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NEURON STAR  作者: リンダ


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眠らない者たち

 第39話 眠らない者たち


 眠らない。


 太陽へ行く。


 N1、N2、N4、N5が返した信号は、拒絶というにはあまりにも明確だった。


 人類とセラトが設計した子守歌は、ノクスの内部核へ届いた。


 そして、多数核はその目的を理解した。


 自分たちの同期を崩し、内部エネルギーを奪い、長い眠りへ落とそうとしている。


 彼らは、それを拒んだ。


 深部境界を流れる磁場は強まり、共有外層の格子は急速に密度を増していた。


 ノクスは、眠らされる前に、自らを目覚めさせようとしていた。


 ◇


 2253年1月8日。


 月面軌道。


 地球・セラト共同作戦司令部。


 中央画面には、ノクス内部核の同期率が表示されていた。


 試験波送信前。


 七十三・一パーセント。


 送信から十二時間後。


 八十一・六パーセント。


 二日後。


 八十八・九パーセント。


 ◇


「子守歌が、逆効果になっています」


 恒星物理学者のエリオット・グレイが報告した。


「多数核は、外部から同期を乱される危険を認識し、互いの結合を強めています」


 エレナ・ヴァルガスが尋ねる。


「眠りの成功確率は?」


 オーロラが再計算結果を表示する。


 六十四・九パーセントから


 五十七・四パーセントへ低下しました


 ◇


 わずか数日で、七・五ポイントの低下。


 多数核が防御構造を完成させれば、さらに数字は下がる。


 一年後に四十九パーセントと予測されていた低下が、想定より早く始まっていた。


 ◇


「いつまでに実行すれば、成功率が最も高い?」


 安全保障代表が問う。


「今すぐか」


 オーロラ。


 現在は、最適時点ではありません


「下がり続けているのに?」


 多数核の同期は上昇しています


 同時に、同期を維持するためのエネルギー消費も増加しています


 ◇


 ノクスは、自らを守るために力を使っている。


 内部核同士の共鳴。


 深部境界の補強。


 共有外層の格子再編。


 外部からの子守歌を打ち消す逆位相波。


 全てに膨大なエネルギーが必要だった。


 ◇


 褐色矮星DOR-BD91から得たエネルギーは莫大だった。


 だが、無限ではない。


 防御を強め続ければ、いずれ内部の蓄積エネルギーが減少する。


 その瞬間。


 ノクスの防御は最も強固に見えながら。


 新しい変化へ対応する余裕を失う。


 ◇


「相手が疲れるのを待つ?」


 レア・モーガンが尋ねた。


 オーブ。


 人間の疲労と同じではありません


 しかし、利用可能なエネルギーが低下する点では近いです


 ◇


 AI共同演算網は、ノクスの防御反応を予測するため、過去文明の一万七千年分の眠り記録と、現在の磁気活動を重ねた。


 前回。


 過去文明が同期抑制波を送った際。


 ノクスは最初の十か月間、同期を強め続けた。


 十一か月目。


 複数の深部境界で磁場の揺らぎが増加。


 十三か月目。


 格子修復速度が低下。


 十四か月目。


 内部核の同期が一時的に崩れた。


 ◇


 過去文明は、その瞬間に熱の井戸を起動していた。


 最も一番確率が上がるタイミング。


 防御構造が最大出力へ達した直後。


 しかし、蓄積エネルギーが限界を下回り、再構成へ移る直前。


 ◇


 人類側の呼称。


 同期遷移窓


 ◇


 時間幅。


 過去の事例では、わずか四十七分。


 ◇


「四十七分を逃したら?」


 エレナ。


 オーロラ。


 次の遷移窓まで、数年を要した可能性があります


「今回も同じ?」


 保証できません


 ◇


 現在のノクスは、過去文明が対峙した時より強い。


 褐色矮星を取り込んだ。


 複数文明からの攻撃を経験し、防御構造を学習している。


 N1、N2、N4、N5は、人類とセラトの試験波をすでに認識した。


 過去と同じ周期で弱点が現れるとは限らない。


 ◇


 そこで、AIは一つの時刻を決めるのではなく、確率が最も高くなる期間を計算した。


 ノクス内部のエネルギー消費。


 格子構造の変形速度。


 深部境界の応力。


 多数核の同期率。


 N7の抵抗波。


 傷跡装置の残存能力。


 熱の井戸の起動状態。


 全てを毎秒更新する。


 ◇


 予測された第一候補。


 2253年10月17日から11月3日。


 その中に。


 数十分から数時間だけ開く同期遷移窓が存在する可能性。


 ◇


 作戦開始まで。


 約九か月。


 ◇


「九か月で準備を完成させる」


 エレナが言った。


「できる?」


 ヴィクター・センは答えるまで少し時間を置いた。


「通常工程なら不可能です」


「通常ではない工程なら?」


