第10話 消された名前
篠原さんの部屋へ向かう廊下は、さっきよりも暗く感じられた。
雨は強くなっている。
窓硝子を叩く音が、壁の中まで響いていた。
時計塔から戻ったばかりだというのに、僕たちはまた別の場所へ引き戻されている。
音楽室。
書斎。
時計塔。
応接室。
そして、篠原さんの部屋。
事件は、館の中を移動しているようだった。
いや、正確には、事件が移動しているのではない。
僕たちが、誰かの置いた手がかりを追わされている。
そう思うと、廊下の先にある暗がりまで、誰かの意思を持っているように見えた。
篠原さんの部屋の前には、美和さんが立っていた。
顔色は悪い。
けれど、さっきよりは少し落ち着いている。
「篠原様は、まだ横になっています」
「意識は?」
白瀬さんが尋ねた。
「時々、戻ります。でも、またすぐにぼんやりしてしまって」
「分かりました。無理には話させません」
白瀬さんはそう言って、部屋に入った。
僕も後に続く。
部屋の中は、先ほどより少し片づけられていた。
倒れた椅子はそのままだが、散らばった書類の一部は端へ寄せられている。
篠原さんはベッドに寝かされていた。
額には白い布が当てられている。
眼鏡はサイドテーブルの上。
いつも隙のない印象だった彼女が、今はひどく小さく見えた。
それでも、左手だけは布団の上で硬く握られていた。
白瀬さんはベッドの横に立ち、静かに呼びかけた。
「篠原さん」
篠原さんの瞼が、かすかに動いた。
「白瀬です。聞こえますか」
少し間があった。
やがて、篠原さんの唇が動いた。
「……第五楽章は」
声は掠れていた。
「返しては、いけません」
「誰に返してはいけないのですか」
「……戻しては、いけない」
「戻す?」
篠原さんの眉間に、痛みに耐えるような皺が寄った。
「名前を」
僕は息を呑んだ。
名前。
時計塔で見つかった本物らしき第五楽章。
表紙に残された雨宮蓮司の名前。
黒く塗り潰され、削られたもう一人の名前。
篠原さんがうわごとのように言った言葉。
私の名前は、いらない。
それらが、頭の中で重なった。
白瀬さんの声は、あくまで静かだった。
「篠原さん。消された名前に、心当たりがありますね」
篠原さんは答えなかった。
ただ、左手をさらに強く握った。
「第五楽章は、宗一郎さん一人の作品ではない」
白瀬さんが言った。
「そうですね」
「……先生の」
篠原さんの声が震えた。
「先生の作品です」
「本当に?」
「先生が、残したものです」
「誰の名前で?」
篠原さんは、そこで目を開けた。
焦点は合っていない。
だが、その目には怒りとも恐怖ともつかない感情が浮かんでいた。
「名前など」
彼女は言った。
「残らなければよかった」
その一言は、部屋の空気を鋭く切った。
僕はメモを取る手を止めた。
名前など、残らなければよかった。
それは、誰の名前のことなのか。
蓮司さんの名前か。
宗一郎の名前か。
それとも、消されたもう一人の名前か。
「篠原さん」
白瀬さんが続ける。
「あなたの名前ですか」
沈黙。
雨音だけが聞こえる。
篠原さんは答えなかった。
しかし、その沈黙は、今までの沈黙とは違っていた。
隠すための沈黙というより、言葉にすれば壊れてしまうものを必死で押さえているような沈黙だった。
「白瀬さん」
玲司さんが小さく言った。
「篠原さんが、第五楽章に関わっていたということですか」
「まだ断定はしません」
白瀬さんは答えた。
「ですが、彼女は消された名前について、何かを知っています」
「篠原さん」
玲司さんはベッドのそばへ一歩近づいた。
「伯父は、何をしたんですか」
篠原さんの目が、玲司さんを見た。
いや、玲司さんを通して別の誰かを見ているようだった。
「玲司さん」
彼女は掠れた声で言った。
「知らない方が、よかった」
「またそれですか」
玲司さんの声が震えた。
「みんな、そう言う。僕は何も知らなくていい。蓮司のことも、伯父のことも、第五楽章のことも」
「あなたは」
「僕は、守られていたんですか」
玲司さんは苦しそうに言った。
