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NEURON STAR  作者: リンダ


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70年という猶予

 第3話 70年という猶予


 七十年。


 その数字が表示されてから、世界最高峰の科学者たちは、誰一人として席を立てなかった。


 会議は終わったはずだった。


 だが、終了を告げる音声が流れても、立体映像の回線を切る者はいない。


 地球。


 月。


 火星。


 小惑星帯。


 それぞれ遠く離れた場所から参加している研究者たちは、正面に浮かぶ太陽系の立体図を見つめていた。


 太陽を中心に、水星、金星、地球、火星。


 その外側を回る木星、土星、天王星、海王星。


 さらに遠く、無数の氷天体が漂うカイパーベルト。


 人類が何世紀もかけて観測し、探査し、少しずつ活動領域を広げてきた世界。


 その外側から、一本の赤い線が伸びていた。


 孤立中性子星ノクスの予測軌道だった。


「七十年……」


 誰かが、もう一度つぶやいた。


 その声には、安堵とも絶望ともつかない響きがあった。


 七十年あれば、都市を造ることができる。


 巨大宇宙船を建造できるかもしれない。


 新しい推進機関を完成させられる可能性もある。


 だが七十年では、恒星間文明を一から築くには短すぎる。


 人類は月と火星へ進出していた。


 しかし、それは太陽系という一つの港の中で、岸から岸へ渡っているにすぎなかった。


 太陽系の外へ、人間を何世代にもわたって送り出す技術は、まだ存在していない。


 ヴィクトル・エルマン博士は、椅子に深く腰を下ろしたまま言った。


「一次計算を、外部重力場まで含めてやり直す」


 天野理沙が顔を上げた。


「すでに太陽と主要惑星による偏向は入っています」


「それだけでは足りない」


「何を加えるんですか」


「太陽系全体だ」


 理沙は一瞬、その言葉の意味を理解できなかった。


 エルマンは立体図を拡大した。


 カイパーベルト。


 散乱円盤天体。


 さらにその外側に広がる、球殻状のオールトの雲。


「我々は、ノクスが地球へ接近する場合ばかりを見ていた」


 エルマンの指が、赤い軌道をなぞる。


「だが、この天体の影響を受けるのは地球だけではない。太陽系そのものだ」


 会議室の空気が、再び重くなった。


「ノクスが太陽系外縁部を通過した時点で、カイパーベルトやオールトの雲に属する小天体の軌道は大きく乱される」


 火星側の研究者が口を開いた。


「彗星群の内側への落下ですか」


「それだけではない」


 エルマンは答えた。


「外惑星の軌道も変化する可能性がある。木星や土星の軌道がわずかに狂えば、その影響は長い時間をかけて内惑星へ伝わる」


「しかし、最接近まで七十年しかない」


「だからこそだ。長期的な軌道不安定だけでは済まない可能性がある」


 理沙はすぐに端末へ向き直った。


「オーロラ。太陽系全球モデルを構築。太陽、全惑星、準惑星、主要衛星、カイパーベルト天体、散乱円盤、オールト雲の質量分布を入力」


「計算規模が許容範囲を超えます」


「代表粒子モデルに変換。最初は一億体」


「精度が不足します」


「分かっている。傾向だけ見たい」


「了解しました」


 太陽系を示す立体図に、無数の小さな光点が現れた。


 それは人類が名前すら与えていない氷と岩の群れだった。


 現在は遠い外縁部を静かに回っている。


 だが、ノクスの強大な重力が通過すれば、その静けさは一瞬で終わる。


 ◇


 計算開始から三時間。


 最初のシミュレーション結果が表示された。


 ノクスはカイパーベルトの外縁を通過した。


 その瞬間、円盤状に広がっていた小天体群が大きく歪んだ。


 一部は太陽系の外へ弾き出される。


 一部は海王星軌道の内側へ落下。


 さらに一部は、長大な楕円軌道へ移り、太陽系の中心部へ向かい始めた。


 数千。


 数万。


 数百万。


 無数の軌道が、赤い線となって内側へ伸びていく。


「止めて」


 理沙が言った。


 映像が静止する。


 赤い線に覆われた太陽系。


 まるで血管のようだった。


「内惑星領域へ侵入する天体数は?」


「直径一キロメートル以上、約四百二十万個」