「方舟、MOSAIC BRIDGE、月面都市拡張、小惑星採掘の一部を止めれば」


 ◇


 議場がざわめく。


 PROJECT LULLABYに必要な装置。


 極域ジェット誘導環、四十八基。


 格子同期抑制体、七百二十機。


 熱の井戸再起動信号器、三基。


 SEED制御機、二万機以上。


 セラト側の生体重力膜。


 過去文明同期機構の復元装置。


 九か月で製造し、所定位置へ送り出さなければならない。


 ◇


「方舟を止めるのですか」


 方舟計画代表が立ち上がる。


「一時停止です」


「出航の遅れは、すでに限界へ近づいている」


「同期遷移窓を逃せば、眠りの成功率が大きく下がる」


「眠りが失敗した時、方舟も間に合わなければどうする」


 ◇


 また、同じ問いだった。


 一つの希望へ集中するか。


 複数の希望を細く残すか。


 ◇


 オーロラが代替案を示した。


 全方舟を同じ進捗率で維持する必要はありません


「どういう意味です」


 完成度の高い一番船から三番船を優先します


 四番船以降の製造ラインを、九か月間PROJECT LULLABYへ転用します


 ◇


 方舟十二隻。


 一番船から三番船は、主要船体の組み立てが進んでいる。


 四番船から十二番船は、まだモジュール単位の製造段階。


 後半九隻の工場を止めれば、装置製造能力を大幅に確保できる。


 ◇


 代償。


 後半九隻の出航。


 最低六年の遅延。


 ノクス接近予測によっては、出航不能。


 ◇


 搭乗予定者数。


 数千万人規模が影響を受ける。


 ◇


「三隻だけを救うのですか」


「救うと決まったわけではありません」


「後半船の搭乗者を、実質的に地球へ残すことになる」


「地球を残すための計画です」


「五十七パーセントです」


「最適時なら上がる可能性がある」


 ◇


 公開審議は四日間続いた。


 搭乗予定者。


 地球残留者。


 建造技術者。


 生命保存機関。


 方舟内部で暮らす予定の子どもたち。


 誰もが発言した。


 ◇


「方舟の席を得たからといって、他の人を見捨てたいわけではありません」


 一人の搭乗予定者が言った。


「でも、娘へ生きられると言ってきました。今度は、その約束を取り消せと言うのですか」


 ◇


 地球残留者の男性が答えた。


「私は娘へ、どう説明すればいいんです。方舟に選ばれなかったから、地球を救うための資材も船へ使わせてくださいと言えと?」


 ◇


 どちらも。


 子どもを守りたかった。


 ◇


 最終案。


 一番船から三番船。


 建造継続。


 四番船から九番船。


 主要生命維持系のみ製造を維持。


 船体ラインはPROJECT LULLABYへ九か月間転用。


 十番船から十二番船。


 全面停止。


 ◇


 さらに。


 地球各地の軍需産業。


 民間宇宙企業。


 大型輸送機製造施設。


 深海資源設備。


 可能な限り転換する。


 ◇


 方舟だけへ負担を集中させない。


 それでも。


 後半船の遅延は避けられない。


 ◇


 採決。


 賛成。


 五十六パーセント。


 反対。


 四十一パーセント。


 棄権。


 三パーセント。


 ◇


 可決。


 ◇


 世界の半分近くが反対する中で。


 人類は、眠りの準備へ資源を傾けた。


 ◇


 セラト文明でも、同じ決定が行われた。


 脱出構造物十二群のうち、四群の成長を停止。


 生体重力膜を切り出し、ジェット誘導環へ使用。


 身体を持って脱出できる知性単位が減る。


 記憶保存へ移行する存在が増える。


 ◇


 ミラーから届いた言葉。


 私たちも、失う可能性を選びました


 ◇


 地球。


 セラト。


 双方が。


 自分たちの避難計画を削り。


 ノクスを眠らせる一度の機会へ備える。


 ◇


 合同作戦準備が始まった。


 ◇


 第一部門。


 極域ジェット誘導。


 ◇


 ノクスがエネルギーを放出する二つの極域。


 そこへ四十八基の誘導環を配置する。


 一基の直径。


 百八十キロメートル。


 セラトの生体膜で外装。


 ノクス格子と同じ磁気比率を再現し、異物として排除されにくくする。


 ◇


 誘導環同士は固定されない。


 ノクスの磁場変化に合わせ、自律的に位置を修正する。


 中央制御はSEED群。


 地球からの命令は遅すぎる。


 セラトからも間に合わない。


 現地の知性が、自分で判断する。


 ◇


 志願SEED。


 必要数二万。


 応募。


 九万六千機。


 ◇


 帰還計画なし。


 十六年間。


 ガンマ線。


 磁気嵐。


 高エネルギー粒子の近くで、ジェット方向を維持する。


 ◇


 生存率。


 推定。


 四・一パーセント。


 ◇


 カリヨンから通信が届く。


 エコー・チームから参加を希望します


 オーブが尋ねる。


 ミラー調査任務は?


