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第六十四話(前編) :食い違う勇者の記憶

エルフの郷での食事を楽しむエリックたち。


そんな中、リシェルが語った勇者様の話に、思いがけない食い違いが見つかります。


そして、その夜。

エリックとエリシアは、六十階層の扉について話し合うことに……。

エリック達は。


食事のできる場所を探して。


歩き始めた。


食事処に着くと。


一行は。


空いている席へ腰を下ろした。


「……さて」


エリックが。


メニューを見る。


「何を食べるか」


「私は、これが気になります」


エリシアが。


指差したのは。


きのこと香草のスープだった。


「じゃあ、俺もそれにする」


「私は、木の実入りの全粒パンにします」


リシェルが。


微笑む。


「では、私は山菜と豆の温サラダを」


「えーっと……」


ミーナが。


メニューを覗き込む。


「ベリーと果実のタルト!」


「ミーナ、まずは食事を選びましょうね」


ルチアが。


苦笑する。


「分かってるよ! ちゃんと山菜と豆の温サラダも頼むから!」


「……二つ頼むんですね」


「もちろん!」


やがて。


料理が運ばれてきた。


きのこと香草のスープ。


木の実入りの全粒パン。


ベリーと果実のタルト。


山菜と豆の温サラダ。


ハーブを使った焼き野菜。


そして。


花蜜入りの薄い焼き菓子。


「いただきます」


それぞれが。


料理に手を伸ばす。


スープは。


香草の香りが豊かで。


きのこの旨味が。


じんわりと広がる。


全粒パンには。


香ばしい木の実が練り込まれていた。


焼き野菜は。


ハーブの香りと。


野菜本来の甘みが引き立っている。


「……うん」


エリックが。


小さく頷く。


「美味いな」


「でしょう?」


エリシアが。


嬉しそうに笑う。


「エルフの郷は、こういう食事も魅力なんです」


「確かに」


エリックは。


焼き野菜を口に運ぶ。


「素材の味を生かしてる」


その隣では。


ミーナが。


タルトを前に目を輝かせていた。


「これ、すっごく美味しい!」


「ミーナ、口の周りにベリーがついていますよ」


ルチアが。


そっと指摘する。


「えっ、どこ?」


「そこです」


「……取れた?」


「まだです」


「ええっ!」


そのやり取りに。


エリシアが。


くすりと笑った。


リシェルも。


楽しそうに。


二人を見ている。


「なあ、リシェル」


エリックが。


声をかけた。


「はい?」


「勇者様の話を聞かせてくれないか?」


リシェルは。


少しだけ。


目を見開いた。


「……勇者様、ですか?」


「ああ」


エリックは。


パンをちぎりながら。


頷いた。


「私も聞きたいです」


エリシアが。


興味深そうに。


顔を上げた。


「黒森で、あの老人が話していたことが気になってまして」


リシェルは。


二人の顔を見比べた。


それから。


懐かしむように。


微笑んだ。


「そうですね……」


「どこからお話ししましょうか」


「彼女は、とても小柄な剣士で――」


「……ちょっと待て」


エリックが。


リシェルの言葉を遮った。


「黒森の爺さんは、確か男だと言ってただろ?」

「そうでしたか?」


リシェルは。


不思議そうに。


首を傾げた。


「……いや、そうでしたかじゃなくて」


エリックが。

エリシアを見る。


「エリシアも聞いてたよな?」


「はい」


エリシアが。

頷いた。


「私も、男性だと聞いた覚えがあります」


「だよな?」


エリックが。

リシェルを見る。


「ミーナたちは?」


「うん! 私も男の人だって聞いたよ!」


ミーナが。

勢いよく頷く。


「私もです。確かに、男性だとおっしゃっていました」


ルチアも。

静かに頷いた。


「……そうですか」


リシェルは。

少し考え込む。


「私が知っている勇者様は、女性なのですが……」


「…………」


エリックは。

黙り込んだ。


マグノが言っていた。


あの老人の話は、嘘っぱちだと。


「……なるほどな」


エリックが。

小さく呟く。


「少なくとも、話が食い違ってるわけか」


エリシアは。

真剣な表情で。

頷いた。


