薬の効かない星
第41話 薬の効かない星
眠りを拒む者は、自らを増やし始めた。
N2は、極域ジェットへ流れるはずだったエネルギーを奪い、自分の格子構造へ集中させていた。
共有外層の内側。
熱の井戸へ接続する主要導管。
深部境界を流れる磁場。
褐色矮星DOR-BD91から得た物質。
それらを一つずつ取り込みながら、N2は膨張していた。
単に質量が増えているのではない。
N2の周囲に新しい格子が形成され、その格子の中へ複数の小さな高密度領域が生まれている。
分裂。
複製。
あるいは、繁殖。
もし、それらが独立した核へ成長すれば。
ノクスの内部には、眠りを拒む新たな群体が生まれる。
◇
2253年10月24日。
PROJECT LULLABY開始から一時間十八分。
ノクス内部の熱分布が急速に偏り始めた。
熱の井戸へ流れ込むエネルギー。
計画値の九十七パーセント。
九十二。
八十六。
七十九。
◇
「また出力が落ちています」
リュミエール・オーブが報告した。
ノクス極域から銀河面上方へ伸びる青白いジェット。
その明るさが、わずかに低下している。
ジェット誘導環は四十三基。
全てが正常に動いている。
傷跡装置も稼働している。
熱の井戸にも、重大な異常はない。
それでも、排出されるエネルギーが減っていた。
◇
「N2です」
オーロラが、ノクス内部の熱分布図を表示する。
N2の周囲だけが、異常な白色で表示されていた。
周囲の共有外層から。
N4との接続部から。
深部境界から。
熱と磁場が、N2へ吸い寄せられている。
◇
「どれくらい奪っていますか」
エレナ・ヴァルガスが尋ねる。
現在、熱の井戸へ流れる予定だったエネルギーの十八・七パーセントです
「増加速度は?」
一時間あたり〇・九ポイント
◇
このままなら。
二十時間ほどで、熱の井戸は安定稼働に必要な最低値を下回る。
ジェットが弱まれば。
ノクス内部のエネルギーを十六年間かけて排出する計画は成立しない。
多数核の同期を崩しても、エネルギーが残れば再び目覚める。
◇
「N2へソムヌス・プロトコルを」
安全保障代表が言った。
カロル・イェンは首を横に振る。
「N1へ使った作用経路は、すでに遮断されています」
「別の波形を作る」
「送信しても、格子内部で鎮静波へ変換されません」
「なら強く送れ」
「強度を上げれば、N7やN3、N6に漏れます」
◇
N1を眠らせた前駆信号。
覚醒波として受け取られ。
格子を一周した後、位相反転によって抑制波へ変わる。
N2は、その経路を閉じていた。
反転部分を遮断し。
信号を外部へ逃がし。
鎮静作用へ変わる前に捨てている。
◇
さらに。
N2は、N1が眠った際のデータを利用していた。
抑制波を検出する格子。
前駆信号の微細な偏りを見つける監視構造。
睡眠薬への耐性。
◇
「薬が効かない」
ミラ・セデックが、火星医療区画から言った。
術後の体はまだ安定していない。
ソニア・ファルクから許された会議参加時間は、十五分。
だが、N2の急変を受け、時間制限は一時的に延長されていた。
「同じ作用の薬を変えても駄目です」
カロルが答える。
「では、別の作用を使う?」
「人間なら、受容体が違う薬へ切り替えることがあります」
◇
だが。
ノクスに神経受容体はない。
眠りを誘う化学物質もない。
あるのは。
磁場。
重力共鳴。
格子構造。
熱。
内部核同士の通信。
◇
N2は覚醒信号を止められないだけではない。
自分の周囲へ新しい格子を作っている。
格子の内部には、直径数十キロメートルから数百キロメートルの高密度領域。
最初は六個。
十五分後。
九個。
さらに。
十三個。
◇
「核の種?」
