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NEURON STAR  作者: リンダ


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星を眠らせる

第38話 星を眠らせる


 倒すのではなく。


 壊すのでもなく。


 止める。


 ノクスの内部核を破壊せず、共有外層も崩壊させず、太陽へ向かおうとする群体全体の活動だけを眠らせる。


 N7が示した第四の可能性。


 だが、それは破壊よりも容易な方法ではなかった。


 ノクスは巨大な運動エネルギーを持ち、内部では複数の高密度核が互いの周囲を回り続けている。


 格子構造は絶えず組み替わり、外部から取り込んだ物質を利用して、損傷を修復する。


 磁場を止めても、重力は消えない。


 格子を凍結しても、内部核は動き続ける。


 ただ眠れと呼びかけるだけでは、ノクスは止まらない。


 星を眠らせるには。


 星が目覚め続けるために使っている力を、奪わなければならなかった。


     ◇


 2252年12月2日。


 火星医療区画。


 ミラ・セデックは、ベッドの上でリズとフォーの拍動記録を見つめていた。


 第三循環節リズは、ミラの体内で血流を支えている。


 培養循環節フォーは、透明な培養槽の中で弱い拍動を続けていた。


 二つは同じセラト系技術から生まれた。


 だが、反応は完全には同じではない。


 リズはミラの神経や感情と結びつき、フォーは外部磁気波へより直接的に反応する。


 その違いを利用し、N7との通信が続けられていた。


     ◇


 ミラが問いを送る。


眠らせるとは、何を止めることですか


 フォーが送信用の拍動系列を形成する。


 短波。


 長波。


 短波。


 長い停止。


 ミラー観測主体が信号を変換し、傷跡装置へ共鳴させる。


 N7の返答。


つながり


     ◇


「つながり?」


 ミラが聞き返す。


多くは、つながって動く


つながりを弱くする


眠る


     ◇


 オーブが解析を始める。


 ノクスの内部核は、単純に重力だけで群体を作っているのではない。


 格子構造を通じた磁場。


 共有外層を伝わる応力。


 深部境界。


 そして、これまで十分に解析されていなかった、極めて低周波の重力振動。


 内部核同士は、複数の経路で互いの位置と運動を補正している。


 一つの核が軌道を変えれば、他の核も反応する。


 一つが物質を取り込めば、群体全体が共有する。


 多数の核が意思決定に似た共鳴を起こす時、格子構造も同じ周期へそろう。


     ◇


「同期を止める?」


 ミラが言った。


 オーブ。


可能性があります


「完全に切るんじゃなくて、弱くする」


はい


     ◇


 深部境界を切断すれば、ノクスは崩壊する。


 だが、その結合を完全には切らず、共鳴だけを乱すことができれば。


 内部核は互いの運動を補正できなくなる。


 しかし、外層が破裂するほどの急激な応力変化は起こさない。


 群体全体の判断に似た活動が低下する。


 格子構造の再編成が遅くなる。


 磁気ジェットが弱まり。


 物質降着も抑えられる。


     ◇


 眠り。


 それは活動の完全停止ではない。


 群体としての同期を失い、それぞれの核が弱い独立状態へ入ることだった。


     ◇


 エリオット・グレイは慎重だった。


「内部核の同期を乱しただけで、ノクスの速度は止まりません」


 軌道力学主任サムエル・オルテガが同意する。


「慣性で進み続けます。太陽へ向かう現在の軌道も、大きくは変わらない」


「なら、眠らせても地球へ来る」


 レア・モーガンが言う。


「はい」


 ミラは首を振った。


「でも、自分で太陽へ軌道を変えることはできなくなる」


     ◇


 褐色矮星DOR-BD91へ接近した時、ノクスは内部核の共鳴によって進路を調整していた。


 眠りによってその機能を止めれば。


 ノクスは新しい天体へ狙いを定められなくなる。


 現在の慣性軌道を進むだけになる。


 その時点で、MOSAIC BRIDGEによる軌道偏向を行えば。


 活動中のノクスより、はるかに少ないエネルギーで進路を変えられる可能性がある。


     ◇


 破壊ではなく。