 オーロラが答えた。


 会議室がざわついた。


「直径十キロ以上は?」


「約八万三千個」


「百キロ以上」


「推定千二百個」


「地球軌道との交差数」


「現在の条件では確定不能。最小推定で約三万。最大推定で二十七万」


 数字は、あまりにも巨大だった。


 かつて恐竜を絶滅させたと考えられている天体は、直径十キロメートル前後。


 その規模の天体が、一つではない。


 数万個単位で内惑星領域へ飛び込んでくる可能性がある。


「雨だな」


 ラファエル・コスタが、かすれた声で言った。


「隕石の雨なんてものじゃない」


 月面研究所の科学者が答える。


「太陽系全体が、巨大な射撃場になる」


 理沙は赤い軌道群を見つめた。


 地球へ直接衝突するものだけが脅威ではない。


 月に衝突すれば、大量の破片が地球へ降り注ぐ。


 火星や金星に衝突しても、軌道上へ噴き上がった物質が別の天体を襲う可能性がある。


 木星や土星の衛星系も破壊される。


 月面都市も、火星都市も、小惑星帯の居住施設も安全ではない。


 太陽系のどこに逃げても、同じ嵐の中だった。


 ◇


「条件を変える」


 理沙は言った。


「ノクスが予測軌道の外側を通る場合」


「誤差範囲最大値を採用します」


「実行して」


 赤い線が、太陽系からわずかに遠ざかった。


 ノクスは直接カイパーベルトを横切らない。


 その外側を通過する。


 今度は小天体群の崩壊は限定的だった。


 それでも、オールトの雲が大きく揺れた。


 数十年から数百年後、巨大彗星群が内側へ向かう。


「直撃を避けても、先送りされるだけか」


 政府代表の一人が言った。


「何世代後になるかは分からない。しかし太陽系の安定は失われる」


 エルマンが答えた。


 理沙は次の条件を入力した。


「予測軌道の内側」


 今度は、赤い線が太陽へ近づいた。


 ノクスの通過距離は、天文単位で表示される。


 太陽と地球の距離を一とする単位。


 数値が小さくなる。


 十。


 五。


 二。


 一。


 さらに。


 ゼロ・五。


 会議室の誰かが、息をのんだ。


 中性子星は太陽の近傍を通過した。


 太陽の表面が引き伸ばされる。


 巨大な紅炎が一方向へ噴き出した。


 外層のプラズマが剥ぎ取られ、長い尾を形成する。


 その尾の一部はノクスへ吸い込まれ、残りは宇宙空間へ撒き散らされた。


 水星の軌道が一気に歪む。


 金星は太陽へ落下する軌道へ移った。


 地球は外側へ弾き出された。


 あるシミュレーションでは、地球は木星軌道を越えた。


 別のシミュレーションでは、太陽へ落下した。


 さらに別の計算では、ノクスに捕獲され、超高速で太陽系外へ連れ去られた。


「太陽の状態は?」


 エルマンが尋ねた。


「恒星構造モデルを接続します」


 太陽の内部構造が表示された。


 中心核。


 放射層。


 対流層。


 光球。


 ノクスの潮汐力が加わる。


 太陽は巨大なガスの球であり、岩石惑星のように一瞬で砕けるわけではない。


 しかし、極端な接近では外層が引き剥がされ、内部の圧力と温度の均衡が崩れる。


 表面で猛烈な衝撃波が発生。


 核融合反応の分布が乱れる。


 太陽全体が激しく脈動する。


 画面上の太陽が、何度も膨張と収縮を繰り返した。


「崩壊確率を算出」


「定義を確認してください」


 オーロラが答えた。


 理沙は言葉に詰まった。


 太陽の崩壊。


 それが何を意味するのか。


 完全に引き裂かれることか。


 外層の大部分を失うことか。


 核融合が不安定になることか。


 惑星を維持できないほど質量を失うことか。


 どの状態であっても、人類にとって結果は同じだった。


「現在の恒星としての安定状態を維持できない確率」


 理沙は答えた。


「計算します」


 数字が表示された。


 接近距離ごとに、確率が並ぶ。


 五天文単位。


 二天文単位。


 一天文単位。


 ゼロ・五。


 ゼロ・一。


 接近距離が短くなるほど、数字が急激に上昇する。


「予測軌道の中央値では?」


 エルマンが聞いた。


 オーロラは答えなかった。


 数秒。


 十秒。


 機械にとっては異様に長い沈黙だった。


「現在の観測誤差を含む中央値では、太陽が現在の安定状態を維持できない確率、七十三・二パーセント」