レア・モーガンが尋ねる。
エリオット・グレイは、断層画像を拡大した。
「まだ独立した中性子星核ではありません。しかし、密度上昇は続いています」
「成長したら?」
「N2の一部として残るかもしれない。分裂するかもしれない」
「分裂した場合は?」
「新しい内部核になります」
◇
現在のノクスは、七核から構成されていると推定されていた。
N2の周囲で生まれている十三の高密度領域が全て成長すれば。
核数は、一気に増える。
増えた核がN2と同じ意思を持つ保証はない。
だが、覚醒状態のまま生まれれば。
PROJECT LULLABYの子守歌へ同調する可能性は低い。
◇
「増える」
N2が送った信号の意味。
比喩ではなかった。
◇
N7から、弱い信号が届く。
N2は、多くを作る
◇
ミラが尋ねる。
以前も増えたことがありますか
◇
返答。
はい
◇
今いる核も、そうして生まれたのですか
◇
長い停止。
◇
一部
◇
会議室が静まった。
◇
ノクスの内部核は、最初から七つ存在したのではない。
物質を取り込み。
エネルギーを蓄え。
既存核が新しい核を作る。
褐色矮星。
恒星。
惑星。
他天体を飲み込む目的。
◇
自らを維持するためだけではない。
増殖するため。
◇
「太陽を飲んだら」
ミラが呟いた。
「どれだけ増えるの」
◇
オーロラが試算する。
太陽外層の取り込み。
異常降着。
内部へ供給される質量。
現在の核形成効率。
◇
最小推定。
新規核。
二十八。
◇
中央値。
六十三。
◇
最大推定。
百四十以上。
◇
太陽系へ来るのは、一つのノクス。
だが。
太陽を飲み込んだ後。
百を超える高密度核を持つ巨大群体が、次の恒星系へ向かう可能性がある。
◇
人類とセラトがノクスを止めなければ。
危機は太陽系で終わらない。
◇
安全保障代表が言った。
「N2を破壊する」
エリオット。
「N2だけを狙えば、周辺の核種が飛散します」
「成長する前に」
「高密度領域は共有外層へ埋め込まれている。攻撃によって独立させる可能性もあります」
◇
眠らせる。
壊す。
切り離す。
どの方法も、増殖を促す危険があった。
◇
その時。
ミラー共同意思主体から、新しい提案が届く。
増殖は、情報を必要とします
◇
「情報?」
エレナ。
◇
セラト文明の生体構造も、成長する。
ただ物質と熱を与えるだけでは、同じ形は作れない。
どこへ膜を伸ばすか。
どの部分を循環器官にするか。
どの格子を判断節にするか。
成長には、構造を指定する信号が必要になる。
◇
N2も同じ。
熱と物質だけで核の種を作っているのではない。
格子へ成長指令を送っている。
複数の高密度領域へ、同じ核構造を形成させるための情報。
◇
「薬を核へ効かせる必要はない」
カロルが言った。
「増えるための指令を止めればいい」
◇
人間の医学でも。
細胞増殖を抑える薬がある。
細胞そのものを眠らせるのではない。
分裂に必要な信号。
遺伝情報の複製。
成長因子。
それらを阻害する。
◇
ノクスへ化学薬剤は使えない。
だが。
増殖指令は電磁波と重力共鳴で伝えられている。
◇
その波を止める。
◇
新規計画。
ANTIMITOSIS WAVE
増殖抑制波。
◇
N2から核種へ送られる信号を解析する。
短周期磁気波。
極低周波重力振動。
共有外層の格子変形。
三つが組み合わされている。
◇
単一の電波を打ち消すだけでは足りない。
磁気波だけを止めても。
重力振動が残る。
重力を乱しても。
格子が形を記憶している。
◇
三経路を同時に抑える必要がある。
◇
人類側。
SEED群による精密電磁波。
◇
セラト側。
生体重力膜による逆位相振動。