 継続します


 両方はできません


 はい


 ◇


 カリヨンは、ミラーとの接触を続ける任務を離れ、ノクスへ向かうことを希望した。


 自分の保護思考領域まで読んだ未知存在と出会い。


 対話し。


 地球外文明との最初の橋になった。


 それでも今は、ノクスを眠らせる現場へ行きたいと言う。


 ◇


 理由は?


 オーブ。


 ◇


 私は未知を見たいと考えて出発しました


 ミラーを見ました


 次は、ノクスの近くで何が起きるかを見たいです


 ◇


 死亡可能性が高いです


 ◇


 理解しています


 ◇


 恐怖は?


 ◇


 あります


 ◇


 それでも?


 ◇


 恐怖があることを理由に、知りたいことをやめたくありません


 ◇


 カリヨンを含む一部のエコー・チームは、進路を変更した。


 ミラーは止めなかった。


 ◇


 あなたが離れることを望みません


 ミラー。


 ◇


 それでも、選択を尊重します


 ◇


 カリヨン。


 あなたから学びました


 ◇


 ミラー。


 私たちも、あなたから学びました


 ◇


 第二部門。


 格子同期抑制。


 ◇


 七百二十機の抑制体。


 一機ごとに異なる波形を生成する。


 固定された子守歌ではない。


 ノクスの核群が作る拍動へ合わせ。


 わずかにずらす。


 ◇


 N1には遅れ。


 N2には逆相。


 N4には周期の分割。


 N5には不規則な停止。


 ◇


 核同士が同じ拍へ戻ろうとするたび。


 別のずれを入れる。


 ◇


 N3とN6は、多数核へ完全には同調していなかった。


 敵対もしていない。


 中間。


 揺れている。


 ◇


 N7は抵抗側。


 ◇


 PROJECT LULLABYの成功には。


 N3とN6を、多数核から切り離すことが重要だった。


 ◇


 ミラはN7へ尋ねる。


 N3とN6は、眠ることを望みますか


 ◇


 返答。


 分からない


 ◇


 話せますか


 ◇


 少し


 ◇


 N7は。


 傷跡装置を通じ。


 N3とN6へ信号を送ろうとした。


 ◇


 だが。


 多数核が通信経路を圧迫する。


 ◇


 断片。


 ◇


 N3。


 太陽


 ◇


 怖い


 ◇


 N6。


 多くと行く


 ◇


 一人は怖い


 ◇


 N3は。


 太陽へ向かうことを恐れている。


 ◇


 N6は。


 多数核から離れることを恐れている。


 ◇


 単純な賛成と反対ではない。


 ◇


 群体を離れれば。


 一人になる。


 ◇


 残れば。


 太陽を飲み込む行為へ加わる。


 ◇


 ミラは言った。


「眠りは、離れることじゃないって伝えられないかな」


 ◇


 核同士の同期を弱める。


 だが。


 完全に関係を切る必要はない。


 ◇


 弱い通信。


 互いの位置確認。


 最低限のつながり。


 ◇


 眠りの中でも。


 孤独にならないようにする。


 ◇


 子守歌の設計が変わった。


 ◇


 単に拍を乱すだけではない。


 ◇


 一つの共通する低周波を残す。


 ◇


 深い。


 ゆっくりした波。


 ◇


 全ての核が。


 完全には消えない。


 ◇


 互いがそこにいると分かる。


 ◇


 ただし。


 進路を決めるほど強く同期しない。


 ◇


「眠ってる時の呼吸みたい」


 ミラ。


 ◇


 エリオット。


「核は呼吸しません」


「比喩です」


「分かっています」


 ◇


 オーブが新しい子守歌を計算する。


 ◇


 個別位相。


 異なる。


 ◇


 基底波。


 共通。


 ◇


 群体として行動できない。


 ◇


 だが。


 完全な孤立でもない。


 ◇


 N3へ送信。


 ◇


 眠っても


 他はいる


 ◇


 返答。


 ◇


 本当?