 会議室から音が消えた。


「最悪条件では?」


「九十九・八パーセント」


 誰も数字を読み返さなかった。


 太陽が消えるわけではない。


 だが、現在の姿を失う。


 外層を剥ぎ取られる。


 激しい質量放出を起こす。


 惑星軌道を維持できなくなる。


 太陽系は、太陽を中心とした一つの秩序として存在できなくなる。


 それは事実上、太陽系の消滅を意味していた。


 ◇


「待ってください」


 一人の若い研究者が立ち上がった。


 名前はサミラ・ハディド。


 北アフリカ軌道力学研究所に所属する、三十二歳の研究員だった。


「まだ観測期間は数日です。固有運動の測定誤差も大きい。最接近距離の幅は、数十億キロ単位で残っています」


「その通りだ」


 エルマンが答える。


「なら、太陽崩壊を確定事項のように扱うべきではありません」


「誰も確定とは言っていない」


「ですが、この場の空気はすでに確定しています」


 サミラの声は震えていた。


 恐怖ではない。


 科学者としての怒りだった。


「私たちは数字を扱う者です。恐怖を扱う者ではない。観測誤差が大きい段階で最悪の結果ばかりを強調すれば、判断を誤ります」


 政府関係者の一人が不快そうに眉をひそめた。


 だが、エルマンは静かにうなずいた。


「正しい」


 サミラがわずかに目を見開いた。


「最接近距離は確定していない。太陽が重大な影響を受ける確率も変化する。ノクスが太陽系を遠く外れる可能性も、まだ残っている」


「では」


「だが、同時に最悪の可能性を無視することもできない」


 エルマンは立体図を見上げた。


「我々が直面しているのは、地球衝突の有無ではない。太陽系のどこまでが生存圏として残るかという問題だ」


「軌道修正はできないんですか」


 政府代表が尋ねた。


「七十年ある。何らかの兵器を送り込むことは」


 コスタが即座に首を振った。


「相手は直径二十キロ程度ですが、質量は太陽の約二倍です」


「核兵器なら」


「地球上に存在するすべての核兵器を同時に爆発させても、進路は実質的に変わりません」


「反物質兵器は」


「現在の年間製造量では、必要量の兆分の一にも届かない」


「重力牽引船」


「牽引する側が先に引き裂かれます」


 会議室が静まり返る。


 人類は、小惑星の軌道を変える技術を持っていた。


 だが中性子星は、小惑星ではない。


 それは恒星の亡骸だった。


 山ほどの重さを持つ物質が、指先ほどの大きさに押し込められている。


 人類の兵器や推進技術で押し返せる相手ではなかった。


「では、どうすればいい」


 政府代表の声から、威圧感が消えていた。


 ただ一人の人間として尋ねていた。


 誰も答えられなかった。


 ◇


 翌日、国際連合地球圏評議会の地下施設に、各国と自治圏の最高指導者が集められた。


 会議の名称は存在しなかった。


 招集記録も残されない。


 地球上の国家元首。


 月面自治政府。


 火星連邦都市群。


 小惑星帯共同体。


 宇宙開発機関の長。


 軍の最高司令官。


 そして選抜された科学者たち。


 会議室には窓がなかった。


 外の空を見ることも、太陽を見ることもできない。


 中央には、太陽系の立体映像だけが浮かんでいた。


 青い地球。


 銀色の月。


 赤い火星。


 そして、そのすべてを照らす太陽。


 国際連合地球圏評議会議長、エレナ・ヴァルガスが口を開いた。


「この会議で話された内容は、最高機密に指定されます」


 異論は出なかった。


「最初に確認します。人類が現在の太陽系内にとどまった場合、生存できる可能性はどれほどありますか」


 エルマンが答えた。


「ノクスの正確な最接近距離によります」


「最良の場合」


「太陽系外縁を通過し、オールト雲とカイパーベルトの一部を攪乱する。数十年から数世紀にわたり、大量の彗星と小惑星が内惑星領域へ流入します」


「地球は」


「大規模衝突をすべて回避できる可能性は、極めて低い」


「月と火星は」


「同様です」


「最悪の場合」


 エルマンは一度、目を閉じた。


「ノクスが太陽近傍を通過します。太陽の外層が剥離し、恒星構造が不安定化する。惑星軌道は崩壊し、地球を含む内惑星が太陽へ落下するか、太陽系外へ弾き出される可能性があります」