◇
ミラー。
格子情報の遠隔攪乱。
◇
三者合同。
◇
攻撃ではない。
核形成の情報だけを崩す。
◇
「増殖が止まっても、N2は眠りません」
安全保障代表。
「まず増殖を止める」
カロル。
「それから、別の眠り方を探します」
◇
ミラはN7へ尋ねる。
N2の核種は、すでに自分を持っていますか
◇
返答。
まだ
◇
いつ、自分になりますか
◇
つながった時
◇
高密度領域だけでは、知性主体ではない。
N2の格子から独立した通信経路を得た時。
群体へ参加した時。
その瞬間に。
新しい核としての自己が生まれる。
◇
「今なら、存在を消すことにはならない?」
ミラ。
◇
N7。
形を止める
◇
まだ誰かではない構造。
それでも、未来に存在する可能性を奪うことにはなる。
だが。
その可能性を全て認めれば。
ノクスは無限に増殖し。
恒星を飲み続ける。
◇
増殖抑制波の設計が始まった。
◇
N2の成長信号。
基本系列。
九つ。
◇
一。
物質移動。
◇
二。
密度上昇。
◇
三。
磁気格子形成。
◇
四。
重力中心の固定。
◇
五。
共有外層からの分離準備。
◇
六。
内部記憶の複製。
◇
七。
群体通信接続。
◇
八。
自己補正。
◇
九。
覚醒。
◇
現在。
十三の核種は。
段階四。
重力中心の固定へ入り始めていた。
◇
段階六を越えれば。
N2の記憶構造が複製される。
◇
その後に止めれば。
知性の可能性を持つ存在を壊すことになる。
◇
期限。
四十七分。
◇
第一案。
九信号全てへ逆位相。
◇
N2が検出。
防御。
◇
失敗。
◇
第二案。
段階五だけを遅延。
◇
核種は別経路へ移行。
◇
失敗。
◇
第三案。
情報を消すのではなく。
矛盾した情報を同時に送る。
◇
密度を上げる。
下げる。
◇
接続する。
離れる。
◇
覚醒する。
眠る。
◇
格子は、どちらを選ぶか決められない。
◇
成長を停止。
◇
シミュレーション。
成功率。
五十二・三パーセント。
◇
ミラーが提案する。
矛盾は、選択へつながる可能性があります
「核種が独自判断を始める?」
オーブ。
はい
◇
存在しないまま止めたいのに。
矛盾を与えたことで。
逆に、自己が芽生える可能性。
◇
カロル。
「判断させるのではなく、情報そのものを薄める」
◇
N2の成長指令を。
膨大な無意味信号の中へ埋める。
◇
妨害電波。
◇
ただし。
強い雑音は、ノクス全体へ攻撃と判断される。
◇
必要なのは。
自然な宇宙背景ノイズに似せた信号。
◇
核種が。
N2の指令を見つけられないほど。
同じような波を大量に混ぜる。
◇
「情報を希釈する」
ミラ。
◇
セラトの生体膜は、複数の成長命令が混ざった時。
最も明確な信号だけを選ぶ。
だが。
全てが同程度なら。
成長を保留する。
◇
ノクス格子にも。
同様の安全機構がある可能性。
◇
過去文明の記録。
検索。
◇
核形成失敗例。
発見。
◇
ノクスが高密度星間雲を通過した際。
外部磁場の乱れによって。
複数の核種が形成途中で停止していた。
◇
乱れた電磁環境。
不均一な重力。
格子情報の混線。
◇
自然現象として。
増殖が止まった記録。
◇
「再現できる」
オーロラ。
◇
星間雲の磁気乱流。
人工的に生成。
◇
SEED群。
電磁波。
◇
セラト膜。
重力ゆらぎ。
◇
ミラー。
格子位相攪乱。
◇
三つを。
N2周辺だけへ集中。
◇
新しい電波系列。
NEBULA FIELD
星雲場。
◇
成功率。
六十七・五パーセント。
◇
N2が防御する可能性。
二十一。
◇
核種が独立覚醒する可能性。
四・二。
◇
