第十三話(前編):構図と背景、そしてドラゴンの卵
皆様、いつも読んでいただきありがとうございます!
今回は無事(?)ダンジョンから帰還……したのですが、エリックにとって一番大事なのは最後まで「ドラゴンの卵」でした。
一方で、エリシアは魔法陣に興味津々。
同じものを見ても、見る人によってこんなに反応が違うのは面白いですね。
それでは、第十三話前編をお楽しみください!
ギルド本部――。
大扉を抜けた瞬間、受付嬢がこちらへ駆け寄ってきた。
「レイナさん! エリックさん!」
「ご無事だったんですね!」
レイナが軽く手を挙げる。
「ああ、何とか帰ってきた」
エリックはそのまま受付へ歩いていく。
「換金お願いしたい」
受付嬢は困ったように笑った。
「申し訳ありません。ギルド長がお待ちです。それと、第三王女エリシア様も」
エリックは首を傾げた。
「換金は?」
「後になります」
「何故だ」
受付嬢は苦笑する。
「王女殿下をお待たせする訳にはいきませんので……」
「行かないと悪いのか?」
横からレイナが即座にツッコむ。
「悪いに決まってるだろ! 相手は第三王女だぞ!」
エリックは少し考える。
「卵は?」
「だから後だ!」
レイナは額を押さえた。
ガレスたちが思わず吹き出す。
「ははは! お前、本当にそこしか見てないんだな」
フェインも苦笑する。
「ある意味、大物だ……」
リシェルは肩を震わせながら小さく笑った。
「……ふふっ。ますます面白い子ね」
受付嬢は改めて姿勢を正した。
「リシェル様と《白銀の翼》の皆様はギルド長室へどうぞ。レイナ様とエリック様は、エリシア様がお待ちの貴賓室へお願いいたします」
ガレスが頷く。
「よし、俺たちは先にギルド長へ報告してくる。じゃあな」
リシェルと《白銀の翼》の3名はギルド長室へと向かった。
レイナも小さく息を吐く。
「行くぞ、エリック。エリシア様をお待たせするわけにはいかない」
「……分かった」
二人だけになり、貴賓室へ続く長い廊下を歩き出す。
レイナはこっそりと自分の腹に手を当て、深く、重い溜め息を吐いた。
今、彼女の胃はストレスでキリキリと痛んでいる。
「第三王女への説明どうしたものか……」
丸二日も行方不明になり、あまつさえ深層まで落ちていたのだ。いくら無事だったとはいえ、側近として言い訳の立ちようがない。
「その上、お前までいるんだからな……。」
ただでさえ頭が痛いというのに、隣にいるのはこれだ。
レイナの恨みがましい視線を受けて、エリックは少し考える。
「卵」
「それだよ!」
レイナの声が廊下に響く。
そんなやり取りをしているうちに、重厚な貴賓室の扉が見えてきた。
「失礼します。」
レイナとエリックが部屋へ入ると、窓際に立っていたエリシアが振り返った。
二人の姿を見た瞬間、その表情が柔らかくなる。
「……ご無事で何よりです。」
レイナは胸に手を当て、深く頭を下げた。
「ご心配をお掛けしました。」
エリシアは静かに頷いた。
「何があったのですか。」
レイナは姿勢を正す。
「はい。」
「七十階層付近へ転移した後、六十九階層でヘル・オーガと遭遇しました。」
「その後、六十階層のボスを討伐し、途中でSランクパーティ《白銀の翼》と合流。」
「四十五階層の魔力休止域で野営し、本日帰還いたしました。」
エリシアは静かに聞き終えると、小さく息を吐いた。
「……想像以上の出来事でしたね。」
レイナは苦笑する。
「ええ。」
「正直、私もまだ整理しきれていません。」
そして、小さく肩をすくめた。
「それと……。」
「エリックは相変わらずでした。」
「構図だの、背景だの、私には理解できないことばかり言っていました。」
その瞬間。
エリシアの瞳が鋭く輝いた。
「今、何と?」
「構図……と、背景です。」
「そこを詳しく聞かせてください。」
エリックは近くにあった紙を一枚手に取る。
さらさらと迷いなく魔法陣を描き始めた。
「ヘル・オーガは関節の構図がおかしかった。」
「だから、こんなイメージで描いた。」
エリシアは紙を受け取り、細い指先で術式をゆっくりとなぞる。
「……。」
しばらく無言の時間が流れる。
やがて、小さく呟いた。
「なるほど。」
さらに指先を滑らせる。
「面白い……。」
視線が一点で止まる。
「この流れなら関節を切断――」
小さく首を振る。
「違う。」
もう一度、最初から術式を追う。