「太陽系は消滅するのですか」


 エルマンは、すぐには答えなかった。


「天体そのものがすべて消えるわけではありません」


「質問に答えてください」


「現在の太陽を中心に、惑星が安定した軌道を回る体系としての太陽系は、高い確率で失われます」


 エレナは静かに息を吐いた。


「つまり、消滅する」


「人類の故郷としては」


 エルマンは答えた。


「そうです」


 会議室にいる者たちは、立体映像を見つめた。


 地球上では、この瞬間も朝を迎える町がある。


 学校へ向かう子どもがいる。


 仕事を終えて家族の待つ家へ帰る人がいる。


 月面都市では、人工照明の下で新しい一日が始まっている。


 火星では、地下農場で作物が育っている。


 誰も知らない。


 自分たちの世界に、終わりの日付が書き込まれたことを。


 ◇


「公表すべきです」


 最初に声を上げたのは、月面自治政府代表のリャン・ウェイだった。


「七十年あります。全人類が協力すれば、できることはある」


「公表した瞬間に、金融市場は崩壊する」


 北米連邦代表が反論した。


「七十年後に世界が終わると知って、誰が三十年ローンを組む。誰が年金を積み立てる。誰が国家債務を信用する」


「経済より生存が先です」


「経済が崩壊すれば、宇宙船も造れない」


 南アジア共同体の代表が机を叩いた。


「秘密にしたまま、何を造るつもりです。何億人もの労働者を動員し、月や火星の資源を使いながら、本当の目的を知らせないのですか」


「知らせれば暴動が起きる」


「秘密が漏れた時は、もっと大きな暴動になる」


 宗教紛争。


 国家間の資源争奪。


 終末思想。


 出生率の崩壊。


 法秩序の消失。


 ある者は「七十年後なら自分には関係ない」と考える。


 ある者は「未来がないなら今を奪ってもよい」と考える。


 ある者は子どもを産まなくなる。


 ある者は逆に、少しでも多くの命を残そうとする。


 人類社会がどのように反応するか、誰にも予測できなかった。


「そもそも」


 火星自治圏の代表が言った。


「逃げる場所はあるのですか」


 会議室が静かになった。


 誰も、その問いを避けられなかった。


 月も火星も、太陽系の一部である。


 ノクスが太陽系全体を破壊するなら、惑星間移住では意味がない。


「太陽系外へ出る必要があります」


 理沙が答えた。


「最も近い恒星系でも、四光年以上」


「現在の宇宙船で何年かかる」


「最速の無人探査機でも、数千年」


「人間を乗せた場合は」


「さらに長くなります」


「七十年で、その宇宙船を造れるのですか」


 理沙は答えられなかった。


 理論上の設計は存在する。


 核融合推進。


 反物質触媒。


 レーザー帆。


 世代宇宙船。


 人工冬眠。


 だが、どれも実用化されていない。


 都市規模の人口を収容し、何百年、何千年もの間、自給自足できる宇宙船。


 人間だけでなく、地球の生態系を再現するための植物、動物、微生物、土壌、水、大気。


 機械の故障を修理し、文化と知識を次世代へ伝え、閉鎖環境の中で社会を維持する仕組み。


 必要なのは船ではない。


 一つの小さな世界だった。


「全人類を乗せられるのか」


 誰かが尋ねた。


 沈黙が答えになった。


 エレナ議長が、理沙を見た。


「推定で構いません」


「現在の地球圏人口は、百四十億を超えています」


 理沙はゆっくりと答えた。


