第十二話 (後編):ブレない男
いつも読んでいただきありがとうございます!
前編は戦闘メインでしたが、後編は少しゆっくりしたお話です。
ダンジョンで命懸けの戦いを終えたからこそ見える一面や、新しい出会い、そして少しだけ世界の謎にも触れています。
もちろん、エリックは最後までエリックです(笑)。
それでは、第十二話後編をお楽しみください。
四十五階層――魔力休止域。
そこだけは、まるで別世界だった。
張り詰めていた殺気はなく、魔物の気配もない。
岩壁にはギルドが設置したランタンが淡く灯り、奥には食料や医療品が保管された木箱が並んでいる。
「……助かった。」
ガレスが大きく息を吐いた。
「ここまで来れば一安心だ。」
六人はそれぞれ荷物を下ろす。
フェインは矢筒を外し、ロイドは剣を壁へ立て掛けた。
リシェルは手際よくポーションを取り出し、傷を負った者たちへ配っていく。
「飲んで。」
「深い傷じゃないけど、放置はしない方がいいわ。」
エリックも無言で一本受け取り、一気に飲み干した。
レイナはその様子を見て苦笑する。
「味はどうだ?」
「苦い。」
「薬だからな。」
食料庫からは干し肉や乾パン、保存の利く野菜が運び出される。
焚き火が灯り、簡単な鍋が出来上がる頃には、張り詰めていた空気もようやく和らいでいた。
「生きて飯が食えるだけで十分だ。」
ガレスが笑う。
誰も否定しなかった。
深層を潜る冒険者にとって、それは何よりの贅沢だった。
ガレスは鍋を口へ運び、一息ついた。
「そういや、まだ詳しく話してなかったな。」
レイナが顔を上げる。
「何をだ?」
「俺たちが、何でお前たちを探しに来たのかだ。」
焚き火の音だけが静かに響く。
「普通なら二日程度じゃ捜索隊なんて出ない。」
「ギルド長も最初は様子を見るつもりだった。」
「だが――」
ガレスはエリックへ視線を向けた。
「第三王女エリシア様が動いた。」
「新人二人を捜索してほしい、とギルド長へ直接頼んだらしい。」
レイナは小さく息を吐く。
「……やっぱりか。」
フェインが目を丸くした。
「知ってたのか?」
「予想はしてた。」
「エリシア様は、コイツをやたら気に入ってるから。」
親指でエリックを指す。
当の本人は鍋を口へ運びながら首を傾げた。
「そうだったか?」
「自覚ないのか、お前……。」
レイナは額を押さえた。
リシェルは小さく笑った。
「……ふふ。」
「なるほど。」
「エリシア様が興味を持つ理由が、少し分かった気がする。」
焚き火を囲む穏やかな時間が流れる。
張り詰めていた空気はもうない。
レイナは小さく欠伸を噛み殺した。
「ふぁ……。」
「眠いのか?」
エリックが首を傾げる。
「……少しだけ。」
そう答えた直後だった。
コクリ。
レイナの身体がゆっくりと傾く。
そのまま、エリックの肩へともたれ掛かった。
「……。」
「寝た。」
規則正しい寝息だけが聞こえる。
ガレスが苦笑した。
「無理もない。」
「丸二日、まともに休んでないからな。」
フェインも肩をすくめる。
「俺たちも人のこと言えねぇ。」
ロイドは壁へ背を預けると、そのまま目を閉じた。
「少し寝る。」
「見張りは交代でいいだろ。」
ガレスも静かに頷く。
「俺も少し休ませてもらう。」
やがて焚き火の周りは静寂に包まれた。
聞こえるのは、薪の爆ぜる音だけ。
目を開けているのは、エリックとリシェル、二人だけだった。
リシェルは揺れる炎越しに、静かにエリックを見つめる。
「……一つ、聞いてもいいかしら。」
まず、“構図”って何?」
エリックは少し考える。
「その前に。」
「俺も聞きたいことがある。」
リシェルが少し驚く。
「……何かしら?」
エリックは荷物から魔法書を取り出す。
「お前の魔法陣。」
「この魔法書と同じだよな。」
リシェルの表情が止まる。
本を受け取り、ページをめくる。
術式を見る。
息を呑む。
「……これは。」
「私の術式。」
エリックの目が輝く。
「やっぱり!」
「すげー!」
「サインくれ。」
リシェルは思わず吹き出した。
「ふふっ……。」
「やっぱり面白いわ、君は。」
リシェルは静かに魔法書を閉じた。
「なるほど……。」
「君たち、あの転移魔法陣を使ったのね。」
エリックは頷く。
「ああ。」
「七十階層のボス部屋の前にあったやつだ。」
リシェルは懐かしそうに微笑んだ。
「あれは二百年前――。」
「勇者と修行するために、私が作った転移魔法陣なの。」
エリックは小さく頷く。
「へぇ。」
それだけだった。
リシェルは思わず苦笑する。
「驚かないの?」
エリックは首を傾げる。
「そうなのか。」
「俺は魔法陣の方が気になる。」
「……ふふっ。」
小さく笑い声が漏れる。
「やっぱり、君は面白いわ。」
焚き火の炎が静かに揺れる。
その夜は、それ以上深い話をすることはなかった。
丸二日眠っていなかったレイナは、いつの間にかエリックの肩へともたれたまま眠りについていた。
「……寝た。」
エリックが小さく呟く。
ガレスは苦笑しながら横になる。
「俺たちも休もう。」
ロイドもフェインも、それぞれ寝袋へ潜り込んだ。
やがて聞こえるのは、薪の爆ぜる音と穏やかな寝息だけ。
リシェルは揺れる炎の向こうで、静かにエリックを見つめる。
(この子は、一体何者なの……。)
そんな疑問だけを胸に、彼女もゆっくりと目を閉じた。
数時間後――。
夜明けを迎えた六人は、四十五階層の魔力休止域を後にする。
そして、一行は無事ダンジョンを脱出した。
エリックは袋いっぱいの魔石を見つめた。
「なぁ、レイナ。」
「ん?」
「これだけ魔石があれば、ドラゴンの卵も買えるよな。」
レイナはしばらく黙り込んだ。
「……。」
「お前、本当にブレないな。」
「大事だろ。」
レイナは苦笑し、小さくため息をつく。
「……まずは受付に行くぞ。」
第十二話後編を読んでいただき、ありがとうございました!
今回は戦闘よりも「休息」と「会話」を中心にした回でした。
リシェルという新たな人物、二百年前の魔法陣、そして少しずつ繋がっていく世界の伏線など、静かな回ではありますが、自分としては大切な一話になっています。
……とはいえ、最後までエリックの頭の中はドラゴンの卵でした(笑)。
どれだけ大事件が起きても目的がブレない主人公を書いていて、作者自身もちょっと笑ってしまいました。
次回はいよいよ王都へ帰還です。
ギルドへの報告や新たな出会いなど、物語も少しずつ次の舞台へ進んでいきます。
引き続き応援していただけると嬉しいです!