「それとも、何も知らないまま利用されていただけですか」
篠原さんは目を閉じた。
答えはなかった。
白瀬さんは、そのやり取りを遮るように言った。
「今は無理に聞き出すべきではありません」
「でも」
「篠原さんは襲われています。意識もはっきりしていない」
「なら、誰に聞けばいいんですか」
玲司さんの声が、少し大きくなった。
「伯父は死んでいる。蓮司も死んだ。篠原さんは話せない。静乃叔母様は核心を避ける。鷺沼は分からないと言う。誰も、本当のことを言わない」
その言葉は、部屋の外の廊下にまで響いた。
美和さんが肩を震わせる。
白瀬さんは静かに言った。
「だから、証拠に聞きます」
「証拠に?」
「はい」
彼女は篠原さんの机を見た。
そこには、手帳と万年筆、書きかけのメモが置かれている。
第五。
保管。
塔。
鍵。
そのメモは、すでに確認していた。
だが、白瀬さんは今、別のものを見ていた。
机の引き出し。
わずかに開いている。
「美和さん」
「はい」
「この引き出しは、先ほどから開いていましたか」
美和さんは首を横に振った。
「分かりません。私、篠原様の方ばかり見ていて」
「いいです」
白瀬さんは手袋をつけたまま、引き出しに近づいた。
直接触れる前に、中を覗く。
「手紙があります」
「手紙?」
僕は思わず聞き返した。
「封筒ではありません。便箋だけです」
白瀬さんは慎重にそれを取り出した。
紙は古い。
しかし、宗一郎の日記や蓮司宛ての手紙ほど黄ばんではいない。
七年前よりは新しいのかもしれない。
便箋には、細い文字で文章が書かれていた。
篠原さんの筆跡だろうか。
白瀬さんは、最初の一文を黙読してから言った。
「これは、送られなかった手紙のようです」
「誰宛てですか」
僕が尋ねる。
「蓮司さん宛てです」
玲司さんが息を呑んだ。
「兄さんに?」
白瀬さんは、篠原さんを見た。
篠原さんは目を閉じたまま、わずかに唇を動かしている。
読まないで。
そう言ったようにも見えた。
白瀬さんは一瞬だけ迷った。
だが、すぐに便箋へ視線を戻した。
「全文は読みません。必要な部分だけ確認します」
そう言って、白瀬さんは短く読み上げた。
「蓮司さん。
あなたがあの曲に、私の名前を残そうとしていることを知りました。
やめてください。
私は、もう戻れません。
先生の名前で残るなら、それでいいのです。
あなたの名前だけで十分です。
私の名前は、いりません」
篠原さんの閉じた瞼が震えた。
玲司さんは、言葉を失っていた。
僕も同じだった。
私の名前は、いりません。
うわごとの言葉と同じだった。
「篠原さん」
白瀬さんは便箋を下ろした。
「第五楽章の消された名前は、あなたの名前ですね」
篠原さんは目を開けなかった。
けれど、頬に涙が一筋流れた。
それが答えだった。
応接室ではなく、篠原さんの部屋。
雨音の中。
誰も大きな声を出さなかった。
消された名前。
それは、篠原千鶴だったのかもしれない。
少なくとも、そう考えずにはいられなかった。
「第五楽章は、蓮司さんと篠原さんの共作だったのかもしれない」
僕は呟いた。
自分で言って、背筋が震えた。
「だから、篠原さんは探すなと言った」
「可能性があります」
白瀬さんは静かに言った。
「でも、なぜ自分の名前を消したんですか」
「その理由は、まだ分かりません」
「宗一郎さんの名誉を守るため?」
「それだけではないでしょう」
「それだけではない?」
白瀬さんは便箋を見た。
「この手紙には、後悔があります。恐怖もあります。ですが、それ以上に、拒絶があります」
「拒絶?」
「名前を戻されることへの拒絶です」
名前を戻されることへの拒絶。
僕には、すぐには理解できなかった。
普通なら、自分の名前を取り戻したいはずではないのか。
自分が関わった曲なら。
自分の作品なら。
消された名前を戻したいと思うのが自然ではないのか。
けれど篠原さんは、違った。
私の名前は、いりません。
彼女はそう書いた。
「篠原さんは、被害者なんですか」
玲司さんが言った。