「切断ではない。」
「関節を外したのですね。」
エリックは当然のように頷いた。
「ああ。」
「切るより、その方が早い。」
エリシアは静かに微笑んだ。
「発想そのものが違うのですね。」
そして再び紙へ視線を落とす。
「それで……。」
「背景とは、何なのですか?」
エリックは少し考えた。
「六十階層のボス部屋。」
「あそこ、背景がなかった。」
「だから、こんな魔法陣を描いた。」
一本だけ術式を書き加える。
エリシアはじっと見つめる。
何度も術式を追い、考え込む。
「……。」
静かな沈黙が流れた。
やがてエリシアは、小さく笑みを浮かべる。
「分かりません。」
「ですが、とても興味深い考え方です。」
「背景とは何なのか。」
「ぜひ、詳しく教えてください。」
エリックは少し考えた。
「長くなるぞ。」
「構いません。」
エリシアは迷いなく答える。
エリックは再び紙へ魔法陣を描き始めた。
「まず背景っていうのは――」
レイナは小さく天井を見上げる。
(……こうなるとは思ってた。)
(最低でも三十分。)
(今日は長いな。)
――三十分後。
エリシアは満足そうに紙を抱え、小さく頷いた。
「ありがとうございました。」
「とても有意義なお話でした。」
エリックは首を傾げる。
「そうか?」
「はい。」
「まだまだ聞きたいことはありますが、それはまた今度にしましょう。」
そう言うと、エリシアはレイナへ視線を向けた。
「レイナ。」
「後日、スペルグルフの森の調査へ同行してください。」
「詳しい日程は改めて連絡します。」
「承知いたしました。」
エリシアは微笑む。
「今日はゆっくり休んでください。」
二人は深く一礼し、貴賓室を後にした。
廊下へ出た瞬間だった。
エリックが真っ先に口を開く。
「換金。」
レイナは苦笑する。
「そうだな。」
「ようやく換金だ。」
二人は受付へ向かう。
受付嬢は二人の姿を見ると、ぱっと立ち上がった。
「レイナさん、エリックさん。」
「お待たせいたしました。」
エリックは袋いっぱいの魔石を受付へ置く。
「換金お願いしたい。」
受付嬢は袋を開ける。
一つ目の魔石を見た。
手が止まる。
二つ目を見る。
目が大きく開く。
三つ目を取り出したところで、顔色が変わった。
「……えっ。」
「こ、これは……。」
思わず息を呑む。
「少々、お待ちください!」
受付嬢は魔石を抱えたまま立ち上がり、慌てて奥へ駆けていった。
エリックは不思議そうに首を傾げる。
「何だ?」
レイナは肩をすくめる。
「多分、ギルド長案件だ。」
ほどなくして、奥の扉が開く。
「騒がしいと思えば、お前たちか。」
ギルド長は受付嬢から魔石を受け取ると、一つずつ静かに査定していく。
ギルド長は査定書へ最後の印を押した。
「査定は終了だ。」
「合計、金貨八百五十枚。」
その場にいた冒険者たちがどよめく。
「八百五十枚……。」
「六十階層ボスの魔石まであるんだ。当然か。」
エリックは静かに頷いた。
「折半か。」
レイナは首を横に振る。
「いや。」
「今回は折半しない。」
エリックが不思議そうな顔をする。
「何でだ?」
レイナは肩をすくめた。
「私は冒険者じゃない。」
「エリシア様の側近だ。」
「今回は、お前の監視役として同行しただけだからな。」
一度言葉を切り、エリックを見る。
「ヘル・オーガも、六十階層のボスも、お前が倒した。」
「今回、一番働いたのは間違いなくお前だ。」
「私は金貨三百枚で十分。」
「残りは、お前が受け取れ。」
ギルド長も腕を組んだまま頷く。
「妥当な取り分だ。」
エリックは少しだけ考えた。
「……そうか。」
「じゃあ、ドラゴンの卵が買えるな。」
レイナは苦笑する。
「その前に装備代の借金は返せ。」
エリックは頷いた。
「分かった。」
最後までお読みいただき、ありがとうございました!
今回は戦闘よりも、会話中心のお話でした。
エリシアは「構図」や「背景」というエリック独特の考え方に夢中になり、レイナは終始胃を痛め、そしてエリックは最後までドラゴンの卵一直線。
この三人らしい空気が少しでも伝わっていたら嬉しいです。
次回はいよいよ換金の結果を受けて動き出します。
果たしてエリックは念願のドラゴンの卵を手に入れられるのか、それともまた予想外の出来事が待っているのか。
引き続きお付き合いいただけると嬉しいです!




