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来々軒繁盛記 ~ 寒くなったねぇ。ここで、熱いラーメンを一杯、食べていきなヨ  作者: 白河夜舟
第13章 鳴人の実家、彼女の手際、家族とラーメン

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77 まるで、社交ダンスでも踊っているみたいだ

 新年早々から、手打ちの麺作り。

 即席の手打ち麺はともかく、本格的に作る場合は、一晩寝かせたいところ。

 その辺、れんげちゃんはどう考えてるんでしょうね?


 それもありますけど、こちらに伺ったのは、本格的に鳴人さんをラーメン職人に育てるためですから。

 そっちの方が優先ですよ?


 そ、そうなんですか…

 新年早々から、俺はれんげちゃんを手伝って、店の方でラーメンの仕込みに掛かっていた。

 リズミカルに麺を打つ彼女のかたわらで、ドンブリだの割り箸だの釣り銭だの、俺の方もやることは沢山ある。

 まあ、働くのはキライじゃないし、ましてれんげちゃんと一緒だ。

 実家の面々と顔を合わせているより、よほど気が紛れる。

 コンロで沸かしているスープは、そのままポリタンクに詰め替えて、新たにスープを仕込んでいく。

 今回は、麺を茹でたお湯をスープ代わりに使う、ということはないようだ。

 きちんと分けて作るらしい。

 ズンドウナベがないので、作り置きしたスープを沸かし直すのだろう。

 味は、もちろん来々軒のものではない。

 材料も設備もないのだから、仕方がない。

 とはいえ、一から十まで、れんげちゃんお手製のラーメンである。

 下働きしながら、俺は彼女の手さばきに見ほれて、じゃなかった、技を盗み見ていた。

「あ、鳴人さん、やってみます?」

 あざやかに麺を伸ばし終えたれんげちゃんが、そんな俺の様子に気付いたようで、声を掛けてくれた。

「いいの?」

「もちろんですよ。いいですか、ここをこう持って…」

 れんげちゃん、体の大きな俺の懐の中にもぐり込んでくると。

 小さくて力強い手を、俺の手に重ねる。

 まるで、社交ダンスでも踊っているみたいだ。

 息づかいや、鼓動までもが伝わってくるようで、ドキドキする。

「はい、弧を描くように回して下さい」

「あ、ああ…」

 振り回そうとしたが、れんげちゃんの手がブレーキを掛けて、力があまり入らない。

「飛ばすように、じゃありません。弧を描くように、手元に戻るように、です。もう一度」

 今度は、力をゆるめて麺を回した。

 が、れんげちゃん、今度は俺の手を振り切るかのように力を込める。

「わたしが、力を入れたりゆるめたりしないような加減です。この感じが、そのまま美味しい麺の“コシ”加減ですよ」

「う、うん…」

 麺を回す。

 彼女が、力を加減する。

 その強い手が、俺を導いていく。

 やがて、俺と彼女の呼吸が上手く合うようになってきた。

 麺が、まるで生きているかのように、俺達の手の中で舞い始める。

 れんげちゃんが、スッと俺から離れた。

「その加減です。後は、一人でやってみて下さい」

「ああ…おっと…ああぁ…よしっ…ヨシッ!」

 れんげちゃんほど速くは出来ないが、それなりに様になってきた。

「フフフ。やっぱり鳴人さん、覚えるのが早いですよ」

「れんげちゃんの教え方が上手なんだよ。

 でも、来々軒では、手打ちの麺は無理だよね」

「そうですね。お店で出すなら、品質を本当に均一にしなければならないですし。沢山は、作れませんから。

 でも麺打ちは、自分の“店”“味”を求めるための基本として、体で覚えておいた方がいいんですよ」

「ああ…でも、俺、来々軒のあの味が好きで、この仕事しているようなもんだし。

 だから、自分の“味”を作ろうとか、あんまり思わないかもね」

 れんげちゃんは、小首を傾げて、俺を見つめた。

「鳴人さんは、“今の来々軒”の味で、完成しているとお思いですか?」

「うーん、滅多に食べられないラーメン、全国区クラスのラーメンだとは思うよ。

 ただ、麺とチャーシューは、改良の余地があるとは思うけど。事情もあるし」

「そうですね…

 ラーメンを極めようと思うなら、そういう小さな味にまで、こだわる姿勢、必要なんですよ。

 鳴人さんにも、もっともっとラーメンの事を覚えて頂いて、いつか、鳴人さんの“味”を食べてみたいですね」

「ハハハ、それより、俺はれんげちゃんが手間を掛けて作る“初売り”ラーメンの方が気になるけどね。俺の分のラーメン、絶対残してよね」

 年末の時は、気がついたら完売していて、結局、食べてないんだよ。

「…いえ、わたしの作るラーメンなんて、本物の“味”を知っている人には、勧められませんから」

 ハハハ、随分と謙虚だね。

 まあ、君が来る以前の来々軒のラーメンを「泣きながら」食べていた位だから、その辺の味覚は、常人とは異なっているのかもね。

「そんな事ないよ。ほら、年末にテントで作った即席手打ちラーメン、みんな喜んで食べていたじゃないか」

「あんなのは、ラーメンじゃないですよ。だから、鳴人さんにもご家族のみなさんにもお作りしてないんですから」

「そっかなあ。すごくいい匂いだったけど」

「ちちぎみ…いえ、わたしは、お師匠に見捨てられた人間ですから」

「…えっ?」

 ちちぎみって、来々軒の親父の事じゃないよなあ。

 逃げた奥さんの相手、れんげちゃんの、実の父親のことか?

 その辺、聞き出そうと思ったけれど。

 れんげちゃんは、急に顔をこわばらせたまま、無言で作業に入っていた。

 全身で「話したくない」と訴えていた。

 だから。

 俺は、あえて、聞かなかった。

 いつか、彼女が打ち明けてくれるようになるほど。

 俺が、彼女を支えられる存在になるその時まで。

 ちちぎみ…

 パワーワード、ですねぇ。


 言いたくないです。言いたくないんです。

 いや、聞かない、聞かないよ…

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