、今買う。」


店主は目を丸くした。


「いきなり値切るのか!」


周囲から笑いが起こる。


「ははは!」


「面白い坊主だ!」


店主は腕を組む。


「金貨五百枚だ。」


「本物のドラゴンの卵だぞ。」


「安いくらいだ。」


エリックは淡々と言う。


「育てるにも金が掛かる。」


「餌も必要だ。」


「家も作る。」


「だから三百五十。」


店主は苦笑した。


「そこまで考えてるのか。」


「当然だ。」


「スローライフだからな。」


子供たちは目を輝かせる。


「本当に買うんだ!」


「すごい!」


店主は腕を組んだまま考え込む。


「四百五十。」


「これ以上は下げられん。」


「四百。」


「四百二十。」


「四百。」


「四百十。」


「四百。」


しばらく睨み合いが続く。


やがて店主は大きく笑った。


「参った!」


「金貨四百枚!」


「これでどうだ!」


エリックは頷いた。


「買う。」


周囲から拍手が起こる。


「決まった!」


「本当に買いやがった!」


「ドラゴンの卵だぞ!」


子供たちも飛び跳ねて喜ぶ。


「お兄さん、すごい!」


「本当に買った!」


その時だった。


「ふふ。」


聞き覚えのある声が響く。


「やっぱり買ったのね。」


振り向くと、リシェルが立っていた。


レイナが目を丸くする。


「リシェルさん?」


リシェルは巨大な卵を見上げ、微笑む。


「その大きさでは運ぶのが大変でしょう。」


「噴水前まででしたら、私が運びます。」


「浮遊。」


淡い光が卵を包む。


一メートル近い巨大な卵が、ゆっくりと宙へ浮かび上がった。


「すごい……。」


子供たちから歓声が上がる。


リシェルは笑顔のまま歩き出す。


「行きましょう。」


王都中央広場。


噴水前。


エリックが地面へ描いた転移魔法陣が静かに眠っていた。


リシェルはゆっくりと卵を下ろす。


「ここでいいの?」


「ああ。」


エリックは卵へ近付いた。


人差し指で殻へ一つの魔法陣を描く。


ほんの数秒。


描き終えると、小さく頷いた。


「よし。」


リシェルは術式を見つめ、目を見開く。


「……認証術式。」


エリックは首を傾げた。


「サインだけど。」


リシェルは思わず笑った。


「あなたにとっては、そうなのね。」


次の瞬間。


足元の転移魔法陣が淡く輝く。


巨大な卵は静かに光へ包まれ――。


ふっと、その場から姿を消した。


子供たちが一斉に歓声を上げる。


「消えた!」


「すごい!」


「本当に森へ行った!」


エリックは満足そうに頷く。


「ありがとう。」


リシェルは静かに微笑んだ。


「どういたしまして。」


エリックは残った金貨袋を見た。


「さて。」


「山羊と鶏も買わないとな。」


子供たちは嬉しそうに先頭を歩く。


「こっち!」


「もうすぐだよ!」


市場を抜け、少し歩く。


賑やかな通りから外れると、小さな石造りの建物が見えてきた。


庭には畑。


その奥には柵で囲われた小屋がある。


「ここ!」


「孤児院!」


子供たちが元気よく門を開けた。


「院長先生!」


「旅のお兄さんが来たよー!」


奥の建物から、一人の女性が姿を現す。


四十代ほどの穏やかな女性だった。


「お帰りなさい。」


子供たちへ微笑むと、エリックたちへ一礼する。


「先日は、この子たちがお世話になりました。」


エリックは軽く頭を下げた。


「いや。」


「こちらこそ。」


院長はレイナへも一礼する。


「本日はどういったご用件でしょう?」


エリックは庭の奥を指差した。


「あれ。」


院長は振り返る。


柵の中では山羊が草を食み、その隣では鶏が歩き回っていた。


「山羊と鶏ですね。」


「ああ。」


「売ってもらえるか?」


院長は少し驚いたように目を丸くする。


「飼われるのですか?」


「森で。」


エリックは当然のように答えた。


「乳と卵が欲しい。」


「なるほど。」


院長は微笑んだ。


「でしたら、お譲りできます。」


「ちょうど子山羊が一頭おりますし、鶏も数羽なら問題ありません。」


レイナが苦笑する。


「本当に買うんだな。」


「必要だからな。」


エリックは真面目な顔で頷いた。


「スローライフには必要だ。」


院長は優しく笑う。


「ですが、連れて帰るのは大変ですよ?」


エリックは少し考えた。


「餌はあるか?」


院長は頷く。


「ございます。」


「ただ、一度に大量となると難しいですね。」


「月ごとに少しずつでしたら、ご用意できます。」


エリックは満足そうに頷いた。


「それでいい。」


レイナはエリックを見つめる。


(……何か考えてるな。)


そんな予感がした。


エリックは腰の袋を開く。


金貨を数え、そのまま院長へ差し出した。


「これ。」


院長は目を丸くする。


「えっ?」


「前金。」


「餌代。」


院長は袋を開け、中を見た瞬間、固まった。


「こ、こんなには受け取れません!」


エリックは首を横に振る。


「問題ない。」


「月ごとに餌を用意してくれ。」


「余った分は?」


院長がおずおずと尋ねる。


「孤児院で使って。」


「どうせ俺は持ってても使えない。」


レイナが首を傾げる。


「どういう意味だ?」


エリックは当然のように答える。


「転移魔法陣。」


「金属は通れない。」


「金貨も持って帰れない。」


「だから預ける。」


院長はまだ戸惑っていた。


「ですが……。」


エリックは少しだけ笑う。


「時々、餌を取りに来る。」


「子供たちにも会えるし。」


一瞬、静まり返る。


次の瞬間。


「本当!?」


「また来てくれるの!?」


子供たちの歓声が庭に響いた。


「また来てね!」


「約束だからね!」


エリックは静かに頷く。


「ああ。」


少し離れた場所では、その様子をリシェルが静かに見つめていた。


「……。」


そして、小さく微笑み、一度だけ頷く。


(やっぱり、不思議な子。)


(でも――)


(悪い人ではないのね。)

第十三話(後編)を最後までお読みいただき、ありがとうございました!


今回は戦闘ではなく、王都での買い物と、エリックらしいスローライフ準備のお話でした。


小麦や野菜の種、調味料、そしてドラゴンの卵。

本人の中では全部「生活に必要なもの」として並んでいるのが、エリックらしいところです。


また、孤児院の子どもたちや院長先生とのやり取り、そしてリシェルがエリックを少しずつ理解していく様子も描いてみました。


次回はいよいよ森へ。

スローライフは少しずつ形になっていきますので、引き続きお付き合いいただけると嬉しいです。


ブックマークや評価、ご感想もいつも大きな励みになっています。

本当にありがとうございます!

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