72 なんだ、一人、食い扶持が増えるのか?
いきなり、みかん売り。
親父、人使いが荒すぎるぞ。しかも、こっちはお客さんを連れてきてるんだよ。
え、れんげちゃん、やる気満々なの?
ま、まあ、そういうの、大の得意そうだもんな。
で。
いきなり、スーパーの前でみかん売りである。
「ごめんね、ウチの実家、いつもこんな感じなんだよね」
「気にしないで下さい。泊めて頂く、ほんのお礼ですから。
あ、いらっしゃいませっ!美味しいみかんはいかがですか?」
れんげちゃん、なぜか嬉しそうに売り場テントの外で、盛んに声を掛けている。
まあ、年末で店がにぎわっているのをバス越しにみた時から、マズイなあ、とは思っていたのだ。
案の定、家に着いてみると、ガッチリ戸締りされている。
連絡しといたのに、誰も留守番してないのかよ。
なんて文句を言っても始まらない。そういう家族だし。
で、店の方に家のカギを取りにいったら。
「遅いぞっ!どこで油売ってたんだ!」
いきなりクソ親父に怒られて、そのまんま耳たぶ掴まれて、みかん売りである。
なんでも、バイトの高校生が、スキーに誘われてそのままフケタらしい。
とかなんとか、理由つけてはいるが、どうだか。
クソ親父の事だ、俺の帰省を当てにしていたとしか思えないのだが。
これで、バイト代でも出るなら、まだ可愛い所もある。
だが、クソ親父がそんな事に気を回すはずも無いのである。
それにしても、れんげちゃんが一緒なんだ、少しは気を使ってくれよな。
「なんだ、一人、食い扶持が増えるのか?」は、ねえだろ。
「気にしなくていいですよ。わたしも、勝手に押しかけた口ですから」
はは、そういえば、来々軒に勤めるようになった時も、そうやって親父を無理やり説得してたんだっけ。
れんげちゃん、そういう事はあまり気にしないんだよな。
別に自分を押しつける、というわけじゃないけど。
でも、積極的というか、前向きというか、一生懸命というか。
ほら、とかなんとか言ってる間に、みかん箱、また売っちゃったよ。
「鳴人さんっ、お客様のお車に、運んでくださいね」
「おっけー。あっ、ありがとうございます。お運びしますので…」
ちょっと名残惜しいが、れんげちゃんも頑張っているのだ。
暖かいストーブを離れて、みかん箱持ってお客についていく。
れんげちゃんは、もうすでに次のお客を捕まえて、見ている方まで嬉しくなりそうな笑顔でみかんを売っていた。
~ ・ ~
閉店時間より大分早く、みかん箱は完売した。
普段なら、結構残ってしまい、うちの家族が一冬かけて始末するのだが。
さすがにれんげちゃんである。伊達に一日四百食を切り盛りする来々軒の看板娘をやっているわけではない。
その辺は、俺のクソ親父もすぐに見抜いたらしい。
「おい、そんな片づけは後でいいから、惣菜の方を手伝え」
だから、れんげちゃんはお客さんなんだってば。
どうしてそういうワンマンなモノの言い方するかな。
しかも、どうせ「家族が店を手伝うのは当たり前だ」とかいって、ロクにバイト代もくれないくせに。
「ハイ、お父様。なにが売れ残ってるんですか?」
ありゃりゃ、れんげちゃん、やる気満々である。
あの押しの強いクソ親父に、一歩も引かない。
かえって、クソ親父の方がビビッている。
「いや、おせち料理の材料がな…」
「それじゃ、試食コーナー作って、タイムセールで一気に売っちゃいましょう。
鳴人さん、手伝って下さいね」
れんげちゃん、にっこり笑って俺を見る。
なんだよ、まだ働くのかよ。
でも、彼女の笑顔は、なんか逆らえない強制力があるんだよね。
そして、その笑顔の意味に、俺はピンとくるものがあった。
「オッケー、“新装開店”するんだね?」
彼女の、満面の笑み。
「お、おいッ!」
「お父様は、テントの中にもテーブルを用意してください。それと、野外用のバーナーもありったけお願いします。時間がありませんから、急ぎますよ」
「…な、なにする気だ?」
だから、時間がないんだってば。
いつのまにか主導権を取られている事にも気づかないまま、いそいそと折り畳みのテーブルを運びこんでいるクソ親父を尻目に、俺たちはさっさと店の中に飛び込んでいった。
おせち料理の素材が、まだ売れ残ってるんですね?
これはもう、やるしかないですよね。
こういう時は、れんげちゃんの忠実な僕になるしかない。
彼女の手足となって、動き回るしかない。
任せておけよ!




