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来々軒繁盛記 ~ 寒くなったねぇ。ここで、熱いラーメンを一杯、食べていきなヨ  作者: 白河夜舟
第14章 鳴人の修行、親父の決断、彼女の思い

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96 ナベさん、そりゃ、お互いさまというヤツだよ

 図々しいのか、人懐っこいのか、敵意満々なのか、味方でいてくれるのか。

 ナベさん、よく分かんない人ですね。

 この手のキャラクターは、勝手に動きます。ホント、身勝手に。

 おおざっぱなプロットだけ組んで、放り込んでおけば、勝手に話を進めてくれますね。

 催促やおぜん立てをしてあげないと動いてくれない主人公とは、エラいチガいですね。


 何気に、俺、ディスられて、る?

 ちゃぽーん…

 温かな湯船に浸かりながら、思いっきり体を伸ばす。

 立ちっぱなしの仕事の後のお風呂は、やはり爽快である。

 れんげちゃんがお風呂好きなのも、判る気がする。

 まさに、一日の疲れを癒す極楽な時間だろう。

 なのに。

「オイ、ゆったりしている場合じゃないんだぞ、判ってんのか」

 なんで、コイツと一緒に風呂に入らなきゃならないんだよ。

「こういう所でも、どうしたら麺を上手く茹でる事ができるのか、研究しなきゃダメだろうが」

 できるか、そんな事。

 俺の冷たい視線をよそに、ナベさんは手拭いを湯船に漬けて「いいか、麺茹でってのは、こう、手首を使ってだなあ…」と、実演しているつもりらしい。

「おい、手拭いはお湯に漬けちゃダメだろうが。マナーだぞマナー」

「う、うるさいっ、判ってるそんな事…」

 ナベさん、慌ててタオルを外に出した。

 見ろ、他の客に笑われてるじゃないか。

 一緒にいる俺までバカだと思われそうだな。

 動揺を隠すように、コホンと咳払いを一つすると。

「いいか、明日から一週間、親父さんのケガが良くなるまで、俺も店を手伝うからな」

「…」

 ナニをイイダスンダ、このオニイサンは。

「スマン、よく聞こえなかった」

「だから、俺も店を手伝うって言ってるんだ!」

「お湯に、のぼせたのか?」

 真っ赤な顔でそんな冗談言われても、だなあ。

「違うっ!俺は本気だっ!」

「だって、仕事は…」

「宅配業は、年末は殺人的に忙しいが、年が開ければ、しばらくは暇なんだ。まとめて有給休暇も、もう取った」

「そんな事言ったって、手伝って貰う余裕なんか…」

「バイト代なんかいらねえよ。まかないさえ食わせてくれれば、それでいい」

 ナベさんの、真剣な視線。

「俺にそんな事言われたって、困るよ」

「オマエは、俺から相談されたって事にしておけばいいんだよ。後は俺かられんげちゃんや親父に話すから」

「は、はあ…」

 また、随分と強引な話だなあ。

 それにしても、なんで自分の仕事をほっぽってまで来々軒にこだわるんだ?

 …ま、決まってるわな。れんげちゃんのため、だよな。

 気持ちは判らないでもないが、この単細胞めっ、彼女には指一本触れさせや…

「俺の実家も、ラーメン屋だったんだよ」

 ボソッと、ナベさんは言い放って、さっさと湯船を上がってしまった。

「な、なんだよそれ」

 聞いてないぞ、そんな事?!

 慌てて後を追いかける俺を尻目に。

 自分だけさっさと洗い場に腰掛けて、石鹸を体中にこすりつけながら、ナベさんは面倒臭そうに言った。

「もっとも俺が高校卒業する前に、あっけなく潰れちまったけどな」

 ほら、とばかりにタオルをよこして、背中を向ける。

 宅配業で鍛えたらしい、でも意外にすんなりとした背中を、なんで俺がと思いつつも擦ってやる。

「…俺の口からいうのもなんだが、あまり美味いラーメンじゃなかったさ。少なくとも、後を継ぎたいと思える味じゃなかった。それでも、俺なりに店を手伝いながら研究したんだぜ。どうやったらもっと美味いラーメンになるかとかな」

「へえ、俺と似たようなもんじゃないの」

「どこがだよ」

「俺も、実家の手伝いをやらされてたクチでさ」

「…実家、なにやってんだ?」

 今度はナベさんが、俺の背中に回って擦ってくれる。

 くすぐったいけど、悪い気はしない。意外に人懐っこい人なんだな。

「たいした事業じゃないけど、スーパーやってる」

「おお、なにが“たいした事ない”んだよ。たいしたもんじゃないか」

「いや、あんな田舎でナリだけデカイ建物作っても、たかが知れてる」

「なに言ってんだよ、自分の親の事をそんな風にいうもんじゃないよ!」

 な、なに怒ってんだよナベさん。

 こんな、たわいもない世間話に。

「俺だって、やりたくてこんな宅配業(しごと)やってるわけじゃないさ。それに比べたら、自分の才覚で店を構えて続けているなんて、スゴイことじゃないか。

 ああ、オマエみたいなドラ息子がいるんじゃ、確かに親は報われないわな」

 ド、ドラ息子…

 なんでアンタにそこまで言われなきゃならないんだ?

 …いやまあ、半分、以上は、当たっていなくもないか。

「ウチは、俺の上にアニキ二人アネキ一人いるんだ。跡継ぎの事なんかアンタに心配してもらわなくってもいいんだよ」

「そりゃ良かったな。好きでもない事業をやらされるんじゃ、オマエはともかく下で働く従業員やお客がカワイソウだ」

「あ、あのなあ…」

 なに怒ってるんだ?

 まあ、コイツ初めて会った時から、俺の事、目の敵にしてたしなあ。

「好きでもない仕事を、仕方がない食うためと割り切ってやるのは、まあ仕方がないさ。

 …けどな、あんなに一生懸命にラーメンを作ってるような娘を泣かせて、平気な顔してんのが気に食わないんだよ」

 いや、別に、俺、来々軒のラーメン作るのは、キライじゃないし。

 いや、別に、俺、れんげちゃんを泣かせて平気なわけじゃないし。

 でもまあ、俺の事を敵視しているようなヤツにあれこれ言っても、誤解されるだけだろうし。

 以前の俺なら、ムキになって否定していただろうけど。

 でも今は、不思議にそんな風にイラついたりはしない。

 それは俺が、少しは大人になったからなのか。

 それとも、来々軒のラーメンが、俺を変えてくれたのか。

「判ったからさ、あんまり大声出さないでくれない?ここ、風呂場だから、よく響く…」

 ほら、何事かと、他の客が興味津々に見ているじゃないか。

「そういうあいまいな!…ちっ、オマエ相手に言ってもなぁ」

 大声をなんとか抑えて、いまいましそうにナベさんは俺の体にお湯を掛けてくれた。

 ナベさん、そりゃ、お互いさまというヤツだよ。

 実家が元ラーメン屋のナベさん。すでに潰れたそうです。

 なので、他人事とは思えないようですね。

 だからって、有給取って、バイト代もいらないとか言って、店の手伝いがしたいだなんて。

 うん、色々と、分かってませんね。

 根岸とは別の意味で、来々軒を分かってないようですね。

 これは、分からせないと、ダメなパターンですね。


 ん?

 背中が、ゾワッと…

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