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来々軒繁盛記 ~ 寒くなったねぇ。ここで、熱いラーメンを一杯、食べていきなヨ  作者: 白河夜舟
第14章 鳴人の修行、親父の決断、彼女の思い

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92 ああ、なぁんだ

 コイツラ、ホント調子いいよなあ。

 まあ、他人事とは思えないから、こうして来てくれるんだとは思うけどな。

 だったら、客としてラーメンを食っていけよな。

 …クソ不味いけど。くそぉ。

 

「そーですか、ご亭主、やりますねぇ」

「だろ、だろ! あんなワケわかんない事しか言わない連中なんて、もうギッタンギタンに畳んでやるしかないんだよ」

「ホントホント、お父さん若いワカい!さ、さ、もう一杯」

「おっととスマナイねえ、おっとっとっと…

 …ところで、タナベ君、だったっけ?」

「いやだなぁお父さん、ワ・タ・ナ・ベ。ワタナベですよ。いえでも、ナベさんでいいんですってホント、お父さん」

「いやそうじゃなくって、どうして、あっしの事を“お父さん”って呼ぶんだい?」

「まあまあ、固い事は言いっこ無しでイイじゃありませんか。乾杯しましょう、来々軒のラーメンに」

「おおやろうやろう!来々軒のラーメンに!」

「かんぱーい!」

「カンパーイ!」

 …。

 野郎ども、やけに盛り上がってやがんな。

 俺とれんげちゃんが店の片づけしてる間に、早速というかなんというか、親父を囲んで楽しそうに宴会に突入しちゃってるし。

 また、れんげちゃんも心得てる様子で、チョコチョトとオツマミ作ったり、お酒を入れ換えたりと、何気なく世話暇焼いてるし。

 それにしても根岸のヤツ、仕事はどうしたんだよ。店の増改築の融資の話にきたはずなのに、もう資料そっちのけで親父とくっちゃべっているし。

 ナベの奴なんか、親父のことを堂々と「お父さん」なんて呼んで、婿入りでもするつもりでいるらしい。

 れんげちゃんが皿やコップなどを取り替えに行くたびに、こまめに手伝うふりして好感度を上げようとでも思ってる所がセセコマシイ。

 この俺に、判らないとでも思ってるのか、アン?!

「おぃ、ナルト君、君も、コッチ来て一杯やらないかイ?」

 はは、親父まで、なんかもう出来上がってるし。

 いくら、明日は定休日だからって。

 お店の大ピンチ状態だっていうのに、どうしてそんなに呑気でいられるんだよ。

 っていっても、まあ、親父の事だからな。

「鳴人さん、後はわたしがやっておきますから」

 手にコップ持たされて、背中を押されてそのまま席へ。

 全く、れんげちゃんも強引なんだから。

「…どうも」

 親父の隣に座ったけど、居心地はあんまり宜しくない。

「五味君、ま、一杯やりなさいよ」

 根岸のヤツめ、腹に一物抱え込んだようなニタリ顔で、ビールを注いでくれる。

 顔に書いてあんだよ、「この若造に一発、説教してやらないとな」って。

「いやいや、毎日ご苦労さんだったねぇ」

 ナベさんまで、心にも思ってないようなねぎらいをかけてくる。

 この二人、性格はともかく、ラーメンには結構ウルサイからなあ。

「どうだい、親父さんの偉大さが、少しは、身に沁みたかい?」

「はあ…」

 手酌でビールを注ぎながら、独り言のように言う根岸。

 仕方ない、俺も強く威張れた立場じゃない事は判ってるし、ここは大人しくしていないとな。

「まあ、やむを得ずという事もあるだろうけど、ラーメンというものは、そう一朝一夕にできるものじゃない。それは、判るね?」

「そう、その通り!」

 尻馬に乗るナベさん。

 うるせぇよオマエ関係ねぇだろうが、と言ってやりたい所を、なんとか我慢する。

「まあ、若気の至りという事もあるだろうし、よい経験になったとは思う。それは、私だって判る、判るんだよ。

 しかしだね、ラーメンというものは、お客様あってのものなんだよ。

 判るかね、お客様が、このラーメンを食べたい、この店の味を食べたいんだと通ってきてくれて、きっと同じような味のラーメンを出してくれるだろうという信用、そう、信用がなければ成り立たない商売なんだよ。

 まあ、君みたいな若者には、あまりよくは判らないだろうけどね」

 …なにが言いたいんだ、このおっさん?

「あの、仰っている意味が、よく判らないんですが」

「判らない?…そう、だから、君みたいな若者が、日本をダメにするんだ」

 おい、酔いに任せてナニ言い出すんだコイツ。

「信用金庫一筋23年。私はね、いつ何どきどんな場合でもお客様の信用を第一にしてきたつもりだよ。だからこそ、美味いものを食わせるお店に、良いものを造り出すメーカーさんに、私なりではあるが、誠心誠意を尽くしてきたつもりだ。

 その私の信用を、君みたいな若者の我が儘でダメにしちゃいけない。判るね?」

「はあ…」

 判んねえよ、何言ってるのか。

「はあ、じゃないだろ、はあ、じゃ。

 親父さん、親父さんの人の良さは私も承知しているつもりです。大方、コイツが自信タップリに任せて下さいとか言い出して、やむなく店を開けているのでしょう。

 …いえ、確かに若者を訓練し教え諭すのは、我々の世代の義務だ。経験を積ませて上げる事も時には必要でしょう。

 しかしですよ、コイツには麺茹ではまだ早い、早すぎるでしょう」

 …。

 俺と親父は、期せずして顔を見合わせた。

 ああ、なぁんだ。

 根岸の奴、俺が強引に麺茹でをやってるって、カンチガイしてるわけか。

 まあ、そういうことなら気持ちは判るぞ。俺自身、まだ麺方は無理だと思ってるからな。

 根岸がやってきた理由って、そういう事かよ。

 そういえば、融資した店の味が落ちたからって、注意しに訪問したら、逆に怒られたとか言ってたな。

 根は、いい奴なんだろうな。

 いや、ただの食い逃げ野郎だけどな。

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