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第十二話 (前編):Sランクとの遭遇

いつもお読みいただきありがとうございます!

第十二話前編です。


六十階層を突破したエリックたちですが、帰還中に思わぬ出会いが待っていました。


今回は新たな登場人物も加わります。


どうぞ最後までお楽しみください!

六十階層のボス部屋を後にする。


 熱気は消え、足元を流れていた水だけが静かに残っていた。


 レイナは大剣を肩へ担ぐ。


「終わった……か」


 エリックは魔石を袋へ放り込み、何事もなかったように歩き始める。


「行くぞ」


「休まないのか?」


「帰還中だろ」


「……まぁ、そうなんだが」


 二人は静かな通路を進んでいく。


 現れる魔物を倒し、また歩く。


 深層とは思えないほど静かな時間だった。


 しばらくして。


 遠くから、金属がぶつかり合う音が聞こえた。


 ガギィン!


 ドォン!!


 魔法の炸裂音。


 レイナが立ち止まる。


「戦闘……?」


 エリックも耳を澄ます。


「人数、多いな」


「冒険者か」


 二人は慎重に音の方へ近づいた。


 曲がり角の先。


 そこでは四人の冒険者が、高速で飛び回る鳥型の魔物の群れと交戦していた。


 数十羽。


 いや、それ以上。


「ちっ!」


 盾役の男が舌打ちしながら盾を構える。


 魔法使いのエルフが次々と風刃を放つ。


 弓使いが空を射抜く。


 剣士が群れへ飛び込む。


 連携は見事だった。


「……強いな」


 レイナが小さく呟く。


 エリックも頷く。


「Sランクか」


しかし


 盾役は片膝をつきかけている。

 腕には裂傷。

 呼吸は荒い。


 弓使いは矢筒が半分以下になっていた。

 指先に血が滲んでいる。


 剣士はまだ動いているが、踏み込みが重い。


 魔法使いのエルフだけが、必死に術式を維持していた。


「……ギリギリだな」


 レイナが短く言う。


「おいエリック、気を引き締めろ。あれは『マイツ』だ」


 レイナが大剣の柄を握り直す。


「このダンジョンで最速と言われてる魔物だ。群れに囲まれたら一瞬で刻まれるぞ」


 その時だった。


 群れの一部がこちらへ気付く。


 十数羽が一斉にエリックたちへ向きを変えた。


「来るぞ!」


 レイナが剣を抜く。


 鳥型の魔物は、なおも空を埋め尽くしていた。

「数が多すぎる!」

 盾役の男が叫ぶ。


エリックも即座に魔法陣を描く


エリックの周囲に、次々と魔法陣が展開される。


一枚。


二枚。


三枚。


……


十枚を超える。


空中を埋め尽くすように、幾何学模様が重なっていく。


Sランクの四人は思わず息を呑んだ。


「なっ……。」


「同時展開……?」


「いや、あの数はあり得ない!」


エルフだけは術式を凝視する。


「術式同士が……干渉していない……?」


レイナはその光景を見ても、もう驚かなかった。


「ああ。」


「普通だ。」


四人の冒険者。


「「「「どこがだ!!」」」」


レイナは真顔で答える。


「コイツなら普通だ。」


空気が変わった。


 鳥型魔物の群れが、天井を埋め尽くすように旋回している。


「来るぞ」


 レイナが短く言った。


 その瞬間、エリックの足元に魔法陣が展開される。


 幾重にも重なる幾何学模様。


 空間を切り取るように、複数の術式が同時起動した。


「右を潰す」


「了解!」


 レイナは即座に踏み込む。


 魔法陣の射線に合わせるように、剣を振るう。


 放たれた魔法が軌道を固定し、そこへ剣撃が重なる。


 鳥の群れが一斉に崩れ落ちた。


「……いける」


 盾役の冒険者が呟く。


「連携が噛み合えば、押し切れる!」


 四人の冒険者たちも動きを変えた。


 エルフの魔法が風の流れを作り、弓が逃げ道を塞ぐ。


 剣士が割り込む形で群れを分断する。


 そこへエリックの魔法陣が重なる。


 一瞬だった。


 放たれた魔法と剣撃が噛み合い、鳥の群れが一気に崩れていく。


「……いける」


 盾役が息を吐いた。


「押し切れるぞ!」


 その瞬間だった。


 ギギギ……ッ。


 ダンジョン全体が、低く軋む。


「……?」


 壁の魔石が同時に光る。


 崩れたはずの空間に、再び影が滲んだ。


 鳥。


 さっきと同じ群れが、“何もない空間から”生まれる。


「は?」


 誰かが声を漏らす。


「今、倒したよな……?」


 エリックはその瞬間、動きを止めた。


 魔法陣は展開したまま。


 視線だけが戦場から外れる。


「……やっぱり」


「おかしいな」


 群れの中心で、一羽だけ動きが違う個体がいた。


 速さではない。


 軌道のズレ方が、他と明らかに違う。


「……アイツ」


