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第五十九話(後編):清らかなる境界

古代の結界に阻まれた、エルフの郷。


なぜか同じ場所を巡り続ける馬車。


エリックは。

この不思議な現象の謎を解けるのでしょうか。


今回も楽しんでいただければ嬉しいです。

――数日後。


馬車は。


北東へ向かって。


進んでいた。


「……」


エリシアが。


窓の外を見る。


森が。


ずっと続いている。


「この辺りなんですか?」


リシェルが。


窓の外へ目を向ける。


「はい」


「シル・アンヴァルは」


「この近くにあります」


「……」


エリックも。


外を見る。


けれど。


何も見えない。


巨大樹も。


街も。


建物も。


「本当に何もないな」


「結界がありますから」


リシェルが。


静かに答える。


「外からは」


「シル・アンヴァルを見ることはできません」


「なるほど」


エリックは。


しばらく。


森を見る。


その時。


「……ん?」


エリックが。


少しだけ。


眉を動かした。


「どうしました?」


エリシアが。


尋ねる。


「……あそこ」


エリックが。


前方を見る。


「何か」


「変じゃないか?」


「……?」


エリシアも。


目を凝らす。


森しか。


見えない。


「私には」


「何も……」


「いや」


エリックは。


窓の外を見る。


木々の並びが。


ほんの少し。


歪んで見える。


「空気が」


「少しだけ変だ」


リシェルが。


前方を見る。


そして。


小さく頷いた。


「……そうですね」


「結界の境目です」


「ここを越えれば」


「シル・アンヴァルの結界の中です」


「……」


馬車が。


そのまま進む。


森の中へ。


一歩。


また一歩。


そして。


その場所を。


越えた瞬間。


――ピシッ。


エリックの。


球体魔方陣が。


突然。


動いた。


「……!」


球体が。


右へ。


ゆっくりと。


回り始める。


「鑑定さん?」


『解析を開始します』


「……」


球体が。


さらに。


回る。


だが。


突然。


動きが止まった。


「……?」


次の瞬間。


今度は。


左へ。


回り始める。


「おい」


エリックが。


球体を見る。


右へ。


左へ。


右へ。


左へ。


球体魔方陣が。


安定しない。


「……何してるんだ?」


『解析中です』


「いや」


「それは分かる」


球体が。


また。


右へ回る。


そして。


途中で止まる。


『……』


「…………」


エリックは。


しばらく。


球体を見つめた。


「……難しいのか?」


『はい』


「珍しいな」


エリックが。


小さく呟く。


「お前でも」


「すぐには分からないんだな」


『解析を継続します』


球体は。


また。


ゆっくりと。


回り始めた。


馬車は。


そのまま。


森の中を進んでいた。


「……」


エリックは。


窓の外を見る。


けれど。


景色は。


どこか。


おかしかった。


「なあ」


エリックが。


突然。


指を差す。


「あの実」


「食えるのか?」


「実ですか?」


エリシアが。


窓の外を見る。


「どれでしょう?」


「あれ」


エリックが。


木の枝を指差す。


赤い実が。


いくつも。


なっている。


「美味しそうですね」


ミーナが。


目を輝かせる。


「本当ですね」


ルチアも。


窓から覗き込む。


リシェルが。


少しだけ。


困った顔をする。


「あれは」


「ザルグンムの実です」


「食べられないんですか?」


エリシアが。


尋ねる。


「食べられなくはありません」


「ただ」


リシェルが。


少し苦笑する。


「とても渋いですよ」


「……」


エリックが。


実を見る。


「じゃあ、いらないな」


「ですね」


ミーナが。


残念そうに。


窓の外を見る。


「美味しそうなのに」


「見た目だけは」


リシェルが。


頷く。


馬車は。


そのまま。


森の中を進んでいく。


しばらくして。


また。


エリックが。


窓の外を見る。


「……あ」


「あれ」


先ほどと。


同じ木が。


見えた。


「またあるぞ」


「本当ですね」


エリシアが。


外を見る。


「ザルグンムの実……」


「また渋いやつだな」


エリックが。


呟く。


ミーナが。


苦笑する。


「この辺りには」


「たくさん生えているんでしょうか?」


「かもしれませんね」


ルチアも。


頷く。


馬車は。


さらに進む。


数分。


十数分。


そして。


また。


同じ岩が。


見えた。


「…………」


エリックは。


窓の外を見る。


けれど。


何も言わなかった。


さらに。


馬車は進む。


森。


木々。


岩。


同じ景色。


同じ道。


同じ木。


そして。


同じ実。


――数十分後。


「……あれ?」


エリシアが。


突然。


声を上げた。


「どうしました?」


ミーナが。


振り返る。


エリシアは。


窓の外を見ている。


「あの実って」


「先ほども見ませんでしたか?」


「……」


ルチアも。


窓の外を見る。


「あ……」


「見ましたね」


エリシアが。


さらに。


周囲を見る。


「それに」


「あの岩も……」


「…………」


馬車の中が。


静かになる。


エリシアが。


小さく呟く。


「見覚えがあります」


エリックは。


しばらく。


窓の外を見ていた。


そして。


ぽつり。


「……同じ場所だな」


『はい』


鑑定さんが。


答えた。


「やっぱりか」


エリックが。


小さく頷く。


「俺たち」


「ずっと回ってる」


エリックは。


馬車の外へ出る。


地面を見る。


「……」


そこには。


馬車が走った。


わだちが。


残っていた。


エリックは。


その跡を。


しばらく。


目で追う。


「……なるほど」


わだちは。


大きな円を。


描いていた。


「俺たち」