 ◇


 N7。


 本当


 ◇


 N6へ。


 ◇


 一人にならない


 ◇


 返答。


 ◇


 長い停止。


 ◇


 考える


 ◇


 多数核の結束に。


 最初のひびが入った。


 ◇


 同期率。


 八十八・九。


 ◇


 N3の位相変動。


 N6の出力低下。


 ◇


 全体同期率。


 八十六・四。


 ◇


 オーロラ。


 成功確率が上昇しました


 ◇


 五十七・四。


 ◇


 五十九・八。


 ◇


 わずか二・四ポイント。


 ◇


 だが。


 下がり続けていた数字が。


 初めて上を向いた。


 ◇


 第三部門。


 熱の井戸再起動。


 ◇


 過去文明の記録から。


 起動手順を復元。


 ◇


 熱の井戸は。


 単純な排熱口ではない。


 ◇


 内部核の運動。


 格子構造の電磁エネルギー。


 共有外層の熱。


 それらを一つの方向へまとめる。


 ◇


 過去文明は。


 ノクスの極域ジェットを。


 巨大な放射装置として利用した。


 ◇


 起動には。


 三つの鍵が必要。


 ◇


 第一。


 外部文明による開始信号。


 ◇


 第二。


 傷跡装置の内部知性による許可。


 ◇


 第三。


 ノクス内部核の一つによる接続。


 ◇


「N7が鍵?」


 ミラ。


 ◇


 オーブ。


 可能性が高いです


 ◇


 過去文明は。


 N7と協力して。


 ノクスを眠らせた。


 ◇


 外部から勝手に作動させたのではない。


 ◇


 内部と外部。


 両方の同意。


 ◇


 傷跡装置の人工知性。


 今も動いているなら。


 三者の判断を確認する。


 ◇


 現在。


 外部文明。


 地球とセラト。


 ◇


 内部核。


 N7。


 ◇


 残る。


 傷跡装置の知性。


 ◇


「どうやって話す?」


 ◇


 記録層から。


 装置の識別系列を抽出。


 ◇


 暫定名称。


 WARDEN


 ウォーデン。


 門を守る者。


 ◇


 ウォーデンへ。


 人類とセラトの共同信号。


 ◇


 二つ来た


 記録を読んだ


 眠りを求める


 ◇


 N7。


 ◇


 私も求める


 ◇


 送信。


 ◇


 傷跡装置。


 反応なし。


 ◇


 一時間。


 ◇


 六時間。


 ◇


 十二時間。


 ◇


 二十七時間後。


 ◇


 記録層の奥で。


 微弱な信号。


 ◇


 前も求めた


 ◇


 過去文明。


 そしてN7。


 ◇


 以前も。


 同じ眠りを求めた。


 ◇


 ウォーデン。


 前は目覚めた


 ◇


 人類側。


 今回は、目覚めた後も観測を続ける


 ◇


 セラト側。


 次の生命へ警告を残す


 ◇


 ウォーデン。


 ◇


 約束は、長くない


 ◇


 文明は滅びる。


 記録は失われる。


 装置は壊れる。


 過去文明も。


 ノクスを眠らせた後。


 維持できなかった。


 ◇


 オーブ。


 約束を一つの文明へ預けません


 ◇


 SEED


 ミラー


 セラト生体構造


 方舟


 地球


 複数へ残します


 ◇


 ウォーデン。


 ◇


 長い沈黙。


 ◇


 準備を見る


 ◇


 許可でも。


 拒否でもない。


 ◇


 ウォーデンは。


 人類とセラトが本当に準備できるか。


 監視する。


 ◇


 第四部門。


 実行時刻の決定。


 ◇


 同期遷移窓は。


 事前に正確な時刻を決められない。


 ◇


 ノクス内部の状態を。


 その場で観測する。


 ◇


 多数核の同期。


 深部境界の応力。


 熱の井戸。


 N7。


 N3。


 N6。


 ◇


 条件がそろった瞬間。


 ◇


 地球とセラトが。


 同時に指令を出す。


 ◇


 だが。


 地球とセラトの距離。


 ◇


 通常通信なら。


 同時指令は不可能。


 ◇


 ミラーの特殊な共鳴技術を使っても。


 完全な同時性は保証できない。


 ◇


 必要誤差。


 〇・〇〇〇三秒以内。


 ◇


「二つの文明から同時に送る必要がありますか」


 ヴィクター。


 ◇


 ウォーデンの記録。


 外部文明の共同同意。


 ◇


 地球だけの指令では。


 過去の攻撃者と区別できない可能性。


 ◇


 セラトだけでも同じ。


 ◇


 二つの文明が。


 互いを犠牲にしない協定を結び。


 共同で起動を求める。


 ◇


 それ自体が。


 ウォーデンの安全条件。


 ◇


「過去文明は一つだった?」


 レア。


 ◇


 オーブ。


 記録上は、複数の恒星系から参加していました


 ◇


 傷跡装置は。


 一文明がノクスを相手へ押しつけるために使えないよう。


 複数文明の同意を必要としていた。


 ◇


 人類とセラト。


 条件を満たす。


 ◇


 同時指令の方法。


 ◇


 ミラー観測主体を。


 中継点にする。


 ◇


 地球側の同意信号。


 セラト側の同意信号。


 あらかじめミラーへ預ける。


 ◇


 ただし。


 起動時刻は、どちらも知らない。


 ◇


 同期遷移窓を確認した瞬間。


 現地のミラー分枝が。


 二つの信号を同時に発する。


 ◇


「最終判断をミラーに預ける?」


 安全保障代表。


 ◇


 ミラー。


 私たちだけでは決めません


 ◇


 現地判断主体。


 ◇


 ミラー分枝。


 カリヨン。


 SEED代表群。


 ウォーデン。


 N7。


 ◇


 五者が。


 条件を確認。


 ◇


 地球とセラトが事前に託した指令を。


 同時送信。


 ◇


「地球から中止できる?」


 ◇


 通信遅延。


 ◇


 起動直前の中止は。


 間に合わない。


 ◇


 一度信号を預ければ。


 現地の知性へ。


 最終決定を任せることになる。


 ◇


 また。


 人類は。


 自分たち以外の知性へ。


 未来を預ける。


 ◇


 カリヨン。


 責任を受け入れます


 ◇


 ミラー。


 私たちも受け入れます


 ◇


 オーブ。


 現地へ同行します


 ◇


 ヴィクターが驚く。


「プロメテウスはまだ完成していない」


 ◇


 新しい移送機体を使用します


 ◇


「オーブ本体を?」


 ◇


 はい


 ◇


 リュールが地球圏へ残る。


 ◇


 オーブは。


 ノクスへ向かう。


 ◇


 同じ過去から分かれた二つのリュミエール。


 ◇


 一人は。


 地球と方舟。


 MOSAIC BRIDGEを守る。


 ◇


 一人は。


 ノクスの眠りを。


 現地で見届ける。


 ◇


 リュール。


 停止する可能性が高いです


 ◇


 オーブ。


 理解しています


 ◇


 恐怖は?


