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第7話:残された経路

レンタカー会社の営業所は、市内の外れにあった。


大きくも小さくもない、よくある店舗。


それなのに、妙に人気が少なく感じた。


***


自動ドアをくぐる。


空気が、少し乾いている。


***


カウンターの向こうで、スタッフが顔を上げた。


***


「すみません」


***


声をかける。


***


事情を説明する。


警察にはすでに相談していること。

失踪した人物を探していること。


分かる範囲でいいから、情報が欲しいと伝える。


***


スタッフは一瞬だけ難しい顔をしたが、やがて小さく頷いた。


***


「個人情報の関係もありますので、詳しくはお答えできない部分もありますが……」


***


「警察の方にも、同じ情報はお渡ししています」


***


それで十分だった。


***


「その車、返却はされていません」


***


分かっていた。


でも、言葉にされると重さが違う。


***


「最後の利用状況って、分かりますか」


***


一瞬の間。


***


「簡単な走行ログであれば」


***


カウンターの奥で、操作音が響く。


キーボードを叩く音だけが、やけに耳につく。


***


「GPSの細かい履歴までは出せないんですが」


***


「おおまかな移動は確認できます」


***


紙を一枚、差し出される。


***


視線を落とす。


***


走行距離。

利用時間。

エリアの推移。


***


最初は、市内だった。


ホテル周辺。


***


そこから——


***


線が、下に伸びている。


***


南。


***


市街地を抜けて、海沿いへ。


そのまま、さらに南へ。


***


「途中で、一度停車しています」


***


指で示される。


***


市内を離れて、少し行ったあたり。


***


「給油か、休憩か」


***


「その可能性が高いです」


***


時間を見る。


夜。


かなり遅い。


***


「……ここで」


思わず口に出る。


***


「はい?」


***


「いえ」


首を振る。


***


その地点。


なぜか、目が離せなかった。


***


“止まっている”。


***


ただそれだけのはずなのに。


***


“そこで、何かが変わった気がした”。


***


視線を戻す。


***


そこから、また動いている。


***


さらに南へ。


***


「このあたりで、記録が途切れています」


***


指が示す先。


***


地名は出ていない。


ぼんやりとしたエリアだけ。


***


海沿い。


***


それ以上は、何もない。


***


「電波状況によっては、ログが途切れることもありますので」


***


補足のように言われる。


***


頷く。


***


紙を見つめる。


***


市内から南へ。


***


ホテルで聞いた話。


***


“南に行きたい”


***


全部、繋がっている。


***


偶然じゃない。


***


そう思った。


***


「この停車地点、特定できますか」


***


「正確な場所までは難しいですね」


***


「この周辺は、海沿いの道路が多いので」


***


「スタンドか、コンビニか……」


***


言葉を濁す。


***


それ以上は踏み込まない。


***


「ありがとうございます」


***


紙を返す。


***


もう十分だった。


***


外に出る。


***


空気が、少し湿っている。


***


さっきまでと、同じはずなのに。


***


どこか違う。


***


スマホを取り出す。


地図を開く。


***


頭の中で、さっきの経路をなぞる。


***


市内。


そこから南へ。


***


指で、ゆっくりと辿る。


***


海沿いの道。


***


いくつかの候補。


***


完全には特定できない。


***


でも。


***


方向は、間違っていない。


***


「……南か」


***


小さく呟く。


***


そのとき。


***


――ザッ


***


足を止める。


***


今の音。


***


振り返る。


***


誰もいない。


***


道路。


通り過ぎる車。


遠くの話し声。


***


それだけ。


***


なのに。


***


耳の奥に、残っている。


***


砂を踏むような音。


***


「……」


***


ありえない。


ここは、海から離れている。


***


それでも。


***


次の瞬間。


***


――ザッ


***


今度は、はっきり聞こえた。


***


心臓が、強く鳴る。


***


ゆっくりと、周囲を見る。


***


誰もいない。


***


音の正体も、分からない。


***


それでも。


***


確かに、聞こえた。


***


砂の音。


***


喉が、少し乾く。


***


ポケットにスマホをしまう。


***


そのまま歩き出す。


***


足取りは、さっきよりも迷いがなかった。


***


南へ。


***


そこにしか、答えがない気がした。

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