75 珍しい。親父、なんか殊勝じゃねえか
家族会議。脂っこい面々なんで、ボリュームは控えめで。
「で、お前は、アルバイトの身分で、そこの店主のために、ワシに保証人になってくれと、そういうわけだな?」
「ま、まあ…」
クソ親父にしては珍しく、俺の話を最後まで聞いてくれた。
俺のかたわらにチョコンと座っているれんげちゃんが、どうも気になっているらしい。
問答無用で拳骨を振り上げようとしたり、話の腰を折りそうな素振りを見せる度に、強い視線だけでクソ親父を制している。
「ムチャクチャな事を言っているというのは、判っているんだろうな」
「まあ、ね」
元々ダメもとのつもりだから、俺としてもある意味強気な話をしている自覚はあるよ。
「鳴人、それじゃあアンタは、ここの手伝いはしないで、ラーメン屋になるつもりなんだね?」
母ちゃんが、横から口を挟んできた。
さりげない視線を向けるれんげちゃんに、母ちゃんはなぜか、微笑みかける。
意味は、よく判らない。女同志の連帯感ってヤツかな?
「いや、それは、まだ…」
「だって、ずっとそこで働くつもりだから、保証人なんて話を持ち出してるんだろ?
まさか、1千万なんて大金を、簡単に考えているわけじゃないんだろうね。保証人になるって事は、ウチがそのカネを借りるって言っているようなもんなんだよ。判らないとは、言わせないよ」
いや、そりゃ、判ってはいるけどさ。
確かに浮き沈みの激しいラーメン業界で、そんな大金を前借りして、もしもの事があったら、とは思うよ。
でもさ、今の来々軒は、昔の来々軒じゃないんだ。
行列の出来る、繁盛店なんだよ。
確かに、利益率は悪い。悪すぎる。
でも、店の規模を広げれば、返せない額じゃないんだ。
「カネの貸し借りをするっていう事は、返済が終わるまで“親族付き合い”しなきゃならないって事なんだよ。その辺も判ってんのかい?」
へ?
親族、付き合い…?
いや、それは、判ってないよ。
ぜんぜん判ってない。
なにいってんの、母ちゃん?
カネを返す段取りは、なんとかなるよって話じゃ、ないの…?
「かーさん、コイツ、ゼンゼン判ってないぜ」
また、大兄ちゃんが余計なチャチャを入れてくる。
どうも、俺を毛嫌いしているというか。
いや、人間的に「器」が小さいというか。
「いや、鳴人は鳴人なりに、考えての事なんだろう?…お前、年越しはコッチにいられるんだな?」
吹人兄貴が、さりげない助け舟を出してくれた。
「あ、ああ…店は3日まで休みだから、2日の夜までは、いるつもりだけど」
俺自身、ちょっと冷静に考える必要がありそうだし。
れんげちゃんとも、作戦を練り直したいし。
「やったぁ、じゃあ、この娘、2日の初売り、借りるわね」
姉貴、れんげちゃんをいきなり抱きしめて、文句は言わせないとばかりにみんなに視線の弾丸を振らせる。
れんげちゃん、どうも姉貴は苦手なタイプのようで、何にもいえず、戸惑いまくってるし。
「ダサい婦人服の売れ残り、在庫たまってるんだ。顔、スタイル、愛想と三拍子揃ったこの娘が入れば、もうバンバン売っぱらっちゃうわよ!」
「おい、俺の精肉の方で手伝って貰う段取りなんだぞ!大体、姉貴の買ってくる服って、みんな偏りすぎてんだよ。こんな田舎で、誰があんなもん着てみる気になるんだ?」
「なに言ってんの!こんな田舎だからこそ、オシャレは大切なんじゃない!
それに、アタシにはワカルのよ。このプロの目から見れば間違いなくワカル。
この娘、磨けば光る、光るのよ。とにかく、アタシに任せてちょうだい。いいわね?」
珍しいな、姉貴がそこまで他の女の子に入れ込むなんて。
お客以外には、愛想なんて絶対言わない冷徹女なのに。
「オマエ、そうやって、この娘に在庫を買わせる気でいるんだろ」
大兄ちゃん、ズバっと踏み込んだ。
そっか、なぁるほど…
「チ、チガウわよ!アタシがこういう事いうときは、純粋に…
コラッ!ナルヒト!オマエまでそういう目でアタシを見ないっ!」
「と、とにかく!」
クソ親父、とにかく、話でもなんでも、自分が中心にいないと気が済まないたちなのは全然変わっていない。
「鳴人、この話は後回しだ、少し考えさせてくれ。
それと、れんげさん、とかいったか?」
「ハイ…」
珍しい。親父、なんか殊勝じゃねえか。
いつでも高圧的にしか話さないのに。
「初売りの客寄せに、アンタのラーメンを使いたい。引き受けてくれんか?」
「ハイ、喜んで!」
ホント、脂っこいな、この家族。
書き分けるの、結構大変なんですけど。
楽しいんですけど。




