95 ゆさゆさと体を揺さぶりながら、高らかに笑ってみせた
変な所でカットしましたが、ここからナベさんのターンなので。
根岸がプンプンと怒って帰りましたが、付き合う義理は無いんです。
やっと俺の出番が来たか。
待ちくたびれたぜ!
「やっぱり、親子だよなあ」
「そう思っちゃいますよね、って、アンタまだいたの?」
おいナベさん、根岸と一緒に帰ったんじゃなかったのかよ。
何を、れんげちゃんに見とれてるんだよコラ。
「なんだよ、居ちゃ悪いのかよ」
「悪いに決まってるじゃないか」
自分の席をよく見ろよ。れんげちゃんの手で、キレイサッパリ片づけられて、布巾で丁寧に拭かれてさえいるじゃないか。
ここまでされて、よく居残れるもんだなオイ。
「だって俺、別にお父さんとケンカしたわけじゃないし」
どうしてそう、見え透いたウソがつけるかなあ。
根岸をけしかけたのはアンタだって事はミエミエじゃないか。
「それに…」
どこから引っ張りだしてきたのか、ナベさんはナイロン製のカバンを取り出して、開けてみせてくれた。
中身は、銭湯道具一式だった。
「あ、あんたナア…」
「抜け駆けは、断じて許さないんだよ。判ったかコラ」
こんな所でこっそり凄まれても、ねえ。
コッチはそれ所じゃないんですけど。
そんな俺たちの様子を、いかにも無責任そうに親父が見比べていた。
おーい親父、全ての元凶はアンタ、アンタだろうが!
~ ・ ~
したたかに酔っぱらってしまった親父を家まで送り届けてから、俺たちはその足で銭湯に向かった。
それにしても、れんげちゃんを間に挟んでとはいえ、どうしてナベの奴なんかと並んで歩かなきゃならないんだ?
だいたい、俺はそれどころじゃ無いっていうのに。
親父が勝手に約束してくれたおかげで、一週間であの口うるさい根岸を納得させるだけの、親父さんと同じ茹で方、同じ味わいの麺を茹でなきゃならないというのに。
正直、どうしたらいいのか、まるで判らない。
こんな状態の時に、ナベなんかに関わり合っている場合じゃないのだが。
れんげちゃんも、不思議そうな顔で俺とナベを見比べているし。
ラーメンに関してはともかく、他の世俗の事にはどうも鈍いところがある彼女でさえも、さすがに何かあったのか、と思っている事だろう。
当のナベさんといえば、呑気に鼻唄なんぞ歌いながら、まさに上機嫌そのものである。
「あ、あの…」
「なんですかなんですか?」
躊躇いがちに尋ねるれんげちゃんに、ナベさん、もうやる気満々といった所だ。
「どうして、わたしたちと一緒に、その、銭湯へ…?」
「そりゃあもう、コイツの相談に乗ってあげるために決まってるじゃありませんか」
「お、俺、頼んでなんかない…」
「なに言ってるんだ照れちゃって。来々軒が大変な事になっているっていうのに、随分と呑気なもんだな。責任感じてるのか、あぁん?」
んな事いったって、元はといえば親父が…
「オマエだよオマエ。オマエがしっかり麺を茹でてりゃ、こんなことにはならないんだろうが」
まあ、確かにそうかも。
…い、いや、ち、ちがうぞ。
そもそもこんな短期間でまともに麺を茹でられるようになれっているのがそもそもおかしいんじゃないのか?
「いいか、来々軒が傾けば、れんげちゃんが悲しむ事になるんだぞ、判ってんのかオイ!」
そ、そりゃ判ってる、判ってるよ。
けどなあ、とにかく親父さんは、もう一週間もすれば腕も良くなるって言っているんだし、それまでの辛抱なんじゃないのか?
「まあ、俺が手伝うからには、大船に乗った気持ちでいてくれよ…」
とかなんとか言って、ナベさんは俺の肩を馴れ馴れしく抱きしめた。
が。
ついでとばかりにれんげちゃんの肩まで一緒に抱き寄せるんじゃない、コラ!
そんな俺の思いなど完全に無視して、ナベさんは俺たち二人の間に割り込むようにして、ゆさゆさと体を揺さぶりながら、高らかに笑ってみせた。
図々しい行動力で、彼らと一緒に銭湯にまで行っちゃえるナベさん。
書いてて、コイツ本当に図々しいな、とか思う作者。
いや、普通だろ?
そうなのか?
まあ、いない事も、ないか。




