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第六十一話(前編):姫様も魔境へ

レイナを救った、古い契約。


その事実を知ったエリックが、

考えたこととは――。


今回も楽しんでいただければ嬉しいです。

――その日の晩。


薬師館。


エリシアは。


フィリアから。


話を聞いていた。


「……そうですか」


エリシアが。


少しだけ。


俯く。


「姫様には」


「お会いできないのですね」


「はい」


フィリアが。


静かに頷く。


「エリシア様とは」


「簡単にお会いすることはできないそうです」


「王族同士ですから」


「……分かりました」


エリシアは。


小さく。


頷いた。


「では」


顔を上げる。


「レイナさんには?」


「レイナさんには」


フィリアが。


少し微笑む。


「お会いいただけます」


「……!」


エリシアの表情が。


少しだけ。


明るくなった。


――翌朝。


エリックたちは。


フィリアに案内され。


最上階へ。


辿り着いた。


階段を上がった先には。


大きな門が。


立っている。


その先に。


広がっていたのは。


格子状に。


整えられた庭園だった。


道が。


まっすぐに。


伸びている。


その両脇には。


薬草。


そして。


色とりどりの花が。


植えられていた。


「……綺麗ですね」


リシェルが。


庭を見渡す。


「昔と比べても。


随分と整えられましたね」


「薬草も。


たくさんあります」


エリシアも。


周囲を見る。


ミーナが。


花へ顔を近づける。


「いい匂いがします」


「本当ですね」


ルチアも。


頷く。


フィリアが。


少し笑う。


「この庭は。


姫様がお好きな場所なんです」


「そうなんですね」


エリシアが。


庭を見渡す。


エリックは。


黙って。


薬草と花を見る。


整然と並んだ。


庭園。


「……」


なんとなく。


落ち着く。


しばらく。


庭園を歩いていく。


やがて。


大きな庭の一角に。


東屋が見えてきた。


フィリアが。


足を止める。


「エリシア様」


「こちらで。


お待ちください」


「……はい」


エリシアが。


東屋を見る。


「分かりました」


フィリアが。


エリックたちを見る。


「では。


こちらへ」


エリックたちは。


フィリアの後を。


歩き始める。


庭園の奥。


その先に。


大きな。


重厚な扉が。


見えていた。


エリックたちは。


その扉へ向かって。


静かに。


歩いていった。


ギィィィ……。


重厚な扉が。


ゆっくりと。


開いていく。


レイナは。


少しだけ。


顔を上げた。


開いた扉の向こうから。


光が。


差し込んでくる。


「…………」


逆光で。


誰が来たのか。


まだ。


顔までは見えない。


けれど。


その姿の中に。


見覚えのある。


二つの影があった。


「……」


一人は。


犬耳。


もう一人も。


犬耳。


「…………」


レイナの目が。


わずかに。


見開かれる。


「ミーナ……」


「ルチア……?」


声には。


まだ。


出さない。


けれど。


間違えるはずがない。


あの二人。


そして。


その二人の間に。


立っている。


小さな人影。


「…………」


レイナは。


息を止める。


ゆっくりと。


その姿へ。


視線を向ける。


まだ。


顔は見えない。


けれど。


その立ち方。


その雰囲気。


「……まさか」


扉が。


さらに。


開く。


光の中から。


その顔が。


少しずつ。


見えてくる。


「…………」


レイナの。


目が。


大きく開いた。


「エリック……」


声には。


まだ。


出さない。


先頭を。


フィリアが歩く。


その後ろを。


エリックたちが。


続いていく。


エリックは。


いつも通り。


静かに。


歩いている。


その隣には。


リシェル。


リシェルは。


広間を見渡しながら。


少しだけ。


懐かしそうに。


目を細めていた。


そして。


ミーナと。


ルチア。


二人の尻尾が。


パタパタと。


揺れている。


二人は。


エリックの後ろを。


嬉しそうに。


歩いていた。


やがて。


フィリアが。


足を止める。


そして。


後ろへ。


手を向ける。


「こちらへ」


エリックたちも。


足を止める。


フィリアは。


胸の前へ。


両手を添える。


そして。


深く。


頭を下げた。


エリックたちも。


それを見て。


同じように。


頭を下げる。


「……」


しばらくして。


フィオネ姫が。


静かに。


口を開く。


「頭をお上げください」


エリックたちが。


顔を上げる。


フィオネ姫は。


穏やかに。


微笑んでいた。


「そんなに。


堅苦しいご挨拶は」


「必要ありません」


そして。


少しだけ。


懐かしそうに。


目を細める。


「いつか。


来られるとは思っていましたが……」


フィオネ姫が。


エリックたちを見る。


「レイナさんを。


探しに来られたのでしょう?」


「はい」


フィリアが。


答える。


