第五十六話(後編) : 姫様が告げる未来
レイナを救ったのは。
エルフの郷の人々でした。
そして。
彼女の前に現れた。
フィオネ姫。
姫様が。
レイナに伝えようとしていることとは……。
今回も楽しんでいただければ嬉しいです。
部屋に戻る。
「どうでしたか?」
ミッシュルが。
レイナを見る。
「少し歩きましたが」
「痛いところはありませんか?」
「はい」
私は。
身体を確かめる。
「どこも問題ないようです」
「良かったですね」
ミッシュルが。
にっこりと微笑む。
「それなら」
「そろそろお召し物も」
「お着替えして大丈夫ですね」
「はい」
ミッシュルが。
着替えを手伝う。
そして。
身体を丁寧に拭きながら。
傷の具合を確認していく。
「……」
「かなり良くなっていますね」
ミッシュルが。
にっこりと笑う。
「こちらをどうぞ」
紫色のローブを。
手に取る。
「レイナさんは身長が大きいので」
「サイズが合うと良いのですが……」
着替え終わる。
「……」
ミッシュルが。
少し離れて見る。
「ぴったりですね」
「ありがとうございます」
「そういえば」
ミッシュルが。
ふと。
レイナを見る。
「少し頭が混乱していたように見えましたが」
「大丈夫ですか?」
「はい」
私は。
少し考える。
「ここに来た時の記憶がないのです」
「教えていただけますか?」
「はい」
ミッシュルが。
頷く。
「喜んで」
「今朝」
「私達が、散歩に出かける前に」
「窓の外を見ながら」
「あの方が」
「今日は天候が穏やかですよ」
「少し歩いてみるといいでしょう」
そう言っていたことを。
ミッシュルが話してくれる。
「覚えています?」
「優しそうな方でしたね」
「はい」
ミッシュルが。
頷く。
「実は」
「あの方は」
「私の上司なんです」
「……上司?」
「はい」
「そして」
「リシェル様とは、古くからのご友人なんですよ」
「……リシェル様と?」
「はい」
ミッシュルが。
微笑む。
「昔からのお付き合いだそうです」
「……」
私は。
少し考える。
「では」
「私がここでお世話になっているのも……」
「はい」
「上司からの指示です」
「レイナさんが困らないように、と」
「そうだったのですね」
「それと」
ミッシュルが。
少しだけ。
表情を変える。
「レイナさんが倒れた時」
「あの方が最初に気付いたんですよ」
「……」
私は。
ミッシュルを見る。
「私を?」
「はい」
「あの方が見つけてくださったんです」
「……」
私は。
少し考える。
「あの方の」
「お名前は、なんと?」
「フィリア様です」
ミッシュルが。
答える。
「フィリア様……」
私は。
その名前を。
小さく繰り返した。
「……お礼を」
「お礼?」
ミッシュルが。
首を傾げる。
「はい」
私は。
立ち上がろうとする。
「せめて」
「ありがとうございました、と」
「直接お伝えしたいです」
「レイナ様」
立ち上がった瞬間。
お腹の辺りに。
少し痛みが走った。
「……っ」
「大丈夫ですか?」
「はい」
私は。
痛む場所へ。
そっと手を当てる。
「ですが」
ミッシュルが。
優しく微笑む。
「今すぐでなくても」
「大丈夫ですよ」
「フィリア様には」
「また、お会いできますから」
「……そうですか」
私は。
もう一度。
椅子に腰を下ろす。
「その時に」
「お礼を言えばいいと思います」
「はい」
ミッシュルが。
頷く。
「倒れているレイナ様を見つけたんです」
「その時に」
「お守りを握っていることに気づいたそうです」
「……」
私は。
お守りを見る。
「そして」
ミッシュルが。
続ける。
「近いうちに」
「姫様とのお目通しがあると思いますよ」
「……お目通し」
私は。
その言葉を。
繰り返した。
「はい」
「姫様から」
「レイナさんに、お話があると思います」
「……私に?」
「はい」
――数日後。
薬師館の。
私の部屋に。
姫様が。
訪ねてこられた。
赤いローブには。
草花や小さな鳥の刺繍が。
丁寧に施されている。
華やかな装いなのに。
どこか素朴で。
姫様の柔らかな雰囲気に。
よく似合っていた。
「レイナさん」
姫様が。
私を見る。
「お体の調子は、どうですか?」
「大分良くなりました」
私は。
頭を下げる。
「ありがとうございました」