「この円の上を」


「ずっと走らされてるんだな」


エリシアが。


地面を見る。


「……本当ですね」


リシェルも。


静かに。


頷く。


「結界が」


「道を戻しているのでしょう」


「なら」


エリックが。


球体魔方陣を取り出す。


「この内側だ」


球体を。


円の内側へ。


近づける。


その瞬間。


「――!」


球体魔方陣が。


突然。


激しく回転し始めた。


右へ。


左へ。


今までとは。


比べものにならない速度で。


「……!」


エリシアが。


目を見開く。


「エリックさん……?」


球体の表面を。


無数の光が走る。


『解析を開始します』


『古代結界構造を確認』


『情報を取得します』


「……」


エリックは。


球体を見る。


さっきまで。


あれほど。


ゆっくりだったのに。


今は。


まるで。


何かを見つけたように。


凄まじい速度で。


回り続けている。


『学習を開始します』


「……学習?」


球体が。


さらに。


速度を上げる。


『結界構造』


『術式構成』


『空間干渉』


『情報を取得』


『学習を継続します』


エリックは。


わだちの円を見る。


そして。


球体を見る。


「……そういうことか」


「この円の内側に」


「結界の本体があるんだ」


球体魔方陣が。


しばらく。


激しく回転していた。


そして。


――ピタッ。


突然。


動きが止まった。


『解析が完了しました』


「……終わったか」


『はい』


エリックの横に。


球体魔方陣が。


静かに浮かんでいる。


『現在の解析結果では』


『馬車を含めた状態での通過はできません』


『馬を結界内へ入れることは不可能です』


「……」


エリシアが。


馬を見る。


「では」


「どうしますか?」


エリックは。


少しだけ。


考える。


「馬車はここまででいい。もう帰っていいぞ」


エリックが。

御者に告げる。


「よろしいのですか?」


「うん。ここからは歩いて行く」


エリックは。

そう言って、結界へと向き直った。


そして。


エリックが。


馬車から降りる。


「ここで入る」


「徒歩で、ですか?」


リシェルが。


尋ねる。


「うん」


エリックが。


結界の境目を見る。


その横で。


球体魔方陣が。


ふわり。


浮かんでいる。


エリックが。


一歩。


前へ進む。


――ふわっ。


身体が。


淡い光に包まれる。


「……」


何も起きない。


もう一歩。


進む。


その瞬間。


「……!」


エリシアが。


息を呑んだ。


「これは……」


エリックも。


顔を上げる。


さっきまで。


何もなかった。


その場所に。


巨大な樹が。


そびえ立っていた。


あまりにも。


大きい。


幹は。


周囲の森とは。


比べものにならない。


枝は。


遥か上空へ伸びている。


そして。


その先は。


雲海を。


突き抜けていた。


「…………」


ミーナが。


呆然と。


見上げる。


「大きい……」


ルチアも。


言葉を失う。


エリシアが。


ゆっくりと。


空を見上げる。


「これが……」


「シル・アンヴァル……」


リシェルが。


小さく。


頷く。


「はい」


「清らかなる境界です」


エリックは。


しばらく。


黙って。


巨大樹を見上げていた。


そして。


ぽつり。


「……でかいな」


「そこですか?」


エリシアが。


思わず。


振り返った。


「……入れるんですね」


エリシアが。


結界の境目を越える。


ミーナも。


ルチアも。


そして。


リシェルも。


一人ずつ。


結界の内側へ入っていった。


エリックたちは。


そのまま。


歩き始めた。


巨大樹へ。


近づいていく。


「……」


近づけば。


近づくほど。


その大きさが。


分かってくる。


根だけでも。


普通の家より。


大きい。


「すごい……」


エリシアが。


呟く。


地面から。


伸びた巨大な根が。


いくつも。


絡み合っている。


その隙間には。


小さな家が。


いくつもあった。


「……家?」


ミーナが。


目を丸くする。


「根の間に」


「人が住んでる」


ルチアも。


周囲を見る。


「本当ですね」


さらに。


歩いていく。


すると。


今度は。


頭上から。


声が聞こえた。


「――!」


エリックが。


顔を上げる。


巨木の枝から。


いくつもの。


木造の建物が。


吊り下げられていた。


「……ツリーハウス?」


エリックが。


呟く。


建物と建物の間には。


細い橋が。


架けられている。


エルフたちが。


その上を。


普通に歩いていた。


「人がいる」


エリシアが。


小さく。


声を上げる。


「エルフですね」


リシェルが。


頷く。


「はい」


さらに。


奥へ進む。


根の間。


枝の上。


巨木の幹に沿って。


いくつもの。


生活の場所が。


広がっていた。


店らしき建物もある。


小さな広場もある。


子供たちが。


走っている。


「……」


エリックは。


しばらく。


周囲を見ていた。


「町みたいだな」


「そうですね」


エリシアが。


頷く。


「これが」


「シル・アンヴァルなんですね」


リシェルは。


少しだけ。


懐かしそうに。


辺りを見渡していた。


「……変わっていませんね」


「リシェル」


エリックが。


振り返る。


「知ってるんだな」


「はい」


リシェルが。


小さく。


笑った。


「私の故郷ですから」


今回は。

古代の結界を越え、エルフの郷へたどり着くお話でした。


同じ景色を繰り返す道。

エリックが見つけた、わだちの謎。


そして。

結界の向こうに広がる、巨大樹とエルフたちの暮らし。


ようやくたどり着いたシル・アンヴァル。

リシェルにとっても、特別な場所のようです。


ここから、どんな出会いが待っているのでしょうか。


次回も楽しんでいただければ嬉しいです。


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