第五十五話(前編):『血判の儀式』
谷底で。
ついに。
レイナの手がかりを。
見つけたエリックたち。
しかし。
そこには。
思いもよらない謎が。
隠されていました。
今回も楽しんでいただければ嬉しいです。
しばらくして。
四人は。
なんとか。
谷底まで辿り着いた。
「……広いな」
エリックが。
周囲を見渡す。
岩壁。
大きな岩。
茂った草。
谷底は。
思っていたよりも。
ずっと広かった。
「レイナ!」
エリックが。
声を上げる。
「レイナ!」
「…………」
返事はない。
「レイナさーん!」
ミーナも。
声を上げる。
「…………」
やはり。
返事はない。
「どこにいるんだ……」
エリックが。
周囲を見渡す。
その時。
ミーナが。
ふと。
足を止めた。
「……」
ルチアも。
同時に。
顔を上げる。
「どうした?」
エリックが。
二人を見る。
「……血の匂いがします」
「……!」
エリックの。
表情が変わる。
「どっちだ?」
ミーナが。
鼻を動かす。
「……あっち」
ルチアも。
頷く。
「私も分かります」
二人が。
同じ方向を見る。
「行こう」
エリックが。
すぐに。
走り出した。
ミーナが。
岩の前で。
足を止めた。
「……これ」
「どうした?」
エリックが。
近づく。
岩の表面に。
いくつもの線が。
刻まれていた。
「数字……?」
リシェルが。
首を傾げる。
エリックは。
岩を見る。
横線が四本。
その上に。
縦線が一本。
「五」
「五?」
「うん」
その隣にも。
横線が三本。
そこで。
途切れている。
「……八」
エリックが。
呟く。
「八日目まで」
「レイナは、ここにいた」
「…………」
ミーナと。
ルチアが。
顔を見合わせる。
「じゃあ……」
ルチアが。
周囲を見る。
エリックは。
岩から視線を外す。
そして。
少し離れた場所に落ちている。
一本の剣を見る。
「……レイナの剣」
エリックが。
ゆっくり歩み寄る。
剣を拾い上げる。
「八日目までは」
剣を見る。
「ここにいた」
「でも……」
エリックが。
周囲を見渡す。
「剣を置いていった理由が分からない」
四人は。
再び。
谷底を探し始めた。
「レイナ!」
エリックが。
谷底へ向かって叫ぶ。
「レイナ!」
「…………」
返事はない。
四人は。
そのまま。
周囲を探し始めた。
「レイナさん!」
ルチアも。
大きな声で呼びかける。
「レイナさーん!」
しばらくして。
「……ボス!」
ルチアの声が。
少し離れた場所から聞こえた。
「こっちに来てください!」
エリックが。
すぐに向かう。
そこには。
岩陰に。
見慣れない形の魔法陣が。
描かれていた。
「……魔法陣?」
エリックが。
近づく。
リシェルが。
魔法陣を見る。
「……これは」
「知ってるのか?」
「似たものなら……」
リシェルが。
少し考える。
「でも」
「私も見たことがありません」
「そうか」
エリックは。
魔法陣を見る。
「……乗ってみるか」
「えっ?」
ルチアが。
驚く。
エリックが。
恐る恐る。
魔法陣の上に足を乗せる。
その瞬間。
バチッ。
「……!」
エリックの身体が。
弾かれた。
「エリック!」
リシェルが。
駆け寄る。
「大丈夫ですか?」
「うん」
エリックが。
起き上がる。
「痛くはない」
そして。
魔法陣を見る。
「……俺は使えないみたいだ」
リシェルがもう一度。
魔法陣を念入りに確認する。
表情を変えた。
「……これ」
「何かわかったのか?」
エリックが。
振り返る。
「はい」
リシェルが。
魔法陣を見つめる。
「エルフの中でも」
少し間を置いて。
「特別な者だけが使える魔法陣です」
「特別な者?」
「はい」
リシェルが。
小さく頷く。
「普通のエルフが使うものではありません」
エリックは。
魔法陣を見る。
「……レイナが?」
「分かりません」
リシェルが。
首を横に振る。
「でも」
魔法陣を。
じっと見る。
「ここに、これがある理由は気になります」
リシェルは。
しばらく。
魔法陣を見つめていた。
「……」
「どうした?」
エリックが。
尋ねる。
「この魔法陣は」
リシェルが。
ゆっくり口を開く。
「エルフの郷を守るためのものです」
「守る?」
「はい」
リシェルが。
魔法陣を見る。
「外から武器を持った者が」
「そのまま入ることを許さない」
「なるほど」
エリックが。
魔法陣を見る。
「じゃあ」
「俺が弾かれたのも、それか?」
