第六十八話(前編):魔境の森にシャンプーを!
風車が完成し、小麦粉作りも大成功!
ところが、ルークの尻尾が思わぬ騒動を引き起こしてしまいます。
そんな中、薬草調査から戻ってきた一行が持ち帰ったのは、ムクロジやツバキ。
それを見たエリックは、新しいものを作ろうと思いつきます。
「……これなら」
エリックが。
風車を見上げる。
「上手くやれば、白米も作れるかもしれないな」
「白米ですか?」
エリシアが。
興味深そうに聞き返す。
「ああ。米が収穫できたら、次はそっちだ」
エリックは。
石臼から流れ出る小麦粉を見た。
「……よし。もう少し挽いておくか」
それから。
しばらくして。
小麦粉は。
大きな桶に。
山盛りになっていた。
「すごい量ですね……」
エリシアが。
感心したように呟く。
マルタも。
満足そうに頷いた。
「これだけあれば、しばらく困らないねぇ」
そのとき。
「キュルルッ!」
ルークが。
小麦粉の山を見て。
嬉しそうに跳ねた。
「おい、ルーク。あまりはしゃぐなよ」
エリックが。
声をかける。
だが。
ルークは。
聞いていなかった。
パタパタと。
尻尾を振る。
そして。
――バンッ!
尻尾が。
桶の側面を叩いた。
次の瞬間。
「……あ」
小麦粉が。
大きく舞い上がった。
白い粉煙が。
風車の周りに広がる。
「きゃっ!」
「わっ、何ですか!?」
「うわっ!」
エリックも。
エリシアも。
マルタも。
ミーナもルチアも。
そして。
ルークまで。
全員が。
小麦粉を浴びた。
「…………」
一瞬。
森が静まり返った。
真っ白になったエリック。
真っ白になったエリシア。
真っ白になったマルタたち。
そして。
真っ白な顔で。
「キュッ!」
ルークが嬉しそうに鳴いた。
そのとき。
薬草調査から戻ってきた一行が。
森の小道から姿を現した。
フィオネとレイナ。
リシェルとフィリア。
そして。
十人ほどの薬師たち。
全員が。
籠いっぱいの薬草を抱えていた。
「ただいま戻りました」
フィオネが。
声をかけようとして。
足を止めた。
目の前には。
小麦粉まみれのエリックたち。
そして。
その中心で。
尻尾を振っているルーク。
「…………」
レイナが。
ゆっくりと。
エリックを見た。
「……エリック」
「……はい」
「これは、いったい何があったんだ?」
エリックは。
小麦粉まみれの桶を見た。
それから。
真っ白なルークを見る。
「……小麦粉が完成した」
「そういうことを聞いているのではない!」
魔境の森に。
レイナの声が響き渡った。
「……それより」
エリックは。
レイナたちが持っている籠に目を向けた。
「薬草、たくさん採れたんだな」
「話を逸らすな!」
レイナの声が。
再び森に響いた。
エリックは。
籠の中を覗き込んだ。
「……ムクロジか?」
実を手に取る。
さらに。
籠の中を探して。
「それに、ツバキもあるな」
エリックは。
二つの植物を見比べた。
「……これなら、シャンプーが作れるな」
「しゃんぷー?」
エリシアが。
聞き返した。
その声に。
レイナも。
フィオネも。
ぴくりと反応する。
「髪を洗うやつだ。上手く作れれば、髪がツヤツヤになるぞ」
「……本当か?」
レイナが。
先ほどまでの怒りを忘れたように。
籠の中を覗き込んだ。
「エリック、それはぜひ詳しく聞かせてくれ」
エリシアも。
フィオネも。
真剣な顔で頷いた。
「……お前たち」
エリックが。
三人を見た。
「さっきまでの話は、もういいのか?」
「それとこれとは別だ!」
レイナが。
きっぱりと言い切った。
エリックは。
籠の中を物色し始めた。
「……ハーブもあるのか」
いくつか手に取って。
リシェルを見る。
「……少し、もらってもいいか?」
「もちろんですよ」
リシェルが。
微笑んで頷く。
「作り方は後だ」
エリックは。
ムクロジとツバキ。
そして。
ハーブを手に取った。
それから。
真っ白になったルークを見る。
「ルーク、風呂で洗ってやる」
「キュルッ!」
ルークが。
嬉しそうに鳴いた。
「ちょっと待て!」
レイナが。
慌てて声を上げる。
「お前、一人でシャンプーってやつを試すつもりだろ!」
「……駄目か?」
エリックが。
首を傾げた。
「駄目に決まっているだろ!」
「なんでだ?」
「なんでって……!」
レイナが。
言葉に詰まる。
エリックが。
振り返る。
そこには。
頭から小麦粉を浴びた。
エリシアとマルタ。
そして。
ミーナとルチアがいた。
「……ああ」
エリックが。
ようやく気づいた。
「お前たちも洗わないとな」
「そういう問題じゃないでしょう!」
エリシアが。
思わず声を上げた。
「……いや、洗うのは大事だろ」
「そうですけど!」
エリシアは。
真っ白な髪を。
そっと触った。
「……シャンプー、楽しみにしていますね」
その隣で。
