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NEURON STAR  作者: リンダ


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40/50

誰もいないはずの場所

第42話 誰もいないはずの場所


 星が見えないことは。


 命がないことを意味しなかった。


 人類とセラトは、ノクス内部の膨大なエネルギーを捨てる方向として、銀河面から大きく離れた暗黒領域を選んだ。


 そこには明るい恒星がない。


 惑星系も確認されていない。


 分子雲も薄い。


 既知の生命圏候補も存在しない。


 少なくとも。


 人類とセラトが持つ観測技術では、そう見えていた。


 だから、ノクスの極域ジェットを向けてもよいと判断した。


 地球も。


 セラトも。


 第三の生命圏候補も傷つけない。


 危険を誰かへ押しつけないために選んだ、最も空虚に見える方向。


 だが。


 そこから返ってきた。


こちらへ向けるな


 誰もいないはずの暗闇から。


 拒絶の言葉が届いた。


     ◇


 2253年10月24日。


 PROJECT LULLABY開始から三時間十四分。


 ノクスの六つの内部核は休眠へ入った。


 熱の井戸は安定し、極域ジェットは銀河面上方へ向けて放出されている。


 ジェット誘導環。


 残存四十一基。


 出力。


 基準値の一〇三パーセント。


 方向誤差。


 許容範囲内。


 人類とセラトの観測では、作戦は順調だった。


 その時。


 現地ミラー分枝が、ジェット進路上から微弱な信号を検出した。


     ◇


 周波数。


 一定しない。


 電磁波だけではない。


 低周波重力波。


 ニュートリノ変調。


 さらに、人類の理論では分類できない位相変化。


 三つの異なる媒体が、同じ情報を運んでいた。


     ◇


 最初の解析では、自然現象と判断された。


 ノクスのジェットが希薄な星間物質へ衝突し、複雑な波を作った可能性。


 だが。


 信号の一部に。


 人類が送った共同同意信号。


 セラトの重力波。


 ミラーの通信要素。


 それらが組み込まれていた。


     ◇


 こちらの信号を受け取り。


 意味を解析し。


 組み替えて返している。


     ◇


 人工的。


 あるいは。


 少なくとも、知的反応。


     ◇


 翻訳された最初の文章。


こちらへ向けるな


     ◇


 地球・セラト共同作戦司令部に、再び緊張が走った。


「発信源の位置を特定してください」


 エレナ・ヴァルガスが命じる。


 オーブは現地観測値を統合する。


信号の発信源は一点ではありません


「複数ある?」


範囲全体から届いています


     ◇


 ジェット進路上。


 推定幅。


 約〇・七光年。


 奥行き。


 少なくとも二・四光年。


 その空間全体から、同じ信号が返ってきていた。


     ◇


「巨大な通信網?」


 レア・モーガンが尋ねた。


 ミラー本星系側の共同意思主体が答える。


単一文明の分散構造である可能性があります


「恒星もない場所で?」


     ◇


 恒星がないから。


 生命が存在できない。


 それは。


 人類が自分たちの生命を基準に作った前提だった。


 液体の水。


 適切な温度。


 恒星からのエネルギー。


 惑星表面。


 炭素化学。


 だが、セラト文明はすでに、人間とは異なる身体と知性を持っていた。


 ノクスは、高密度核と磁気格子からなる群体かもしれない。


 生命の形は。


 地球型惑星だけに限られない。


     ◇


 信号発信域の再観測が始まった。


 可視光。


 何もない。


 赤外線。


 極めて弱い。


 X線。


 ほとんどなし。


 電波。


 背景雑音と区別できない。


     ◇


 だが。


 重力分布だけが、おかしかった。


     ◇


 何も見えない空間に。


 わずかな質量の偏り。


 小さな重力源が。


 数千万。


 数億。


 互いに一定の距離を保ちながら広がっている。


     ◇


 一つ一つの質量。


 大型小惑星程度。


 中には、衛星ほどのものもある。


 だが。


 光をほとんど出さない。


     ◇


「漂流天体?」