「たぶん……」
リシェルが。
少し考える。
「でも」
「それだけではないと思います」
「……?」
エリックが。
リシェルを見る。
「この魔法陣には」
リシェルが。
もう一度。
魔法陣を見つめる。
「何か、特別な仕組みがあるはずです」
「特別な仕組み?」
「はい」
リシェルは。
首を傾げる。
「私も、詳しくは知りません」
「ただ……」
「昔から」
「この魔法陣には」
少し間を置いて。
「エルフだけではなく」
「特定の条件を満たした者しか通れない、と聞いています」
「レイナさんは」
リシェルは、そこで言葉を切った。
魔法陣の上に置かれた剣を見つめる。
「武器を全部、置いて」
エリックは、黙って剣を見た。
鞘に収まったままの長剣。
その隣に置かれた短剣。
どちらも、レイナが手放すはずのないものだった。
「この儀式を使ったんです」
「……血判の儀式を?」
リシェルは答えなかった。
魔法陣の線を、指先でなぞる。
その表情から、いつもの落ち着きが消えていた。
「急がないと」
小さな声だった。
けれど、その声には明らかな焦りが滲んでいた。
「もし、本当に血判の儀式が使われたのなら」
リシェルは、魔法陣の中央を見る。
「レイナさんは」
一度、息を呑む。
「かなり危険な状態だったはずです」
――数日前。
湿った冷気が淀む、静まり返った谷底。
岩陰に、一人の人間が倒れていた。
それは、傷だらけになり、意識を失ったレイナの姿だった。
その日は。
エルフの王族の一人が、直属の薬師を従えてこの険しい辺りを訪れていた折だった。
「……姫様!」
薬師が、異変に気づいて足早に駆け寄る。
レイナの身体は無数の傷に覆われ、引きずったような足も異様に腫れ上がっていた。
呼吸は浅く、すでに限界を超えているのは一目で分かった。
「……」
姫は、痛々しく泥に汚れたレイナの右手を見つめる。
その硬く握り締められた拳の中に、見覚えのある文字が刻まれた小さな木のお守りがあった。
「これは……」
姫が息を呑む。
薬師がその小さなお守りを覗き込み、わずかに目を見張った。
「……リシェル様が作られた物です」
「リシェル様の?」
「はい、間違いありません」
その名前が出た瞬間、姫の表情がわずかに強張った。
決意の色が瞳に宿る。
「お助けします」
姫は迷うことなく告げた。
「血判の儀式を、すぐに用意してください」
「姫様!」
薬師が声を荒らげる。
「それは……あまりにリスクが大きすぎます!」
「分かっています」
静かだが、淀みのない声だった。
「血判の儀式を使えば、この方は私の主従契約下に入ります。ですが……」
薬師は言い淀み、苦渋の色をにじませた。
「そうなれば、この方は二度と、元の主に仕えることができなくなります。」
「……」
姫は再び、レイナの血に汚れた顔と、固く握られた木のお守りを見下ろした。
そこに込められた祈りと絆の深さを、彼女なりに察したのかもしれない。
「それでも構いません」
姫は静かに首を振った。
「この方を助けます。このまま放置すれば、命がありませんから」
薬師はしばらくの沈黙の後、覚悟を決めたように小さく息を吐いた。
「……承知いたしました」
手際よく準備が整えられ、姫はレイナの冷えきった手を取り、自身の小さな刃物でその指先をわずかに切った。
「少しだけ、我慢してくださいね」
意識のないレイナの指先から、一滴の鮮血が零れ落ちる。
――ぽた。
乾いた音とともに、地面に描かれた術式が淡い青白い光を帯びて発動した。
続いて姫も自分の指先を切り、その血を同じ魔法陣へと重ねる。
「これより――」
姫が、透き通るような声で古代の詠唱を紡ぎ始める。
どこか哀切を帯びた歌うような声が、冷たい谷底の空気に響き渡り、空間そのものを震わせていく。
やがて、長い詠唱の最後の一節が途切れた瞬間。
足元の魔法陣が、眩いばかりの強い光を放った。
レイナの傷ついた身体が、優しい光の粒子に包まれていく。
そして、光が収まったとき――そこにはもう、彼女の姿は影も形も残っていなかった。
今回は。
谷底で見つかった。
不思議な魔法陣。
そして。
明らかになった。
レイナの過去。
彼女を救うため。
姫が選んだのは。
血判の儀式でした。
その決断が。
どんな意味を持つのか。
次回も楽しんでいただければ嬉しいです。
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