第7話:残された経路
レンタカー会社の営業所は、市内の外れにあった。
大きくも小さくもない、よくある店舗。
それなのに、妙に人気が少なく感じた。
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自動ドアをくぐる。
空気が、少し乾いている。
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カウンターの向こうで、スタッフが顔を上げた。
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「すみません」
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声をかける。
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事情を説明する。
警察にはすでに相談していること。
失踪した人物を探していること。
分かる範囲でいいから、情報が欲しいと伝える。
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スタッフは一瞬だけ難しい顔をしたが、やがて小さく頷いた。
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「個人情報の関係もありますので、詳しくはお答えできない部分もありますが……」
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「警察の方にも、同じ情報はお渡ししています」
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それで十分だった。
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「その車、返却はされていません」
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分かっていた。
でも、言葉にされると重さが違う。
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「最後の利用状況って、分かりますか」
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一瞬の間。
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「簡単な走行ログであれば」
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カウンターの奥で、操作音が響く。
キーボードを叩く音だけが、やけに耳につく。
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「GPSの細かい履歴までは出せないんですが」
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「おおまかな移動は確認できます」
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紙を一枚、差し出される。
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視線を落とす。
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走行距離。
利用時間。
エリアの推移。
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最初は、市内だった。
ホテル周辺。
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そこから——
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線が、下に伸びている。
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南。
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市街地を抜けて、海沿いへ。
そのまま、さらに南へ。
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「途中で、一度停車しています」
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指で示される。
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市内を離れて、少し行ったあたり。
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「給油か、休憩か」
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「その可能性が高いです」
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時間を見る。
夜。
かなり遅い。
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「……ここで」
思わず口に出る。
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「はい?」
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「いえ」
首を振る。
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その地点。
なぜか、目が離せなかった。
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“止まっている”。
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ただそれだけのはずなのに。
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“そこで、何かが変わった気がした”。
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視線を戻す。
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そこから、また動いている。
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さらに南へ。
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「このあたりで、記録が途切れています」
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指が示す先。
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地名は出ていない。
ぼんやりとしたエリアだけ。
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海沿い。
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それ以上は、何もない。
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「電波状況によっては、ログが途切れることもありますので」
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補足のように言われる。
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頷く。
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紙を見つめる。
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市内から南へ。
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ホテルで聞いた話。
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“南に行きたい”
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全部、繋がっている。
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偶然じゃない。
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そう思った。
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「この停車地点、特定できますか」
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「正確な場所までは難しいですね」
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「この周辺は、海沿いの道路が多いので」
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「スタンドか、コンビニか……」
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言葉を濁す。
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それ以上は踏み込まない。
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「ありがとうございます」
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紙を返す。
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もう十分だった。
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外に出る。
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空気が、少し湿っている。
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さっきまでと、同じはずなのに。
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どこか違う。
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スマホを取り出す。
地図を開く。
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頭の中で、さっきの経路をなぞる。
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市内。
そこから南へ。
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指で、ゆっくりと辿る。
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海沿いの道。
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いくつかの候補。
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完全には特定できない。
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でも。
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方向は、間違っていない。
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「……南か」
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小さく呟く。
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そのとき。
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――ザッ
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足を止める。
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今の音。
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振り返る。
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誰もいない。
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道路。
通り過ぎる車。
遠くの話し声。
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それだけ。
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なのに。
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耳の奥に、残っている。
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砂を踏むような音。
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「……」
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ありえない。
ここは、海から離れている。
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それでも。
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次の瞬間。
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――ザッ
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今度は、はっきり聞こえた。
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心臓が、強く鳴る。
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ゆっくりと、周囲を見る。
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誰もいない。
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音の正体も、分からない。
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それでも。
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確かに、聞こえた。
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砂の音。
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喉が、少し乾く。
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ポケットにスマホをしまう。
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そのまま歩き出す。
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足取りは、さっきよりも迷いがなかった。
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南へ。
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そこにしか、答えがない気がした。