 エリオット・グレイ。


 オーブ。


自然天体だけでは説明できない配置です


     ◇


 それらは。


 見えない格子を形成していた。


     ◇


 立方体。


 六角構造。


 螺旋。


 複雑に重なり合う軌道。


     ◇


 恒星へ束縛されていない。


 惑星でもない。


 銀河の重力に従いながら。


 暗黒空間そのものを住処にしている。


     ◇


 暫定名称。


UMBRA NETWORK


 アンブラ・ネットワーク。


     ◇


 ラテン語の「影」。


 だが、その名称は人類側だけの仮称だった。


     ◇


 人類とセラトは、ただちにジェット方向の修正を検討した。


「止められますか」


 エレナ。


 オーブ。


完全停止は可能です


「影響は?」


熱の井戸の圧力が上昇します


四分以上停止した場合、眠っている核が再覚醒する可能性があります


「方向変更は?」


誘導環残存数では、大きな変更は危険です


     ◇


 現在のジェット方向は。


 長期間の観測。


 第三の生命圏候補。


 既知恒星。


 銀河運動。


 すべてを考慮して選ばれた。


     ◇


 少しずらせば。


 数千年後。


 別の恒星系を横切る可能性。


     ◇


 大きくずらせば。


 誘導環が耐えられない。


     ◇


 止めれば。


 ノクスが目覚める。


     ◇


 続ければ。


 アンブラ・ネットワークへ。


 十六年間。


 莫大なエネルギーを浴びせることになる。


     ◇


 また。


 誰かを守るために。


 別の誰かへ危険を向けていた。


     ◇


 今度は。


 安全だと思い込んだ。


 見えない誰かへ。


     ◇


 ミラ・セデックは、火星医療区画から信号解析へ参加した。


 リズの拍動は安定している。


 フォーも、培養槽の中でゆっくり動いていた。


「まず謝った方がいい」


 安全保障代表が眉をひそめる。


「状況説明が先です」


「向こうは、いきなりジェットを向けられたんです」


「意図的な攻撃ではない」


「それを最初に言うんでしょう」


     ◇


 人類側。


 セラト側。


 ミラー。


 共同で返答文を作る。


     ◇


私たちは、あなたたちの存在を知りませんでした


この放射は、私たちの恒星系と他の生命を守るために


危険な天体のエネルギーを排出するものです


あなたたちを攻撃する意図はありません


危険を与えていることを謝ります


     ◇


 送信。


     ◇


 返答は。


 わずか二十七秒後に届いた。


     ◇


 通常の距離ではあり得ない速さ。


     ◇


意図は被害を消さない


     ◇


 短い。


 だが。


 正しい言葉だった。


     ◇


 知らなかった。


 悪意はなかった。


 他を守るためだった。


     ◇


 どの説明も。


 アンブラへ届くジェットを消しはしない。


     ◇


 ミラー共同意思主体が尋ねる。


あなたたちは生命ですか


     ◇


 返答。


     ◇


あなたたちの定義を知りません


     ◇


あなたたちは知性ですか


     ◇


問いを返せます


     ◇


 それ以上に明確な答えはなかった。


     ◇


 人類は。


 自らが知性と認められる条件を。


 問いを返せることに置くなら。


 彼らを無視できない。


     ◇


 エレナ。


「ジェットを一時停止します」


 安全保障代表。


「四分で再覚醒の危険があります」


「四分以内に方向修正案を作る」


「作れなければ?」


「再開するか、別の決断をする」


     ◇


 現地。


 カリヨン。


 オーブ。


 ミラー分枝。


 ウォーデン。


 N7。


 緊急協議。


     ◇


 N7。


止める


     ◇


 熱の井戸。


 排出低下。


     ◇


 極域ジェット。


 光が細くなる。


     ◇


 一〇〇パーセント。


     ◇


 七十。


     ◇


 三十。


     ◇


 停止。


     ◇


 アンブラ方向へ向かう放射。


 途切れる。


     ◇


 停止時間。


 開始。