「伯父に名前を奪われた」
「その可能性は高いです」
「なら、なぜ蓮司を」
そこで、玲司さんは言葉を止めた。
まだ誰も、篠原さんが蓮司さんを殺したとは言っていない。
だが、その名前が事件の中心に近づいていることを、誰もが感じていた。
白瀬さんは、はっきりと言った。
「名前を奪われたことと、人を殺したことは別です」
篠原さんの指が、布団の上でわずかに動いた。
「白瀬さん」
玲司さんが低く言った。
「篠原さんが兄を殺したと思っているんですか」
「まだです」
「まだ?」
「まだ、殺害を示す証拠が足りません」
「でも、第五楽章に関わっていた。兄に手紙を書いていた。名前を消された。そして、襲われた」
「はい」
「それでも、まだ?」
「はい」
白瀬さんは答えた。
「篠原さんは、今のところ、第五楽章の真相に近い人物です。ですが、殺害犯とは限りません」
「では、襲われたのは?」
「彼女が真相に近づきすぎたからかもしれません。あるいは、真相を隠し続けようとしたからかもしれません」
「どちらなんですか」
「それを決めるには、凶器が必要です」
凶器。
第二章からずっと見つかっていないもの。
蓮司さんの胸を刺したはずの刃物。
密室に見える音楽室から消えたもの。
僕はメモ帳を見た。
蓮司の胸には刺されたような傷。
凶器は見当たらない。
その一文が、今も残っている。
「凶器は、音楽室にはなかったんですよね」
僕が言うと、白瀬さんは答えた。
「すぐ見える場所には、ありませんでした」
「隠されている可能性がある?」
「あります」
「どこに?」
「この事件では、音楽室の中で見えない場所が一つあります」
僕は考えた。
グランドピアノ。
自動演奏ピアノ。
譜面棚。
懐中時計のケース。
振り子時計。
床。
壁。
どれだ。
白瀬さんは、静かに言った。
「ピアノの内部です」
僕は息を呑んだ。
ピアノの内部。
低いラ。
黒い糸。
金属音。
鍵盤が覚えている。
宗一郎の日記の言葉が、また蘇る。
第五楽章は楽譜ではない。
鍵盤が覚えている。
鍵盤は、曲だけではなく、凶器の場所も覚えているのかもしれない。
「音楽室へ戻るんですか」
玲司さんが言った。
「はい」
「今すぐ?」
「その前に、篠原さんを安全な場所へ」
白瀬さんは美和さんを見た。
「応接室へ移せますか」
「はい。鷺沼さんを呼びます」
「お願いします」
美和さんが部屋を出ていく。
篠原さんは、目を閉じたままだった。
白瀬さんは便箋を元の状態に戻し、透明な資料袋に入れた。
「これは重要な証拠です」
僕はメモした。
篠原の送られなかった手紙。
蓮司宛て。
第五楽章に自分の名前を残さないでほしいという内容。
消された名前は篠原千鶴の可能性。
篠原は名前を戻されることを拒絶していた。
書き終えた時、胸が重くなった。
事件の真相に近づいているはずなのに、明るくなるどころか、霧は濃くなっている。
篠原さんは、単なる怪しい人物ではなかった。
名前を奪われたかもしれない人。
そして、その名前を取り戻すことすら拒んだ人。
彼女の沈黙は、宗一郎の名誉を守るためだけではなかった。
自分自身を、過去に戻さないための沈黙だったのかもしれない。
やがて、鷺沼と美和さんが戻ってきた。
篠原さんを慎重に移す準備が始まる。
白瀬さんは、その様子を見届けながら、僕に小さく言った。
「真柴さん」
「はい」
「ここから先は、かなり嫌なものを見ることになるかもしれません」
「凶器ですか」
「それだけではありません」
「では、何を」
「人が何を守るために沈黙したのか、です」
僕は言葉を失った。
人が何を守るために沈黙したのか。
それは、刃物よりも深く人を傷つけるものかもしれなかった。
窓の外では、雨が降り続いていた。
霧雨館の霧は、まだ晴れない。
けれど、霧の奥で、誰かの名前が少しずつ浮かび上がり始めていた。
【真柴の推理メモ】
・蓮司さんの遺体は、音楽室の密室状況の中で発見された。
・ただし、証言を整理した結果、事件は単純な「零時頃の密室殺人」とは限らなくなった。