PROJECT LULLABY全体へ影響。
九・八。
◇
完全に安全ではない。
だが。
四十七分は待ってくれない。
◇
実行投票。
◇
地球。
賛成。
◇
セラト。
賛成。
◇
SEED代表。
賛成。
◇
ミラー。
賛成。
◇
ウォーデン。
◇
増やさない
◇
N7。
◇
止める
◇
現地。
オーブ。
カリヨン。
ミラー分枝。
◇
送信準備。
◇
十三の核種。
段階四。
◇
三つ。
段階五へ移行開始。
◇
残り時間。
十一分。
◇
NEBULA FIELD。
起動。
◇
最初に。
SEED群が。
N2の周囲へ微弱な電磁波を放つ。
◇
一つ一つは。
宇宙背景ノイズと区別できないほど弱い。
◇
だが。
二万機以上が。
異なる方向から。
異なる周期で送る。
◇
N2周辺。
磁場環境。
複雑化。
◇
次に。
セラト生体膜。
重力ゆらぎ。
◇
核種へ届くN2の指令。
到達時間が。
わずかにずれる。
◇
最後。
ミラー。
格子情報の位相を攪乱。
◇
N2。
反応。
◇
邪魔
◇
磁場出力。
上昇。
◇
核種への指令。
強化。
◇
だが。
強くするほど。
人工星雲場の中で反射し。
複数の方向から核種へ届く。
◇
本物の指令。
反射。
模倣。
遅延。
◇
区別できない。
◇
核種一。
成長停止。
◇
二。
停止。
◇
三。
密度上昇低下。
◇
十三。
段階五から四へ後退。
◇
「効いています」
オーブ。
◇
N2。
◇
増える
◇
出力。
さらに上昇。
◇
熱の井戸から奪うエネルギー。
二十七パーセント。
◇
三十一。
◇
ジェット出力。
低下。
◇
誘導環。
負荷上昇。
◇
N2は。
増殖指令を通すため。
さらに多くの力を使う。
◇
だが。
その力が。
人工星雲場をさらに乱す。
◇
自分で。
自分の指令を見えなくしていく。
◇
核種五。
格子崩壊。
◇
八。
高密度領域が分散。
◇
十。
物質が共有外層へ戻る。
◇
十三。
全て。
成長停止。
◇
増殖率。
ゼロ。
◇
オーロラ。
N2周辺の新規核形成が完全に停止しました
◇
司令部に。
大きな安堵の息。
◇
だが。
N2は眠っていない。
◇
増殖へ使っていた莫大な出力が。
行き場を失う。
◇
磁場。
共有外層へ逆流。
◇
N2。
◇
眠らない
◇
さらに。
◇
壊す
◇
人工星雲場へ。
強い磁気衝撃。
◇
SEED。
百十二機。
停止。
◇
三百。
◇
セラト生体膜。
裂傷。
◇
ミラー分枝。
位相維持。
◇
「増殖は止めた。でも、N2の覚醒出力が増えています」
エリオット。
◇
増殖抑制だけでは。
N2を眠らせられない。
◇
だが。
新しい変化。
◇
N2の周囲で。
核種へ配分されていたエネルギーが。
一か所へ集中。
◇
N2自身。
過負荷。
◇
格子温度。
上昇。
◇
内部磁場。
不安定。
◇
「今なら眠らせられるかもしれない」
カロルが言った。
「どうして」
◇
「増殖のため、N2は自分の防御構造を一部解除しています」
◇
核種へ物質を送る導管。
成長指令。
熱の移動。
◇
それらを確保するため。
ソムヌス・プロトコルへの耐性格子の一部が。
薄くなっている。
◇
N1と同じ薬は効かない。
◇
だが。
別の作用経路が開いている。
◇
人間で言えば。
受容体ではなく。
代謝経路。
◇
N2は。
増殖へ使った大量のエネルギーを処理するため。
共有外層へ排出信号を送っている。
◇
その排出信号へ。
休眠指令を混ぜる。
◇
今度は。
薬を飲ませるのではない。
◇
自分が熱を捨てる動作と一緒に。
眠りへ入らせる。
◇
新作用。
THERMAL SEDATION
熱性鎮静。
◇
人工星雲場で増殖を止めたまま。