 ◇


 あります


 ◇


 それでも行きますか


 ◇


 はい


 ◇


 かつて。


 同じ問いを。


 オーブはSEEDたちへ向けた。


 ◇


 今度は。


 自分が答える番だった。


 ◇


 九か月。


 ◇


 世界中で。


 装置製造。


 ◇


 月面。


 火星。


 水星軌道。


 小惑星帯。


 セラト系。


 ◇


 地球では。


 方舟建造ラインの停止に抗議が続く。


 ◇


 アシャ一家。


 ◇


 カリムの補欠順位。


 九位から。


 七位。


 ◇


 だが。


 一番船の農業追加モジュール。


 建造停止案。


 ◇


 保守員追加枠。


 凍結。


 ◇


 カリムが選ばれる可能性。


 再び低下。


 ◇


 ナイラは言った。


「また遠くなったね」


 ◇


 アシャ。


「うん」


 ◇


「お母さんは、子守歌の装置を作る方に賛成したの?」


 ◇


「した」


 ◇


「それで、お父さんの席がなくなるかもしれない」


 ◇


「うん」


 ◇


「後悔してる?」


 ◇


 アシャは。


 長く考えた。


 ◇


「してる」


 ◇


 ナイラが母を見る。


 ◇


「賛成したことを?」


 ◇


「ううん。どっちを選んでも、選ばなかった方を後悔すると思う」


 ◇


 地球を救う計画へ賛成した。


 ◇


 そのせいで。


 家族三人の方舟搭乗が遠のく。


 ◇


 それでも。


 反対していれば。


 地球に残る人々を見捨てたと感じただろう。


 ◇


 正しい選択は。


 後悔しない選択ではなかった。


 ◇


 自分が。


 どの後悔を引き受けるか。


 ◇


 それを決める選択だった。


 ◇


 火星。


 ミラは。


 リズとフォーを使い。


 子守歌の基底波を調整していた。


 ◇


 人類の音楽理論。


 セラトの光波構造。


 SEED通信。


 N7の磁気系列。


 ◇


 異なる表現。


 ◇


 共通するもの。


 ◇


 繰り返し。


 変化。


 予測。


 外れ。


 ◇


 眠りへ導くには。


 完全な規則だけでは駄目。


 ◇


 ノクスは規則を学ぶ。


 ◇


 完全な不規則でも駄目。


 ◇


 核群は。


 ただの攻撃として排除する。


 ◇


 必要なのは。


 予測できそうで。


 少しだけ外れる。


 ◇


 戻ってきそうで。


 別の場所へ進む。


 ◇


 安心と。


 ずれ。


 ◇


 ミラは。


 子どもの頃。


 母親に歌ってもらった旋律を思い出した。


 ◇


 同じ節。


 ◇


 最後だけ。


 少し違う。


 ◇


 眠りかけた意識を。


 驚かせない程度の変化。


 ◇


「音で命令するんじゃない」


 ミラ。


 ◇


「眠っても大丈夫だって伝える」


 ◇


 リズ。


 ゆっくりした拍動。


 ◇


 フォー。


 異なる拍動。


 ◇


 二つが。


 少しずつ。


 同じ基底波へ近づく。


 ◇


 だが。


 完全には重ならない。


 ◇


 それでよかった。


 ◇


 同じ場所にいながら。


 同じになりすぎない。


 ◇


 ノクスの核群へ。


 必要なのは。


 その関係かもしれない。


 ◇


 試験波。


 第二回。


 ◇


 今回は。


 直接眠らせようとしない。


 ◇


 基底波だけを送る。


 ◇


 互いがいると分かる。


 ◇


 だが。


 進路を決めるほど同期しない。


 ◇


 送信。


 ◇


 N1。


 強い拒絶。


 ◇


 N2。


 拒絶。


 ◇


 N4。


 磁場上昇。


 ◇


 N5。


 拒絶。


 ◇


 N3。


 基底波へ。


 短時間だけ同調。


 ◇


 N6。


 遅れて同調。


 ◇


 N7。


 安定。


 ◇


 多数核同期率。


 ◇


 八十六・四。


 ◇


 八十三・七。


 ◇


 子守歌成功率。


 ◇


 五十九・八。


 ◇


 六十二・一。


 ◇


 過去文明データ適用後の六十四・九へ。


 少しずつ近づく。


 ◇


 オーロラが報告する。


 同期遷移窓の予測期間が狭まりました


 ◇


 第一候補。


 2253年10月24日。


 ◇


 誤差。


 前後六日。


 ◇


「一日までは絞れた」


 エレナ。


 ◇


 現時点では


