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第六十二話(前編):七歳の薬と古い記録

獣人族が七歳の誕生日に飲むという、特別な薬。


そして、古い記録に残されていた封印と魔王の記述。


それらは、いったい何を意味するのでしょうか。


今回も楽しんでいただければ嬉しいです。

フィリアに案内され。


ミーナとルチアは。


西ノ宮の一室へ通された。


「……わぁ」


部屋に入った瞬間。


ミーナが。


思わず声を漏らす。


棚には。


大小さまざまな瓶が並び。


机の上には。


見慣れない器具や。


薬草の束が置かれていた。


壁際にも。


何かの液体が入ったガラス容器や。


細かな目盛りのついた道具が。


所狭しと並んでいる。


「すごいですね……」


ルチアも。


思わず室内を見回した。


「ふふっ」


奥にいた女性が。


二人の様子を見て微笑む。


「驚かせてしまいましたか?」


「いえ、そんな!」


ミーナが。


慌てて姿勢を正す。


女性は。


二人へ向き直った。


「改めまして。セレフィアと申します」


「本日は、お越しいただきありがとうございます」


「ミーナです」


「ルチアです」


二人も。


改めて頭を下げた。


「どうぞ、お掛けください」


セレフィアが。


椅子を勧める。


二人が席に着くと。


セレフィアは。


机の上に置かれたノートを手に取った。


「今日は、お二人にお聞きしたいことがあるのです」


その表情は。


先ほどまでの穏やかな笑顔とは少し違い。


研究者らしい真剣なものになっていた。


「まずは」


セレフィアが。


ノートを開く。


「獣人族の皆様が、どのような薬を服用されているのか。それをお聞きしたいのです」


「薬、ですか?」


ルチアが。


首を傾げる。


「はい」


セレフィアが。


頷いた。


「人間と獣人族では、身体のつくりに違いがあります」


「同じ薬でも、効き方が異なる可能性があるのです」


「なるほど……」


ミーナが。


机の上の器具を見る。


「それで、私たちに話を聞きたいんですね」


「ええ」


セレフィアが。


微笑む。


「もちろん、お答えいただける範囲で構いません」


「まず、お二人は普段、何か特別な薬を服用されていますか?」


「特別な薬……」


ミーナとルチアが。


顔を見合わせた。


「そういえば」


ミーナが。


思い出したように口を開く。


「私たち、七歳の誕生日に薬を飲みました」


「七歳に?」


セレフィアの目が。


わずかに見開かれる。


「はい」


ルチアが。


頷いた。


「獣人族は、七歳になると一度だけ、特別な薬を飲むんです」


「それからは、病気になりにくくなるって聞きました」


「……一度だけ?」


セレフィアが。


手元のノートに目を落とす。


「その薬は、どのような名前でしたか?」


「名前までは……」


ミーナが。


困ったように笑う。


「小さい頃のことですし、みんな当たり前に飲むものだったので」


「そうですよね」


セレフィアは。


責めることなく頷いた。


「それでは、もう一つ」


ペンを手に取る。


「お二人は、怪我をした時に、傷が治るのが早いと感じたことはありませんか?」


「あります!」


ミーナが。


すぐに答えた。


「小さな切り傷くらいなら、次の日にはほとんど治っています」


「風邪を引いても、人間より早く治ることが多いですね」


ルチアも。


頷く。


「それが普通だと思っていました」


「……やはり」


セレフィアが。


小さく呟いた。


そして。


ノートの端に。


何かを書き留める。


「その薬が、長い期間にわたって身体に作用しているのかもしれません」


「身体に?」


「はい。免疫や自然治癒力に関係している可能性があります」


セレフィアは。


二人を見た。


「ただ、まだ分からないことばかりです」


「だからこそ、実際の身体の反応を調べてみたいのです」


「それで……」


ルチアが。


少しだけ身を乗り出す。


「私たちの血を調べたい、ということですか?」


「その通りです」


セレフィアが。


真剣な表情で頷いた。


「血液を調べれば、薬の影響が今も残っているのか、何か手掛かりが見つかるかもしれません」


一度。


言葉を切る。


「ですが、無理にお願いするつもりはありません」


「お二人が嫌だと思われるなら、断っていただいて構いません」


ミーナとルチアは。


再び顔を見合わせた。


「……私は、いいですよ」


先に口を開いたのは。


ミーナだった。


「自分たちの身体のことが分かるなら、協力したいです」


「私もです」


ルチアも。


頷く。


「ただし、痛いのは少し苦手ですけど……」


「ふふっ」


セレフィアが。


小さく笑う。


「ほんの少しだけです。できる限り、痛くないようにしますね」


そう言って。


セレフィアは。


器具を準備し始めた。


その途中。


ふと。


手元の古い資料に目を向ける。


「……あ」


小さな声が。


漏れた。


「どうしました?」


ミーナが。


尋ねる。


セレフィアは。


資料を持ち上げた。


「いえ……少し、気になる記述がありまして」


「気になる記述?」


「古い記録なのですが」


セレフィアが。


文字を追う。


「獣人族の身体に見られる特性が、ある古い封印と関係している可能性がある、と書かれているのです」


「封印……?」


ルチアが。


不思議そうに繰り返す。


「はい」


セレフィアは。


資料を閉じた。


「ただ、記録が途切れていて、何を封じたものなのかまでは分かりません」


一拍。


「その記述の近くには……魔王についても触れられていました」


「……魔王?」


ミーナとルチアの表情が。


変わる。


「ええ」


セレフィアが。


静かに頷く。


「ですが、獣人族の薬と魔王が、本当に関係しているのか。それすら、まだ分からないのです」


それ以上。


セレフィアは語らなかった。


今は。


確かなことが何もないからだ。