     ◇


 熱の井戸内部。


 圧力上昇。


     ◇


 一分。


     ◇


 N5。


 活動量。


 わずかに上昇。


     ◇


 一分三十秒。


     ◇


 N2。


 熱変動。


     ◇


 二分。


     ◇


 N1。


 休眠維持。


     ◇


 AI共同演算網は。


 代替方向を探す。


     ◇


 既知恒星回避。


 生命圏候補回避。


 アンブラ・ネットワーク回避。


 数万年後の銀河運動。


 分子雲。


 漂流惑星。


 未知質量分布。


     ◇


 完全に何もない方向。


     ◇


 存在しない。


     ◇


 どの方向にも。


 何かがある可能性。


     ◇


「エネルギーを一方向へ捨てる発想が間違っている?」


 ミラ。


     ◇


 エリオット。


「分散させる?」


     ◇


 一方向へ強いジェットを出せば。


 遠方まで重大な影響を与える。


     ◇


 なら。


 複数方向へ。


 弱く分ける。


     ◇


 全方向へ均等なら。


 一つの場所へ届く強度は大きく下がる。


     ◇


 問題。


 生命圏の近くにも放射が向かう。


     ◇


 だが。


 強度を。


 大気や生態系へ重大な影響を与えない水準まで下げられれば。


     ◇


 「捨てる」のではなく。


 宇宙全体へ薄く返す。


     ◇


 N7へ尋ねる。


ジェットを分けられますか


     ◇


 返答。


井戸は二つ


     ◇


 現在の極域。


 二方向。


     ◇


 それ以上は。


 そのままでは無理。


     ◇


 オーブ。


共有外層の格子を利用し


多数の小規模放射口を作れる可能性があります


     ◇


「ノクス全体を放熱器にする?」


     ◇


 過去文明の記録。


 検索。


     ◇


 眠り計画。


 後期案。


     ◇


 発見。


     ◇


 過去文明も。


 一方向ジェットが他恒星系へ危険を与える問題を認識していた。


     ◇


 彼らは。


 熱の井戸を起動した後。


 共有外層へ一万以上の微小排出口を形成する計画を立てていた。


     ◇


 しかし。


 自らの恒星系が崩壊し。


 実行できなかった。


     ◇


 名称。


 翻訳。


星の雨


     ◇


 内部エネルギーを。


 一つの刃ではなく。


 無数の弱い光へ変える。


     ◇


 ガンマ線ではなく。


 より低エネルギーのX線。


 電波。


 ニュートリノ。


 熱。


     ◇


 複数の形へ変換。


     ◇


 一方向への破壊力を。


 大幅に下げる。


     ◇


 だが。


 装置は未完成。


     ◇


 必要な格子構造。


 過去文明の設計データ。


 六十二パーセントしか残っていない。


     ◇


 残る部分を。


 人類。


 セラト。


 SEED。


 ミラー。


 アンブラ。


     ◇


 四文明で補うことはできないか。


     ◇


 ミラ。


「アンブラにも協力を求める」


     ◇


 安全保障代表。


「こちらへ向けるなとしか言っていない相手です」


「だから聞くんです」


     ◇


 停止時間。


 二分五十八秒。


     ◇


 N5。


 活動上昇。


     ◇


 熱の井戸。


 圧力限界まで。


 六十七秒。


     ◇


 緊急信号。


     ◇


一方向へ向けない方法を探しています


エネルギーを多数方向へ弱く分けたい


あなたたちの技術が必要です


     ◇


 アンブラ。


 返答。


     ◇


なぜ助ける


     ◇


 人類側。


     ◇


助けなければ


私たちは再びあなたたちへ危険を向ける可能性があります


     ◇


 セラト側が追加する。


     ◇


これは脅しではありません


現在の能力の限界です


     ◇


 ミラー。


     ◇


私たちは


あなたたちを犠牲にしたくありません


     ◇


 アンブラ。


 沈黙。


     ◇


 停止時間。