「七十年以内に建造可能な船団規模を最大限に見積もっても、収容できるのは……」


 言葉が止まる。


「続けてください」


「数千万人」


 会議室の空気が凍りついた。


「楽観的な推計です」


「つまり」


 アフリカ連合代表が言った。


「百億人以上が残される」


 誰も否定しなかった。


 ◇


 会議は十七時間続いた。


 真実を公表するべきだという者。


 計画の基礎が整うまで秘匿すべきだという者。


 一部だけ公表すべきだという者。


 中性子星の存在は伝え、破滅的影響は伏せるべきだという者。


 議論は何度も同じ場所を回った。


 やがて、エレナ議長が採決を提案した。


「孤立中性子星ノクスに関する全情報を、当面のあいだ最高機密とする」


 公表を主張していたリャンが立ち上がった。


「当面とは、いつまでです」


「人類の生存計画に現実的な道筋が立つまで」


「それは何年です」


「分かりません」


「十年ですか。二十年ですか。真実を知らないまま生まれ、知らないまま死ぬ人が出る」


「今公表すれば、計画そのものが始められない可能性がある」


「では、私たちは人類を救うために、人類を騙すのですか」


 エレナは目をそらさなかった。


「そうなるかもしれません」


 採決が行われた。


 賛成。


 反対。


 棄権。


 結果が表示される。


 極秘扱い。


 決議は可決された。


 その瞬間、人類史上最大の秘密が誕生した。


 ◇


 会議終了後。


 理沙は地下施設を出た。


 地上は朝だった。


 空には雲一つなく、太陽がまぶしく輝いている。


 街はいつもと変わらない。


 自動車が走り、人々が歩き、店が開き始めている。


 公園では、小さな子どもが父親とボールを追いかけていた。


 子どもが転ぶ。


 父親が笑いながら抱き起こす。


 理沙は足を止めた。


 あの子は、七十年後には老人になっている。


 その日まで生きていれば、ノクスを目にするかもしれない。


 あるいは、空を埋め尽くす隕石を見るかもしれない。


 太陽が引き裂かれる光景を見るかもしれない。


 だが今は、何も知らない。


「七十年ある」


 理沙は小さくつぶやいた。


 それは希望の言葉でなければならなかった。


 しかし、口に出した瞬間、別の意味に聞こえた。


 七十年しかない。


 太陽は、何も知らない地上の人々を、いつもと同じように照らしている。


 その穏やかな光の向こうで、孤立中性子星ノクスは、数億年の旅の最後の七十年へ入っていた。


 第3話 終

 次回予告


 世界が何も知らないまま、人類生存計画は始動する。


 必要なのは、単なる避難船ではない。


 数百年、あるいは数千年を宇宙で生きられる、小さな世界。


 空気。


 水。


 食料。


 重力。


 医療。


 教育。


 そして、世代を越えて受け継がれる社会。


 科学者たちは、一つの結論へたどり着く。


 人間だけを運んでも、人類は生き残れない。


 植物の種子。


 動物の細胞。


 昆虫。


 菌類。


 微生物。


 地球の生命そのものを宇宙へ運ばなければならない。


 だが、百四十億人すべてを救うことはできない。


 誰が船に乗り、


 誰が地球に残るのか。


 次回、


 第4話「方舟の設計図」


 救う命を選ぶという、最初の罪が始まる。

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