 眠らせ。


 その間に押す。


     ◇


 第四案。


PROJECT LULLABY


 子守歌計画。


     ◇


 名称を提案したのはミラだった。


「攻撃計画の名前ばっかり、硬すぎるんです」


 安全保障代表は不満そうだった。


「文明存亡計画に、子守歌ですか」


「眠らせるんでしょう」


「危険性が伝わらない」


「名前が怖ければ成功率が上がるんですか」


     ◇


 正式名称は、共同同期抑制計画。


 通称、PROJECT LULLABY。


     ◇


 最初の問題。


 どのように同期を弱めるのか。


 傷跡装置を部分的に開き、深部境界へ逆位相の磁場を送る。


 だが、単純な逆位相では、ノクスがすぐに補正する。


 褐色矮星を取り込んだ後、格子構造は以前より強化されている。


 ノクスは、過去文明の攻撃によって学習してきた。


 一定の波形を送り続ければ、対応する防御構造を作る可能性が高い。


     ◇


 必要なのは。


 固定された音ではない。


 変わり続ける子守歌。


     ◇


 内部核の共鳴状態を観測し。


 その瞬間の同期を弱める波を生成する。


 次の瞬間には、別の波形へ変える。


 ノクスが適応する前に。


 絶えず位相。


 周波数。


 強度を変化させる。


     ◇


 SEED群の分散演算。


 ミラーの遠隔観測。


 セラトの生体格子。


 オーロラの予測。


 オーブのN7通信。


 すべてが必要だった。


     ◇


「音楽みたい」


 ミラが言った。


 エリオットは眉をひそめる。


「比喩としては」


「相手のリズムを聞いて、少しずつずらす」


「はい」


「全員が一緒に演奏できなくなるようにする」


「その言い方なら、近いです」


     ◇


 ノクスの核群は、一つの巨大な合奏を続けている。


 それぞれ異なる周期を持ちながら。


 共有外層と格子を通じ、同じ進路へ力を合わせる。


 PROJECT LULLABYは、その演奏を破壊するのではない。


 互いの音が合わなくなるよう、わずかな遅れとずれを与え続ける。


 やがて核群は、同じ拍を維持できなくなる。


     ◇


 だが。


 N7が示した言葉。


太陽一つに近い力を奪う


     ◇


 同期を乱すだけなら、なぜそれほどのエネルギーが必要なのか。


 ミラはN7へ尋ねた。


何の力を奪うのですか


 返答。


多くが持つ熱


動く熱


つながる熱


     ◇


「熱?」


 エリオットが解析する。


 ノクス内部には、褐色矮星から得た膨大なエネルギーが蓄えられている。


 格子構造。


 磁場。


 内部核の運動。


 共有外層のプラズマ。


 それらは単に動いているだけではない。


 互いの同期を維持するため、絶えずエネルギーを交換している。


 同期を乱しても、内部エネルギーが残っていれば、再び共鳴を作り直す。


 眠りを維持するには。


 ノクスが再同期に使うエネルギーを、大幅に減らさなければならない。


     ◇


「冷やすの?」


 ミラが尋ねた。


「普通の意味で冷却するのは不可能です」


 エリオットが答える。


「ノクスほどの天体から太陽一個分に近いエネルギーを熱として奪う設備などありません」


「外へ出させることは?」


     ◇


 ノクス自身に、内部エネルギーを放出させる。


 褐色矮星を飲み込んだ時。


 ノクスは強力なガンマ線ジェットを放った。


 あれは内部へ入ったエネルギーの一部を、極域から外へ逃がす機構だった。


 もし。


 ノクスのジェット方向を制御し。


 内部の蓄積エネルギーを。


 生命のある恒星系が存在しない方向へ放出させることができれば。


     ◇


 ノクスを冷やすことができる。


     ◇


 N7が示した第三方向。


 銀河面から大きく離れた。


 星のほとんどない暗い領域。


     ◇


「あの方向は」


 ミラが言った。


「逃げたい方向だけじゃなかった」


「エネルギーを捨てる方向?」


 レア。


     ◇


 オーブが第三方向の周辺を再確認する。


 既知の恒星。


 生命圏候補。


 分子雲。


 高密度天体。


 ほとんど存在しない。


     ◇


