第五十八話(後編):老人が語る魔王現象
エルフの老人が語る、魔王現象の過去。
そして。
エリックたちの前に現れた魔族。
老人の話を聞いた彼らは。
何を知り、何と対峙するのか。
今回も楽しんでいただければ嬉しいです。
この村の惨劇。
すべてが。
一本の線で。
繋がり始めていた。
「まだ……」
「まだ魔王にはなっておらん……」
「じゃが……」
「このままでは……」
老人の声が。
震える。
エリックは。
老人を見る。
そして。
周囲を見渡す。
村には。
死体しかない。
「……なあ」
「何じゃ?」
「何故、お前だけ生きてる?」
老人は。
しばらく。
黙っていた。
やがて。
自分の胸元に。
手を当てる。
「……加護じゃ」
「加護?」
「ああ」
老人は。
小さく。
頷いた。
「儂には。
魔族に殺されぬ加護がある」
「……」
エリックは。
老人の顔を見る。
「魔族に?」
「そうじゃ」
「千年以上?」
「うむ」
老人は。
苦笑する。
「おかげで。
長生きしすぎてしもうた」
「……」
「じゃがな」
老人は。
死体へ。
視線を向ける。
「殺されぬだけじゃ」
「……?」
「何もされぬわけではない」
老人は。
左手を。
ゆっくりと持ち上げる。
薬指は。
ない。
「……こんなことは。
初めてじゃった」
エリックは。
その左手を見る。
「つまり……」
「魔族は。
儂を殺せなかった」
「でも」
「指は。
持っていかれた」
老人は。
静かに。
頷いた。
「そうじゃ」
「……」
エリシアが。
ゆっくりと。
口を開く。
「一つ……」
ミーナが。
森へ視線を向ける。
ルチアも。
杖を握ったまま。
周囲を警戒している。
「よろしいでしょうか?」
「……何じゃ?」
老人が。
エリシアを見る。
「私は……」
エリシアが。
老人を見つめる。
「以前から。
魔王現象について。
独自に調べています」
老人の表情が。
僅かに。
変わった。
ミーナの耳が。
ぴくりと動く。
「ドワーフ王国へ行き……」
「ガルフィ様に。
お会いして……」
エリシアは。
一度。
言葉を切った。
「一つ。
気になり始めたことがあります」
老人は。
何も言わない。
エリシアの言葉を。
待っている。
「魔王現象は……」
エリシアの声が。
静かに響く。
「本当に。
災害の元なのでしょうか?」
「……」
空気が。
止まった。
老人は。
しばらく。
エリシアを見つめていた。
やがて。
「……そのことか」
低い声だった。
エリシアが。
僅かに目を細める。
「何か、ご存じなのですか?」
老人は。
答えない。
ただ。
ゆっくりと。
死体の並ぶ村を見渡す。
「……話してやる」
老人が。
呟く。
「本当の魔王現象についてな」
「……!」
ミーナが。
森の奥へ。
視線を向ける。
ルチアも。
周囲を警戒する。
「ただし――」
老人が。
エリシアを見る。
その顔には。
これまでにない。
深い疲れがあった。
「話を聞いたら……」
「ここを離れると。
約束しろ」
「……」
エリシアは。
老人を見つめる。
そして。
静かに。
頷いた。
「わかりました」
「約束しましょう」
しばらく。
何も言わなかった。
やがて。
小さく。
息を吐く。
「……違う」
「え?」
「魔王現象は。
災害そのものではない」
エリシアの目が。
大きく開く。
「では……」
老人は。
森を見る。
その目には。
長い年月を。
生きてきた者だけが持つ。
深い疲れがあった。
「昔……」
「この世界には。
魔族がおった」
「……!」
エリシアが。
息を呑む。
「人間は。
魔族を恐れた」
「そして……」
老人は。
ゆっくりと。
言葉を続ける。
「魔族を封じるための。
毒を作った」
「毒……?」
「ああ」
「それは。
魔族を封じるためだけに。
作られたものじゃった」
老人の声が。
僅かに。
震える。
「じゃが……」
「その毒を使った結果――」
老人が。
村を見渡す。
死体。
壊れた家。
血の跡。
「……大規模な災害が起きた」
「……」
「大地が。
壊れ」
「多くの命が。
失われた」
「その災害は。
後の時代になって……」
老人は。
一度。
目を閉じる。
「魔王現象と。
呼ばれるようになった」
「……」
エリシアは。
言葉を失っていた。
「では……」
ようやく。
声を絞り出す。
「魔王現象は……」
老人が。
頷く。
「魔族ではない」
「魔王でもない」
「魔族を封じようとして。
人間が使ったものによって起きた――」
「災害じゃ」
「……」
エリシアは。