「マグノさんの話が正しければ、あの老人の記憶そのものが、歪められていた可能性もあります」


「…………」


エリックは。

ちぎったパンを置いた。


勇者の性別さえ違う。


ならば。


あの老人が語ったことのうち、いったい何が真実なのだろうか。


やがて。


最後の皿が空になった。


花蜜入りの薄い焼き菓子を食べ終えると。


ミーナが。


満足そうに。


椅子へもたれかかる。


「……もう食べられない」


「さっきまでタルトを追加しようとしていたのに」


ルチアが。


呆れたように言う。


「別腹だもん……」


「その別腹も、いっぱいになったんでしょう?」


「……うん」


エリックは。


そんな二人を見ながら。


小さく笑った。


「さて」


立ち上がる。


「そろそろ行くか」


「どちらへ?」


エリシアが。


尋ねる。


「薬師館」


エリックが。


短く答えた。


「レイナの様子も、気になるしな」


「……そうですね」


エリシアが。


頷く。


「明日には、この郷を発ちますから」


その言葉に。


リシェルが。


少しだけ。


表情を和らげた。


「そうですね」


窓の外では。


木々の間に。


夜の帳が下り始めていた。


エルフの郷で過ごす。


最後の夜。


――その日の夜。


エルフの郷の薬師館。


エリシアの部屋で、エリックは椅子に座っていた。


向かいの椅子に腰掛けたエリシアが、難しい顔で口を開く。


「……やはり、話が食い違っていますね」


「何が?」


「六十階層の扉ですわ」


エリシアは、指先を顎に当てた。


「ガルフィさんは、あの扉を開いて魔王現象を起こし、あなたに封印させようとしている。けれど、魔王の種の存在すら知らないのでしょう?」


「そうらしいな」


「一方で、魔王の種は、扉の向こうにあるのは人間が撒いた毒だから、開けてはいけないと言っているのでしょう」


「うん」

「その解釈で、あってると思う」


「そして、マグノ様は、古代人の記録が残されていると思っている。扉を開けたときに何が起きるのか、考えてもいない……」


エリシアは小さく息を吐いた。


「三者とも、知っていることが違うのです」


「……そうだな」


エリックは、少し考えた。


「誰かが嘘をついている可能性は?」


「否定はできません。でも、今の情報だけでは判断できません」


エリシアは首を横に振る。


「それに、仮に全員が本当のことを話していたとしても、誰も全体を把握していない可能性があります」


「つまり、誰も正解を知らないかもしれないってことか」


「……ええ」


部屋に沈黙が落ちた。


窓の外から、木々が風に揺れる音が聞こえてくる。


「……それでも」


エリシアが顔を上げた。


「あの扉を開ければ、何かが起きる。その可能性は高いと思います」


「なら、今は開けなければいい」


「え?」


あまりにもあっさりとした返事に、エリシアは目を瞬かせた。


「だって、今考えても分からないんだろ?」


「それは……そうですけれど」


「だったら、いったん村に帰ろう。情報が足りないなら、集めればいい」


エリシアは、しばらくエリックの顔を見つめていた。


やがて、小さく笑う。


「……あなたらしい答えですね」


「そうか?」


「ええ。わたしは、もう少し考えてみます」


「……そっか。無理はするなよ」


エリックはそう言って、椅子から立ち上がった。


――翌朝。


エルフの郷は。


朝の光に包まれていた。


木々の間を。


柔らかな風が吹き抜ける。


エリックは。


荷物を確認する。


「……よし」


「準備できた?」


エリシアが。


声をかける。


「うん」


エリックが。


頷いた。


「じゃあ、行くか」


エルフの郷で過ごした日々も。


今日で終わりだ。


一行は。


それぞれの思いを胸に。


出発の時を迎えていた。

いつも読んでいただき、ありがとうございます!


面白いと思っていただけましたら、評価やブックマークで応援していただけると嬉しいです。


勇者様は小柄な女性剣士だった。


しかし、黒森の老人が語った勇者様は男性。


いったい、何が真実なのでしょうか。


そして、六十階層の扉についても、まだ分からないことばかりです。


エリックたちは情報を集めるため、再び魔境の森へ。


次回もよろしくお願いします!

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