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第五十九話(前編):一コマずつ繋ぐ結界

森の奥で遭遇した、謎の魔族。


そして。

千年以上の時を生きる老人。


魔境を巡る謎は、

少しずつ深まっていく。


今回も楽しんでいただければ嬉しいです。

魔族の身体が。


一瞬。


大きく。


跳ねる。


だが。


次の瞬間。


地面へ。


引きずり込まれた。


「グ……」


「ガ……」


魔族の声が。


遠ざかる。


そして。


最後に。


腕が。


土の中へ。


消えた。


――ズン。


大地が。


静かになる。


「……」


誰も。


動かなかった。


その時。


――バキッ!


地面に。


亀裂が走った。


「――!」


エリックが。


顔を上げる。


次の瞬間。


――ドォンッ!


土が。


大きく弾け飛ぶ。


魔族が。


地面から。


飛び出した。


「……っ!」


エリシアが。


息を呑む。


魔族は。


身体についた土を。


払い落とす。


「……なかなか」


魔族が。


笑った。


「面白い術を使うではないか」


リシェルが。


さらに。


一歩。


踏み込む。


エリックの魔法陣が。


その歩幅に合わせて。


足元を。


次々と移動する。


「――!」


リシェルが。


剣を。


大きく振りかぶる。


そして。


「――はぁっ!」


渾身の一振り。


剣が。


魔族へ。


振り下ろされる。


だが。


「……!」


魔族が。


身体を。


わずかに。


横へずらした。


――ブォンッ!


剣が。


魔族の身体を。


紙一重で。


かすめていく。


「……!」


リシェルが。


目を見開く。


魔族は。


そのまま。


一歩。


後ろへ下がった。


「避けた……」


エリシアが。


思わず呟く。


エリックは。


魔族を見る。


「……速いな」


魔族は。


リシェルを。


じっと見つめていた。


そして。


口元を。


わずかに。


歪める。


「……面白い」


魔族が。


ニヤリと笑う。


「実に面白いぞ」


「お前たち」


リシェルが。


剣を構え直す。


「……余裕ですね」


「そうだな」


エリックが。


魔族を見る。


その時。


エリシアは。


最後の一章を。


唱え始めた。


「――天を満たす光よ」


「大地を照らす陽の輝きよ」


魔族が。


エリシアを見る。


「……ほう」


「遥かなる空より」


「この身に集え」


周囲の空気が。


変わる。


森の木々の隙間から。


光が。


差し込んでくる。


「……」


魔族の笑みが。


少しだけ。


深くなる。


「面白い」


エリシアの詠唱が。


続く。


「その輝きで」


「闇を穿て」


「逃げ場を奪い」


「その身を照らし尽くせ!」


「――《. 《アルス・ソラリス》!」天照光華・白日葬


――ドンッ!