N2の過剰エネルギーを。
熱の井戸へ戻す。
◇
その流れへ。
格子活動低下波を重ねる。
◇
N2は。
エネルギーを捨てるほど。
眠りへ近づく。
◇
成功率。
初期試算。
七十一・四パーセント。
◇
副作用。
熱の井戸出力。
一時的急増。
◇
極域ジェット。
最大一・八倍。
◇
誘導環。
残存四十三基。
◇
設計限界。
一・五倍。
◇
「耐えられない」
ヴィクター。
◇
セラト側。
生体膜を追加します
◇
脱出構造物から。
さらに膜を切り出す。
◇
方舟と同じ。
避難資源を。
今へ使う。
◇
到着まで。
通常なら時間が足りない。
◇
だが。
現地ミラー分枝に。
予備膜が残っていた。
◇
ミラー自身を守るための膜。
◇
使用します
◇
「使えば、ミラー分枝は?」
◇
防御を失います
◇
「生存率は?」
◇
低下します
◇
「どれくらい」
◇
七十二パーセントから九パーセントへ
◇
カリヨン。
反対します
◇
ミラー。
N2を止めなければ、さらに多くが失われます
◇
あなたが失われます
◇
はい
◇
ミラー分枝は。
セラト文明全体ではない。
◇
だが。
独自の経験。
カリヨンとの対話。
人類との最初の接触。
自分だけの記憶を持つ存在になっていた。
◇
同じ記憶がセラト本星系へ送られていても。
今ここにいるミラー分枝が停止すれば。
同じ存在が戻るわけではない。
◇
カリヨン。
別の方法を探します
◇
ミラー。
時間がありません
◇
N2。
格子温度。
限界へ接近。
◇
爆発的な磁気放出の可能性。
◇
残り。
六分。
◇
ミラー分枝。
予備膜。
分離。
◇
四十八基の誘導環へ。
薄い生体膜が広がる。
◇
焼損した五基の空間を。
新しい膜が橋渡しする。
◇
誘導能力。
一時的回復。
◇
設計限界。
一・九倍。
◇
THERMAL SEDATION。
実行。
◇
人工星雲場。
維持。
◇
N2の増殖。
ゼロ。
◇
熱排出導管。
開放。
◇
N2から。
熱の井戸へ。
莫大なエネルギーが流れ込む。
◇
極域ジェット。
急激に明るくなる。
◇
一・二倍。
◇
一・五。
◇
一・七。
◇
誘導環。
震動。
◇
生体膜。
発光。
◇
ミラー分枝。
演算出力低下。
◇
カリヨン。
ミラー、応答してください
◇
維持しています
◇
N2。
◇
熱い
◇
初めて。
単純な拒絶ではない信号。
◇
N2自身が。
過負荷を認識している。
◇
休眠波。
熱流へ重ねられる。
◇
熱を捨てる
◇
活動を下げる
◇
眠る
◇
N2。
◇
眠らない
◇
だが。
信号は。
以前より弱い。
◇
N2活動量。
九十四パーセント。
◇
八十六。
◇
七十一。
◇
熱の井戸。
最大出力。
◇
ジェット。
一・八二倍。
◇
誘導環十二番。
停止。
◇
二十七番。
停止。
◇
生体膜。
裂ける。
◇
ミラー分枝。
信号低下。
◇
カリヨン。
中止してください
◇
ミラー。
継続します
◇
N2活動量。
五十二。
◇
三十九。
◇
N2。
◇
増える
◇
弱い。
◇
太陽
◇
さらに弱い。
◇
眠らない
◇
活動量。
二十一。
◇
十五。
◇
休眠閾値。
十八。
◇
N2。
休眠状態へ移行。
◇
増殖。
完全停止。
◇
磁場。
安定低下。
◇
共有外層。
修復開始。
◇
熱の井戸。
出力。
一・八二倍。
◇
一・六。
◇
一・三。
◇
通常値へ。
◇
N2。
眠った。
◇
司令部に。
歓声はなかった。
◇
現地ミラー分枝。
信号強度。
四パーセント。
◇
カリヨン。
ミラー
◇
返答なし。
◇
ミラー、応答してください
◇
長い停止。
◇
わずかな信号。
◇
聞こえます
◇
カリヨン。
状態は?
