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第六十一話(後編):スローライフに必要な人

離れ離れになっていた二人。


ようやく、再会のときが訪れます。


そして、エリックが考えた解決策とは――。


今回も楽しんでいただければ嬉しいです。

「魔境の森は遠すぎます」


フィオネ姫が。


困ったように笑う。


「そうか?」


エリックが。


首を傾げる。


「転移魔法陣なら、もう作ってあるぞ」


「……え?」


「リシェルが」


エリックが。


隣を見る。


「友達の家に作った」


「…………」


フィオネ姫が。


言葉を失う。


「だから」


エリックが。


普通に続ける。


「すぐに来られる」


「…………」


その横で。


レイナは。


必死に笑いを堪えていた。


「……っ」


口元を。


きゅっと引き締める。


けれど。


肩が。


わずかに揺れていた。


「……レイナ?」


エリックが。


レイナを見る。


「……いや」


レイナは。


一度。


小さく息を吐いた。


そして。


フィオネ姫を見る。


「その方がいいだろ」


「……レイナ?」


フィオネ姫が。


目を瞬かせる。


「エリシアと姫様」


レイナが。


エリックを見る。


「二人とも護衛できるしなぁ」


「うん」


エリックが。


あっさり頷く。


「そういうこと」


「…………」


レイナは。


また。


笑いを堪えた。


本当に。


どこにいても。


変わらないやつだった。


「……分かりました」


フィオネ姫が。


小さく息を吐く。


「約束します」


「うん」


エリックが。


頷く。


フィオネ姫は。


少しだけ。


楽しそうに微笑んだ。


「ただし……」


一拍。


「少し遊びに――」


「……いえ」


フィオネ姫が。


咳払いをする。


「薬草の調査に」


「数名と私で。


魔境の森へ向かいます」


そして。


レイナを見る。


「護衛は。


レイナさんにお願いしますね」


「承知しました」


レイナが。


静かに頭を下げる。


「明日にでも。


出発しましょう」


「……明日?」


エリックが。


首を傾げる。


「うん」


フィオネ姫が。


穏やかに微笑む。


「できるだけ早めに、と。


おっしゃったのはあなたですよ?」


「……そうだったな」


エリックは。


小さく頷いた。


フィオネ姫が。


レイナを見る。


「レイナさん」


「はい」


「東屋でお待ちの」


「エリックさんのお友達に」


一拍。


「明日、私たちが魔境の森へ向かうことを」


「伝えていただけますか?」


「……承知しました」


レイナが。


静かに頭を下げる。


「では、行ってまいります」


レイナは。


踵を返した。


最初は。


いつもどおりの歩調だった。


けれど。


扉が近づくにつれて。


少しずつ。


歩く速度が上がっていく。


「…………」


エリックは。


その背中を見ていた。


そして。


小さく呟く。


「……東屋にいないかもな」


「……何?」


レイナが。


足を止めずに聞き返す。


「多分、魔法陣をめっちゃ近くで見てる」


「……だろうな」


レイナは。


振り返らずに答えた。


けれど。


その足は。


さっきよりも。


少しだけ速くなっていた。


扉を抜ける。


レイナは。


少しだけ。


小走りになった。


東屋が見える。


けれど。


やはり。


誰もいない。


「……」


レイナは。


周囲を見渡す。


そして。


少し離れた場所にある。


魔法陣へ目を向けた。


「……あ」


見慣れた後ろ姿。


少し離れていても。


すぐに分かった。


「…………」


レイナの足が。


止まる。


何故だろう。


急に。


涙が出てきた。


「……」


何から。


説明すればいいのだろう。


何と。


挨拶すればいいのだろう。


どんな顔をして。


会えばいいのだろう。


考えていたはずなのに。


何一つ。


言葉にならなかった。


その時。


「……レイナ?」


エリシアが。


振り向いた。


そして。


レイナを見た。


笑っていた。


いつものように。


嬉しそうに。


けれど。


その頬には。


涙が伝っていた。


「……エリシア様」


レイナの声が。


震えた。


「……レイナ」


エリシアが。


ゆっくりと。


近づいてくる。


「ご無事で……」


声が。


震えた。


「本当によかった……」


エリシアは。


笑おうとした。


けれど。


涙が。


次々と。


頬を伝っていく。


「私が……」


一度。


言葉を詰まらせる。


「私がもっと探せば」


「こんなことには……」


エリシアが。


俯く。


「ごめんなさい……」


「…………」


レイナは。


何も言えなかった。


「辛かったですよね……」


エリシアが。


涙を拭う。


「一人で……」


「ずっと……」


その言葉に。


レイナは。


唇を噛んだ。


本当は。


大丈夫だと。


答えるつもりだった。


けれど。


目の前で泣いているエリシアを見たら。


何も。


言えなくなってしまった。


「……謝らないでください」


レイナが。


静かに口を開く。


「私は……辛くはありません」


「でも……」


エリシアは。


涙を拭いながら。


首を横に振る。


レイナは。


そんなエリシアを見つめた。


「……泣かないでください」


声が。


少しだけ。


震えていた。


本当は。


辛くなかったわけではない。


谷底で。


一人きりで。


何日も過ごした時間。


