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第五十七(後編) : 離れていても

新しい暮らしが始まったレイナ。


けれど。


彼女の心には。

まだ。

大切な人たちへの思いが残っていました。


一方。


エリックたちも。

レイナを探すために動き出します。


果たして。

手掛かりは見つかるのでしょうか。


今回も楽しんでいただければ嬉しいです。

拭うこともできなかった。


ただ。


静かに。


涙だけが。


頬を伝っていた。


「レイナさん……」


ミッシュルが。


心配そうに。


声をかける。


けれど。


私は。


何も答えられなかった。


その時。


「……」


フィリア様が。


私の前に。


ゆっくりと。


しゃがむ。


そして。


何も言わず。


私の肩に。


手を添えた。


「…………」


その温かさに。


触れた瞬間。


張り詰めていたものが。


切れた。


「……っ」


私は。


フィリア様の胸元に。


顔を伏せた。


「…………」


声を。


出すこともできない。


ただ。


涙だけが。


次々と。


溢れてくる。


フィリア様は。


何も言わなかった。


ただ。


私を。


静かに。


抱きしめてくれた。


ミッシュルも。


何も言わず。


そばにいる。


しばらく。


そうしていた。


やがて。


涙が。


少しずつ。


止まっていく。


私は。


ゆっくりと。


顔を上げた。


「…………」


フィリア様を見る。


そして。


頬に残った涙を。


今度は。


自分の手で。


拭った。


「……私を」


声は。


まだ少し。


震えていた。


「見つけてくださり」


「ありがとうございました」


フィリア様は。


静かに。


私を見る。


「……もう」


私は。


一度。


深く息を吸う。


「大丈夫です」


フィリア様は。


しばらく。


何も言わなかった。


そして。


小さく。


頷いた。


私は。


ミッシュルと。


長い廊下を歩いていた。


「こちらが」


「西ノ宮です」


ミッシュルが。


歩きながら。


説明してくれる。


「西ノ宮?」


「はい」


「女性の王族や」


「その側に仕える者たちは」


「こちらで暮らします」


私は。


廊下を見る。


長い廊下が。


いくつにも。


分かれている。


「……」


まるで。


碁盤の目のように。


廊下が。


整然と。


配置されていた。


「中央には」


「東西をつなぐ」


「大きな通路があります」


ミッシュルが。


中央の通路を。


指差す。


「東側が」


「東ノ宮です」


「男性の王族や」


「その側に仕える者たちが暮らしています」


「なるほど」


私は。


頷く。


廊下を。


行き交う人々を見る。


その中には。


赤いローブを。


身につけた者もいた。


「赤いローブは?」


私が。


尋ねる。


「王族です」


ミッシュルが。


答える。


「王族は」


「赤いローブを身につけます」


「では」


私は。


別の人物を見る。


白いローブ。


その縁には。


細かな刺繍が施されている。


「あれは?」


「王族の護衛です」


「白いローブに」


「専用の刺繍が入っています」


「……」


私は。


周囲を見る。


ローブを見るだけで。


その人が。


何者なのか。


分かるようになっている。


「分かりやすいですね」


「はい」


ミッシュルが。


小さく笑う。


「この最上層では」


「身につけているローブで」


「立場や役目が分かるようになっています」


私は。


もう一度。


廊下を見る。


「北側には」


ミッシュルが。


続ける。


「食堂や浴場があります」


「南側には」


「書庫や資料室などが」


「まとめられています」


「生活に必要な場所と」


「仕事に必要な場所が」


「分けられているんですね」


「そうですね」


しばらく。


歩く。


やがて。


ミッシュルが。


一つの扉の前で。


足を止めた。


「こちらです」


「……ここ?」


「はい」


私は。


扉を見る。


その先は。


フィオネ姫の部屋から。


そう遠くない。


「レイナさんのお部屋です」


「…………」


私は。


少しだけ。


驚いた。


「姫様の部屋に」


「近いですね」


「はい」


ミッシュルが。


頷く。


「護衛ですから」


「すぐに駆けつけられる場所に」


「用意されたのでしょう」


私は。


扉を見る。


「…………」


これから。


ここで。


暮らす。


その事実を。


改めて。


実感した。


「今日から……」


私は。


小さく。


その言葉を繰り返した。


新しいローブ。


新しい部屋。


新しい役目。


「…………」


私は。


窓の外を見る。


雲海が。


静かに。


広がっていた。


その時。


ふと。


エリックの顔が。


頭に浮かんだ。


「……」


もし。


エリックなら。


どうするだろう。


こんな場所でも。


あいつなら。


きっと。


「背景がどうの」


「四コマ目がどうの」


そんなことを。


真顔で言い出す。


「…………」


私は。


少しだけ。


笑った。


あいつのことだ。


きっと。


この部屋に来ても。


何も変わらない。


魔法陣を描いて。


ミッシュルを驚かせて。


気がつけば。


ミッシュルまで。


あいつのことを。


気に入ってしまうのだろう。


「……本当に」


私は。


小さく。


息を吐く。


「どこにいても」


「変わらない人ですね」


ミッシュルが。


不思議そうに。


私を見る。


「どうしました?」


「いえ」


私は。


首を横に振る。


「何でもありません」


けれど。


胸の奥には。


少しだけ。


温かいものが残っていた。


「……私も」


その言葉が。


自然に。


口からこぼれる。


「私も……」


その先は。


言葉にしなかった。


――その頃。


エリックたちは。


一台の馬車に乗り。


エルフの郷を。


