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来々軒繁盛記 ~ 寒くなったねぇ。ここで、熱いラーメンを一杯、食べていきなヨ  作者: 白河夜舟
第14章 鳴人の修行、親父の決断、彼女の思い

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91 トロクサイだなんて言い過ぎですよ

 新章開幕。


 こんな不味いラーメンを作ってりゃ、当然、客足は落ちますね。

 え、読者もこのままだと脱落してしまう、のか。


 このままではマズイ。

 テコ入れしないと、ダメですよね。

 4日目も、5日目も、客足は日に日に落ちていった。

 どんなに、れんげちゃんが一生懸命に接客していても。

 どんなに、俺が真剣に、ラーメンに取り組んでいても。

 空席が目立つようになり、スープが余るようになり、売り上げも落ちていった。

 営業時間を伸ばしても、夜遅くまで開けていても、快復の兆しは見えなかった。

 6日目、ついに、売り上げたラーメンが五十食を切ってしまった。

 かつては、一日四百食を捌いていた、行列の絶えない来々軒だったのだが。


          ~ ・ ~


 夜、最後と思える客が帰り、まだ閉める時間ではないのだが。

 これ以上、客がくる様子もなさそうであり。

 明日は定休日でもあることだし、そろそろ店を閉めようかと話していた所に。

「あれ、もう閉めちゃうつもりでしたか?」

 …はあぁ、来たよ。

 普段ならお客は大歓迎なのだが、コイツだけは来て欲しくないというヤツが。

 信金野郎、根岸だ。

「れんげちゃーん、調子はどう?」

 おっと、もう一人。店の常連でもあり、仕事でも付き合わなければならない、イーグル宅配便のナベさんだよ。

 この二人がつるんで、わざわざ定休日前、閉店前のこんな時間に来るという事は。

 俺の悪口を肴に、親父さんと一杯ヤるつもりに違いない。

 根岸のヤツは、融資の資料を持ってきたという口実があるし。

 ナベさんにしても、毎日のように注文の食材を届けに来ているのだから、今の店の状況は知っているはずだ。

 俺の口から言うのもなんだが、俺を「追い落す」チャンスだとでも思っているに違いない。

「親父さーん、怪我の具合はどうなんですか?こんな若造の茹でた麺じゃ無くって、やっぱり親父さんの麺が早く食べたいんですよ」

 くそぉ、ヤッパリ。

 いけしゃあしゃあと抜かして、根岸の奴、れんげちゃんの案内もされないままどっかりとテーブル席に上がり込んだ。

 全く、口の減らない奴だよ。確かこの前、融資がどうこういって味を確かめるとかぬかしていたときには、スープや具に比べて、麺が弱いとか言ってなかったか?

 …まあ、それは俺も同意見だったけど。

 でもなあ、麺を茹でるのって、ホントに難しいんだぞ。

 シロウトのくせに、偉そうな事言いやがって…

 …って、俺もついこの前までは同類だったんだよな。

 しかも、その横でイーグル宅配便のナベさんは、さりげなくれんげちゃんに言い寄ってるし。

「いやぁ、俺、れんげちゃんの事が心配で心配で。トロクサイのが厨房で麺を茹でてるから、きっと大変な思いをしてるんじゃないかってね」

 とかなんとか言いながら、コラ、れんげちゃんの手をどさくさ紛れに握ってるんじゃない!

「ほら、こんなにあかぎれになっちゃって。いっそ、俺だけのために料理の腕を振るってくれれば…」

 ヤロウなに言いだしやがるんだと、思わず飛び掛かりそうになったが。

 れんげちゃん、実にあっさりと手を振りほどいて、そのまま肩を掴んで席に座らせてしまう。

 小さなカラダなのに、実は彼女、かなりの腕力があるんだよね。

 むしろ、ナベさんの方がよろけてるよ。

「鳴人さんは、一生懸命やって下さっています。トロクサイだなんて言い過ぎですよ」

「そうだよ。根岸さんも、うちの可愛い従業員にイチャモンつけるために来たわけじゃないでしょうが」

「いやまあ、アハハ…」

 根岸のヤツも、苦笑いして頭をかいている。

 いや、そこまで庇ってくれるのは嬉しいんだけど。

 でもまあ、俺の腕のせいでお客が離れているというのも事実ではあるし。

 なんか、そこまで言われると、ちょっとくすぐったいものがある。

「鳴人君、暖簾を下ろして、営業終了の札をかけてくれ。れんげ…」

「はい、ビールとオツマミですね?」

 心得ているようで、すでにれんげちゃん、冷蔵庫を開けている。

 ホント、いつも行動が速いよ。

 俺も鍋の火を落として、玄関に向かった。

 まあ、根岸とナベさんは、当然のようにやってくるでしょうね。

 彼らもまた、来々軒のラーメンをアイしていますからね。


 くそぉ、何しに来たんだよ…

 お前を追い出しに来たに決まってるだろ?

 いや、私はタダでビールを呑むためだけど?

 …オイ。

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