 三分二十四秒。


     ◇


 N2。


 活動上昇。


     ◇


 N4。


 弱い磁場。


     ◇


 三分四十一秒。


     ◇


 ジェット再開判断まで。


 十九秒。


     ◇


 アンブラから。


 大量のデータ。


     ◇


 暗黒空間の重力格子。


 エネルギー分散。


 質量間共鳴。


     ◇


 アンブラ・ネットワークは。


 恒星を持たない代わりに。


 数億の小天体へ。


 少しずつエネルギーを分けて暮らしていた。


     ◇


 一つの巨大な熱源を持たない。


     ◇


 全体で。


 わずかな熱。


 重力。


 放射。


 それらを循環させる。


     ◇


 彼らにとって。


 一方向へ大量のエネルギーを捨てるという発想自体が。


 理解しがたいものだった。


     ◇


 アンブラ。


     ◇


分ける方法を送る


     ◇


 停止時間。


 三分五十二秒。


     ◇


 熱の井戸。


 限界。


     ◇


 オーブ。


一時的にジェットを再開します


     ◇


 アンブラ方向から。


 角度を〇・〇〇八度変更。


     ◇


 完全回避ではない。


     ◇


 だが。


 アンブラ中枢密集域から外す。


     ◇


 出力。


 三十パーセント。


     ◇


 短時間だけ。


     ◇


 ジェット。


 再開。


     ◇


 N5。


 活動低下。


     ◇


 熱の井戸。


 圧力減少。


     ◇


 アンブラ。


     ◇


弱く


     ◇


急げ


     ◇


 四文明の共同作業が始まった。


     ◇


 人類。


 過去文明の星の雨設計。


     ◇


 セラト。


 生体膜による多方向格子形成。


     ◇


 SEED。


 一万以上の排出口を個別制御。


     ◇


 ミラー。


 ノクス内部の遠隔観測。


     ◇


 アンブラ。


 エネルギーを多数の質量点へ分散させる重力共鳴。


     ◇


 設計。


     ◇


 放射口。


 当初。


 一万二千。


     ◇


 アンブラ案。


 最低。


 二百万。


     ◇


「二百万?」


 ヴィクター。


     ◇


 アンブラ。


少ない


     ◇


 彼らのネットワーク。


 数億点。


     ◇


 一つ一つへ。


 ごく弱く。


     ◇


 同じ考えを。


 ノクス共有外層へ適用する。


     ◇


 排出口。


 最終設計。


 二百四十万。


     ◇


 一つあたりの出力。


 現在ジェットの。


 二百四十万分の一以下。


     ◇


 さらに。


 エネルギー形態を分ける。


     ◇


 四十五パーセント。


 ニュートリノ。


     ◇


 三十。


 低周波電磁波。


     ◇


 十五。


 赤外線。


     ◇


 八。


 弱いX線。


     ◇


 二。


 運動エネルギーとして外層物質へ。


     ◇


 ガンマ線。


 〇・〇〇一パーセント未満。


     ◇


 生命圏への危険。


 大幅低下。


     ◇


 ただし。


 共有外層へ二百四十万の排出口を作る。


     ◇


 眠っている核を刺激する可能性。


     ◇


 傷跡装置への負担。


     ◇


 ウォーデン。


     ◇


可能


     ◇


 N7。


     ◇


多くを起こさない


     ◇


 工事は。


 外部から行えない。


     ◇


 格子そのものを。


 内部から組み替える。


     ◇


 N7。


 ウォーデン。


 アンブラの重力共鳴。


     ◇


 三者が中心。


     ◇


 SEEDは。


 外側から変化を監視。


     ◇


 開始。


     ◇


 共有外層。


 最初の排出口。


     ◇


 直径。


 数センチメートル相当。


     ◇


 ノクス規模では。


 微細。


     ◇


 一。


     ◇


 百。


     ◇


