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第六十三話(後編):六十階層の扉

マグノから語られる、魔王現象の仕組み。


そして、魔王の種が生まれる理由を探るための手がかり。


エリックたちは、魔境の森にある六十階層の扉へと向き合うことになります。


その一方で、マグノがエリックに感じたものとは……。


それでは、第六十三話(後編)をどうぞ。

「それと――」


「魔王現象についてじゃが」


エリシアが。


顔を上げる。


「……はい」


マグノは。


古書を開きながら。


静かに口を開いた。


「全てが間違っておるとは言わん」


「エルフは薬を作り、獣人は己の身体に抗体を持たせ、ドワーフは対抗する術を研究した」


「それぞれの種族が、大災害に備えてきたことは事実じゃろう」


一拍。


「じゃがな」


マグノが。


エリックたちを見渡す。


「魔王現象とは、魔王そのものではない」


「魔王が生まれた時に発生する邪悪なる覇気に過ぎんのじゃ」


「……邪悪なる覇気?」


エリシアが。


聞き返す。


「そうじゃ」


マグノが。


頷く。


「この世界には、数多くのダンジョンが存在しておる」


「そして、その最下層には、それぞれ魔王がおる」


「魔王が生まれることで、魔王現象が発生する。順序を取り違えてはならん」


「…………」


エリシアは。


しばらく考え込んだ。


「では……」


「本当に知るべきなのは、魔王の種がなぜ生まれるのか、ということですね」


「その通りじゃ」


マグノが。


古書を閉じる。


「魔王の種は、血を吸い、成長する」


「やがて実となり、生きたダンジョンへと変わる」


「そして、その最深部で魔王が生まれる」


「じゃが……」


老人の声が。


わずかに低くなる。


「なぜ魔王の種が生まれるのか。その理由は、まだ分かっておらん」


「……」


エリックは。


黙って聞いていた。


「手がかりがないわけではない」


マグノが。


再び古書へ目を落とす。


「この世界に存在するダンジョンの中には、古代人が残した扉がある」


「その扉を見つけ、開くことができれば、何かしらの手がかりが残されておるかもしれん」


「ですが……」


エリシアが。


眉を寄せる。


「全てのダンジョンを調べるのは、現実的ではありませんね」


「そうじゃ」


マグノが。


頷く。


「どこに扉があるのかも分からぬ。全てのダンジョンを巡るなど、不可能に近いじゃろう」


「……扉なら」


エリックが。


静かに口を開く。


「見覚えのある扉が、魔境の森にあるんだが」


「…………」


マグノの手が。


止まった。


「……何じゃと?」


「魔境の森のダンジョン。六十階層にある」


エリックが。


淡々と答える。


「……六十階層じゃと?」


マグノが。


目を見開いた。


エリシアも。


リシェルも。


その扉のことは知っている。


だが。


マグノの反応は。


明らかに普通ではなかった。


「……まさか」


老人が。


ゆっくりと顔を上げる。


「お前さんたち、あの扉を見つけておったのか……」


エリックは。


首を傾げた。


「……何か、知ってるのか?」


マグノは。


すぐには答えなかった。


ただ。


目の前の古書を。


そっと閉じた。


マグノは。


ふと。


何かを思い出したように。


顔を上げた。


「……そうじゃ」


「もう一つ、話しておかねばならんことがあった」


「……?」


エリシアが。


マグノを見る。


「黒森じゃ」


「黒森……?」


「そうじゃ」


マグノが。


静かに頷く。


「このままいけば、黒森にも、そう遠くないうちにダンジョンが生まれるじゃろう」


「……!」


エリシアが。


目を見開く。


「いつ頃ですか?」


「そこまでは、わしにも分からん」


マグノが。


白い髭を撫でる。


「じゃが……おそらく、数ヶ月といったところじゃろうな」


「数ヶ月……」


リシェルが。


不安そうに呟く。


マグノは。


古書へ目を落とした。


「ダンジョンが生まれれば、いずれ最深部で魔王が誕生する」


「そして」


一拍。


「邪悪なる覇気が放たれる」


「…………」


部屋の空気が。


重くなる。


エリシアは。


何かを考えるように。