身体の痛みも。


先の見えない不安も。


決して。


楽なものではなかった。


けれど。


それ以上に辛かったのは。


もう。


エリシアの直属護衛として。


仕えることができない。


その事実だった。


「…………」


レイナは。


小さく息を吐く。


けれど。


今は。


違う。


エリックのおかげで。


魔境の森へ行ける。


エリシアも。


そこへ来ることができる。


もし。


何かあれば。


また。


彼女を守ることができる。


「……だから」


レイナは。


涙を浮かべたまま。


微笑んだ。


「私は、大丈夫です」


「エリシア様」


「また、お守りできますから」


「…………」


エリシアは。


レイナを見つめた。


そして。


もう一度。


涙をこぼした。


「……レイナ」


エリシアが。


涙を拭う。


その時。


「よかったな」


聞き慣れた声がした。


レイナが。


振り向く。


エリックが。


リシェルと。


ミーナ、ルチアを連れて。


歩いてきていた。


「……エリック」


「サプライズ成功だな」


エリックが。


小さく頷く。


「…………」


レイナは。


思わず。


呆れたように笑った。


「……お前な」


「ん?」


「……いや」


レイナは。


小さく息を吐く。


その顔には。


まだ。


涙が残っていた。


エリックは。


そんなレイナを見て。


ふと思い出したように口を開く。


「そうだ」


「レイナ、ありがとな」


「……何が?」


「ドラゴンの卵」


エリックが。


いつもの調子で言う。


「あの日、お前が、早馬で送ってくれたおかげで」


「羽化に間に合った」


「…………」


レイナが。


一瞬。


目を見開く。


「……そんなことか?」


「大事なことだろ」


エリックが。


首を傾げる。


「おかげで、ルークに会えた」


「…………」


レイナは。


しばらく。


エリックを見つめていた。


そして。


ふっと笑う。


「……本当に」


「変わらないやつだなぁ」


「そうか?」


「そうだよ」


レイナが。


笑いながら答える。


その横で。


リシェルが。


くすっと笑った。


ミーナとルチアも。


顔を見合わせる。


尻尾が。


カタカタ。


揺れていた。


「……何だ?」


エリックが。


みんなを見る。


「いや」


リシェルが。


笑いをこらえながら首を振る。


「エリックさんらしいな、と思いまして」


「……?」


エリックは。


ますます不思議そうな顔をした。


「私の方こそ、ありがとう」


「……ん?」


今度は。


レイナが。


エリックを見る。


「レイナは、スローライフに必要だからな」


「…………は?」


レイナが。


ぽかんと口を開ける。


一瞬の沈黙。


次の瞬間。


「ははっ!」


リシェルが。


とうとう吹き出した。


「ちょ、ちょっと、ボス!」


ミーナが。


笑いながら。


エリックの肩を叩く。


ルチアも。


尻尾をカタカタ揺らしながら。


必死に笑いをこらえていた。


「……何がおかしいんだ?」


エリックが。


真顔で尋ねる。


「いやいや」


レイナが。


額に手を当てる。


「お前なぁ……」


そう言いながらも。


口元は。


笑っていた。


「……本当に」


レイナは。


もう一度。


エリックを見る。


「変わらないやつだなぁ」


今度は。


呆れたように。


けれど。


嬉しそうに。


みんなの笑い声が。


庭に響いていた。


……そういえば」


エリックが。


ふと思い出したように口を開く。


「姫様の娘が、話を聞きたいって言ってたよな」


「はい」


レイナが。


頷く。


「名前、聞かなかったな」


エリックが。


少し考える。


「レイナ、知ってるか?」


「セレフィア様ですよ」


レイナが。


あっさり答える。


「……そうか」


エリックが。


頷く。


「覚えておく」


「ボス……」


ミーナが。


小さく呟く。


「名前くらい、最初に聞いておきましょうよ」


「……忘れてたんだから仕方ないだろ」


「そういう問題ですか?」


ルチアが。


苦笑する。


その時。


「皆様」


フィリアが。


声をかけた。


「ルチアさん、ミーナさん。セレフィア様がお待ちですよ」


フィリアが。


西ノ宮の方へ。


視線を向ける。


「こちらへどうぞ」


「分かりました」


ルチアが。


頷く。


ミーナも。


姿勢を正した。


「では、行ってきます」


ルチアが。


エリックたちを見る。


「うん」


エリックが。


頷く。


「セレフィア様の役に立ってこい」


「はい!」


ミーナが。


元気よく答える。


フィリアに続いて。


二人が。


西ノ宮へ向かっていった。


エリックは。


その背中を。


しばらく見送る。


「……さて」


ふと。


レイナを見る。


「姫様のところに戻るんだろ?」


「うん。護衛だからな」


レイナが。


小さく笑う。


「じゃあ、また明日」


「……ああ」


レイナは。


フィオネ姫のもとへ。


エリックたちは。


リシェルの案内で。


薬師館へと戻っていった。

最後まで読んでいただき、ありがとうございます。


ようやく再会できたレイナとエリシア。


そして、相変わらずのエリックでした。


レイナにとっても、これから新しい日々が始まりそうです。


面白いと思っていただけたら、ブックマークや評価をいただけると嬉しいです。


次回もよろしくお願いします。

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