目指していた。


馬車の中には。


エリック。


エリシア。


リシェル。


ミーナ。


ルチア。


五人が。


乗っている。


「…………」


エリックは。


窓の外を。


眺めていた。


向かいには。


エリシア。


その隣に。


リシェル。


ミーナと。


ルチアは。


少し離れた席に。


座っている。


「エルフの郷……」


エリシアが。


小さく呟く。


「どんな場所なんでしょう?」


「綺麗なところですよ」


リシェルが。


答える。


「雲海の上に」


「大きな木があって」


「その上に街が広がっています」


「……雲海の上?」


エリシアが。


目を輝かせる。


「はい」


「エルフの郷は」


「シル・アンヴァルと呼ばれています」


「へえ……」


エリシアが。


窓を開けて。


外を見る。


馬車の窓から。


冷たい風が。


入ってくる。


「……寒くなりましたね」


エリシアが。


窓を閉める。


その隣で。


エリックは。


黙って。


前を見ていた。


「…………」


まだ。


レイナが。


どこにいるのか。


分からない。


けれど。


エリックは。


必ず。


見つけるつもりだった。


――少し前。


エリシアが。


白銀の塔での報告を終えた。


その翌日。


エリックと。


谷底へ来ていた。


レイナが。


落ちたはずの場所。


そこには。


昨日。


リシェルたちと共に見つけた。


古い魔法陣が残されていた。


「これに乗っていけば」


エリシアが。


魔法陣を見る。


「多分、レイナがいるんだと思います」


「一度、試した」


エリックが。


魔法陣を見る。


「でも」


「弾かれた」


「そうですか」


エリシアが。


少し考える。


「だとすると」


「何かの縛りがあるのかもしれませんね」


「まずは」


エリシアが。


魔法陣を見つめる。


「解析が先ですね」


「解析用の補助魔法陣を描きます」


「エリックさんは」


「球体魔法陣で解析をお願いできますか?」


「分かった」


エリックが。


Gペン型の杖を構える。


「タイミングを教えてくれ」


「はい」


エリシアが。


魔法陣へ。


杖を向ける。


「では」


「描きますね」


エリシアが。


最後の線を。


空中へ描く。


――カチッ。


魔法陣が。


完成した。


「今です」


「うん」


エリックが。


Gペン型の杖を。


魔法陣へ向ける。


「鑑定さん」


『はい』


球体魔方陣が。


エリックの前に。


浮かび上がる。


その瞬間。


――バチッ。


地面の魔法陣から。


光が走った。


「……!」


エリシアが。


目を見開く。


――バチバチッ。


空中の補助魔法陣と。


地面の魔法陣。


そして。


球体魔方陣が。


互いに。


光を交わし始める。


「共鳴してる……」


エリシアが。


呟く。


「うん」


エリックは。


球体魔方陣を見る。


球体の中で。


古代の魔法陣が。


ゆっくりと。


回転していた。


『解析を開始します』


――ギュイィィィィン。


球体の回転が。


一気に速くなる。


「……!」


エリシアが。


魔法陣から。


目を離さない。


本物の魔法陣から。


次々と。


光の線が。


球体へ吸い込まれていく。


「どうですか?」


「まだ」


エリックは。


球体を見つめる。


「解析中」


――バチッ。


――バチバチッ。


突然。


魔法陣の一部が。


強く輝いた。


『転移魔法陣の構造を確認』


「……!」


エリシアが。


息を呑む。


『転移先への接続を確認』


「じゃあ……」


エリシアが。


魔法陣を見る。


「やっぱり」


「レイナがいるんでしょうか?」


「分からない」


エリックが。


答える。


「でも」


「何かに繋がってる」


『転移魔法陣に制限が設定されています』


「制限?」


『はい』


エリックが。


少し考える。


「解除できる?」


『解除を試みますか?』


「……」


エリックは。


魔法陣を見る。


「頼む」


――ギュイィィィィン。


球体魔方陣が。


さらに激しく。


回転を始めた。


空中の補助魔法陣が。


大きく揺れる。


「エリックさん!」


「大丈夫」


エリックは。


杖を握る。


――ギュイィィィィン。


そして。


突然。


球体魔方陣が。


止まった。


『解除を中断します』


「……」


『解析に必要な情報が不足しています』


エリックは。


少し黙る。


「……そうか」


エリシアが。


尋ねる。


「解除できなかったんですね」


「うん」


エリックが。


頷く。


「この魔法陣だけじゃ」


「無理みたいだ」


エリシアは。


地面の魔法陣を見る。


「では」


「別の方法を探すしかありませんね」


「そうだな」


その時。


球体魔方陣が。


再び。


淡く輝いた。


『北東』


『約七百五十キロ先』


『同じ系統の結界を検知しました』


「……結界?」


エリシアが。


反応する。


「はい」


エリックが。


北東を見る。


「何の結界かは?」


『現在の情報では特定できません』


「……」


エリシアが。


静かに。


魔法陣を見る。


「もしかすると」


「この転移魔法陣と関係があるのかもしれませんね」


「うん」


エリックが。


頷く。


「調べに行くしかないな」


その先に。


何があるのか。


まだ。


二人には分からなかった

今回は。


新しい部屋で暮らし始めたレイナと。

レイナを探すエリックたちのお話でした。


エリックを思い出し。

少しだけ笑うレイナ。


その一方で。


エリックたちは。

転移魔法陣の解析に挑みます。


しかし。


制限を解除するには。

まだ情報が足りませんでした。


そんな中。

新たな手掛かりが見つかります。


北東。

約七百五十キロ先。


そこにある結界は。

転移魔法陣と関係しているのでしょうか。


次回も楽しんでいただければ嬉しいです。


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