 ガンマ線や高エネルギー粒子を放出しても。


 既知の生命へ重大な影響を与える可能性が最も低い方向。


     ◇


 N7は。


 ノクスを眠らせる方法だけでなく。


 その時に必要な放出方向も。


 示していた可能性。


     ◇


 計画は三段階に整理された。


     ◇


 第一段階。


 傷跡装置を部分開放。


 深部境界へ変動逆位相波を送る。


 核群の共鳴を弱める。


     ◇


 第二段階。


 ノクス極域の格子を組み替え。


 第三方向へ、意図的なエネルギー放出経路を作る。


     ◇


 第三段階。


 内部エネルギーを、長時間かけてジェットとして放出。


 核群が再同期できない低活動状態へ落とす。


     ◇


 その後。


 MOSAIC BRIDGE。


 眠っている間に軌道を変える。


     ◇


「放出時間は?」


 エレナが尋ねる。


 オーロラ。


最短推定で十一年


     ◇


「十一年もジェットを出し続ける?」


はい


「その間に方向がずれたら?」


生命圏候補へ高エネルギー放射が向かう危険があります


     ◇


 十一年。


 ノクスの格子変化を追い。


 ジェットを星のない領域へ向け続ける。


 わずかな方向誤差でも。


 数千年後。


 数万年後に。


 別の星を放射線で焼く可能性がある。


     ◇


 SEED群。


 ミラー観測体。


 生体重力膜。


 過去文明の傷跡装置。


 全てを十一年間維持する必要がある。


     ◇


 成功確率。


 初期試算。


 十三・八パーセント。


     ◇


「破壊より低い」


 安全保障代表が言った。


「五十八・二パーセントの破壊案があるのに、十三・八パーセントの眠りへ資源を分散するのですか」


 ミラが答える。


「成功したら、多くを消さずに済みます」


「失敗したら?」


「破壊案へ移る」


「眠りの試行で傷跡装置を損傷すれば、破壊案も使えなくなる」


     ◇


 その通りだった。


 同じ傷跡装置を使う。


 部分開放を繰り返せば。


 装置の寿命を縮める。


 内部核が防御を強化する。


 失敗した後にPROJECT TRIDENTへ切り替えても、成功率が下がる可能性がある。


     ◇


「試す順番を間違えれば」


 エリオットが言う。


「どちらも失います」


     ◇


 N7へ尋ねる。


眠らせる方法は、過去に試されましたか


 長い停止。


     ◇


はい


     ◇


 会議室が静まる。


誰が試しましたか


     ◇


開いた者


     ◇


「傷跡装置を作った文明?」


 ミラ。


     ◇


はい


     ◇


成功しましたか


     ◇


 返答。


少し


     ◇


 地球とセラトは。


 過去文明の痕跡を再び調べ始めた。


 破壊装置。


 拘束装置。


 傷跡。


 三十二年周期の信号。


 これまで攻撃の跡として見ていた構造の中に。


 眠りを試みた記録が残っている可能性。


     ◇


 セラト文明の四百年観測データ。


 さらに。


 過去文明が存在した恒星系の残骸。


 同位体。


 放射線。


 ノクス格子の年代。


     ◇


 新しい解析で。


 傷跡形成時期の直後。


 ノクスの磁気活動が急激に低下していたことが判明した。


     ◇


 期間。


 約一万七千年。


     ◇


「一万七千年?」


 レアが驚く。


 オーブ。


ノクスは、その期間


高エネルギージェットをほとんど放っていません


大規模な軌道変更も行っていません


     ◇


 過去文明は。


 ノクスを完全には止められなかった。


 だが。


 一万七千年。


 眠らせることには成功していた。


     ◇


 その期間。


 ノクスは。


 恒星系へ意図的に近づいた痕跡がない。


 物質を積極的に取り込んだ痕跡もない。


     ◇


 ただ。


 慣性のまま。


 宇宙を漂っていた。


     ◇


「どうして目覚めた?」


 ミラ。


     ◇


 ノクスが再活性化した時期。


 過去軌道上。


 巨大分子雲を通過。


     ◇