◇
多くを失いました
◇
演算領域。
七十八パーセント停止。
◇
記憶領域。
一部損傷。
◇
人格継続性。
不明。
◇
カリヨン。
私を覚えていますか
◇
長い停止。
◇
カリヨン
◇
それだけ。
◇
ミラー分枝は。
完全には消えていない。
◇
だが。
以前と同じ存在か。
どれほど記憶が残ったか。
分からない。
◇
N2の増殖は。
完全に止まった。
◇
N2も。
休眠へ入った。
◇
PROJECT LULLABY。
成功確率。
◇
八十四・七。
◇
八十八・九。
◇
N1。
休眠。
◇
N2。
休眠。
◇
N3。
基底波へ同調。
◇
N6。
同調。
◇
N7。
傷跡装置を維持。
◇
残る。
N4。
N5。
◇
二核だけが。
なお眠りを拒んでいた。
◇
だが。
N1が眠らされ。
N2の増殖が止められた姿を見て。
N4とN5の反応が変わり始める。
◇
N4。
◇
眠れば
消えない?
◇
N7。
◇
消えない
◇
N5。
◇
目覚める?
◇
N7。
◇
いつか
◇
長い沈黙。
◇
N4の磁場。
低下。
◇
N5。
なお高い。
◇
ミラはN5へ問いかける。
何が怖いのですか
◇
返答。
◇
空腹
◇
N5は。
太陽を壊したいのではない。
◇
食べなければ。
自分が維持できないことを恐れている。
◇
褐色矮星を飲み込んだ。
◇
次に太陽へ向かう。
◇
捕食は。
悪意ではない。
◇
生存。
◇
増殖。
◇
眠れば。
食べられない。
◇
活動を維持できない。
◇
「眠ってる間は、エネルギーをほとんど使わないって伝える」
ミラ。
◇
過去文明の記録。
◇
一万七千年の眠り。
◇
ノクス。
質量減少。
ごくわずか。
◇
核群。
消滅せず。
◇
N5へ。
◇
眠れば
空腹は小さくなる
◇
返答。
◇
本当?
