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第五十一話(前編) : 新しい弟子

グルメアでの出来事も。


いよいよ。


終わりを迎えます。


そして。


エリックの前に。


思わぬ出会いが待っていました。


今回も楽しんでいただければ嬉しいです。

「ここからが。最後の審査です」


会場が。


再び。


静まり返る。


「金賞二組の中から」


モメニアが。


ゆっくりと。


言葉を続ける。


「今年の最優秀賞を。


発表いたします」


「……」


エリシアが。


そっと。


手を合わせる。


レイナも。


静かに。


手を合わせた。


ナタルも。


ぎゅっと。


拳を握る。


六番のルチルバースたちも。


祈るように。


手を合わせる。


モメニアが。


結果の書かれた紙を。


ゆっくりと。


開く。


「今年の――」


会場中が。


息を呑む。


「最優秀賞は――」


一拍。


「ベイン・シュガー工房」


「……!」


大きな歓声が。


会場を包んだ。


ルチルバースたちが。


互いに抱き合う。


その一方で。


ナタルは。


静かに。


目を伏せた。


試食会が。


始まった。


会場には。


たくさんの観客が。


それぞれの菓子を求めて。


動き始める。


六番。


ベイン・シュガー工房の前には。


大きな人だかりができていた。


「これが最優秀賞か!」


「濃厚で美味い!」


「さすがだな!」


一方。


十番。


チーズケーキ工房『ナタル』の前にも。


少しずつ。


人が集まっていた。


「これは……?」


「練り切りです」


エリシアが。


答える。


「へえ……」


観客が。


箱の中を覗き込む。


「綺麗だな」


「八種類もあるぞ」


「こっちは何だ?」


次々と。


黒文字が伸びていく。


一つ。


また一つ。


練り切りが。


口へ運ばれる。


「……美味しい」


「甘さが上品だ」


「見た目だけじゃないな」


「これなら何個でも食べられそう」


観客の声が。


次々と上がる。


「こっちも食べてみよう」


「私も!」


「この箱、全部違うのか?」


人が。


さらに増えていく。


ナタルは。


目の前の光景を。


呆然と見つめていた。


「……こんなに」


エリックは。


隣で。


静かに。


観客を見ている。


「人気だな」


「……ああ」


ナタルが。


小さく笑う。


その少し離れた場所。


モメニアも。


その様子を見ていた。


「……」


観客の数。


商品の見た目。


そして。


食べた人たちの反応。


すべてを。


静かに眺める。


やがて。


モメニアの口元が。


ほんの少し。


緩んだ。


「……これは」


隣にいた侍女が。


顔を向ける。


「モメニア様?」


「ええ」


モメニアは。


ナタルの店へ集まる人々を見る。


「思った以上ですね」


そして。


もう一度。


会場を見渡す。


「これなら……」


小さく。


呟く。


「新しい名物にできるかもしれません」


モメニアは。


確かな手応えを。


感じていた。


試食会を終え。


エリックたちは。


店へ戻ってきていた。


テーブルの上には。


最後に残しておいた。


一箱。


蓋を開ける。


中には。


八種類の練り切りが。


並んでいる。


「これは……」


エリシアが。


嬉しそうに覗き込む。


「みんなで食べる分ですね」


「うん」


エリックが。


頷く。


「せっかくだからな」


一人ずつ。


黒文字を手に取る。


「私はこれにします」


エリシアが。


花の練り切りを取る。


レイナは。


赤い実の形をしたものを。


静かに選ぶ。


「……トマトか」


「うん」


エリックが。


頷く。


ボルグは。


鍵の形を。


手に取った。


「やっぱりこれじゃな」


ミーナとルチアは。


稲穂を見つめる。


「これ、私たちですよね?」


「たぶんな」


エリックが。


答える。


ガレスとロイドは。


酒樽を見つける。


「……」


二人が。


顔を見合わせる。


「俺たち、これか?」


「間違いないだろ」


そして。


最後の一つを。


エリックが。


手に取る。


チーズケーキ。


ナタルが。


少し驚いた顔をする。


「俺は……これか」


「最後はチーズケーキだな」


エリックが。


そう言った。


みんなが。


それぞれの練り切りを。


口へ運ぶ。


「……」


静かな時間が。


流れる。


その時。


店の外から。


声が聞こえた。


「ねぇ、待って!」


バタバタと。


足音が近づいてくる。


ドアが。


勢いよく開く。


一人の。


ドワーフの少年が。


エリックの前まで。


駆け寄ってきた。


「はぁ……はぁ……」


息を切らしながら。


エリックを見る。


「僕は……」


少年が。


練り切りの箱を見る。


「これを試食して」


一度。


息を整える。


「感動しました!」


「……?」


エリックが。


首を傾げる。


少年は。


勢いよく。


頭を下げた。


「僕を!」


「ぜひ弟子にしてもらえないでしょうか!」


「……」


店内が。


静まり返る。


エリックは。


少年を見る。


そして。


自分の手元にある。


チーズケーキの練り切りを見る。


「……弟子?」


少年は。


真剣な顔で。


何度も頷いた。


「はい!」


「僕も。


こんなお菓子を作れるようになりたいです!」


エリックは。


少し考える。


「……」


そして。


一言。


「俺、弟子を取ったことない」