 高密度のガス。


 塵。


 磁場。


     ◇


 それを取り込み。


 内部核が再び同期。


     ◇


 眠りから目覚めた。


     ◇


 過去文明の方法は。


 完全な失敗ではなかった。


     ◇


 データは。


 ノクス傷跡装置の内部。


 閉鎖構造の奥に残されている可能性。


     ◇


 傷跡装置が送り続ける。


 開く。


     ◇


 その意味。


 破壊機構を開くだけではない。


 内部の記録庫を開く。


     ◇


 過去文明が。


 どのようにノクスを一万七千年眠らせたのか。


 そのデータ。


     ◇


 遠隔で記録庫だけを開けられないか。


     ◇


 オーブ。


 ミラー。


 オーロラ。


 共同解析。


     ◇


 傷跡装置には。


 三層の閉鎖構造がある。


     ◇


 外層。


 通信。


     ◇


 中層。


 記録。


     ◇


 深層。


 三境界作動機構。


     ◇


 これまで。


 開くという信号を。


 装置全体の開放要求と考えていた。


     ◇


 だが。


 最初に開くべきなのは。


 中層記録庫かもしれない。


     ◇


「記録だけなら」


 エレナ。


「深部境界へ影響を与えずに開ける?」


 オーブ。


可能性があります


     ◇


 必要出力。


 破壊起動の一万分の一以下。


     ◇


 危険。


 傷跡装置が誤認し。


 深層機構まで連動する可能性。


 三・七パーセント。


     ◇


「低い」


 安全保障代表。


 ミラ。


「ゼロではない」


     ◇


 それでも。


 記録庫に眠りの方法が残っているなら。


 開く価値は大きい。


     ◇


 地球。


 セラト。


 SEED。


 ミラー。


 共同投票。


     ◇


 記録層開放。


 賛成。


     ◇


 傷跡装置へ。


 低出力信号。


     ◇


二つ来た


記録を求める


深くは開かない


     ◇


 送信。


     ◇


 四時間。


     ◇


 傷跡装置。


 反応。


     ◇


 表面の輪状構造。


 一部回転。


     ◇


 閉鎖部。


 開口。


     ◇


 十二メートルだった隙間。


 十八。


 三十。


     ◇


 重力断層像の奥で。


 中層構造が動く。


     ◇


 深部境界。


 変化なし。


     ◇


「記録層だけです」


 オーブ。


     ◇


 装置の内部から。


 大量の信号が放出された。


     ◇


 人類とも。


 セラトとも。


 ノクスとも異なる。


     ◇


 過去文明の記録。


     ◇


 データ量。


 推定。


 人類の全歴史記録を数千回収められる規模。


     ◇


 ミラー観測主体が受信。


 SEED群が分散保存。


 地球。


 月。


 火星。


 セラト。


 複数地点へ複製。


     ◇


 その中に。


 眠りの記録があった。


     ◇


 映像。


 数式。


 格子図。


 作戦履歴。


 失敗記録。


     ◇


 過去文明の姿は。


 最後まで明瞭には映っていない。


 複数の細長い身体。


 光る膜。


 巨大軌道都市。


 彼らの恒星は。


 ノクス接近によって不安定化していた。


     ◇


 彼らは。


 ノクスを破壊しようとした。


     ◇


 最初の攻撃。


 失敗。


     ◇


 第二。


 失敗。


     ◇


 その後。


 内部核の同期へ気づいた。


     ◇


 彼らは。


 三つの深部境界へ接続する装置を作った。


     ◇


 だが。


 装置を破壊へ使わなかった。


     ◇


 記録の中で。


 彼らの代表知性が語っていた。


     ◇


壊せば


次の星へ破片が行く


     ◇


閉じ込めれば


また目覚める


     ◇


だから


熱を捨てさせる


     ◇


 彼らは。