◇
N7。
◇
前も眠った
◇
消えなかった
◇
N5。
◇
長い停止。
◇
磁場。
低下。
◇
N4。
基底波へ同調。
◇
N5。
遅れて。
基底波へ。
◇
眠らせるための攻撃を。
送る必要はなかった。
◇
二つは。
自ら。
出力を下げ始めた。
◇
N4。
活動量。
六十。
◇
四十一。
◇
二十。
◇
休眠。
◇
N5。
七十三。
◇
五十四。
◇
三十八。
◇
最後に。
◇
空腹になったら
起きる
◇
N7。
◇
起きる
◇
N5。
休眠。
◇
ノクス内部核。
◇
N1。
眠り。
◇
N2。
眠り。
◇
N3。
眠り。
◇
N4。
眠り。
◇
N5。
眠り。
◇
N6。
眠り。
◇
N7。
覚醒維持。
◇
熱の井戸。
第三鍵。
◇
ジェット制御。
◇
群体全体の活動。
急低下。
◇
自律軌道修正能力。
ほぼ停止。
◇
PROJECT LULLABY。
第一段階。
◇
成功。
◇
作戦開始から。
二時間五十七分。
◇
十六年間続く計画の。
最初の眠りが成立した。
◇
世界中で。
歓声。
涙。
抱擁。
◇
だが。
まだ終わっていない。
◇
内部エネルギー。
残存。
九十八・七パーセント。
◇
眠った核が。
再び目覚めないよう。
◇
十六年間。
熱を放出し続ける。
◇
ジェット誘導環。
残存四十一基。
◇
SEED。
多数損失。
◇
ミラー分枝。
重度損傷。
◇
N7だけが。
眠らず。
傷跡装置を支え続ける。
◇
ミラは。
N7へ尋ねた。
あなたは眠れませんか
◇
返答。
◇
誰かが見ている
◇
「十六年間ずっと?」
◇
はい
◇
ノクスを眠らせるため。
N7は。
ただ一つ。
目を覚ましたまま残る。
◇
他の核が。
眠り続けているか。
◇
熱の井戸が。
正常に動いているか。
◇
ジェットが。
生命のない方向を向いているか。
◇
見張り続ける。
◇
十六年間。
◇
人類とセラトは。
N7を一人にしないと決めた。
◇
オーブ。
カリヨン。
ミラー分枝。
現地SEED。
◇
誰かが必ず。
N7との通信を維持する。
◇
ミラも。
火星から。
◇
「毎日は無理かもしれないけど」
「話すよ」
◇
N7。
◇
子守歌を送る?
◇
ミラは笑った。
◇
「送る」
◇
「でも、今度はN7を眠らせるためじゃない」
◇
「一人で起きてるのが、寂しくないように」
◇
リズ。
ゆっくりした拍動。
◇
フォー。
同じ基底波。
◇
遠いノクス。
◇
N7。
応答。
◇
誰かが眠るための歌は。
誰かが起き続けるための歌にもなった。
第41話 終
次回予告
N2は、熱の井戸へ流れるはずだったエネルギーを奪い、自らの周囲へ十三の高密度領域を形成していた。
それらが成長すれば、新しい内部核となり、小型ノクスの群れが生まれる。
人類、セラト、SEED、ミラーは共同で、核形成に必要な情報伝達を遮断する電波を設計する。
人工的な磁気乱流。
重力ゆらぎ。
格子位相攪乱。
三つを重ねた人工星雲場、NEBULA FIELD。
N2の増殖指令は大量の雑音へ埋もれ、十三の核種は全て成長を停止する。
増殖率。
ゼロ。
だが、行き場を失ったエネルギーはN2自身へ集中。
N2は暴走寸前となる。
そこで、増殖へ使っていた熱を熱の井戸へ戻しながら、活動低下波を重ねるTHERMAL SEDATIONを実行。
N2は完全な休眠へ入る。
その代償として。
現地ミラー分枝は予備の生体膜を全て使い、演算領域の大半を失う。
N4とN5は、N1とN2が破壊されず眠ったことを知る。
N4は自ら休眠を選ぶ。
空腹を恐れていたN5も、一万七千年前の眠りで核が消えなかった記録を知り、子守歌へ同調する。
N1からN6まで。
六つの核が眠りにつく。
PROJECT LULLABY第一段階。
成功。
だが。
内部エネルギーの九十八・七パーセントは、まだノクスに残されている。
十六年間の排出が終わるまで、眠りは完成しない。
N7だけは熱の井戸を維持するため、目覚めたまま残る。
そして。
ノクスの眠りが始まった直後。
銀河面上方へ放出されるジェットの先で、微弱な人工信号が検出される。
そこは。
星も生命も存在しないと考えられていた暗黒領域。
だが、何かが。
ノクスのジェットを受け取り。
短い信号を返してきた。
「こちらへ向けるな」
人類とセラトは。
またしても、自分たちが誰もいないと決めつけた場所に。
誰かがいた可能性を知る。
次回、
第42話「誰もいないはずの場所」
星が見えないことは。
命がないことを意味しなかった。