俯いた。


「それでは……」


「黒森で、再び魔王現象が起きる可能性があるのですね」


「そうじゃ」


マグノが。


短く答える。


「じゃからこそ」


老人は。


エリックを見つめた。


「そうなる前に、その扉を開ける必要があるぞ」


「……六十階層の扉、か」


エリックが。


静かに呟く。


マグノは。


ゆっくりと頷いた。


「魔王の種がなぜ生まれるのか」


「その答えを知る手がかりが、あの扉の先にあるかもしれん」


「時間は、あまり残されておらんぞ」


「…………」


エリックは。


黙って考えていた。


数ヶ月。


それまでに。


あの扉を開けなければならない。


「……分かった」


エリックが。


顔を上げる。


「一度、魔境の森に戻って確認する」


その言葉に。


マグノは。


静かに目を細めた。


エリックは。


「何か分かったら、また報告に来る」


一拍。


「その時は、また知恵を貸してくれ」


マグノは。


一瞬。


目を丸くした。


そして。


ふっと笑う。


「……ほっほっほ」


「ずいぶんと、気軽に言ってくれるのう」


「駄目か?」


エリックが。


首を傾げる。


「いや」


マグノが。


白い髭を撫でた。


「構わんとも」


「わしに分かることなら、いくらでも教えてやろう」


「……ありがとう」


エリックが。


小さく頷く。


「ただし」


マグノの表情が。


少しだけ引き締まる。


「扉を開ける時は、くれぐれも用心するのじゃ」


「何が待ち受けておるか、分からんからのう」


「分かった」


エリックが。


短く答えた。


エリシアは。


二人のやり取りを聞きながら。


静かに息を吐いた。


数ヶ月後。


黒森にダンジョンが生まれるかもしれない。


その前に。


魔王の種の謎を解く手がかりを。


見つけなければならない。


エリシアは。


改めて。


エリックを見つめた。


「……さて」


エリックが。


椅子から立ち上がる。


「そろそろ戻るか」


「そうですね」


エリシアも。


頷いた。


リシェルが。


マグノを見る。


「マグノさん、今日はありがとうございました」


「なに、構わんよ」


マグノが。


手を振る。


「また何か分かったら、いつでも来るといい」


「うん」


エリックが。


短く答える。


一行は。


部屋を出た。


扉が。


静かに閉まる。


その直後。


「……ふむ」


マグノが。


一人。


呟いた。


「まさか……」


白い髭を。


ゆっくりと撫でる。


「あやつが、九代目の勇者様かもしれんとはのう」


「…………」


しばらく。


閉じた扉を見つめる。


「いや……」


マグノは。


首を横に振った。


「素質だけで言えば、まだ何とも言えん」


深いため息。


そして。


古書へ目を落とす。


「……じゃが」


その声が。


わずかに震えた。


「今度こそ……」


老人は。


目を閉じる。


「今度こそ、うまくいってくれればよいがのう」


その頃。


扉の外では。


「……腹減った」


ミーナが。


お腹を押さえていた。


「ミーナ、さっきまで真剣な話をしていたでしょう?」


ルチアが。


呆れたように言う。


「だって、ずっと聞いてたらお腹が空いたんだもん!」


「……まあ」


エリックが。


少し考える。


「食事にするか」


「賛成!」


ミーナの尻尾が。


カタカタと揺れた。


「私も賛成です」


ルチアも。


小さく笑う。


エリシアは。


そんな二人を見て。


思わず苦笑した。


「……本当に、切り替えが早いですね」


「腹が減ったら食べる」


エリックが。


淡々と答える。


「それだけだ」


一行は。


食事のできる場所を探して。


歩き始めた。

お読みいただき、ありがとうございます。


魔王の種の謎を追うため、エリックたちは魔境の森に戻ることになりました。


しかし、黒森にも新たなダンジョンが生まれる可能性があるようです。


そして、マグノが口にした「九代目の勇者様」という言葉。


エリック本人は、勇者になるつもりなどないのですが……。


今後とも、よろしくお願いします。

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