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凛子さんと狼くん  作者: 太郎
知ってしまった関係性
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幸せですよ

 

 凛子さんはいつも鈍感で、俺の想いに気付かないでニコニコ他人事みたいに笑って、そのクセ頑張り屋のお節介焼きで、正直言えば嫌いな人種だ。


 努力とか、人の為とか、偽善にしか思えない。

 それを馬鹿正直にする人間なんて存在する筈ない。


 そう、思ってたのに、凛子さんは覆してくれた。

俺の世界に入ってきて、明るくして、住み心地よくしてくれた。

 ただ凛子さんが隣にいてくれる。それだけで満足だったのに、凛子さんは新たな仲間を作ってくれた。

 まあ、俺としては仲間なんてヤツにはしたくないが、凛子さんが望むのだから仕方がない。


 嫌みなことにさっき見た、クラスの発表の内容に酷似してやがる。

 俺が凛子さんのことだけを見てる様に、クラスも俺らのことを見てたってのか。クソ恥ずかしいな。

 あのー、何だ。凛子さんが赤い天使って呼んでるヤツ。あいつ、ちゃらちゃらした見た目と違って意外と観察眼あるんだな。


 そうだ、あいつのお陰で良いことがあったんだ。

 屋上に上がって、凛子さんに告白した。どうも素直に言えなくて遠回りに言えば、凛子さんは混乱して、不安気な顔を見せて……あれ?これは良いことじゃないよな?

