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第14話:同じ声

消えた光の場所に立ち尽くす。


***


何もない。


***


ただの道。


***


そのはずなのに。


***


さっきまで、確かに“いた”。


***


「……智恵美」


***


名前を呼ぶ。


***


返事はない。


***


音も、返ってこない。


***


声が、吸い込まれたみたいに消える。


***


それでも。


***


ここで引き返すという選択肢は、もうなかった。


***


一歩、踏み出す。


***


さらに奥へ。


***


道は変わらない。


***


細く。


***


暗く。


***


終わりが見えない。


***


歩く。


***


時間の感覚は、もうない。


***


何分か。


何時間か。


***


分からない。


***


ただ、進んでいる。


***


そのとき。


***


前方に、何かが見えた。


***


さっきの光とは違う。


***


暗い中に、はっきりとした“影”。


***


人の形。


***


立っている。


***


動かない。


***


「……」


***


足が、自然と速くなる。


***


近づく。


***


輪郭が、少しずつはっきりしていく。


***


髪。


***


肩。


***


細い体。


***


見覚えがある。


***


間違えるはずがない。


***


「……智恵美」


***


声が震える。


***


影は、ゆっくりとこちらを向いた。


***


顔が見える。


***


間違いない。


***


智恵美だ。


***


「……」


***


何も言わない。


***


ただ、見ている。


***


瞬きも、しない。


***


「よかった……」


***


息が漏れる。


***


ここまで来て、ようやく。


***


「探したんだよ」


***


一歩、近づく。


***


距離は、もう数メートル。


***


「なんで連絡も――」


***


言いかけて、止まる。


***


違和感。


***


顔は、同じだ。


***


距離も、近い。


***


でも。


***


“近づいている感じがしない”。


***


足は動いているのに。


***


距離だけが、変わっていない気がする。


***


「……」


***


智恵美は、ゆっくりと口を開いた。


***


「――遅かったね」


***


声。


***


同じだ。


***


でも。


***


どこか、平坦だった。


***


抑揚がない。


***


感情の“揺れ”が、ない。


***


「……ごめん」


***


反射的に答える。


***


自分でも、何に対してなのか分からないまま。


***


「迎えに来た」


***


そう言う。


***


智恵美は、少しだけ首を傾げた。


***


動きが、ほんのわずかに遅れる。


***


「迎え?」


***


聞き返す。


***


その言い方が、引っかかる。


***


言葉の意味を、一度考えてから出しているみたいに。


***


「帰ろう」


***


言い直す。


***


「ここ、変だろ」


***


一歩、さらに近づく。


***


距離が縮まる。


***


――はずなのに。


***


やっぱり、同じ位置にいるように見える。


***


「……ここは、いいところだよ」


***


智恵美が言う。


***


静かな声。


***


「静かで」


***


「何もなくて」


***


「ずっといられる」


***


言葉が、ゆっくりと落ちてくる。


***


順番をなぞるみたいに。


***


「……何言ってんだよ」


***


思わず笑いそうになる。


***


そんなはずない。


***


「帰るぞ」


***


手を伸ばす。


***


あと少しで、届く。


***


そのとき。


***


智恵美が、一歩下がった。


***


「……」


***


距離が、元に戻る。


***


正確に、同じだけ。


***


「どうした?」


***


問いかける。


***


答えない。


***


ただ、こちらを見ている。


***


その目が。


***


ほんのわずかに。


***


“焦点が合っていない”。


***


こちらを見ているのに。


***


どこも見ていない。


***


「……智恵美?」


***


名前を呼ぶ。


***


「ここにいるとね」


***


言葉が、被さる。


***


タイミングが、ほんの少しだけズレている。


***


「分からなくなるの」


***


「何が?」


***


「外のこと」


***


間を置かずに返ってくる。


***


「時間も」


***


「場所も」


***


「全部」


***


淡々とした口調。


***


まるで、覚えたことを読み上げるみたいに。


***


「だから」


***


少しだけ、笑った。


***


口だけが動く。


***


目は、動かない。


***


「もういいかなって」


***


その言葉に。


***


背中が、冷える。


***


「……よくないだろ」


***


声が低くなる。


***


「帰るぞ」


***


強く言う。


***


もう一度、手を伸ばす。


***


今度は、引かない。


***


踏み込む。


***


距離が、急に詰まる。


***


触れる。


***


指先が、腕に触れる。


***


冷たい。


***


思ったよりも。


***


温度が、ない。


***


“触れているのに、触れていない感じ”。


***


「……っ」


***


思わず、息を呑む。


***


でも、離さない。


***


「行くぞ」


***


手を掴む。


***


その瞬間。


***


智恵美の口元が、わずかに動いた。


***


笑っているように見えた。


***


ほんの一瞬。


***


表情が、追いつく。


***


「……出られると思う?」


***


その一言で。


***


空気が、変わった。


***


背後の闇が、わずかに“近づいた”気がした。

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