 ノクスの同期を乱し。


 極域ジェットを。


 星のない方向へ固定。


     ◇


 内部エネルギーを。


 十六年間。


 放出させた。


     ◇


 ノクスの核群。


 活動低下。


     ◇


 共有外層。


 格子再編成停止。


     ◇


 ノクス。


 眠り。


     ◇


 成功。


     ◇


 だが。


 彼らの恒星系は。


 すでに大きく損傷していた。


     ◇


 ノクスを眠らせた時には。


 複数の惑星が失われていた。


     ◇


 彼らは。


 装置を残した。


     ◇


 次にノクスと出会う文明のため。


     ◇


 そして。


 眠りを維持するために。


 あるものを。


 ノクス内部へ残した。


     ◇


 記録の最後。


     ◇


 共有外層の内部。


 三境界の中央。


     ◇


 巨大な構造。


     ◇


 人類側の翻訳。


熱の井戸


     ◇


 ノクスの内部エネルギーを集め。


 第三方向へ放出する。


 エネルギー排出中枢。


     ◇


「まだ残ってる?」


 ミラ。


     ◇


 オーブ。


傷跡装置と接続しています


     ◇


 熱の井戸。


 停止状態。


     ◇


 再起動できれば。


 PROJECT LULLABYの成功率は。


     ◇


 再計算。


     ◇


 十三・八パーセント。


     ◇


 過去文明データ適用。


     ◇


 ジェット方向制御。


 格子変動補正。


 同期抑制波。


     ◇


 成功率。


     ◇


 六十四・九パーセント。


     ◇


 会議室に。


 驚きの声。


     ◇


 破壊成功率。


 五十八・二。


     ◇


 眠り成功率。


 六十四・九。


     ◇


 初めて。


 破壊よりも。


 眠らせる方法の成功率が上回った。


     ◇


 だが。


 条件がある。


     ◇


 熱の井戸。


 再起動。


     ◇


 傷跡装置。


 中層だけでなく。


 深層の一部を開く。


     ◇


 N7。


 他の核と接続されたまま。


     ◇


 十六年間。


 エネルギー放出。


     ◇


 その間。


 N7は解放されない。


     ◇


「N7は」


 ミラが言った。


「一つになるって言ってた」


 オーブ。


眠りを優先する場合


N7は群体へ再統合される可能性が高いです


     ◇


 破壊案。


 N7を外へ出せる可能性。


     ◇


 眠り案。


 多数核を消さずに済む。


 だが。


 N7は再び群体へ閉じ込められる。


     ◇


 一つを救う。


 多くを消す。


     ◇


 多くを残す。


 一つを閉じ込める。


     ◇


 また。


 救える全てを同時には救えない。


     ◇


 N7へ。


 過去文明の記録を示す。


     ◇


眠らせる方法が見つかりました


     ◇


多くは消えません


     ◇


あなたは出られません


     ◇


 長い沈黙。


     ◇


 リズ。


 弱い拍動。


     ◇


 フォー。


 停止。


     ◇


 N7の返答。


     ◇


知っていた


     ◇


 会議室が静まる。


     ◇


「知ってた?」


 ミラ。


     ◇


前に眠った


     ◇


私は残った


     ◇


 N7は。


 一万七千年前の眠り。


 その時も。


 群体の中にいた。


     ◇


 過去文明と。


 すでに通信していた可能性。


     ◇


また眠ることを望みますか


     ◇


 N7。


     ◇


 長い停止。


     ◇


多くを消したくない


     ◇


太陽を飲ませたくない


     ◇


私は残る


     ◇


 ミラの目に涙が浮かぶ。


「それでいいの?」


     ◇


 N7。


よくない


     ◇


 短い返事。


