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第五十四話(前編) : 田んぼに水を

田んぼを作った。

けれど。

稲を育てるには。

まだ。

必要なものがありました。


エリックたちは。

新しい方法を。

探すことに。


今回も楽しんでいただければ嬉しいです。

『このままでは』


『稲は枯れます』


「…………」


エリックが。


固まった。


「なんでだ?」


『現在の水質を確認します』


少しの間。


『温泉水に含まれる成分が』


『稲の生育に適していません』


「……」


エリックが。


ため池を見る。


「人間には?」


『問題ありません』


『美肌効果や疲労回復効果が確認されています』


「……そうか」


エリックが。


少し考える。


「温泉は、人間にはいい」


「でも」


「稲には駄目なのか」


『はい』


「…………」


エリックは。


ため池を。


じっと見る。


「じゃあ」


「別の水が必要だな」


リシェルが。


ため池を見る。


「水……」


「川なら」


エリックが。


顔を上げる。


「魚釣りをした川がある」


「そうですね」


リシェルが。


頷く。


「じゃあ、明日は川ですね」


「うん」


エリックが。


頷く。


「他にも」


「使えそうな生き物がいるかもしれない」


「タニシ?」


リシェルが。


首を傾げる。


「うん」


「水の中のものを分解してくれるなら」


「この水にも使えるかもしれない」


「浄化ですか?」


リシェルが。


少し考える。


「そう」


「……」


リシェルが。


ふと。


川の方を見る。


「明日の夜、行きませんか?」


「……夜?」


エリックが。


リシェルを見る。


「はい」


リシェルが。


頷く。


「昼間とは」


「少し違うものが見られるかもしれません」


「危ないだろう」


エリックが。


少し考える。


「大丈夫ですよ」


リシェルが。


笑う。


「みんなで行けば」


「……」


エリックは。


少しだけ考える。


「……分かった」


「ありがとうございます」


リシェルが。


また。


川の方を見る。


その横顔には。


ほんの少しだけ。


懐かしそうな色があった。


そして。


翌日の夜。


みんなで。


川へ向かった。


「…………」


川辺に着く。


その瞬間。


ふわっ。


淡い光が。


草むらから。


舞い上がった。


「……」


エリックが。


足を止める。


一つ。


また一つ。


川の上を。


小さな光が飛んでいく。


リシェルが。


静かに呟く。


「……」


しばらく。


蛍を見つめる。


「まさか……」


小さく。


「こんなところで見られるなんて」


「……?」


エリックが。


リシェルを見る。


「昔、よく見ていたのか?」


「はい」


リシェルが。


少しだけ笑う。


「エルフの森で」


「そうか」


「……でも」


リシェルが。


魔境の森を見渡す。


「ここで見るのも……」


一匹の蛍が。


リシェルの横を通り過ぎる。


「悪くないですね」


リシェルが。


静かに呟いた。


「本当だ……」


マルタも。


思わず声を漏らす。


「こんなにいるのかい」


ジンが。


川の上を見る。


「昼間は。


こんなもの。


いなかったぞ」


「夜になると」


リシェルが。


蛍を見ながら。


「出てくるんですよ」


「蛍……?」


エリックが。


呟く。


「これが?」


「はい」


リシェルが。


頷く。


ルークが。


空を見上げる。


「キュウ?」


ふわっ。


目の前を。


一匹の蛍が。


飛んでいく。


ルークが。


追いかける。


「キュウ!」


「ルーク」


エリックが。


呼ぶ。


ルークは。


ぴたり。


と止まる。


それでも。


尻尾だけは。


パタパタ。


動いていた。


「……」


エリックは。


川を見る。


昼間。


魚を釣った場所。


「……そうか」


「どうしました?」


リシェルが。


振り返る。


「昼間」


エリックが。


川を見る。


「ここを見た時」


「構図が良いと思った」


「……はい」


「でも」


エリックが。


飛び交う蛍を見る。


「夜も良かったんだな」


「…………」


リシェルが。


少しだけ。


嬉しそうに笑った。


その時。


ジンが。


川岸を指差す。


「エリック」


「ん?」


「あそこ」


「何かいるぞ」


「……?」


エリックが。


近づく。


水の中。


石の影に。


小さな生き物が。


いくつも張り付いている。


「タニシ……?」


マルタが。


覗き込む。


「いや」


ジンが。


首を傾げる。


「少し違うな」


エリックが。


しゃがみ込む。


「鑑定さん」


『はい』


「これ」


『確認します』


少しの間。


『対象を確認しました』


『ミズモミ』


『水中の有機物や不要な成分を取り込みます』


「……」


エリックの目が。


少しだけ。


輝く。


「こいつだ」


『水質浄化に利用できます』


「……使えるな」


マルタが。


驚いた顔をする。


「これが?」


「うん」


エリックが。


ミズモミを見る。


「ため池に入れてみよう」


ルークが。


横から覗き込む。


「キュウ?」


「お前は食べるなよ」


「キュ……」


ルークが。


少しだけ。


残念そうな顔をした。


翌朝。


魔境の家。


エリックは。


庭へ出ると。


育苗箱を見る。


「……」


箱の中。


昨日まで。


小さな種だった稲が。


もう。


十センチほどまで。


伸びていた。


「……早いな」


魔境の森では。


作物の成長が。


異様に早い。