・真柴が聞いたのは、低いラ、金属音、短い悲鳴の順だった。
・しかし、その悲鳴が本当に蓮司さんの声だったかは分からない。
・悲鳴を聞いたのは、現時点ではほぼ真柴だけだった。
・そのため、悲鳴が館全体に響いたとは考えにくい。
・低いラは複数回聞かれている。
・夕方、白瀬さんがグランドピアノで低いラを鳴らした。
・十一時頃、奏太さんも音楽室で低いラを鳴らしていた。
・十一時半前、奏太さんは低いラと金属音を聞いた。
・零時頃、真柴も低いラ、金属音、短い悲鳴を聞いた。
・音楽室施錠後にも、低いラが鳴った。
・つまり、低いラは一つの出来事ではない可能性が高い。
・低いラの鍵盤には、黒い糸が仕掛けられていた。
・その糸は、音楽室の振り子時計の重りとつながっている可能性がある。
・時計の重りを使えば、人がいなくても低いラを鳴らせる可能性がある。
・ただし、その仕掛けは一度しか作動しないため、複数回の低いラをすべて説明することはできない。
・自動演奏ピアノの紙ロールは、普通の曲を演奏するためではなく、機械に何かを命令するためのものかもしれない。
・自動演奏ピアノの底板には、録音機らしきものが隠されていた。
・もし悲鳴が録音だった場合、零時頃の悲鳴は死亡時刻の証拠にはならない。
・十一時二十分は、死亡時刻そのものではなく、誰かが見せたい時刻である可能性が出てきた。
・時計塔には、音響管らしきものがあった。
・その音響管は、音楽室方面へ伸びている可能性がある。
・音楽室で聞こえた金属音や、音の位置は、時計塔や他の場所と関係しているかもしれない。
・時計塔の保管庫から、本物らしき第五楽章が見つかった。
・音楽室の譜面台に置かれていた第五楽章とは、紙や筆跡が違う。
・時計塔で見つかった第五楽章には、雨宮蓮司さんの名前があった。
・もう一人の名前は、黒く塗り潰され、削られていた。
・篠原さんの部屋から、蓮司さん宛てに書かれた送られなかった手紙が見つかった。
・その手紙には、第五楽章に自分の名前を残さないでほしいという内容が書かれていた。
・そのため、第五楽章の消された名前は、篠原千鶴さんのものだった可能性が高い。
・第五楽章は、蓮司さんと篠原さんの共作だったとも考えられる。
・宗一郎は、その曲を自分の作品として扱おうとした疑いがある。
・七年前、蓮司さんは第五楽章を盗んで逃げたのではなく、宗一郎に十一時二十分の音楽室へ呼び出されていた可能性がある。
・七年前の「蓮司が第五楽章を盗んだ」という話は、宗一郎側が作った説明だった可能性がある。
・篠原さんは、第五楽章の真相に近い人物だった。
・篠原さんは、先生の鍵を奪われたと口にした後、意識を失った。
・先生の鍵束は書斎の鍵箱から消え、時計塔の機械室で見つかった。
・時計塔では、正体不明の人影が外部通路へ逃げた。
・その人影は黒い手袋のようなものをしていたが、正体は分からない。
・黒い手袋といえば鷺沼さんを連想するが、決めつけてはいけない。
・事件は、音楽室だけで完結していない。
・音楽室、書斎、時計塔、篠原さんの部屋がつながり始めている。
【証拠品と重要証言】
◆ 宗一郎の日記
宗一郎の書斎で見つかった日記。
七年前のページに「第五楽章は楽譜ではない。鍵盤が覚えている」と書かれていた。
第五楽章が、単なる紙の楽譜ではない可能性を示している。
◆ 蓮司への手紙
応接室で見つかった蓮司さん宛ての手紙。
宗一郎の筆跡に似た字で、蓮司さんを十一時二十分に音楽室へ呼び出す内容が書かれていた。
七年前、蓮司さんは自分から逃げたのではなく、呼び出されていた可能性がある。
◆ 紗英が受け取った手紙
紗英さんが一週間前に受け取った手紙。
蓮司さんを名乗る人物からのもので、「霧雨館へ行く。玲司を止めてほしい」という内容だったという。
紗英さんはその手紙を隠していた。
◆ 証言整理表
各人物の証言を整理したもの。
見たこと、聞いたこと、思ったことを分ける必要がある。
玲司さんのアリバイは、紗英さんの「気配」に支えられているだけで、完全ではない。
◆ 久世の午後九時半証言