 違う。俺は絶対に何か良いことを体験した筈だ。

 まさに、天を飛ぶ様な気持ちになった。高揚感が全身を支配して、目の前が真っ白になって、黒くなった。

 こりゃ、どういうことだ。




 後頭部の鈍い疼痛。生温い空気。頬を撫でる柔らかい風。何故か分からないが心地よい。

 うっすらと瞼を押し開ければ、真っ青な空はどこへ行ったのか、空はいつの間にか橙色に染まっていた。


「あ、狼くん起きたんだね」

「凛子さっ、ん!??」


 俺は所謂(いわゆる)、膝枕をしてもらっている様で頭上から凛子さんの声が降ってきて反射的に飛び跳ねた。

 すると、ぐあんと視界が崩れて、再び凛子さんの太股に落ちた。

 決して、凛子さんの大腿が心地よかったとかいう下心は関係ないと、念押ししておこう。


「動いちゃダメだよ。倒れたばっかりなんだから」

「倒れた、誰が。……俺が?」

「じゃなきゃこうなってないよ。アノ後、狼くん倒れてて私、驚いたんだからね」

「アノ、後?」


 凛子さんの言葉を復唱すれば、凛子さんは下唇を噛んでそっぽを向いた。凛子さんの耳が赤い。夕陽のせいではないだろう。きっと、俺が何かした。

 何をしたか、と考えても何故か屋上に上がった後の記憶が帰ってこない。ツキンツキンと、痛み出すばかりだ。

 俺は鈍感じゃない。凛子さんと違って、表情で凛子さんの感情を読み取れる自信はある。

 赤い頬、合わない視線、近ずいた距離、妙な緊張感、外れた何か……ああ俺ってスゲー阿呆なヤツじゃん。


「凛子さん、好きだ」


 凛子さんに告白されて、嬉しすぎて卒倒するなんて、阿呆過ぎて笑えない。

 人生最初の好きな人からの告白で興奮したのは分かるけども、ぶっ倒れて記憶をなくしてちゃ、救いようもない。


「この状態で言うかなぁ?ズルいよ、狼くん。逃げたくても逃げれないじゃん」

「逃げる気あるのか?酷いな」

「逃げないと恥ずかしすぎて死んじゃうよ。良いの?私が死んでさ」

「良い訳ないだろ」

「そんな本気な顔しないでよー。冗談、嘘だよ。死なないってば」


 クスクス笑う凛子さんが背を丸めて、俺の頬をぺしぺし叩く。


「……くすぐったい」

「あら、髪の毛?ふふっ、狼くんのその顔好き。ぎゅーって眉間にシワを寄せるの。可愛い」

「……ぐへ」

「その苦虫を噛み潰した様な顔も好き。あとね、狼くんの困った様な笑顔も、怒った顔も、全部好きだよ」

「……凛子さん、酒でも呑んだの?」


 突然、凛子さんが好き好き言うと嬉しさを越えて驚きしかない。

 今まで引く程鈍感だったからこそ、自分の気持ちを素直に告白されると尚更怖くなってしまう。

 好き、と認知したら飛ぶ様に好きな所が浮かんできたとか?何だこれ、考えただけで恥ずかしくなってきやがった。

 こそばゆいじゃねーか。


「呑んでないよ。今まで好きって思った所を言ってるの」

「……そりゃ、どうも」

「ねえ、狼くんは私のどこを好きになってくれたの?いつから好きになってくれたの?」

「……ぐへぇ」


 爆弾到来。こんな突然攻撃予測してるかよ。


「どうでも、良いしょや」

「良くないよー。知りたいじゃん。私も狼くんの好きな所言ったんだから言ってくれても良いじゃん」

「……じゃんじゃん五月蝿いから言う気なくなった」

「うあー。ヒドイー」


 凛子さんの握り拳がぽすぽす、下腹に向かって落ちてくる。可愛らしい痛みに軽く微笑んでから、空を見た。

 吸い込まれそうな赤い雲、いつか凛子さんと見た記憶が蘇った。

 凛子さんと口喧嘩して、でもすぐに仲直りした日の放課後に空を眺め二人して笑った。理由もなく笑えた。

 今も、笑える。


「ねえ、凛子さん。条件付きで教えてあげる」

「私が出来るのにしてね?男になれとか、空を飛べとか無理だからね」

「そんなのはこっちから願い下げだ」

「嘘だよ。なに?」

「条件は、十年後も俺の隣にいる。そしたら、十年後の今日教えてやらないでもない」


 凛子さんは目を丸くさせた。そして、天を仰ぎ何か思考し始めた。

 ちょっと待て、それってダメっていう反応?凛子さんから断られるなんて想像もしてなかったんだけども。

 うわ、血の気が引いている感じがする。


「結婚するんだから十年後も隣にいるのは当たり前でしょ?なら、今教えてくれても良いしょや」

「あ、……え?」


 けっ、こん。け、っ、こ、ん?

 ねえ、凛子さん。ちょっと待ってよ。嬉しいよ。嬉しいさ、そりゃ。何でそんなに凛子さんの発想はぶっ飛んでるのさ。

 確かに結婚したらずっと側にいられるし、最善だけども。このタイミングで……さあ、もう、笑えてくる。


「ぷっ、くっくっく……」

「何で笑うの?や、やだったの!?」

「嫌な訳ないだろ……凛子さんは飽きないね」

「えへへー。照れるなー」

「じゃあ、俺が十八になったら結婚するか」

「そこは褒めてないって言うところでしょー……結婚、え?」


 結婚。その二文字を口にすると、凛子さんは先程と同じく顔を赤らめた。何故そこで照れる。


「嫌なのか?」

「嫌、じゃないよ。年を出されたら何か現実味沸いて恥ずかしくなってきたというか、お義母様にどんなロリータ服をプレゼントすれば娘として認められるのか不安というか」

「早いよ。第一凛子さんは母親に認められてるから、不安にならなくて良いし、何もあげなくて良い」

「でも、うわあわあわあー。嫌われたらどうしよう。『濃い!まともに味噌汁も作れんのか!』って、卓袱台ひっくり返されたらどうしようー」

「凛子さん、変なところ知識あるよね」

「えへへー」

「褒めてないってば」

「それでこそ、狼くん」


 告白して、された。けど、なんら関係性は変わっていない。結婚という単語が飛び交う様な間柄になった、というのが変わりになるのならそうかもしれない。

 でも、悪い方向に変わってなくて良かった。

 スレ違ったり、妙なぎこちなさが生まれたりしなくて、良かった。

 これからも、ずっと、ずっとずっと凛子さんと一緒にいられるなんて夢のようだ。


「狼くん、私幸せだよ」

「俺もだ」


 いつかの質問の俺が本当に求めた答えが帰ってきた。



 最初からお付き合いくださった方もそうでない方も、ありがとうございます。お陰様で完結できました。


 何よりも挿し絵を描いていただいた自称変態紳士様(僕が思うに変態ではないですけど)に深いお詫びを申し上げます。

 ありがとうございました。


 本編はこれで終わりとなりますが、回収しきれてないフラグやまだ書きたい話があるので、小話として溜まり次第追加します。

 見捨てないであげてください。

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