呆然と。
老人を見る。
そのとき。
森の奥で。
――ガサッ。
ミーナが。
振り返る。
「……!」
ルチアも。
杖を構える。
だが。
老人は。
動かなかった。
ただ。
静かに。
エリシアを見ている。
「これが……」
「本当の魔王現象じゃ」
エリシアは。
しばらく。
何も言えなかった。
やがて。
ゆっくりと。
顔を上げる。
「……では」
「私たちは……」
声が。
僅かに震える。
「とんでもない過ちを。
犯すところでした」
老人が。
静かに。
頷く。
「そうじゃ」
「……」
エリシアは。
胸元で。
手を握る。
「私たちは。
魔王現象を封じるために……」
「魔境の。
六十階層にある扉を。
開こうとしていました」
老人の表情が。
変わった。
「……六十階層?」
「はい」
その言葉を聞いた瞬間。
老人は。
初めて。
驚いた顔をした。
「……そうか」
「まだ……」
老人が。
小さく。
呟く。
「まだ。
あの扉を開こうとしておるのか……」
エリシアが。
息を呑む。
「ご存じなのですか?」
老人は。
答えない。
ただ。
死体の並ぶ村を。
見渡した。
「……ならば」
「なおさら。
ここに長居してはならん」
「なぜです?」
老人は。
エリシアを見る。
「その扉は――」
そこで。
言葉を止める。
「……いや」
「それ以上は。
今は話せぬ」
ミーナが。
森へ視線を戻す。
「エリシア様」
「……ええ」
ルチアも。
周囲を警戒する。
老人は。
そんな二人を見ながら。
静かに。
目を伏せた。
「お主らは……」
「知らぬまま。
同じことを繰り返そうとしておる」
「……」
エリシアの顔から。
血の気が引いた。
その時。
「――!」
ルチアが。
突然。
森の方を指差した。
「います!」
「森の中です!」
ミーナも。
鼻を。
ひくつかせる。
「……来ます」
そして。
杖型の暗器を。
強く握る。
「万死に値します」
エリックが。
森を見る。
「……来たか」
木々の間。
何かが。
こちらへ近づいてくる。
エリックは。
静かに。
Gペン型の杖を構えた。
「みんな」
「気をつけて」
一拍。
「相手は魔物じゃない」
「魔族だ」
「油断するな」
エリックが。
杖を。
空へ向ける。
――シュッ。
一本。
また一本。
空中に。
魔法陣が現れる。
さらに。
二枚。
三枚。
十枚。
数十枚。
防壁魔法陣が。
四方八方へ。
次々と展開されていく。
「エリシア」
「はい!」
「詠唱を頼む」
「分かりました!」
エリシアが。
杖を構える。
そして。
詠唱を始める。
「リシェル」
「はい」
「剣を頼む」
リシェルが。
静かに。
剣を握り直す。
「分かりました」
エリックは。
もう一度。
森を見る。
「エリシア」
「はい?」
「演出魔法の準備も頼む」
「……演出魔法?」
エリシアが。
少し驚く。
「うん」
エリックは。
森から目を離さない。
「相手がどんな奴か」
「まずは見極める」
その瞬間。
森の奥で。
何かが。
動いた。
「――来る!」
魔族が。
森の中から。
姿を現した。
「……!」
エリックの前に。
展開された。
魔法防壁。
一枚。
また一枚。
魔族の爪が。
防壁を。
切り裂いていく。
バキッ。
バキッ。
「……!」
次の瞬間。
魔族の姿が。
消えた。
「ルチア!」
ミーナが。
叫ぶ。
「――!」
ルチアが。
目を見開く。
気づいた時には。
魔族が。
目の前にいた。
「速い……!」
ルチアが。
咄嗟に。
後ろへ飛び退く。
魔族の爪が。
迫る。
その瞬間。
エリックが。
杖を振る。
「――そこ」
魔族の足元。
地面に。
魔法陣が。
広がる。
「――《深淵沼》」
魔法陣が。
一斉に。
光った。
すると。
魔法陣の内側だけ。
地面が。
ぐにゃりと。
柔らかくなる。
「……!」
魔族の足が。
ずぶっ。
地面へ沈んだ。
「……!」
抜こうとする。
だが。
足を動かすほど。
地面が。
さらに沈む。
ずぶっ。
ずぶっ。
魔族の両足が。
膝下まで。
沈んでいく。
「動けば動くほど」
エリックが。
静かに。
杖を向ける。
「沈む」
魔族が。
足を引き抜こうと。
力を込める。
だが。
その力さえ。
沼が。
吸い込んでいく。
「……!」
エリックは。
魔族を見る。
「これなら」
「少しは時間を稼げる」
エルフの老人が語る、魔王現象の過去。
そして。
エリックたちの前に現れた魔族。
老人の話を聞いた彼らは。
何を知り、何と対峙するのか。
今回も楽しんでいただければ嬉しいです。