 エリックの声は低かった。


「リーダーだろ」


 言い切るように。


 レイナが一瞬だけ視線を向ける。


「どれだ」


「真ん中じゃない。動きの基準になってるやつだ」


 エリックは淡々と言った。


「そこを潰せば、全体が崩れる」


「了解」


 レイナは即座に踏み込んだ。


 迷いはない。


 一閃。


 空気が裂ける。


 その一羽が落ちた瞬間──


 群れの動きが、一拍だけ“止まった”。


「……っ」


 レイナが息を吐く。


「崩れた」


 だがその直後だった。


 群れが、乱れたまま“散った”。


「……は?」


 レイナが目を見開く。


「逃げた……のか?」


 その一羽が落ちた瞬間──


 群れの動きが、一拍だけ止まった。


「……っ」


 レイナが息を呑む。


 次の瞬間。


 鳥たちが一斉に隊列を乱した。


 互いに交差し、ぶつかり合い、統一されていた動きが完全に崩れる。


「何だ……?」


 盾役が目を見開く。


「群れが……混乱してる?」


 誰も襲ってこない。


 鳥たちはただ、空中を無秩序に飛び回るだけだった。


エルフの女がエリックを見る。


「……どうして分かったの?」


エリックは群れから目を離さない。


「何がだ?」


「リーダーよ。」


「誰も気付いてなかった。」


エリックは少し考えてから答える。


「別に分かった訳じゃない。」


「え?」


「一番違和感があっただけだ。」



ここでレイナが割って入る。


「また始まった。」


「違和感って何だよ。」


エリックは首を傾げた。


「主人公っているだろう、普通。」


「……はぁ?」


「群れにも一人くらい。」


「いや、いねぇよ!」


盾を下ろした男が、大きく息を吐いた。


「……助かった。」


彼はエリックたちの前まで歩み寄り、深く頭を下げる。


「改めて礼を言う。」


「俺はSランクパーティ《白銀の翼》のリーダー、ガレスだ。」


隣で大剣を担いだ男が肩をすくめる。


「ロイド。」


弓を背負った青年が軽く手を挙げた。


「フェインだ。」


最後に、銀色の長い髪を揺らしたエルフの女性が一歩前へ出る。


「私はリシェル。」


「普段はソロで活動している魔法使いよ。」


「今回はギルド長に頼まれて、この人たちと行動しているの。」


レイナも軽く頭を下げる。


「私はレイナ。」


親指で隣を指す。


「こっちはエリック。」


「Cランクパーティ《レッドトマト》だ。」


一瞬、沈黙が流れる。


ガレスが思わず眉をひそめた。


「……待て。」


「今、何て言った?」


「Cランクパーティ《レッドトマト》だけど。」


「どこがだ!」


思わず声を荒げるガレス。


「お前たち、本当にCランクかよ!」


ロイドも呆れたように苦笑する。


「信じられねぇ……。」


フェインが額を押さえた。


「俺たちはギルド長直々の依頼で、お前たちを探しに来たんだぞ。」


レイナが目を丸くする。


「私たちを?」


「ああ。」


「普通なら二日程度で捜索なんて出ない。」


「だが今回は違った。」


「第三王女エリシア様が口添えをしたらしい。」


レイナは小さく息を吐いた。


「……やっぱりか。」


ガレスが首を傾げる。


「知っていたのか?」


「いや……。」


「何となく、そんな気はしてた。」


その横でエリックだけが不思議そうな顔をしていた。


「それより。」


「まだここにいるのか?」


リシェルが静かに頷く。


「ええ。」


「長々と話をしている場合じゃない。」


彼女は暗い通路の奥へ視線を向ける。


「ダンジョンは生きている。」


「あなたの言う”リーダー”も、また生まれてくるかもしれない。」


エリックはあっさり頷く。


「ああ。」


「その可能性はある。」


リシェルは静かに言った。


「四十五階層の魔力休止域マナ・レストエリアまで戻りましょう。」


「そこで野営する。」


「話は、それからでいい。」


誰も異論はなかった。


六人は足並みを揃え、四十五階層の魔力休止域マナ・レストエリアへ向かって歩き始めた。


その道中――。


リシェルの瞳だけは、ただ一人、エリックから離れなかった。

第十二話前編をお読みいただき、ありがとうございました!


ようやくSランクパーティとの遭遇です。


エリックにとっては「普通」のことでも、周囲から見ると全く普通ではない……そんな温度差を書いていて楽しい回でした(笑)。


後編では舞台をマナ・レストエリアへ移し、焚き火を囲みながら少しずつ物語の核心に迫っていきます。


リシェルがエリックに何を問いかけるのか、ぜひ楽しみにお待ちいただけると嬉しいです。


ブックマークや評価、感想もとても励みになります!


それでは、後編でまたお会いしましょう!

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