「そうですか」


フィオネ姫が。


小さく頷く。


「それなら。


まずは安心しました」


そして。


少しだけ。


困ったように。


笑う。


「ですが」


「その前に」


フィオネ姫が。


玉座から。


ゆっくりと。


立ち上がる。


「私のわがままを。


二つほど。


聞いていただけませんか?」


「わがまま?」


エリックが。


首を傾げる。


「はい」


フィオネ姫が。


穏やかに。


微笑む。


「一つは」


その視線が。


リシェルへ向く。


「リシェルに。


伝えたいことがあります」


「……私に?」


リシェルが。


少し驚く。


フィオネ姫は。


小さく。


頷いた。


「……リシェル」


リシェルが。


顔を上げる。


「お久しぶりです」


「……はい」


フィオネ姫が。


小さく。


微笑む。


「本当に。


久しぶりですね」


「そうですね」


リシェルも。


静かに。


微笑む。


フィオネ姫は。


少しだけ。


微笑んだ。


「では」


「もう一つです」


フィオネ姫が。


玉座の横を見る。


そこには。


フィオネ姫の娘が。


座っていた。


その隣には。


夫がいる。


「私の娘が」


フィオネ姫が。


少し困ったように。


笑う。


「どうしても」


一拍。


「エリックさんたちと。


お話をしたいそうなのです」


「よろしければ」


「後ほど、娘の話し相手になっていただけないでしょうか?」


「分かった」


エリックが。


小さく頷く。


「後でな」


そして。


フィオネ姫へ視線を戻す。


「それより」


一拍。


「血判の儀式のことは、本当なのか?」


「……」


フィオネ姫の表情が。


静かに。


引き締まった。


「はい」


「すべて、本当です」


エリックは。


フィオネ姫を見つめる。


「……そうか」


短く答えた。


けれど。


その表情は。


いつもより。


少しだけ。


真剣だった。


フィオネ姫が。


静かに。


口を開く。


「レイナさんが受けた血判の儀式は」


「エルフに伝わる」


「非常に古い儀式です」


「……」


エリックたちは。


黙って聞いている。


「一度、契約が結ばれれば」


「簡単に解除することはできません」


「そして」


フィオネ姫が。


レイナを見る。


「レイナさんは」


「もう以前の主に仕えることはできません」


「…………」


レイナは。


静かに。


目を伏せる。


エリックも。


少し考えていた。


「……じゃあ」


「はい?」


フィオネ姫が。


エリックを見る。


「姫様が」


「魔境に来ればいいんじゃないか?」


「…………」


大広間が。


静まり返る。


レイナが。


ゆっくり。


エリックを見る。


「エリック……」


「魔境なら」


エリックは。


普通に。


話を続ける。


「薬草もあるし」


「温泉もある」


「食べ物も」


「エリシアは魔法の勉強もしてる」


「…………」


フィオネ姫は。


目を瞬かせる。


「……私が」


「魔境へ?」


「うん」


エリックが。


頷く。


「レイナが姫様の護衛なら」


「姫様も来ればいい」


「…………」


フィオネ姫は。


しばらく。


エリックを見る。


そして。


小さく。


笑った。


「ふふ……」


「あなたは」


「本当に面白い方ですね」


「そう?」


エリックは。


首を傾げる。


「普通に暮らせると思うけど」


「…………」


レイナが。


思わず。


小さく息を吐く。


「……本当に」


「どこにいても変わらないな。」


「お前は。」


エリックは。


そんなレイナを見て。


小さく頷いた。


そして。


ふと。


玉座の横へ視線を向ける。


フィオネ姫の娘。


その隣には。


夫もいる。


「……」


エリックは。


娘をちらっと見てから。


フィオネ姫へ視線を戻した。


「なぁ」


「……はい?」


フィオネ姫が。


首を傾げる。


エリックは。


いつもどおりの顔で。


口を開いた。


「約束してくれないか」


「何をでしょう?」


「魔境の森に来るって」


「…………」


フィオネ姫が。


目を瞬かせる。


「できるだけ早めに」


エリックが。


付け加える。


「……本気なのですね」


「うん」


エリックは。


迷いなく頷いた。


「温泉もあるし」


「薬草もある」


「エリシアもいるから」


「退屈はしないと思う」


「…………」


フィオネ姫は。


しばらく。


エリックを見つめていた。

お読みいただき、ありがとうございます!


血判の儀式によって、以前の主に仕えることができなくなったレイナ。


その事情を知ったエリックが出した答えは、いかにも彼らしいものでした。


果たして、フィオネ姫はエリックの提案を受け入れるのでしょうか。


そして、フィオネ姫の娘がエリックたちと話したい理由も気になるところです。


次回も楽しんでいただければ嬉しいです。


もし本作を気に入っていただけましたら、ブックマークや評価をいただけると、とても励みになります。


皆さまの応援が、続きを書く力になります。


これからも、エリックたちの物語をよろしくお願いいたします!

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