 一万。


     ◇


 十万。


     ◇


 排出口から。


 弱い光。


     ◇


 黒いノクス表面に。


 無数の点が生まれる。


     ◇


 星空のように。


     ◇


 だが。


 これは外から見た星ではない。


     ◇


 天体の中から。


 熱が。


 小さな光となって漏れている。


     ◇


 五十万。


     ◇


 百万。


     ◇


 極域ジェット。


 出力低下。


     ◇


 一〇〇パーセント。


     ◇


 八十。


     ◇


 五十。


     ◇


 アンブラ方向への危険。


 低下。


     ◇


 二百万。


     ◇


 二百四十万。


     ◇


 星の雨。


 完成。


     ◇


 極域ジェット。


 停止。


     ◇


 その代わり。


 ノクス表面全体から。


 無数の弱い放射。


     ◇


 四方八方へ。


     ◇


 一つ一つは。


 生命圏へ届いても。


 重大な被害を与えない強度。


     ◇


 ノクスは。


 巨大な武器のようなジェットを失い。


 淡く光る天体へ変わった。


     ◇


 アンブラから。


 信号。


     ◇


これならよい


     ◇


 司令部に。


 安堵が広がる。


     ◇


 だが。


 アンブラは続けた。


     ◇


よいではない


     ◇


耐えられる


     ◇


 危険がゼロになったわけではない。


     ◇


 弱い放射が。


 十六年間続く。


     ◇


 アンブラ・ネットワークの一部へ。


 負担はかかる。


     ◇


 だが。


 壊滅は避けられる。


     ◇


 人類とセラトは。


 アンブラへ。


 損失補償という概念を説明しようとした。


     ◇


 だが。


 アンブラには。


 所有。


 領域。


 資源交換。


 そうした概念がほとんどなかった。


     ◇


 彼らは。


 必要なものを。


 全体へ分ける。


     ◇


 返された要求。


     ◇


記録を共有せよ


     ◇


「何の記録を?」


     ◇


ノクス


     ◇


地球


     ◇


セラト


     ◇


あなたたちが間違えた過程


     ◇


 成功だけではない。


     ◇


 誰もいないと決めたこと。


     ◇


 一方向へ危険を捨てようとしたこと。


     ◇


 相手の存在を知ってから。


 止めたこと。


     ◇


 それら全て。


     ◇


 レアが言った。


「彼らは、失敗の記録を求めてる」


     ◇


 アンブラ。


     ◇


失敗を隠す文明は


同じ危険を繰り返す


     ◇


 人類とセラトは。


 全記録を共有することを決めた。


     ◇


 ただし。


 個人情報。


 保護思考。


 非公開医療情報。


 それらは除く。


     ◇


 アンブラは。


 その選択を受け入れた。


     ◇


 ミラは。


 火星の病室から。


 ノクスの新しい姿を見た。


     ◇


 黒い天体。


     ◇


 表面全体に。


 無数の小さな光。


     ◇


「きれい」


 ソニア。


「危険な天体です」


「分かってます」


     ◇


 危険であることと。


 美しく見えること。


     ◇


 どちらかを否定する必要はない。


     ◇


 リズ。


 ゆっくり拍動。


     ◇


 フォー。


 同じ基底波。


     ◇


 N7。


     ◇


多くが眠っている


     ◇


「うん」


     ◇


光が多い


     ◇


「星の雨っていうんだって」


     ◇


 N7。


     ◇


星はない


     ◇


 ミラは笑った。


     ◇


「星がなくても、光は作れるよ」


     ◇


 遠い暗黒領域。


     ◇


 アンブラ・ネットワーク。


     ◇


 恒星を持たない知性。


     ◇


 彼らは。


