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第12話:見つからない

時計は、二十二時を回っていた。


***


眠れなかった。


***


目を閉じるたびに浮かぶのは、あの道だ。


***


細い分かれ道。


***


草に隠れるようにして、続いていた。


***


「ヨナヅキ……」


***


小さく呟く。


***


意味は分からない。


***


でも。


***


あそこに何かがある。


***


それだけは、確かだった。


***


起き上がる。


***


迷いは、なかった。


***


上着を羽織る。


スマホと鍵を持つ。


***


部屋を出る。


***


廊下は暗い。


***


足音だけが、やけに響く。


***


誰もいない。


***


そのまま外へ出る。


***


夜の空気は、昼とは違っていた。


***


少しだけ、重い。


***


湿っているわけでもないのに、まとわりつくような感覚。


***


車に乗り込む。


***


エンジンをかける。


***


ライトを点ける。


***


前方が、白く浮かび上がる。


***


アクセルを踏む。


***


車が動く。


***


昼に通った道を、そのままなぞる。


***


迷うことはない。


***


あの標識。


***


あのカーブ。


***


全部、覚えている。


***


しばらくして。


***


速度を落とす。


***


ここだ。


***


昼間、分かれ道があった場所。


***


ブレーキを踏む。


***


車を止める。


***


前を見る。


***


ライトの先。


***


草が揺れている。


***


それだけだ。


***


「……は?」


***


目を凝らす。


***


もう一度、見る。


***


ない。


***


道が、ない。


***


昼間、確かにあったはずの分かれ道が。


***


跡形もなく、消えている。


***


車を降りる。


***


足元の砂利が音を立てる。


***


その音が、やけに大きく聞こえた。


***


草の方へ歩く。


***


かき分ける。


***


何もない。


***


ただの斜面。


***


踏み跡もない。


***


「……おかしいだろ」


***


思わず声が出る。


***


周囲を見回す。


***


間違いない。


***


ここだ。


***


標識の位置。


***


道路の角度。


***


全部、同じだ。


***


それなのに。


***


道だけが、ない。


***


一歩、下がる。


***


呼吸が浅くなる。


***


頭の奥に、言葉が浮かぶ。


***


“ヨナヅキ”


***


そのまま、しばらく立ち尽くす。


***


やがて、歩き出す。


***


周囲を探す。


***


少し先へ。


***


さらに先へ。


***


ライトの届く範囲を、ゆっくりと見ていく。


***


ない。


***


どこにもない。


***


焦りが、じわじわと広がる。


***


「どこだよ……」


***


呟く。


***


さっきまで確信していたものが、崩れていく。


***


見間違いだったのか。


***


最初から、なかったのか。


***


いや。


***


そんなはずはない。


***


あれは、確かに――


***


足が止まる。


***


そのとき。


***


視界の端に、何かが引っかかった。


***


反射的に振り向く。


***


何もない。


***


ただの暗闇。


***


「……」


***


ゆっくりと息を吐く。


***


落ち着け。


***


そう言い聞かせる。


***


視線を落とす。


***


足元。


***


ヘッドライトの光で、影が伸びている。


***


その先。


***


ほんのわずかに。


***


影が、不自然に途切れている場所があった。


***


違和感。


***


顔を上げる。


***


その方向を見る。


***


さっきまで、何もなかったはずの場所。


***


そこに。


***


“奥行き”がある。


***


闇の中に、さらに濃い影。


***


目を凝らす。


***


輪郭が、ゆっくりと浮かび上がる。


***


草が、左右に分かれている。


***


その奥。


***


細い道が、続いている。


***


「……」


***


息が止まる。


***


さっきまで、なかったはずのもの。


***


見落としじゃない。


***


確実に、なかった。


***


それが今、そこにある。


***


「……ヨナヅキ」


***


自然に、口から出る。


***


足が動く。


***


引き寄せられるように。


***


ゆっくりと、近づく。


***


道は、静かにそこにあった。


***


最初から、ずっとそうだったみたいに。


***


手を伸ばす。


***


触れる寸前で、止まる。


***


一瞬だけ。


***


迷いが戻る。


***


胸の奥で、何かが引き止める。


***


でも。


***


それは、すぐに消えた。


***


一歩、踏み出す。


***


その瞬間。


***


背後で、車のライトが一度だけ、ちらついた。


***


まるで、何かが横切ったみたいに。


***


振り返らない。


***


そのまま、闇の中へ進む。

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