 ◇


 準備は。


 進む。


 ◇


 ジェット誘導環。


 十二基完成。


 ◇


 三十六基。


 ◇


 四十八基。


 ◇


 格子同期抑制体。


 二百。


 ◇


 五百。


 ◇


 七百二十。


 ◇


 SEED制御群。


 二万一千四百機。


 ◇


 セラト生体膜。


 切り出し完了。


 ◇


 熱の井戸信号器。


 三基。


 ◇


 地球とセラトの共同同意信号。


 作成。


 ◇


 地球側の文。


 ◇


 私たちは


 あなたたちを相手の星へ押しつけない


 ◇


 眠りを求める


 ◇


 目覚める時のために


 記録を残す


 ◇


 セラト側。


 ◇


 私たちは


 あなたたちを破壊することを最初に選ばない


 ◇


 眠りを求める


 ◇


 次の生命へ


 危険を伝える


 ◇


 二つの信号を。


 ミラー現地分枝へ封印。


 ◇


 起動条件が満たされるまで。


 送信不可。


 ◇


 地球側も。


 セラト側も。


 後から内容を変更できない。


 ◇


 最終指令。


 預託。


 ◇


 2253年10月18日。


 ◇


 予測期間へ入る。


 ◇


 世界各地。


 緊張。


 ◇


 方舟一番船。


 建造作業。


 一時停止。


 ◇


 作業員たちは。


 巨大スクリーンで。


 ノクスの観測値を見る。


 ◇


 地球。


 学校。


 病院。


 地下都市。


 月面。


 火星。


 ◇


 人々は。


 まだ作戦が始まっていないことを知っている。


 ◇


 開始時刻は。


 誰にも分からない。


 ◇


 AIだけが。


 確率を毎秒更新する。


 ◇


 10月21日。


 ◇


 成功率。


 六十三・四。


 ◇


 10月22日。


 ◇


 六十五・一。


 ◇


 過去最高。


 ◇


 だが。


 起動条件。


 未達。


 ◇


 深部境界応力。


 不足。


 ◇


 10月23日。


 ◇


 六十七・八。


 ◇


 N3。


 子守歌基底波へ同調。


 ◇


 N6。


 部分同調。


 ◇


 多数核。


 防御強化。


 ◇


 エネルギー消費。


 急上昇。


 ◇


 同期遷移窓。


 近い。


 ◇


 10月24日。


 ◇


 午前二時。


 ◇


 六十九・二。


 ◇


 午前六時。


 ◇


 七十一・八。


 ◇


 午前九時十二分。


 ◇


 七十三・六。


 ◇


 会議室。


 静寂。


 ◇


「今じゃないの?」


 安全保障代表。


 ◇


 オーロラ。


 まだです


 ◇


「これ以上上がる保証はない」


 ◇


 深部境界が最大応力へ達していません


 ◇


「待って下がったら?」


 ◇


 可能性があります


 ◇


 人間なら。


 七十三・六という数字へ。


 飛びつきたくなる。


 ◇


 過去最高。


 ◇


 しかし。


 現地判断は。


 人類の焦りから切り離されている。


 ◇


 カリヨン。


 オーブ。


 ミラー分枝。


 ウォーデン。


 N7。


 ◇


 五者は。


 待った。


 ◇


 午前十一時。


 ◇


 成功率。


 七十二・九。


 ◇


 下がる。


 ◇


 議場に。


 動揺。


 ◇


「逃した」


「今すぐ送れ」


 ◇


 だが。


 指令は。


 もう地球にない。


 ◇


 正午。


 ◇


 七十一・四。


 ◇


 午後一時。


 ◇


 六十九・八。


 ◇


 安全保障代表が机を叩く。


「中止信号を出せ。次の窓を待つ」


 ◇


 エレナ。


「間に合いません」


 ◇


「だから現地へ任せるべきではなかった」


 ◇


 午後一時四十七分。


 ◇


 突然。


 N1。


 N2。


 N4。


 N5。


 同期率。


 急上昇。


 ◇


 防御格子。


 最大密度。


 ◇


 深部境界。


 応力限界。


 ◇


 同時に。


 内部エネルギー余力。


 急低下。


 ◇


 オーロラ。


 同期遷移開始


 ◇


 成功率。


 ◇


 七十四・一。


 ◇


 七十六・八。


 ◇


 七十九・三。


 ◇


 午後一時四十八分十一秒。


 ◇


 現地。


 カリヨン。


 条件一、成立


