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第五十五話(後編) : 明日には

谷底へ落ちたレイナ。


彼女は。

そこで。

何を思い。

どう過ごしていたのでしょうか。


今回は。

レイナの過去のお話です。


今回も楽しんでいただければ嬉しいです。

数日後。


レイナは。


ゆっくりと。


目を開けた。


「……ここは?」


見慣れない。


天井。


身体を。


動かそうとする。


「……っ」


全身に。


痛みが走る。


「……」


両足も。


動かない。


レイナは。


ゆっくりと。


周囲を見る。


白い布。


木で作られた家具。


そして。


ベッドの横に。


一人のエルフが立っていた。


「目が覚めましたか」


「……あなたは?」


「姫様の命を受けた側使いの、ミッシュルと申します」


「……側使い?」


レイナが。


眉を寄せる。


「はい」


ミッシュルは。


静かに。


微笑んだ。


「ここは、エルフの郷です」


「…………」


「レイナさんは」


「谷底で倒れていたところを」


「フィリア様に発見されました」


「……フィリア様?」


「はい」


「王族直属の薬師で」


「私の上司でもあります」


「そう……ですか」


レイナは。


目を閉じる。


「私は……」


何かを。


思い出そうとする。


「…………」


だが。


頭が。


ひどく重い。


「無理をしないでください」


ミッシュルが。


声をかける。


「かなりの怪我でした」


「……」


レイナは。


しばらく。


天井を見つめる。


「両足も……」


「はい」


「骨折しています」


「ですが」


「治療は順調です」


「しばらく安静にしていれば」


「歩けるようになると思います」


「……歩ける」


レイナが。


小さく呟く。


「はい」


ミッシュルが。


頷く。


「それから」


「レイナさんをここまで運ぶために」


「姫様の力を借りました」


「……姫様?」


レイナが。


顔を向ける。


「はい」


「詳しいことは」


「姫様から直接お話があります」


「…………」


レイナは。


しばらく。


ミッシュルを見る。


そして。


ふと。


手元を見る。


「……?」


そこには。


見覚えのない。


小さな傷があった。


「これは……」


ミッシュルの表情が。


少し曇る。


「それについても」


「姫様から」


「直接お話があると思います」


「……そうですか」


レイナは。


再び。


天井を見る。


「私は……」


「どうして」


「ここにいるのでしょう」


「それも」


ミッシュルが。


静かに答える。


「姫様がお話しくださると思います」


レイナは。


何も言わなかった。


ただ。


天井を。


見つめていた。


「…………」


頭の中に。


何かが。


浮かぶ。


「……ラグノ」


小さく。


呟く。


「……?」


ミッシュルが。


レイナを見る。


「何か思い出しましたか?」


「……はい」


レイナは。


目を閉じる。


「ラグノで……」


「誰かを……」


そこまで。


思い出したところで。


頭に。


強い痛みが走った。


「……っ」


「無理をしないでください」


ミッシュルが。


静かに。


声をかける。


「少しずつで大丈夫です」


「…………」


レイナは。


ゆっくりと。


息を吐く。


「……分かりました」


そして。


また。


目を閉じる。


少しずつ。


記憶が。


戻り始めていた。


――数日前。


私は。


一人で。


馬に乗っていた。


ラグノで。


エリックを見送った。


「……」


馬を。


ゆっくりと進める。


エリシア様のいる方へ。


戻るためだった。


「エリシア様の護衛に戻らなければ」


それは。


間違いではない。


自分の役目だ。


ずっと。


そう思っていた。


けれど。


「…………」


しばらく進んだところで。


ふと。


後ろを振り返った。


そこには。


もう。


エリックの姿はない。


「……」


胸の奥が。


少しだけ。


重くなった。


なぜなのか。


私には。


分からなかった。


「……戻ろう」


小さく呟く。


エリシアのもとへ。


戻らなければならない。


それなのに。


なぜか。


急に。


心細くなった。


「…………」


空は。


少し暗い。


雨が降った後だった。


本当なら。


今日は急ぐ必要などない。


三日間。


馬を走らせてきた。


