第14話:同じ声
消えた光の場所に立ち尽くす。
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何もない。
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ただの道。
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そのはずなのに。
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さっきまで、確かに“いた”。
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「……智恵美」
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名前を呼ぶ。
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返事はない。
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音も、返ってこない。
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声が、吸い込まれたみたいに消える。
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それでも。
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ここで引き返すという選択肢は、もうなかった。
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一歩、踏み出す。
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さらに奥へ。
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道は変わらない。
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細く。
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暗く。
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終わりが見えない。
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歩く。
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時間の感覚は、もうない。
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何分か。
何時間か。
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分からない。
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ただ、進んでいる。
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そのとき。
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前方に、何かが見えた。
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さっきの光とは違う。
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暗い中に、はっきりとした“影”。
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人の形。
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立っている。
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動かない。
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「……」
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足が、自然と速くなる。
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近づく。
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輪郭が、少しずつはっきりしていく。
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髪。
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肩。
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細い体。
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見覚えがある。
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間違えるはずがない。
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「……智恵美」
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声が震える。
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影は、ゆっくりとこちらを向いた。
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顔が見える。
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間違いない。
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智恵美だ。
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「……」
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何も言わない。
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ただ、見ている。
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瞬きも、しない。
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「よかった……」
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息が漏れる。
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ここまで来て、ようやく。
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「探したんだよ」
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一歩、近づく。
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距離は、もう数メートル。
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「なんで連絡も――」
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言いかけて、止まる。
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違和感。
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顔は、同じだ。
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距離も、近い。
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でも。
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“近づいている感じがしない”。
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足は動いているのに。
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距離だけが、変わっていない気がする。
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「……」
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智恵美は、ゆっくりと口を開いた。
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「――遅かったね」
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声。
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同じだ。
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でも。
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どこか、平坦だった。
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抑揚がない。
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感情の“揺れ”が、ない。
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「……ごめん」
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反射的に答える。
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自分でも、何に対してなのか分からないまま。
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「迎えに来た」
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そう言う。
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智恵美は、少しだけ首を傾げた。
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動きが、ほんのわずかに遅れる。
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「迎え?」
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聞き返す。
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その言い方が、引っかかる。
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言葉の意味を、一度考えてから出しているみたいに。
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「帰ろう」
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言い直す。
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「ここ、変だろ」
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一歩、さらに近づく。
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距離が縮まる。
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――はずなのに。
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やっぱり、同じ位置にいるように見える。
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「……ここは、いいところだよ」
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智恵美が言う。
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静かな声。
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「静かで」
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「何もなくて」
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「ずっといられる」
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言葉が、ゆっくりと落ちてくる。
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順番をなぞるみたいに。
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「……何言ってんだよ」
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思わず笑いそうになる。
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そんなはずない。
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「帰るぞ」
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手を伸ばす。
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あと少しで、届く。
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そのとき。
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智恵美が、一歩下がった。
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「……」
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距離が、元に戻る。
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正確に、同じだけ。
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「どうした?」
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問いかける。
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答えない。
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ただ、こちらを見ている。
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その目が。
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ほんのわずかに。
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“焦点が合っていない”。
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こちらを見ているのに。
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どこも見ていない。
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「……智恵美?」
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名前を呼ぶ。
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「ここにいるとね」
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言葉が、被さる。
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タイミングが、ほんの少しだけズレている。
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「分からなくなるの」
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「何が?」
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「外のこと」
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間を置かずに返ってくる。
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「時間も」
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「場所も」
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「全部」
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淡々とした口調。
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まるで、覚えたことを読み上げるみたいに。
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「だから」
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少しだけ、笑った。
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口だけが動く。
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目は、動かない。
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「もういいかなって」
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その言葉に。
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背中が、冷える。
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「……よくないだろ」
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声が低くなる。
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「帰るぞ」
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強く言う。
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もう一度、手を伸ばす。
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今度は、引かない。
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踏み込む。
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距離が、急に詰まる。
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触れる。
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指先が、腕に触れる。
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冷たい。
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思ったよりも。
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温度が、ない。
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“触れているのに、触れていない感じ”。
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「……っ」
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思わず、息を呑む。
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でも、離さない。
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「行くぞ」
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手を掴む。
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その瞬間。
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智恵美の口元が、わずかに動いた。
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笑っているように見えた。
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ほんの一瞬。
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表情が、追いつく。
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「……出られると思う?」
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その一言で。
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空気が、変わった。
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背後の闇が、わずかに“近づいた”気がした。