マルタも。
ミーナも。
ルチアも。
期待するように。
エリックを見つめていた。
「…………」
エリックは。
三人と一人を見比べた。
「……先に、試作品を作るか」
エリックは。
服についた小麦粉を、
軽く払い落とした。
「マルタ、薬の精製所は使えるか?」
「もちろんだよ。薬草を煮出す道具もあるからねぇ」
マルタが。
嬉しそうに答える。
「よし。じゃあ、少し借りるぞ」
エリックは。
ムクロジとツバキ。
それから、いくつかのハーブを手に取った。
「私も行きます!」
エリシアが。
すぐに声を上げる。
「私も、ぜひ見せてください」
フィオネも。
真剣な顔で頷いた。
「……私もだ」
レイナが。
当然のようについてくる。
ミーナとルチアも。
互いの顔を見合わせ、
尻尾を揺らした。
「ボス、私たちも行きます!」
「……分かった」
エリックは。
全員を見回した。
「ただし、まだ完成品じゃないからな。上手くいくかどうかも分からないぞ」
「それでも構いません!」
エリシアが。
即答した。
「自分たちで試せるのでしょう?」
「……まあ、そうだな」
エリックは。
少しだけ笑った。
「じゃあ、行くか」
こうして。
小麦粉まみれの騒動は、いつの間にか。
世界に一つだけのシャンプー作りへと、話が変わっていた。
「……石鹸はアルカリ性だからな」
エリックが。
何気なく言った。
「……あるかり?」
ミッシュルが。
興味深そうに聞き返す。
「石鹸の性質みたいなものだ。これで髪を洗うと、絡まりやすくなるんだ」
「なるほど……」
ミッシュルは。
真剣な顔で、
エリックの説明に耳を傾けていた。
「それで、どうするんですか?」
エリシアが。
尋ねる。
「ここに、ツバキ油を少しだけ」
エリックは。
粉石鹸を水に溶かし、
椿油を加えた。
「それから、好きな香りのハーブを少し。入れすぎると肌に合わないこともあるから、最初は控えめにな」
「なるほどです!」
ミッシュルは。
さっそく、
手元の紙に書き留め始めた。
「油の量や薬草の種類を変えて、比較してみたいです!」
「そうだな。色々試してみるといい」
エリックは。
マルタを見る。
「マルタ。ミッシュルと一緒に、シャンプーの研究をしてみないか?」
「私と?」
マルタが。
目を丸くした。
「ああ。それと、薬の作り方もドワーフたちに教えてやってほしいんだ」
「……!」
ミッシュルが。
驚いたように顔を上げた。
「私が、薬作りを教えてもいいのですか?」
「もちろんだ。みんな、今は勉強中なんだろ?」
エリックは。
いつもの調子で頷いた。
「詳しい研究は俺には分からないからな。そこは二人に任せたい」
「ぜひ、やらせてください!」
ミッシュルが。
嬉しそうに答えた。
マルタも。
満足そうに笑う。
「これは、忙しくなりそうだねぇ!」
「頼む」
エリックは。
並んだ瓶を見渡した。
「……さて。まずは、どんな仕上がりになるか試してみるか」
それぞれが。
自分で選んだハーブと、自分で考えた配合。
出来上がったシャンプーを。
小さな瓶へ移していく。
量は。
長い髪の女性でも。
二、三回使える程度。
決して。
多くはない。
だからこそ。
誰もが。
一滴もこぼさないように。
慎重に瓶へ移していた。
「…………」
フィオネの手が。
ぷるぷると。
震えている。
その隣では。
レイナが。
必死に笑いをこらえていた。
……が。
ふと。
反対隣に目を向ける。
「…………」
エリシアも。
小さな瓶を持つ手が。
ぷるぷると。
震えていた。
「……お前もか」
レイナが。
思わず呟く。
「な、何ですか! レイナ!」
エリシアが。
慌てて抗議する。
しかし。
フィオネとエリシアの手は。
相変わらず。
ぷるぷると震えていた。
それを見たエリックが。
「ああ、そうだ」
何かを思い出したように。
口を開く。
「手のひらに丸を三回書いて、飲み込むと震えが止まるぞ」
「「「嘘つけ!」」」
三人の声が。
見事に重なった。
その瞬間。
「ふふっ」
誰かが笑い。
つられるように。
みんなが笑い出した。
張り詰めていた空気が。
一気に緩む。
フィオネの手も。
エリシアの手も。
いつの間にか。
震えが止まっていた。
エリックは。
二人の手元を見て。
「ほらな」
「偶然だろ!」
レイナが。
即座に突っ込んだ。
いつも読んでいただき、ありがとうございます!
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小麦粉まみれになってしまったエリックたち。
しかし、薬草調査で採れた植物から、今度はシャンプー作りが始まりました。
エルフの薬師ミッシュルとドワーフのマルタ。
二人の共同研究も始まりそうです。
果たして、どんなシャンプーが出来上がるのでしょうか。
次回もよろしくお願いします!