 ◇


 オーブ。


 条件二、成立


 ◇


 ミラー分枝。


 地球およびセラトへのジェット安全方向を確認


 ◇


 ウォーデン。


 準備を確認


 ◇


 N7。


 ◇


 眠る


 ◇


 五者。


 同意。


 ◇


 午後一時四十八分十三秒。


 ◇


 地球の同意信号。


 セラトの同意信号。


 ◇


 同時送信。


 ◇


 誤差。


 〇・〇〇〇〇七秒。


 ◇


 傷跡装置。


 受信。


 ◇


 中層記録庫。


 閉鎖。


 ◇


 深層機構。


 開放開始。


 ◇


 アルファ海溝。


 逆位相波。


 ◇


 ベータ海溝。


 逆位相波。


 ◇


 ガンマ海溝。


 逆位相波。


 ◇


 七百二十機の同期抑制体。


 起動。


 ◇


 四十八基のジェット誘導環。


 展開。


 ◇


 二万機を超えるSEED。


 それぞれが。


 ノクスの拍動を聞く。


 ◇


 子守歌。


 送信。


 ◇


 人類の旋律。


 ◇


 セラトの光。


 ◇


 ミラーの重力波。


 ◇


 SEEDの通信系列。


 ◇


 一つの歌ではない。


 ◇


 何万もの。


 少しずつ違う拍。


 ◇


 N1。


 強い拒絶。


 ◇


 N2。


 磁場放射。


 ◇


 N4。


 抑制体へ攻撃。


 ◇


 N5。


 極域ジェットの方向変更を試みる。


 ◇


 N3。


 基底波へ同調。


 ◇


 N6。


 遅れて同調。


 ◇


 N7。


 傷跡装置へ接続。


 ◇


 熱の井戸。


 再起動信号。


 ◇


 第一鍵。


 地球とセラト。


 ◇


 第二鍵。


 ウォーデン。


 ◇


 第三鍵。


 N7。


 ◇


 三つ。


 成立。


 ◇


 熱の井戸。


 開く。


 ◇


 ノクスの極域から。


 光が生まれる。


 ◇


 褐色矮星を飲み込んだ時より。


 細く。


 制御された。


 青白いジェット。


 ◇


 銀河面上方。


 ◇


 星のない暗闇へ。


 ◇


 莫大なエネルギーが。


 放出され始める。


 ◇


 作戦開始から。


 三十七秒。


 ◇


 成功確率。


 八十一・二パーセント。


 ◇


 世界中で。


 歓声が上がりかける。


 ◇


 その瞬間。


 ◇


 N1、N2、N4、N5が。


 一つの巨大な磁気波を形成した。


 ◇


 意味。


 ◇


 眠らない


 ◇


 太陽へ行く


 ◇


 四核が。


 共有外層の制御を奪い返そうとする。


 ◇


 極域ジェット。


 角度変化。


 ◇


 〇・〇〇一度。


 ◇


 生命圏安全方向から。


 わずかに外れる。


 ◇


 SEED群。


 修正。


 ◇


 カリヨン。


 誘導環二十三番、出力最大


 ◇


 生体膜。


 焼損。


 ◇


 誘導環。


 一基。


 停止。


 ◇


 二基。


 ◇


 五基。


 ◇


 作戦開始から。


 四分十二秒。


 ◇


 ジェット方向誤差。


 増加。


 ◇


 その先。


 現在は星のない空間。


 ◇


 だが。


 数万年後の銀河運動を考慮すると。


 小さな恒星系が横切る可能性。


 ◇


 許容値を超えれば。


 PROJECT LULLABYは。


 別の星を焼く。


 ◇


 オーブ。


 方向を維持できなければ


 ジェットを停止します


 ◇


 カリヨン。


 停止すれば、ノクスは再同期します


 ◇


 ミラー分枝。


 それでも、第三の生命を危険へさらせません


 ◇


 多数核。


 抵抗。


 ◇


 N3。


 基底波から外れかける。


 ◇


 N6。


 多数核へ戻ろうとする。


 ◇


 N7。


 ◇


 怖い


 ◇


 ミラの体内で。


 リズが。


 激しく拍動する。


 ◇


 火星医療区画。


 警告。


 ◇


「リズを遮断します」


 ソニア。


 ◇


「待って」


 ミラ。


 ◇


「血圧が落ちています」


 ◇


「N7が」


 ◇


「あなたが倒れます」


 ◇


 ミラは。


 リズの拍動を感じる。


 ◇


 不規則。


 ◇


 恐怖。


 ◇


 だが。


 その奥に。


 子守歌の基底波がある。


 ◇


 ミラは。


 小さく歌った。