久世さんは午後九時半頃、音楽室へ入った。
その時、自動演奏ピアノには紙ロールが入っていたが、譜面台に第五楽章の楽譜はなかったという。
紙ロール設置時刻を絞る重要な証言。
◆ 奏太の十一時証言
奏太さんは十一時頃、音楽室へ入り、グランドピアノの低いラを押した。
その直後、小さな金属音を聞いたという。
低いラと金属音の関係を示す証言。
◆ 黒い糸
音楽室の低いラの鍵盤に結ばれていた細い黒い糸。
振り子時計の重りとつながっている可能性がある。
時間差で鍵盤を鳴らす仕掛けに使われた可能性がある。
◆ 時計の重り
音楽室の振り子時計の重り。
黒い糸とつながり、一定時間後に低いラを鳴らす仕掛けとして使われた可能性がある。
ただし、この仕掛けだけでは複数回の低いラを説明できない。
◆ 自動演奏ピアノの底板
自動演奏ピアノの底板には、開けられた跡があった。
中には録音機らしきものが隠されていた。
真柴が聞いた悲鳴が録音だった可能性がある。
◆ 音響管
時計塔の機械室で見つかった細い金属管。
音楽室方面へ伸びている可能性がある。
聞こえた場所と、音が発生した場所が違う可能性を示している。
◆ 先生の鍵束
宗一郎が生前使っていた鍵束。
書斎の鍵箱から消え、時計塔の機械室で見つかった。
時計塔や保管庫を開けるために使われた可能性が高い。
◆ 時計塔の保管庫
時計塔の機械室にあった古い木箱。
先生の鍵束の中の鍵で開いた。
中から本物らしき第五楽章が見つかった。
◆ 本物の第五楽章
時計塔の保管庫から見つかった楽譜。
音楽室の譜面台に置かれていた第五楽章とは別物。
表紙には雨宮蓮司さんの名前があり、もう一人の名前は黒く塗り潰されて削られていた。
◆ 消された名前
本物の第五楽章の表紙にあった、消されたもう一人の名前。
篠原さんの送られなかった手紙から、その名前は篠原千鶴さんのものだった可能性が高い。
◆ 篠原の送られなかった手紙
篠原さんの部屋で見つかった、蓮司さん宛ての手紙。
第五楽章に自分の名前を残さないでほしいという内容だった。
篠原さんが第五楽章の共作者だった可能性を示している。
【まだ分からないこと】
・蓮司さんは、本当はいつ殺されたのか。
・零時頃の悲鳴は、本当に録音だったのか。
・自動演奏ピアノの底板にある録音機らしきものの中身は何か。
・低いラを鳴らした仕掛けは、誰がいつ作ったのか。
・複数回の低いラは、それぞれどの仕組みで鳴ったのか。
・金属音は何の音だったのか。
・時計塔の音響管は、どの部屋とつながっているのか。
・音楽室の密室は、どう作られたのか。
・蓮司さんを刺した凶器はどこにあるのか。
・凶器は音楽室のピアノ内部に隠されているのか。
・篠原さんを襲った人物は誰なのか。
・篠原さんの「先生の鍵を取られた」という言葉は、どこまで正確なのか。
・時計塔で逃げた人影は誰なのか。
・黒い手袋のように見えたものは、本当に手袋だったのか。
・鷺沼さんは、鍵の管理について何か隠しているのか。
・久世さんは、第五楽章の価値を利用しようとしているだけなのか。
・久世さんが午後九時半に見た紙ロール証言は、本当に正しいのか。
・紗英さんは、蓮司さんからの手紙を隠した以外にも何か隠しているのか。
・静乃さんが知っている宗一郎の罪とは何か。
・宗一郎は、第五楽章から誰の名前を奪ったのか。
・篠原さんは、なぜ自分の名前を戻されることを拒んだのか。
・第五楽章は、本当に蓮司さんと篠原さんの共作なのか。
・蓮司さんを殺した人物と、音や時計を仕掛けた人物は同じなのか。
・今夜の事件を動かしている人物は、本当に一人なのか。
【白瀬さんの一言】
「同じ音に聞こえても、同じ原因とは限りません」
「悲鳴が聞こえたことと、その時に人が死んだことは、同じではありません」
「十一時二十分は、真実の時刻ではなく、誰かが見せたい時刻かもしれません」
「名前を奪われたことと、人を殺したことは別です」
「この事件では、殺した人物と、事件を演奏した人物を分けて考える必要があります」