「そうですか」
姫様が。
小さく微笑む。
「それなら、安心しました」
偉そうなところは。
少しもない。
王族の姫様なのに。
まるで。
昔からの知り合いのように。
自然に話しかけてくださる。
「はい」
私は。
少し考える。
「明日にでも」
「ここを立とうと思っています」
「……」
姫様が。
少しだけ。
表情を変える。
「その事ですが……」
「……?」
私は。
姫様を見る。
姫様は。
赤いローブの裾に施された。
草花と鳥の刺繍へ。
一瞬だけ視線を落とした。
それから。
少しだけ。
間を置いた。
「レイナさんには」
「お話しておかなければならないことがあります」
「明日」
「側使いと一緒に」
「宮殿へ来てください」
「……宮殿?」
私は。
聞き返す。
「はい」
姫様が。
静かに頷く。
「あなたの今後について」
「お話しします」
「……私の今後」
「そうです」
姫様は。
それだけを告げると。
静かに。
私を見る。
「分かりました」
私は。
小さく頷いた。
――翌日。
私は。
ミッシュルと一緒に。
大樹の上層へ向かっていた。
雲海を突き抜けた。
巨木の頂き。
そこには。
一般の者たちが住む下層や中層とは。
まったく異なる空気が流れていた。
白亜と黄金の宮殿を中心に。
王族や貴族たちの邸宅が。
碁盤の目のように。
整然と並んでいる。
そこは。
下層や中層の喧騒とは隔絶された。
静寂と威厳に満ちた場所だった。
国家の枢要だけが許された領域。
――それが。
シル・アンヴァルの最上層だった。
「……」
歩くたびに。
足の感覚を確かめる。
もう。
痛みはほとんどない。
それでも。
今日は。
少しだけ。
緊張していた。
「レイナさん」
隣を歩く。
ミッシュルが。
私を見る。
「緊張していますか?」
「……少し」
私は。
正直に答える。
「姫様から」
「今後についてお話があるそうですから」
「そうですよね」
ミッシュルが。
小さく笑う。
「でも」
「大丈夫ですよ」
「……?」
「姫様は」
「レイナさんに」
「直接お話ししたいだけだと思います」
「そうですか」
私は。
前を見る。
その先に。
白亜と黄金の宮殿が。
静かに佇んでいる。
「……」
私は。
一歩ずつ。
宮殿へ向かって歩いていった。
宮殿の。
大きな扉が。
ゆっくりと開く。
「……」
私は。
ミッシュルと一緒に。
中へ入る。
広い。
静かな廊下を。
しばらく進む。
やがて。
一つの大きな扉の前で。
ミッシュルが。
足を止めた。
「こちらです」
「……」
扉が。
ゆっくりと。
開かれる。
その先には。
広大な部屋が。
広がっていた。
そして。
部屋の奥。
高い場所に。
一つの王座がある。
そこに。
姫様が。
静かに座っていた。
赤いローブ。
草花と。
小さな鳥の刺繍。
薬師館で見た時と。
同じ衣装だった。
けれど。
王座に座る姿は。
あの時とは。
まるで違って見えた。
「…………」
私は。
思わず。
足を止める。
姫様が。
こちらを見る。
そして。
柔らかく微笑んだ
「よく来てくださいました」
「レイナさん」
「……はい」
私は。
一歩。
前へ出る。
「本日は」
「お時間をいただき」
「ありがとうございます」
姫様が。
小さく微笑む。
「こちらこそ」
「来てくれて、ありがとうございます」
そして。
少しだけ。
姿勢を正す。
「改めまして」
「私は」
「フィオネ・シル・アンヴァル」
「このシル・アンヴァルの王族です」
「……」
私は。
頭を下げる。
「レイナ・ヴェルクスと申します」
「存じています」
フィオネ姫が。
柔らかく微笑む。
「今日は」
「先日」
「あなたに」
「お話ししなければならないと言った件についてですが」
「……」
私は。
フィオネ姫を見る。
「はい」
「今日は」
「そのお話をします」
今回は。
レイナとフィオネ姫が。
向き合うお話でした。
レイナを救った薬師のフィリア。
そして。
彼女を宮殿へ呼んだ。
フィオネ姫。
姫様が。
レイナに告げようとしている未来とは。
これから。
レイナは。
どのような道を歩むことになるのでしょうか。
次回も楽しんでいただければ嬉しいです。
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