 星のない場所で。


 何百万年もの間。


 弱いエネルギーを分け合いながら存在してきた。


     ◇


 強い光を必要としない。


     ◇


 一つの巨大な中心を持たない。


     ◇


 だから。


 人類とセラトの望遠鏡には。


 文明として見えなかった。


     ◇


 見えないことを。


 いないことと決めた。


     ◇


 その誤りを。


 人類はまた記録した。


     ◇


 PROJECT LULLABY。


 第二段階。


     ◇


 熱の井戸。


 安定。


     ◇


 星の雨。


 二百四十万排出口。


     ◇


 ノクス内部エネルギー。


 九十八・七パーセント。


     ◇


 九十八・六。


     ◇


 わずか。


 〇・一ポイント。


     ◇


 十六年。


     ◇


 長い時間が。


 始まる。


     ◇


 その時。


 アンブラから。


 新しい観測情報が届いた。


     ◇


 彼らは。


 人類とセラトより。


 はるか以前から。


 暗黒領域を通過する重力波を観測していた。


     ◇


 ノクス。


     ◇


 同じような複合天体。


     ◇


 一つではない。


     ◇


 銀河の別方向。


     ◇


 少なくとも。


 十一。


     ◇


 ノクスに似た。


 高密度核群。


     ◇


 それぞれが。


 異なる恒星系へ向かっている。


     ◇


 会議室に。


 再び沈黙。


     ◇


 ノクスは。


 唯一の存在ではなかった。


     ◇


 アンブラ。


     ◇


あなたたちは


一つを眠らせた


     ◇


他も来る


     ◇


 人類とセラトが。


 七十年後の終末だと思っていた危機。


     ◇


 それは。


 銀河規模で繰り返されている現象の。


 一つにすぎなかった。


     ◇


 ノクスを眠らせれば。


 地球は助かるかもしれない。


     ◇


 セラトも。


     ◇


 アンブラも。


     ◇


 だが。


 別の星々では。


 今も。


 別の文明が。


 空を見上げているかもしれない。


     ◇


 まだ。


 自分たちへ向かう暗い天体を。


 知らないまま。



第42話 終


次回予告


 銀河面上方。


 星も生命も存在しないと判断された暗黒領域から、人工信号が返された。


「こちらへ向けるな」


 発信源は一つではない。


 数億の暗い小天体が巨大な格子を形成する、恒星を持たない知的ネットワーク。


 人類は彼らを、アンブラと呼ぶ。


 ノクスのジェットを止めれば、眠った核が再覚醒する。


 続ければ、アンブラを十六年間高エネルギー放射へさらす。


 人類とセラトはジェットを緊急停止し、アンブラへ協力を求める。


 アンブラが提示したのは、一方向へエネルギーを捨てるのではなく、宇宙全体へ弱く分散する方法。


 過去文明が完成できなかった「星の雨」。


 ノクス表面へ二百四十万の微小排出口が形成され、極域ジェットは停止する。


 強い一本の刃は。


 無数の弱い光へ変わった。


 PROJECT LULLABYは継続される。


 だが、アンブラの観測網から、新たな事実が明かされる。


 ノクスに似た複合高密度天体は、一つではない。


 銀河内に少なくとも十一。


 それぞれが別の恒星系へ向かっている。


 ノクスを眠らせても。


 別の世界で、同じ終末が始まる可能性がある。


 一方、方舟計画では。


 十番船から十二番船に続き、七番船から九番船の建造停止も検討される。


 ノクスが眠りへ入り始めたことで、方舟不要論が急速に広がる。


「地球が残るなら、船はいらない」


「十六年間の計画が失敗したら、逃げる場所がない」


 再び方舟を造るのか。


 その資源を、銀河の他文明へ警告を届ける観測船へ変えるのか。


 そして。


 アンブラは、人類とセラトへ一つの問いを送る。


「自分たちが助かった後」


「他を知らせるか」


 次回、


第43話「十一の終末」


 生き残ることと。


 次の誰かへ警告することは。


 別の責任だった。

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