「それでも!」


少年は。


即答した。


「……」


エリックは。


少し考える。


そして。


ゆっくりと。


立ち上がった。


「……一度だけ作る」


「え?」


少年が。


顔を上げる。


「見てろ」


エリックは。


調理台へ向かう。


「わかりづらい所は」


ペンを取り出す。


「絵コンテを書いてやる」


「……絵コンテ?」


少年が。


首を傾げる。


エリックは。


答えない。


紙を一枚。


調理台の上に置く。


そして。


ペンを走らせる。


サッ。


サッ。


紙の上に。


小さな枠が。


いくつも描かれていく。


「……?」


少年は。


その紙を。


じっと見つめる。


「これが……」


エリックは。


淡々と言う。


「作り方の設計図みたいなものだ」


「……!」


少年の目が。


輝いた。


「僕にも……分かるでしょうか?」


「見てれば分かる」


エリックは。


そう言って。


鍋を取り出した。


「始めるぞ」


少年は。


エリックが描いた。


絵コンテと。


その手元を。


何度も見比べていた。


一つ一つの工程を。


見逃さないように。


真剣な眼差しで。


エリックの手さばきを。


追っている。


エリックは。


黙々と。


練り切りを形作っていく。


色を加え。


生地を整え。


花びらを。


一枚ずつ。


丁寧に作っていく。


そして。


最後の仕上げ。


エリックの手が。


止まった。


「……出来た」


少年が。


身を乗り出す。


「綺麗だ……」


そこにあったのは。


淡い色の。


一輪の花。


「桜の練り切りだよ」


エリックが。


静かに言う。


少年は。


しばらく。


桜を見つめていた。


「……春みたい」


「……」


エリックは。


何も言わず。


小さく頷いた。


その日の夜。


領主の館。


モメニアの前には。


エリックと。


ナタルが。


並んでいた。


「エリックさん」


モメニアが。


穏やかに笑う。


「今日は。


本当にありがとうございました」


「……?」


エリックが。


首を傾げる。


「ナタルさんの代役を。


よく引き受けてくださいました」


「うん」


エリックは。


小さく頷く。


「ナタルの店だったからな」


ナタルが。


少し驚いたように。


エリックを見る。


モメニアは。


テーブルの上に置かれた。


練り切りの箱を見る。


「この箱も。


とても注目されていました」


「……そうなんですか?」


ナタルが。


箱を見る。


「ええ」


モメニアが。


頷く。


「練り切りも。


大変評判が良かったですよ」


そして。


少しだけ。


表情を緩める。


「何より……」


「シロズダ芋です」


ナタルが。


顔を上げる。


「今まで。


厄介物のように扱われていたものが」


モメニアは。


静かに。


箱を見る。


「新しい名物になるかもしれません」


「……」


ナタルが。


言葉を失う。


「名物……」


「ええ」


モメニアが。


頷く。


「グルメアだけではありません」


「ガルリィアにとっても。


大きな意味を持つかもしれませんね」


ナタルは。


しばらく。


黙っていた。


やがて。


深く。


頭を下げる。


「……ありがとうございます」


エリックは。


そんなナタルを見る。


そして。


ふと思い出したように。


「ナタル」


「ん?」


「今度。


チーズケーキ食べに来る」


「……!」


ナタルの顔が。


ぱっと明るくなる。


「ああ!」


「待ってるぞ」


翌朝。


グルメアの門前。


馬車の準備が。


整っていた。


「それでは。


皆さん」


モメニアが。


一行を見送る。


「お気をつけて」


「ありがとうございました」


エリシアが。


頭を下げる。


レイナ。


ボルグ。


ミーナ。


ルチアも。


それぞれ。


別れの挨拶をする。


ナタルも。


エリックの前に立つ。


「また来てくれよ」


「うん」


エリックが。


頷く。


「チーズケーキ食べに来る」


「ああ。


いつでも来い」


馬車が。


ゆっくりと。


動き出す。


街を進み。


木箱の工房の前を通る。


店主が。


ボルグを見つける。


「あっ!」


大きく。


手を振る。


ボルグも。


窓から。


手を振り返す。


「おう!」


さらに。


その先。


昨日の少年が。


立っていた。


エリックを見つけると。


嬉しそうに。


手を振る。


「エリックさん!」


エリックも。


小さく。


手を上げる。


少年は。


何度も。


何度も。


手を振っている。


やがて。


馬車は。


グルメアの門を抜けた。


街並みが。


少しずつ。


遠ざかっていく。


エリシアが。


窓の外を見る。


「……また来ましょうね」


「うん」


エリックは。


短く。


答えた。


馬車は。


王都ルミナリアへ向かって。


帰路を進んでいった。


ちょうどその頃――。


魔鏡の森では。


ある異変が。


起こり始めていた。


しかし。


それに気付く者は。


まだ誰もいなかった。


ピシッ……

今回は。


グルメアでの出来事の締めくくりでした。


スイーツ祭りを通して。


新しい出会いもありました。


そして。


エリックに。


思わぬ弟子ができることに。


果たして。


この出会いは。


どんな未来へ繋がっていくのでしょうか。


次回も楽しんでいただければ嬉しいです。


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