空から。


大量の光が。


降り注ぐ。


森全体が。


昼間よりも。


眩しく輝いた。


「――!」


魔族が。


周囲を見る。


光が。


逃げ道を。


次々と。


塞いでいく。


「……なるほど」


魔族が。


笑う。


「逃げ道を奪うか」


その瞬間。


魔族の身体が。


ズブッ。


土の中へ。


沈んだ。


「――!」


リシェルが。


目を見開く。


「土の中へ……!」


光が。


地面を。


激しく照らす。


だが。


魔族の姿は。


もう見えない。


エリックが。


地面を見る。


「……そう来たか」


老人が。


叫ぶ。


「逃がすな!」


「分かってる!」


エリックが。


さらに。


魔法陣を。


重ねる。


一枚。


二枚。


三枚。


古代の封印術式に。


エリックの魔法陣が。


重なっていく。


「――まだ!」


エリックが。


杖を。


地面へ突き立てる。


「ここ!」


魔族の身体が。


一瞬。


大きく。


跳ねる。


だが。


次の瞬間。


地面へ。


引きずり込まれた。


「グ……」


「ガ……」


魔族の声が。


遠ざかる。


そして。


最後に。


腕が。


土の中へ。


消えた。


――ズン。


大地が。


静かになる。


「……」


誰も。


動かなかった。


老人が。


ゆっくりと。


息を吐く。


「……封じた」


エリックは。


魔法陣を。


見つめる。


「うん」


だが。


すぐに。


顔を上げた。


森を見る。


「……まだ」


エリシアが。


尋ねる。


「まだ……何が?」


エリックは。


森を。


ぐるりと。


見渡す。


「封印だけじゃ」


「また出てくる」


老人が。


頷く。


「そうじゃ」


エリックが。


杖を。


構える。


「じゃあ」


「この森を」


「全部、囲う」


老人が。


目を細める。


「……結界じゃな」


「うん」


エリックは。


森を見ながら。


小さく。


呟いた。


「この村から」


「タチキリまで」


エリックは。


森を。


見渡す。


「……広い」


エリシアが。


隣で。


森を見る。


「この森全部に?」


「うん」


エリックは。


地面を見る。


そして。


もう一度。


森を見る。


「……」


少し。


考える。


「普通に囲ったら」


「歪む」


老人が。


頷く。


「そうじゃ」


「だから」


「初代勇者様も」


「いくつもの結界を」


「繋いだ」


エリックが。


頷く。


「なら」


「俺もそうする」


エリックが。


杖を。


振る。


――シュッ。


地面に。


一本の線が。


走る。


さらに。


一本。


村の周囲を。


線が。


囲んでいく。


「ここを」


「一コマ目」


老人が。


首を傾げる。


「……一コマ?」


エリックは。


気にせず。


次の線を。


描く。


「ここから」


「次のコマ」


森の奥へ。


魔法陣が。


一つ。


また一つ。


現れる。


それぞれが。


独立しながら。


隣の魔法陣と。


繋がっていく。


「……」


老人の顔から。


表情が。


消えた。


「待て」


エリックが。


手を止める。


「なに?」


老人が。


地面を。


凝視する。


「その術式……」


老人が。


震える声で。


呟く。


「お主」


「今、何をした?」


「繋げただけ」


「……繋げた?」


老人が。


ゆっくりと。


魔法陣へ。


近づく。


「そんなことが……」


「できるはずが……」


老人が。


言葉を。


失う。


千年以上。


生きてきた。


老人でさえ。


見たことがない。


初代勇者が。


何日もかけて。


刻んだ封印を。


目の前の少年は。


まるで。


漫画のコマを。


並べるように。


組み替えている。


「……まさか」


老人が。


顔を上げる。


「これなら……」


「森全体を」


「一つの術式として」


「組める……?」


エリックが。


頷く。


「うん」


老人は。


しばらく。


エリックを。


見つめていた。


そして。


小さく。


笑う。


「……初代勇者様でも」


「そこまでは」


「考えなかったぞ」


エリックが。


首を傾げる。


「そうなの?」


老人は。


笑った。


「そうじゃ」


「だからこそ……」


老人が。


杖を。


地面へ。


突き立てる。


「儂も」


「力を貸そう」


古い文字が。


地面に。


浮かび上がる。


エリックの魔法陣と。


老人の術式が。


重なっていく。


「……これ」


エリックが。


目を細める。


「使える」


老人が。


笑う。


「ならば」


「一緒にやるぞ」


エリックは。


森を見る。


「うん」


二人の足元から。


光が。


広がっていく。


村を。


森を。


山を。


包み込むように。


巨大な結界が。


形を作り始めた。


「……っ」


老人が。


息を呑む。


結界の光が。


森の境界を。


正確になぞっていく。


一本。


また一本。


魔法陣同士が。


繋がっていく。


「これは……」


老人が。


周囲を見渡す。


「儂の術式が」


「こんなにも……」


エリックが。


魔法陣を。


見つめる。


「まだ」


「足りない」


「何じゃと?」


「ここ」


エリックが。


森の外れを。


指差す。


「隙間がある」


老人が。


目を凝らす。


「……」


確かに。


僅かな。


空白がある。


「よく見つけたのう……」


老人が。


呟く。