     ◇


でも


他がない


     ◇


 N7は。


 解放を望んでいる。


     ◇


 それでも。


 他の核を消すより。


 自分が群体へ残り。


 ノクス全体を眠らせることを選ぼうとしている。


     ◇


 それは。


 自由な選択なのか。


 追い詰められた犠牲なのか。


     ◇


 ミラー。


第三の選択を探すべきです


     ◇


 オーロラ。


時間制約があります


     ◇


 リュール。


それでも、N7の意思を最終決定として固定する前に


分離と眠りを両立する方法を検討すべきです


     ◇


 新しい計算。


     ◇


 N7を分離。


 その後。


 残る核群へ眠り機構。


     ◇


 傷跡装置。


 第一段階。


 N7周辺格子を緩める。


     ◇


 第二。


 N7を外向き磁場で分離。


     ◇


 第三。


 熱の井戸を起動。


     ◇


 残る核群。


 同期抑制。


     ◇


 成功率。


     ◇


 第一試算。


 九・二パーセント。


     ◇


 低い。


     ◇


 だが。


 セラト擬態膜。


 SEED追跡。


 過去文明データ。


     ◇


 追加。


     ◇


 十四・七。


     ◇


 ミラーの遠隔格子制御。


     ◇


 二十一・一。


     ◇


 まだ。


 眠り単独の三分の一。


     ◇


「二十一パーセントでも」


 ミラ。


「N7も、多くも救える可能性がある」


 安全保障代表。


「失敗すれば全て失う」


     ◇


 再び。


 確率。


     ◇


 六十四・九パーセント。


 多数核を眠らせる。


 N7は残る。


     ◇


 二十一・一パーセント。


 N7を分離し。


 多数核も眠らせる。


     ◇


 どちらを選ぶのか。


     ◇


 N7へ数値を伝える。


     ◇


 返答。


     ◇


多くを眠らせる


     ◇


「自分は?」


 ミラ。


     ◇


残る


     ◇


「本当に?」


     ◇


 N7。


     ◇


怖い


     ◇


 リズが。


 強く拍動する。


     ◇


でも


太陽を守る


     ◇


 それは。


 太陽系を守るという意味だけではない。


     ◇


 太陽を飲み込ませない。


     ◇


 ノクスの多数核に。


 新しいエネルギーを与えない。


     ◇


 次の恒星系へ。


 さらに強化されたノクスを送らない。


     ◇


 N7は。


 地球だけでなく。


 未来の星々を守ろうとしていた。


     ◇


 地球・セラト共同会議。


 PROJECT LULLABY。


 正式採用。


     ◇


 ただし。


 PROJECT TRIDENTも。


 中止しない。


     ◇


 眠りに失敗した場合。


 破壊へ移行。


     ◇


 熱の井戸が暴走した場合。


 三境界同時切断。


     ◇


 眠らせる準備と。


 壊す準備。


 同じ装置へ。


 同時に組み込む。


     ◇


 方舟。


 MOSAIC BRIDGE。


 継続。


     ◇


 希望は。


 さらに増えた。


     ◇


 同時に。


 必要な資源も。


 さらに増えた。


     ◇


 計画に必要な新規設備。


 極域ジェット誘導環。


 四十八基。


     ◇


 格子同期抑制体。


 七百二十機。


     ◇


 熱の井戸再起動信号器。


 三基。


     ◇


 SEED制御群。


 最低二万機。


     ◇


 セラト生体膜。


 脱出構造物三隻分。


     ◇


 方舟資材との競合。


 深刻。


     ◇


 方舟一番船。


 二番船。


 三番船。


     ◇


 出航予定。


 さらに遅延する可能性。


     ◇


 世界では。


 眠り成功率六十四・九パーセントが公表された。


     ◇


