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来々軒繁盛記 ~ 寒くなったねぇ。ここで、熱いラーメンを一杯、食べていきなヨ  作者: 白河夜舟
第13章 鳴人の実家、彼女の手際、家族とラーメン

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76 むしろ当然な顔しているし

 五味家の年越しの過ごし方。

 店を閉めた、今から大掃除なのかよ。

 これからおせち料理を作るのかよ。


 店が第一。他は後回し。それがクソ親父の方針。

 小さい頃から、そういうもんだと思ってたぞ。

 普通の家庭って、違うらしいな。

 ウチの大晦日の過ごし方は大体決まっていて、男性陣は大掃除、女性陣は売れ残った商品を使っておせち料理作りといった所だ。

 だから、台所の掃除だけは後回し、ということになる。

 ただ、クソ親父は朝からテナント店主達との会合にいくので、戦力にはならない。

 姉貴も、適当に手伝っているふりをしているだけという、世渡り上手ぶりを発揮している。

 俺は、真面目に掃除しているつもりなのだが。

 大兄ちゃんからは、いつも「普段働いていないんだから、それ位当然だろ」とイヤミを言われるのが常だ。

 ただ、今年はれんげちゃんがいる。

 母ちゃんについて、おせち料理でも作るのかと思っていたが、俺の手伝いの方が良いとかいって、いっしょにガラス窓を拭いてくれている。

 彼女曰く、中華は得意だが、おせち料理を作ったことはないのだそうだ。

「だから、こういう家族団欒な雰囲気、好きですよ」

 ってね、れんげちゃん。いいようにこき使われるだけなんだよ?

 どこが“団欒”なわけ?

「家族で力を合わせて物事を成し遂げていくなんて、素晴らしいじゃありませんか。わたし、そういうのって、よく判らないから…」

「判らないって?」

 まあ、来々軒の親父とは、直接の血の繋がりはないみたいだし。

 それじゃ、彼女にとっての“家族”って、なんなんだろう。

 まあ、少なくとも、俺みたいに、顔を合わせるのはイヤだな、なんてものじゃなさそうだけど。

「わたし、物心ついた時から、ずっとラーメンの修行しかして来なかったから」

 笑顔で、さらっと彼女はそう言った。

「だから、“家族”を知らないから、“アイのあるラーメン”が出来ないのかもしれませんね」

 家族と、ラーメン?

 時々、判らないことを言うんだよな、彼女。

「鳴人さん。わたしが、鳴人さんのお嫁さんになったら。

 みんな、わたしの“家族”になってくれるんでしょうか?」

 うおっと!

 手が滑って、バケツをひっくり返しそうになったぞ!

「だ、大丈夫ですかっ?」

 れんげちゃん、素早くバケツを抑えて、飛び散った水もすぐに拭き上げてくれる。

「だ、大丈夫だけど…」

 大丈夫じゃ、ないよ。

 いきなりナニを言い出すんだろうね、この娘は。

 いや、しかし。

 意外、でも、ないのか。

 いっしょに、俺の実家にきたということは、彼女自身もそういうつもりだったのだと考えるのが自然だし。

 いや待て、俺の、ココロの準備というものもだなあ…

 いや、それは、ない、ないこともない。

 俺は彼女が好きで。

 彼女も俺のことが好きなら。

 そして、二人とも来々軒のラーメンをアイしているのなら。

 世帯を持って、一緒にやっていくのは当然なわけで。

 だけど、こんな所でいきなり切り出す話じゃないでしょうが。

「あれ?違いましたっけ?」

 俺の顔をみて、なにか自分が勘違いしているとでも思ったのか。

 れんげちゃんはきょとんとした顔で、俺を見つめていた。


          ~ ・ ~


 おこたにみんな集まって、かあちゃんのおせちを摘まみながら酒飲んで、紅白をだらだらと見ながら今年一年の話で盛り上がる。

 毎年恒例の、実家の行事だ。

 今年は、この輪の中に、れんげちゃんが入っている。

 なんちゅうか、その、実にさりげなく。

 ウチの家族も、もっと、こう、緊張するとか、気を使うとか、そういう雰囲気あってもいいと思うんだけど。

 クソ親父以外は、むしろ当然な顔しているし。

 親父にしても、まんざらでも無い顔ではあるし。

「れんげさん、コイツは、鳴人は、モノになりそうなんですか」

 随分な低姿勢である。

 普段のクソ親父、こんな事は絶対に言わない。

「ええ、お店でも、一生懸命働いて下さっていますよ。だから、覚えも早いし、手つきも様になっていますよ」

 そ、そっか。俺、様になっているのか…

「いえ、そういうんじゃなくて、その、ラーメン屋を切り盛りしていく度量があるのか、その見込みがあるのか、と言う事です」

「そうですね…」

 れんげちゃん、ちょっと考えて、俺の方を見る。

「どんな仕事でも、ある程度は経験を積まないとモノになるかどうかは判らない、ですよね?」

 ああ、昨日の俺の手つき、働きぶりの事を言っているのか。

 まあ、確かに、調理の殆どはれんげちゃんがやっていたし。

 麺の茹で上げ、一度は任されたものの、テンでなってなかったしな。

「ええ。親の目から見ていうのもなんですが、コイツ、何事においても中途半端で、ロクに店の手伝いも出来ないようなヤツですからな」

 ひでぁな、クソ親父。何もれんげちゃんの前で言わなくたっていいじゃねえか。

「それは、わたしには判りません。わたしに判るのは、鳴人さんが、まだニカ月しか仕事していないのに、立派に来々軒を勤めていらっしゃると言うことだけです」

「そうね、れんげさんの言う通りだわ。まだ、鳴人の事は、どうこう口出しできる段階じゃないわ」

 母ちゃん、さりげなく親父を制して。

「れんげさん、もう少し、鳴人の事を見守っていていて上げてくれる?本当に、勝手なお願いなんだけど…」

「はい。マスター、いえ、お、お父さんが、鳴人さんを従業員として雇っておられる限り、お約束します」

「ありがとう…

 さ、年越し蕎麦を茹でましょうか。れんげさん、手伝って下さる?」

「ハイ!」

 れんげちゃんは、俺に向かってにっこりと微笑むと、台所に連れ立って入って行った。

 五味家の団欒に、ごく自然に入り込む、れんげちゃん。

 もう、鳴人の嫁、確定みたいですね。

 周囲は当然のように、そう思っています。

 当の本人の覚悟だけが、また足りていないようですが。


 い、いや、そんなことないぞ、ないからな?

 ですよね。わたしを鳴人さんの実家まで連れてきて、まさかここで裏切るなんてこと、無いですよね?

 い、いや、それは、れんげちゃんが勝手に付いて来ただけで…

 はい?

 い、いや、なんでもないです…

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