エリックは。


苗を一つ。


指でそっと触れる。


「これなら」


「植えられるな」


そのまま。


エリックは。


ため池へ向かう。


昨日。


放流した。


ミズモミの様子を見るためだ。


「……いるな」


水の中。


石の影に。


小さなミズモミが。


いくつも張り付いている。


「鑑定さん」


『はい』


「水質は?」


『確認します』


少しの間。


『水質を確認しました』


『温泉水に含まれていた成分が減少しています』


「……」


『稲の生育に適した水質です』


「よし」


エリックが。


頷く。


「これなら使える」


エリックは。


田んぼへ向かう。


昨日。


みんなで作った。


田んぼ。


「ここだな」


エリックが。


水路を見る。


「水を入れるか」


エリックが。


水路を開く。


すると。


ため池から。


水が流れ始める。


さらさらと。


田んぼへ。


少しずつ。


水が広がっていく。


「……」


エリックは。


田んぼ全体を見る。


「これなら大丈夫だ」


そして。


魔境の家へ戻る。


「みんな」


「田植えするぞ」


「もうですか?」


リシェルが。


驚く。


「うん」


エリックが。


育苗箱を見る。


「苗が、もう植えられる」


「まあ……」


リシェルが。


箱を覗き込む。


「本当に大きくなっていますね」


「魔境だからな」


ジンが。


苦笑する。


「相変わらず、とんでもない場所じゃのう」


その時。


「キュウ!」


ルークが。


エリックの足元へ。


ペタ。


ペタ。


ついてくる。


「……」


エリックが。


ルークを見る。


「お前も来るのか」


「キュウ!」


「……まあいいか」


エリック。


リシェル。


ジン。


そして。


ドワーフたちが。


田んぼへ集まる。


「では」


エリックが。


苗を手に取る。


「これを」


「このくらいの間隔で植える」


「こうか?」


ジンが。


苗を植える。


「うん」


「そんな感じ」


マルタも。


田んぼへ入る。


「こりゃあ」


「思ったより楽しいね」


「そうですね」


リシェルも。


笑いながら。


苗を植えていく。


一人。


また一人。


田んぼへ入っていく。


ドワーフたちも。


次々と苗を植える。


その横では。


ルークが。


ペタ。


ペタ。


泥の中を歩いていた。


「キュウ」


「……」


エリックが。


ルークを見る。


泥だらけになった足。


そして。


嬉しそうに振っている尻尾。


「……お前は」


「田植えしてないだろ」


「キュウ!」


ルークが。


嬉しそうに鳴く。


エリックは。


小さく息を吐く。


「まあ、いいか」


やがて。


田んぼ一面に。


小さな苗が。


整然と並んだ。


「……」


エリックが。


田んぼを見る。


昨日まで。


何もなかった場所。


そこに。


小さな稲が。


並んでいる。


「……米ができたら」


エリックが。


ぽつりと呟く。


「おにぎり……」


少し考える。


「……寿司も作れるな」


「寿司?」


リシェルが。


首を傾げる。


「うん」


エリックが。


田んぼを見る。


「魚もあるからな」


「……」


リシェルが。


少し笑う。


「楽しみですね」


「うん」


エリックも。


小さく頷いた。


その足元で。


ルークが。


泥だらけのまま。


「キュウ!」


嬉しそうに。


尻尾を振っていた。


それから。


エリックが。


魔境の森へ帰ってきてから。


十三日ほどが過ぎた。


田んぼには。


小さな稲が。


並んでいる。


ため池では。


ミズモミが。


今日も静かに動いていた。


魔境の家にも。


少しずつ。


新しい生活が。


根付き始めていた。


そんなある日。


魔境の転移魔法陣が。


淡く光った。


「……?」


エリックが。


振り返る。


次の瞬間。


「エリック!」


元気な声が響いた。


光の中から。


ミーナが。


勢いよく飛び出してくる。


その後ろから。


ルチアと。


ボルグも。


転移魔法陣から姿を現した。


「ここが……」


ミーナが。


周囲を見渡す。


「エリックの家?」


「うん」


エリックが。


頷く。


ルチアも。


家の中を見回す。


「聞いていたより……」


「普通ですね」


「普通か?」


ボルグが。


苦笑する。


「この場所で普通と言える時点で、おかしいと思うがのう」


「……そうですか?」


ミーナが。


首を傾げる。


エリックは。


特に気にせず。


「入るか?」


「うん!」


ミーナが。


嬉しそうに答える。


三人が。


魔境の家へ入る。


「エリシアは?」


エリックが。


尋ねる。


「今日は白銀の塔です!」


ミーナが。


元気よく答える。


「魔王現象について」


「報告があるそうです」


「そうか」


エリックが。


頷く。


そして。


少しだけ。


考える。


「……レイナは?」


「…………」


ミーナが。


止まった。


ルチアも。


ボルグも。


互いの顔を見る。

今回は。

田んぼに。

水を入れるまでの。

お話でした。


温泉の水は。

稲には。

使えませんでしたが。


川で。

思わぬ生き物を。

見つけることができました。


そして。

田植えも無事に。

始まりました。


魔境での暮らしも。

少しずつ。

形になってきています。


最後に。

ミーナたちが。

魔境へやって来ました。


そして。

エリックが尋ねた。

「レイナは?」


果たして。

何があったのでしょうか。


次回も楽しんでいただければ嬉しいです。


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