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来々軒繁盛記 ~ 寒くなったねぇ。ここで、熱いラーメンを一杯、食べていきなヨ  作者: 白河夜舟
第14章 鳴人の修行、親父の決断、彼女の思い

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82 いや、向こうから頼んでくるという話じゃないんだけど

 面目ないじゃないよ、親父。

 職人が、利き腕を痛めてどうするつもりなんだよ。


 まあ、ほんの数か月前までのお前も。

 鳴人と同じで、やる気なく、ただ不味いラーメンを茹でながら生きてるだけだったもんな。

 そんな自覚なんて、急に芽生えるはずも無いよな。

「いやいや、ホント面目無いねえ」

 慣れない左手でお茶を飲みながら、照れくさそうに親父が頭を下げる。

 親父としても、最初は実家の面々に、ひたすら低姿勢で頼んでいたのだそうだ。

 しかし、両親親族とも、ここぞとばかりに、もうあることないこと言われまくって、終いには今の来々軒の繁盛ぶりすら嘘っぱちだろうとまで難癖を付けられて、親父、ツイにキレて大暴れしてしまったということだ。

 最近は貫祿がついてきたとはいえ、普段は気の弱そうなおっちゃんなのに。

 いや、だからこそ、その「貫祿」が、親父を後に引かせなかったのか。

「で、こんな大怪我を?」

「なあに、あっしもヤラレっぱなしじゃないんだよ。叔父やらなんやらの横っ面も、ガシーンとカマしてやったし、小生意気な義弟なんか、襖ごと投げ飛ばしてやったさ」

「は、はあ…」

 なんか、いま一つ、ピンとこない。

 親父、そんなにケンカ、強かったのか?

「マスター、じゃあ、保証人の話は…」

「ダメだダメだ、あいつら、てんで話になんかなりゃしないヨ。いいや、もう二度と頼むもんかい。向こうが頭下げたって、保証人になんかなって貰いたくないネ」

 プイッと横を向く親父。

 い、いや、向こうから頼んでくるという話じゃないんだけど。

「そう、でしたか。それで、あの、お店のことなんですけど…」

 心配そうに、親父の顔色を伺うれんげちゃん。

「…ああ、そうだ、ナ」

 ようやく気付いた、という風に、親父、れんげちゃんと俺の顔を見比べるみたく、きょろきょろしている。

 そうだよ。

 バカなケンカして保証人話を壊して来た位、別にどうって事ないんだけど。

「親父さん、その腕、もしかして、骨折(おれ)てるんですか?」

「いやいや、そんなに酷くはないヨ。ただの打ち身、打ち身だヨ。ほら、この通り…」

 三角巾を外して、振り回そうとする親父。

 なんだ、大げさにしているだけか。

 と。

「イテ、イテテテテ…」

 脂汗をかいて、腕を抑えてうずくまってしまった。

「マスター!」

「親父さん!」

 俺たちに心配掛けまいと、張り切ったつもりなんだろうけど。

 全く、世話の焼けるというか、無茶が過ぎるというか。

 再び腕を三角巾に吊るしてやりながら、俺は訪ねた。

「医者には、掛かったんですよね?」

「ああ、正月でもやってる大きな病院の先生に診て貰ったヨ」

「マスター、お医者様は、なんて言ってたんですか?」

「…筋を痛めているから、腕は動かしちゃダメだっていわれたヨ」

 あのねえ、そのすぐ側から、動かしてみせようとしたのかよ。

「治るのは?」

「…少なくとも、二週間は動かすナと言われたんだが…」

 二週間、か…

 薄利多売の来々軒だから、これだけ長い休みは厳しいよな。

 はっきり言って、店を休んでいる分の給料をひねり出すのはちょっと難しい。

 まあ、俺は、大学も冬休み中だし。以前にやってた警備員のバイトでもしてりゃいいけど。

 親父やれんげちゃんが、ちょっと困ったことになるよなあ。

「…ると君、鳴人君!」

「あ、は、はいっ!」

 しまった、ちょっと考え事して、親父の声が聞こえなかった

「店は、開けようと思うんだ。君に、麺方をやって貰いたい」

「ああ、はい」

 なんだ、店、開けるのか。

 じゃあ、余計な心配しなくてもいいな。

 俺が、麺方をやれば済むのか。

 えっと、麺方って、なんだっけ。

 麺を、俺が、茹でるって…

 …

「えええぇぇえぇっ!」

 だからって、鳴人に麺方をやらせるのかよ。

 悪いことは言わん。しばらく店を閉めた方が、いいと思うぞ?


 いや、来々軒はあっしと女房が、皆さんに安くて美味しいラーメンを食べて欲しくて作り上げたお店なんだヨ。

 勝手に自分の都合で店を閉めちゃイケない、イケナイヨ。


 だから、職人の利き腕を大切にしろと…

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