「破壊より高い」


「ノクスを殺さずに済む」


「なら方舟を止めろ」


     ◇


 反対。


「三分の一以上は失敗する」


「十六年間もジェットを制御できるのか」


「未知の異星装置へ全てを賭けるな」


     ◇


 議論は終わらない。


     ◇


 だが。


 褐色矮星が消える映像を見た世界は。


 何もしないという選択だけは。


 すでに捨てていた。


     ◇


 ミラは病室の窓から。


 火星の赤い地平線を見た。


     ◇


 リズ。


 弱い拍動。


     ◇


「N7は、また一万年も閉じ込められるのかな」


 リュール。


眠りの維持期間は不明です


「次に目覚めた時、助ける人がいるかな」


そのために記録を残します


     ◇


「私たちが過去文明の記録を見つけたみたいに?」


はい


     ◇


 人類とセラトは。


 未来へ。


 新しい記録を残すことを決めた。


     ◇


 ノクスの構造。


 傷跡装置。


 眠りの方法。


 N7の言葉。


 失敗の危険。


     ◇


 そして。


 次にノクスが目覚めた時。


 破壊する前に。


 内部に複数の意思があることを知ってほしい。


     ◇


 記録の最初の一文。


     ◇


これは星ではない


     ◇


 続けて。


     ◇


一つでもない


     ◇


中には


眠りたい者と


進みたい者がいる


     ◇


 N7から。


 新しい信号が届く。


     ◇


子守歌を知っていますか


     ◇


 ミラは少し笑った。


「知ってるよ」


     ◇


 人類の音楽。


 セラトの光と重力の波。


 SEEDの通信系列。


     ◇


 それらを使い。


 ノクスの核群を。


 少しずつ。


 異なる拍へ導く。


     ◇


 星を眠らせる子守歌。


     ◇


 その設計が。


 始まった。



第38話 終


次回予告


 過去文明の記録庫から、ノクスを一万七千年間眠らせた方法が見つかった。


 三つの深部境界を破壊せず。


 核群の同期だけを乱す。


 内部に蓄積されたエネルギーを、生命の存在しない銀河面上方へ、十六年間かけて放出する。


 そして、傷跡装置の深部に残された「熱の井戸」を再起動する。


 PROJECT LULLABY。


 成功率。


 六十四・九パーセント。


 破壊案を上回る可能性が示される。


 だが。


 眠りに成功しても、N7は群体の中へ残る。


 N7を分離しながら多数核を眠らせる案の成功率は、二十一・一パーセント。


 N7は語る。


「多くを眠らせる」


「私は残る」


「怖い」


「でも、太陽を守る」


 一つを救うために多数を危険へさらすのか。


 多数を残すために、一つの自由を諦めさせるのか。


 人類とセラトは、N7の選択を受け入れ、まずノクス全体を眠らせる計画を進める。


 同時に、眠りが失敗した場合に備え、PROJECT TRIDENTも維持される。


 眠らせる準備。


 破壊する準備。


 方舟。


 軌道偏向。


 すべてを同時に進めるため、資源不足はさらに深刻になる。


 方舟一番船では、追加農業モジュールの建造停止が提案される。


 カリムの搭乗可能性は再び遠のく。


 家族三人で乗れる希望を守るために、PROJECT LULLABYへ反対すべきなのか。


 アシャ一家は、地球全体の未来と、自分たちの家族の未来の間で揺れる。


 そして、星を眠らせる「子守歌」の設計が始まる。


 人類の音楽。


 セラトの光と重力波。


 SEEDの通信。


 三文明の異なる表現を重ね、ノクスの内部核へ別々の拍を与える。


 だが、最初の試験波を送った瞬間。


 N1、N2、N4、N5が同時に強い磁気波を返す。


 その意味をミラーが翻訳する。


「眠らない」


「太陽へ行く」


 多数核は、N7と人類とセラトが進める計画へ気づいた。


 そして。


 自らの同期をさらに強め始める。


 次回、


第39話「眠らない者たち」


 子守歌を拒む星を。


 それでも眠らせることはできるのか。

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