エリックは。


そこへ。


一本の線を。


引く。


――シュッ。


空白が。


埋まった。


その瞬間。


森全体が。


大きく。


光った。


「――!」


風が。


吹き抜ける。


木々が。


一斉に。


揺れる。


そして。


光の壁が。


森を。


ぐるりと。


取り囲んだ。


「……完成」


エリックが。


杖を。


下ろす。


老人は。


しばらく。


何も言わなかった。


ただ。


結界を。


見つめている。


「……初代勇者様が」


「何日もかけて築いた封印を」


老人が。


静かに。


呟く。


「お主は……」


エリックが。


振り返る。


「?」


「いや」


老人は。


小さく。


笑った。


「何でもない」


そして。


森の奥を見る。


「これなら」


「しばらくは」


「奴も出てこられまい」


エリックが。


頷く。


「うん」


その時。


エリシアが。


ぽつりと。


呟いた。


「……エリック」


「何?」


「あなた……」


少し。


言葉を。


探す。


「本当に」


「勇者になるつもりは」


「ないんですよね?」


エリックは。


少しだけ。


考える。


「ない」


即答だった。


「俺は」


「スローライフがしたい」


エリシアは。


思わず。


苦笑した。


老人は。


もう一度。


森を。


ゆっくりと。


見渡す。


光の結界が。


木々の向こうまで。


続いている。


「……」


森には。


もう。


魔族の姿はない。


静かな風だけが。


木々の間を。


通り抜けていく。


エリックは。


杖を。


下ろした。


老人は。


森を。


ゆっくりと。


見渡す。


「……これなら」


「しばらくは。


大丈夫じゃろう」


エリックも。


結界を。


見つめる。


「うん」


老人は。


しばらく。


黙っていた。


そして。


森へ。


目を向ける。


「ワシは」


「ここの番人を務める」


エリックが。


老人を見る。


「番人?」


「そうじゃ」


老人が。


頷く。


「長い間」


「この森を見てきた」


エリックは。


老人の左手を見る。


薬指が。


ない。


「……じゃあ」


「なんで」


「薬指を?」


老人は。


しばらく。


自分の左手を。


見つめる。


「……それは」


老人が。


静かに。


息を吐いた。


「昔の話じゃ」


「勇者御一行の中に」


「若いエルフの娘がおった」


「その娘が」


「魔王の種の薬指を」


「切り落としたそうじゃ」


「……」


エリック。


エリシア。


ミーナ。


ルチア。


四人が。


一斉に。


リシェルを見る。


「……?」


リシェルが。


首を傾げる。


老人は。


四人の視線に。


気づいていない。


「その勇者が」


「初代勇者だったのかは」


「ワシにも分からん」


「ただ」


老人が。


自分の左手を見る。


「それ以来」


「奴は」


「出会うエルフの薬指を」


「狙うようになった」


エリシアが。


ゆっくりと。


リシェルを見る。


「……リシェル」


「はい?」


「昔」


「勇者様たちと」


「旅をしたことは?」


リシェルは。


少し。


考える。


「……ありますよ」


四人が。


もう一度。


リシェルを見る。


「…………」


リシェルが。


困ったように。


笑う。


「そんなに見ないでください」


その後。


エリックたちは。


村へ戻った。


そこには。


亡くなったエルフたちが。


まだ残されていた。


「……」


エリシアが。


静かに。


手を合わせる。


ミーナも。


ルチアも。


リシェルも。


同じように。


エリックは。


しばらく黙っていた。


そして。


村人たちを。


一人ずつ。


土へ還していった。


「……」


誰も。


何も言わなかった。


最後に。


エリックが。


小さく。


頭を下げる。


千年以上この森を見てきたと言う老人が、最後に村人を弔う。


エリックは。


しばらく。


その場に。


立っていた。


「……」


そして。


ふと。


空を見上げる。


「……鑑定さん」


『はい』


「俺を魔境に送ったのって」


『…………』


「たまたまじゃないよな?」


『…………』


「なぁ」


「レイナが」


「エルフの魔法陣の前に」


「落ちるようにしたのも」


「お前だろ?」


鑑定さんは。


何も言わない。


「……」


エリックは。


空を見上げる。


「俺が」


「ここに来る必要が」


「最初からあった?」


『…………』


「……そういうことか」


鑑定さんは。


答えない。


けれど。


その沈黙が。


答えのように。


思えた。


エリックは。


しばらく。


黙っていた。


「……ポンコツ女神」


『…………』


「何考えてるんだよ」


しばらくして。


『申し訳ありません』


『現在、エルフの郷の結界を解析中のため』


『それ以外の情報を遮断していました』


「…………」


エリックは。


しばらく。


黙る。


「嘘だろ」


今回は。

エリックが森全体を囲う結界を作るお話でした。


初代勇者が築いた封印。

そして。

エリックならではの魔法陣の発想。


さらに。

老人が語った過去と、リシェルの意外な一面。


少しずつ。

魔王の種を巡る謎も深まってきました。


そして。

ポンコツ女神様は、いったい何を考えているのでしょうか……。


次回も楽しんでいただければ嬉しいです。


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