「ですから」


彼女は。


改めて二人を見る。


「まずは、目の前のことから調べていきたいと思います」


机の上に。


小さな採血用の器具が置かれた。


「お二人の血を、少しだけ分けていただけますか?」


「はい」


ミーナが。


腕を差し出す。


ルチアも。


隣で頷いた。


セレフィアは。


二人の同意を確かめてから。


慎重に採血を始めた。


やがて。


小さな容器に。


それぞれの血が収められる。


「ありがとうございます」


セレフィアが。


大切そうに容器を手に取った。


「これから詳しく調べてみます」


「何か分かるといいですね」


ルチアが。


微笑む。


「ええ」


セレフィアも。


頷いた。


「結果がまとまりましたら、私も魔境の森へ伺います」


「魔境の森に?」


ミーナが。


目を丸くする。


「はい。エリックさんたちにも、ぜひお話ししたいことがありますから」


セレフィアは。


血液の入った容器を。


そっと保管箱へ収めた。


その表情には。


研究者としての好奇心と。


まだ誰も知らない何かを見つけたかもしれない、という慎重な期待が浮かんでいた。


「それでは、今日はありがとうございました」


「こちらこそ!」


ミーナとルチアは。


揃って頭を下げた。


二人はまだ知らない。


七歳の誕生日に飲んだ薬と。


古い記録に残された封印。


そして。


魔王という名。


それらが本当に結びつくのかどうか。


その答えは。


これからの調査に委ねられていた。


――その頃。


薬師館では。


エリックたちが。


セレフィアの話を待っていた。


「……遅いな」


エリックが。


椅子に座ったまま呟く。


「研究のお話ですからね」


エリシアが。


穏やかに答える。


「時間がかかっているのかもしれません」


「そうだな」


エリックは。


机の上に置かれた薬草を見る。


「……これ、使っていいのか?」


「駄目ですよ」


リシェルが。


即答した。


「…………」


エリックは。


静かに手を引っ込める。


「まだ何もしてないだろ」


「今、手を伸ばしていましたよね?」


「……気のせいだ」


「気のせいではありません」


エリシアが。


くすっと笑う。


そんなやり取りをしていた時。


「ただいま戻りました!」


薬師館の入口から。


ミーナの声が響いた。


「お、戻ったか」


エリックが。


顔を上げる。


ミーナとルチアが。


二人そろって入ってきた。


「お帰りなさい」


エリシアが。


笑顔で迎える。


「セレフィア様のお話は、どうでしたか?」


「それがですね!」


ミーナが。


勢いよく頷く。


「すごかったんですよ!」


「すごかった?」


エリックが。


首を傾げる。


「部屋いっぱいに薬の瓶があって、見たこともない道具が並んでいて……」


「ミーナ、そこは研究のお話をしましょう」


ルチアが。


苦笑しながら口を挟む。


「そうでした!」


ミーナが。


ぽん、と手を打つ。


「血を調べてもらったんです!」


「血?」


エリックが。


顔を上げる。


「うん。獣人族の身体について調べたいんだって」


ルチアが。


説明を引き継ぐ。


「私たちが七歳の時に飲んだ薬や、傷が早く治ることに興味があるそうです」


「……七歳?」


エリシアが。


反応した。


「一度だけ飲む薬があるのですか?」


「はい」


ルチアが。


頷く。


「獣人族なら、みんな飲むものだと聞いています」


「それは興味深いですね……」


エリシアが。


考え込む。


「一度の服用で、その後も効果が続くのでしょうか?」


「セレフィア様も、そこを調べたいそうです」


「なるほど」


リシェルが。


静かに頷いた。


「種族による体質の違いは、薬を研究するうえで大切ですからね。」


「そうなんだ」


エリックは。


ミーナとルチアを見る。


「……で?」


「ほかには?」


「えっと……」


ミーナが。


少し考える。


「あ、そうそう!」


「セレフィア様が、魔王の話もしていました!」


「…………」


エリシアの笑顔が。


止まった。


「魔王?」


リシェルも。


顔を上げる。


「はい」


ミーナは。


二人の反応に気づかず。


そのまま続けた。


「なんでも、古い記録に書いてあったそうです」


「獣人族の身体の特徴が、何かの封印と関係しているかもしれないって」


その時。


コンコン。


薬師館の扉が。


ノックされた。


「はい、どうぞ」


リシェルが。


声をかける。


「失礼します」


扉が開き。


フィリアが顔を覗かせた。


「皆さん、お揃いでしたか」


「フィリアさん」


エリシアが。


顔を上げる。


「どうかしましたか?」


「いえ、少しお話が聞こえまして」


フィリアが。


部屋の中へ入ってくる。


「何のお話をされていたんですか?」


「魔王と、封印についてです」


エリシアが。


答えた。


「セレフィア様が、獣人族の身体の特徴と古い封印に関係があるかもしれない、という記録を見つけたそうなんです」


「……封印ですか」


フィリアが。


少し考える。


「なるほど……」


それから。


ふと思い出したように。


口を開いた。


「それなら、階層の巨木の根の下を寝ぐらにしている、マグノじいさんなら、もしかすると知っているかもしれません」


「……マグノじいさん?」


エリックが。


聞き返す。


「はい」


フィリアが。


頷く。

最後まで読んでいただき、ありがとうございます。


ミーナとルチアが七歳の時に飲んだ薬。


そして、古い記録に残されていた封印と魔王の関係。


まだ分からないことばかりですが、新たな手掛かりが見つかりました。


マグノじいさんは、何を知っているのでしょうか。


面白いと思っていただけたら、ブックマークや評価をいただけると嬉しいです。


次回もよろしくお願いします。

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