少し休んでからでも。


よかった。


それでも。


私は。


馬を進めた。


「エリシア様のもとへ……」


早く。


戻らなければ。


そう思った。


その時。


馬が。


足を滑らせた。


「……っ!」


私の身体が。


大きく揺れる。


手綱を。


強く握る。


だが。


間に合わない。


馬と共に。


身体が。


街道の外へ。


投げ出される。


「――!」


その先には。


深い谷が。


口を開けていた。


「……!」


身体が。


谷底へ。


落ちていく。


そして。


強い衝撃が。


全身を襲った。


――。


私は。


ゆっくりと。


目を開けた。


「…………」


何が。


起きたのか。


すぐには。


分からなかった。


「……っ」


身体を。


動かそうとする。


だが。


「……動かない」


両足に。


力が入らない。


「…………」


痛みに耐えながら。


身体を確認した。


足が。


大きく腫れている。


「……骨が」


折れている。


そう判断した。


「……」


立つことは。


できない。


歩くことも。


できない。


「馬は……」


私は。


周囲を見た。


だが。


愛馬の姿は。


どこにもない。


「…………」


落下の途中で。


離れてしまったのか。


それとも。


別の場所へ。


逃げたのか。


分からない。


「……」


周囲を見た。


少し離れた場所に。


自分の荷物が。


落ちていた。


「……あれなら」


手を伸ばす。


だが。


届かない。


「…………」


私は。


剣を見た。


そして。


荷物を見る。


「……」


剣を。


地面へ突き立てる。


荷物に。


鞘を引っかける。


ゆっくり。


少しずつ。


引き寄せる。


「……っ」


何度も。


繰り返す。


ようやく。


荷物が。


手の届く場所まで。


移動した。


「……」


荷物を開いた。


食料。


そして。


水袋。


「……無事」


食料も。


水も。


残っている。


「これなら……」


しばらくは。


生きられる。


私は。


谷底を。


見渡した。


雨の跡が。


あちこちに残っている。


岩の窪みには。


水が。


溜まっていた。


「……水も」


ある。


食料も。


ある。


手も。


動く。


なら。


「…………」


私は。


折れた木を探した。


「まずは」


「足を固定しないと」


動けない身体を。


少しずつ。


引きずりながら。


添え木になりそうな枝を。


私は。


集め始めた。


「……っ」


身体を。


動かすたびに。


激痛が走る。


「……くっ」


それでも。


少しずつ。


枝を集める。


ようやく。


必要な分が。


揃った。


「…………」


私は。


折れた枝を。


足へ当てる。


そして。


布を巻く。


「……っ!」


歯を。


食いしばる。


痛みに耐えながら。


足を固定していく。


「……これで」


少しは。


安心できる。


「…………」


私は。


谷の上を見る。


エリシア様たちは。


今。


ラグノへ向かっている。


この街道を。


通るはずだ。


「三日……」


いや。


四日ほど。


かかるかもしれない。


「…………」


それでも。


来る。


エリシア様は。


この道を。


通る。


「その時に……」


この場所を。


見つけてもらえるかもしれない。


私は。


周囲を見る。


馬が滑った場所。


折れた木。


崩れた地面。


「……」


これなら。


誰かが。


気付くかもしれない。


私は。


剣を手に取る。


そして。


近くの岩へ。


剣を当てる。


――ギィ。


岩の表面に。


横へ。


一本の線を刻んだ。


「……」


これで。


今日を。


覚えておける。


明日。


エリシア様たちが。


この道を通るかもしれない。


「…………」


私は。


空を見上げる。


「明日には……」


そう呟いて。


目を閉じた。

今回は。

谷底へ落ちたレイナが。

生き延びようとするお話でした。


怪我を負い。

身動きも取れない中。


それでも。

レイナは。

諦めませんでした。


エリシア様たちが。

この道を通ると信じて。


彼女は。

明日を待ち続けます。


果たして。

レイナは。

無事に救い出されるのでしょうか。


次回も楽しんでいただければ嬉しいです。


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