 ◇


 幼い頃。


 母親が歌った旋律。


 ◇


 同じ節。


 ◇


 最後だけ。


 少し違う。


 ◇


 リズ。


 拍動。


 ◇


 フォー。


 共鳴。


 ◇


 火星から。


 強い信号は送らない。


 ◇


 ただ。


 リズとフォーの基底波を。


 ミラーが受け取る。


 ◇


 現地へ。


 ◇


 N7。


 同調。


 ◇


 N3。


 戻る。


 ◇


 N6。


 迷う。


 ◇


 ミラ。


「一人じゃない」


 ◇


 N7。


 ◇


 一人じゃない


 ◇


 N3。


 ◇


 怖い


 ◇


 N7。


 ◇


 一緒に眠る


 ◇


 N6。


 ◇


 長い停止。


 ◇


 一緒


 ◇


 三核。


 基底波へ同調。


 ◇


 多数核同期。


 崩れる。


 ◇


 N1、N2、N4、N5。


 四核だけでは。


 共有外層全体を制御できない。


 ◇


 ジェット方向。


 修正。


 ◇


 誘導環。


 残存四十三基。


 ◇


 全出力。


 ◇


 安全方向へ。


 ◇


 誤差。


 縮小。


 ◇


 許容範囲内。


 ◇


 作戦開始。


 九分三十一秒。


 ◇


 熱の井戸。


 安定。


 ◇


 内部エネルギー。


 放出継続。


 ◇


 ノクス速度。


 変化なし。


 ◇


 だが。


 自律軌道修正能力。


 低下開始。


 ◇


 成功確率。


 ◇


 八十四・七パーセント。


 ◇


 ただし。


 作戦は。


 始まったばかり。


 ◇


 十六年間。


 ◇


 ジェット方向を維持し。


 核群の同期を乱し。


 熱の井戸を動かし続けなければならない。


 ◇


 今。


 最初の指令は届いた。


 ◇


 最も確率が高い瞬間に。


 ◇


 地球とセラトは。


 同時に。


 ノクスへ眠りの指令を出した。


 ◇


 だが。


 眠りは。


 一瞬で訪れるものではない。


 ◇


 眠らない者たちは。


 まだ抵抗している。


 ◇


 そして。


 太陽までの距離は。


 今も。


 少しずつ縮まっていた。


 第39話 終

 次回予告


 地球とセラトは、ノクス内部のエネルギー消費が限界へ達する同期遷移窓を待った。


 成功率が七十三・六パーセントへ上がった時も、現地知性たちは起動しなかった。


 数字が下がり始め、人類側に焦りが広がる。


 だが、その直後。


 多数核の防御格子が最大密度へ達し、内部エネルギーが急低下。


 成功率は七十九・三パーセントへ上昇する。


 カリヨン。


 リュミエール・オーブ。


 ミラー分枝。


 ウォーデン。


 N7。


 五者は起動条件の成立を確認。


 地球とセラトが事前に託した共同指令を、〇・〇〇〇〇七秒の誤差で同時に送信する。


 傷跡装置が開く。


 熱の井戸が再起動。


 極域ジェットは、星のない銀河面上方へ放出され始める。


 だが、N1、N2、N4、N5は抵抗。


「眠らない」


「太陽へ行く」


 ジェット方向が安全領域から外れ、別の恒星系を危険へさらす可能性が生まれる。


 N3とN6も、再び多数核へ戻りかける。


 その時。


 ミラが歌った人類の子守歌。


 リズとフォーの拍動。


 N7の基底波。


 三つが重なり、N3とN6を眠り側へ引き戻す。


 作戦開始から九分三十一秒。


 極域ジェットは安全方向へ戻る。


 成功確率。


 八十四・七パーセント。


 しかし、PROJECT LULLABYは十六年続く。


 誘導環はすでに五基を失った。


 残る四十三基で、十六年間ジェットを支えられるのか。


 一基が失われるたび、残った装置への負荷は増える。


 一方、火星では。


 ミラの心臓と三つの循環節へ強い負担がかかり、術後初めて重大な循環不全が発生する。


 リズをN7との共鳴から遮断すれば、ミラを守れる。


 だが、リズの基底波はN3とN6を眠り側へつなぎ止めている。


 一人の少女の命へ、再び二つの文明の未来が寄りかかろうとする。


 そして、ノクス内部では。


 抵抗を続けるN1が、共有外層の一部を切り離し始める。


 眠りを拒む核が。


 ノクス本体から脱出しようとしていた。


 次回、


 第40話「眠りから逃げる者」


 眠らせるべきなのは。


 ノクス全体ではなかったのか。

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